コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

真のリーダーシップとは? ~Catalytic leaderを目指して~

薬剤師:鈴木真里

鈴木 真里 Mari Suzuki

薬剤師

元聖マリアンナ医科大学病院 薬剤部 Former St.Marianna University Hospital

5年間の薬剤師人生とチームオンコロジー

思い返すと、薬剤師として勤務したのは5年間と若輩者ではあるが、私の薬剤師人生にはいつもチームオンコロジーと、私のチャレンジを理解し支えてくれる仲間がいた。消化器外科病棟担当となって1年が経った頃、薬剤師として患者さんや他の医療スタッフに対して何が出来るのだろうと悩み参加した、“みんなで学ぼうチームオンコロジー”で、この世界と出会った。多職種チームで患者さん中心の医療を作り上げていくことの素晴らしさを知った、あの時の感動を今も覚えている。

その後、新たな学びを求めて参加した“TeamOncology Workshop”。EBM、コミュニケーション、リーダーシップを兼ね備えたオンコロジープログラムを、チームのコンセンサスを得て作り上げることの難しさと楽しさを学んだ。そして幸運にもJapanese Medical Exchange (JME) Program 2012のメンバーとなり、MD Anderson Cancer Centerで真のチーム医療を体験し、かけがえのない仲間や素晴らしいメンターと出会った。さらに、その体験を通して自分の中で薬剤師が果たすべき役割を確立し、納得して日本へ帰ることが出来た。そしてチームオンコロジーとともにキャリアディベロップメントを考え、少しずつ前進してきたと思う。

リーダーとなってチームオンコロジーを実践

ワークショップで様々なことを学んでも、それを実践で活かすことは容易ではないと思うが、幸運にもチーム医療に積極的な職場であったため、先進的な活動が求められていた。そして薬剤師が中心となって、がん化学療法の副作用マネジメントを行うこととなり、抗EGFR抗体の皮膚障害対策を多職種チームで取り組む機会を得た。さらにリーダーとしてプロジェクト全体のマネジメントを行うこととなった。

実際の取り組み内容を考えるだけではなく、リーダーとして、プロジェクト全体のタイムマネジメント、メンバーへの仕事の割り振りやチェック、エビデンスのアップデート等々、全てを自分でこなそうと考え、がむしゃらに働いていた。その時は、誰よりも速く多くの仕事をこなすことがリーダーとして示すべき態度だと思っていた。結局はチームメンバーを信頼し、協働することができていなかったのだと思う。

TeamOncology Leadership Academyでの学び

TeamOncology Workshopは、2012年よりTeamOncology Leadership Academyと名称を変え、より次世代のリーダー育成に力を入れたプログラムとなった。その中でリーダーシップについて考える講義があり、その基本原則やCatalytic leader(触媒的リーダー:メンバーを触発しチームを目標達成へと導くリーダー)という考え方を学んだ。

真のリーダーシップとは、それまで私が実践してきたスタイルとは異なり、メンバーとの信頼関係を築き自尊心を大切にし、メンバーが積極的に行動することを促し、そして、それをマネジメントしチームの活動をより円滑に発展させていくことがリーダーの望ましい姿だと知った。

また、チームのShared Vision/Missionを作り、個々の能力を高めていくような、“Catalytic leader”という考え方を知り、感銘を受けた。自分の負担ばかりを増やし、信頼関係やメンバー自身の責任感、成長について考えていなかったことを反省し、Catalytic leaderを実践してみることとした。

Catalytic leaderを目指して

TeamOncology Leadership Academy参加後は、チームのVision/Missionや方向性を強く意識し、それをメンバーに伝えるよう心がけた。また、すべてを自分一人でこなすのではなく、メンバーを信頼し、それぞれに適した仕事を任せて、全員で作り上げていくことを意識するようになった。

自分自身にとっては慣れないことであり、ストレスを感じることもあったが、メンバーを信頼しサポートすることで乗り越えることが出来た。それまでは受動的だった雰囲気も、仕事を任されることで少しずつ変わり、能動的な活動に変わりつつあった。

各職種の視点で様々なアイディアが出され、自分一人では考えつかないような新たな気づきがあり、多職種チームで活動することの無限の可能性を感じることが出来た。メンバー全員が、このチームを作り上げていくことに意義ややりがい、自身の成長を感じられるような活動に変わっていったのだと思う。

オンコロジープログラムの実践

現在は、チームで作り上げたプログラムを実臨床で実践し、多くのスタッフを巻き込んで活動を継続している。スタッフ全員が共通の考えで継続的に患者さんに関わることで、皮膚障害対策を充実させるだけでなく、患者さん自身の治療への積極的な参画を促し、スタッフ間の教育にもとても有益であると実感している。

さらに、この取り組みの有用性を検証するための臨床試験を行っており、医療スタッフの自己満足や感覚だけではなく、客観的に多職種チーム医療の効果を示すことに挑戦している。

これらの取り組みは、まさに、EBM、リーダーシップ、コミュニケーション、患者およびスタッフ教育を兼ね備えたオンコロジープログラムの実践であり、その素晴らしさと思いがけない影響力を実感することが出来た。

これまで、Mission/Visionを探し求めて活動し続けることで、このような素晴らしい機会や仲間に恵まれ、少しずつ成長することが出来たと思う。今後も薬剤師として「誰のために何を成し遂げたいのか」を常に考え、多職種チームでの様々な経験を通して、さらに成長していきたい。

(2013年 7月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

実は、家庭の都合により、今年の3月で仕事を辞めて、現在はマイアミで暮らしています。仕事一筋の日々から一転、アメリカでの主婦生活となりました。

薬剤師の仕事を一時中断することは、とても大きな決断であり、葛藤の日々でした。しかし今は、マイアミのギラギラした太陽や陽気な人々、街の雰囲気に慣れ、ここでしか出来ない多くの経験をしていきたいと前向きに考えています。

リーダーとしてチームの活動に直接参加することは出来なくなってしまいましたが、メールを通じて継続的にチームをサポートすることが私なりの“リーダーシップ”だと思っています。

写真は、NBAファイナルでのMIAMI HEATの試合を見に行った時のものです。初めての観戦でしたが、HEATファンの熱狂ぶりに圧倒され、あっという間にファンになりました。LET'S GO HEAT!!

(2013年 7月執筆)

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