掲示板「チームオンコロジー」

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EDUCATIONAL SEMINAR
MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/01
初めまして、大阪大学医学部6年の吉松由貴と申します。

このたび、上野先生にお願いし、MDAでの見学実習をさせて頂けることとなりました。

私は将来は緩和ケアまたは腫瘍内科を専門にしたいと考えており
在学中、春休みや夏休みを利用して日本やアメリカ、イギリスのホスピスで実習をしてきたのですが
緩和ケア医になるにしても、まず患者さんが歩んできた道を自分も一緒に経験する必要があると考え
腫瘍内科に関心を抱くようになりました。
最先端の腫瘍内科を本場アメリカの病院で実際に見ることができるのは
学生である今がチャンスと思い、国家試験後のこの期間を希望しました。

つたない文章ですが、日々の学びをここに書いていきたいと思いますので、
コメントやご意見、ご助言など頂けるととても嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
一日目。Team Work!
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/01
2月28日、MDAでの見学実習初日が終わりました。
初めてのことばかりで、刺激的な一日でした。
とくにチームワークの素晴らしさには衝撃を受けました。

朝7時過ぎに上野先生のお部屋へ伺い、MDAのことを教えて頂きました。
8時に秘書のDeborahさんに、Stem Cell Transplantの週に一度のカンファレンスへ連れていって頂きました。

Stem Cell Transplantのスタッフは移植に特化しており、
入院患者さんはほとんどが移植のため(あるいはGVHD治療のため)に入院しているようです。
カンファレンスには20名以上の医師と30名以上のコメディカルの方(?)が参加しておられ、
医師がそれぞれの担当患者さんについて猛スピードで報告をしていき、ついていくのが精一杯でした。

リストに載っていた100人以上の入院患者さんの紹介・報告が瞬く間に終わりました。
現在問題のある患者さんに関しては、症状の原因や対処法について、その場で活発な議論が行われ
今週の方針が立って行く様子が目に見えるようでした。

9時からは新規入院予定の患者さんや、移植予定の患者さんについて、どのドナーが良いかなど高度な議論に入りました。

その後、9時半より、Stem Cell Transplant Team BのDr.Qazilbashの回診に途中から参加しました。
Stem Cell TransplantにはチームがAからDまで4つあり、
それぞれのチームは医師1~2名、Advanced Nurse Practitioner1~2名、Pharm-D1名、data analyst1名で構成されており、
fellow(後期研修医)やPharm-D resident(研修中の薬剤師)、栄養士、social worker等がこれに加わることもあります。

回診は毎日、チームの受け持っている患者さん25人全員を回ると聞き
日々どれだけ時間がかかるのかと思いましたが、そこがチームワークの見せ所です!
それぞれの患者さんのお部屋でじっくりお話ししており、日本の形式的な回診と全く違うのに
4時間足らずで全ての患者さんを回りきったことには驚きました。

患者さんの病棟に行くとまずチームのメンバーそれぞれが紙カルテや電子カルテから患者さんの情報を収集し
得た情報を伝え合い、問題事項を確認したり、方針を議論します。
病棟には看護師だけが常駐しており、患者さんの担当看護師からも様子を聞きます。
この間にNurse practitionerは検査をオーダーしたり
Pharm-Dは処方箋を発行したり
Data analystは薬による検査値の変化や副作用のデータ収集をしており
皆、それぞれの専門性を生かしてテキパキと動いていました。

一通り目処がつくと患者さんの部屋に入り、医師を中心にメンバー全員が患者さんやご家族と話します。
とくに印象的だったのは、患者さんの訴える症状についてその原因や、チームがそれにどう対処しているかや、どれぐらいで改善するかなど、とても分かりやすく説明されていたことです。
また移植前の患者さんには、移植後何日目にどのようなことがおき、それが何日目にはどうなっていくか、と予想される変化を経時的に説明されていました。
移植後の患者さんは、白血球の減少が気になりつつも、
「説明してもらっていた通りだから、減っていてもこれが普通の経過なのよね」と、
前々からの入念な説明のおかげで安心している様子でした。

Pharm-Dは、薬を飲んでどうだったかや、どちらの薬がよいかなど
患者さんの希望を聞き、それに応じて処方を変更していました。
MDAのPharm-Dは抗癌剤やオピオイド以外全ての薬剤を、医師のサインなしに処方できます。
アメリカの他の病院では処方の権限がある特定の薬剤に限られていることがほとんどで、
Pharm-Dの権限がここまで広いのは珍しいけれど、とても効率的だと
医師もPharm-Dもおっしゃっていました。

患者さんやご家族も予め質問事項を用意していたり、メモを取ったりと、
熱心に治療計画に加わっているように見えました。
また病棟でも患者さんを励ます様々な工夫が施されており、たとえば
病室のドアには"I'm Motivated and Moving!"と書かれたシールがたくさん貼られていて、
患者さんが病棟を歩くと、ご褒美に、何分間歩いたかが記載されたシールをもらえるようです。
病室には Patient Goals/Communication Boardという白板があり
一日30分歩く、退院教室に出席する、ベッドで座る時間を長くする、など
実現可能な目標を、患者さんと話し合って決めているようでした。

このように各々の専門性を生かし、患者さんやご家族の積極的な参加もあって、回診はテンポ良く進みました。

午後1時からはDr.TheriaultのBreast Clinic(乳がん外来)を見学させて頂きました。
こちらももちろんチーム医療です。
医師、fellow、看護師2名がチームとなって、患者さんを次々と診ていきました。

Dr.Theriaultが患者さんとお話しするときは、世間話やユーモアも交えて話しやすい雰囲気を醸しだしつつ、
患者さんの質問には、エビデンスを明示して真剣に答えており
両者のバランスが、患者さんの満足につながっていると思いました。

エビデンスに基づいて、自信を持って断言してもらうと
患者さんもとても安心するようで、
"You're the first person whose told me the pain would go away!"とおっしゃった患者さんの、安堵の表情が印象的でした。
症状がよくなることを保証してもらうことも、症状緩和につながる重要な要素だと思いました。

患者さんは前回来院したときからの経過や質問事項をメモしており、
診察時間をとても有効利用していました。
また夫や娘だけでなく、義理の姉妹が診察に同席していることも多く
日本ではなかなか見られないことだったので驚きました。
こうした患者さんの様子は上野先生が書かれた『最高の医療をうけるための患者学』(講談社+α新書)で読んだ通りでしたが
上野先生に伺ったところ、これは単にアメリカの国民性のなせる技ではなく、
患者がそうなるよう医師が教育していくことが重要だそうです。

またDr.Theriaultはfellowの教育にもとても熱心でした。
fellowの疑問に対して、まず必ず "What do you think?" と考えを聞き、
その考えに対するフィードバックを交えつつ、
その場ですぐにエビデンスを調べて説明し、その論文を印刷して渡していました。
EBMはこうして伝授されていくのだと、実感しました。

午後6時には外来が終了し、その後、上野先生とお話ししてホテルに戻りました。
上野先生とお話ししている中で、自分の将来についてより明確なVisionを形成しなければ、
次なるステップも決まらないことを痛感しました。

この一週間半で腫瘍内科をしっかり勉強するとともに、
より確固たるMission&Visionをたてようと心に決めました。

(初日から読みづらい長文で失礼いたしました。
 お読み頂きありがとうございます。)
二日目。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/02
今日も、午前中はDr.Qのチームの回診を見学しました。

昨日すでにチームワークのなせる技に驚いてばかりだったのですが
それでもPharm-DやPharm-D residentの方がDr.Qの入院患者さんを担当するのは昨日が初めてだったそうで
二日目の今日は、より手慣れた様子で投薬の調整を行っていました。
「燃え尽きを予防するために、入院や外来、研究などそれぞれの持ち場をローテーションしている」と
上野先生に教えて頂いたのを思い出しました。
この制度により、上野先生も年に1ヶ月ほどは病棟を担当し、残りの期間は研究や教育の合間に週に2度の外来をされています。
日本では、職員が燃え尽きないようにするための工夫としてこのようなローテーションの仕組みを取っているというのは聞いたことがないですが、
確かに、どの業務も職員のやる気と元気があってこそいいものを提供できるのですから
斬新なやり方だと思いました。

また今日の回診では"Why are we keeping him in the hospital?"という会話が目立ちました。
最重症の患者さんをのぞいて、全ての患者さんについて
何のためにこの患者さんは現在入院しているのか、という根本的なところを全員で確認し
明確な目的がない場合は、すぐさま退院を考慮していました。

アメリカでは日本より在院日数が遙かに短いことは知っていましたが
こんなにも早期退院を常に意識していることには驚きました。
日本では、状態が良くなってくると「では、来週辺りに退院を検討しましょうか」となりそうですが
こちらではあまり元気がなくとも、入院治療の必要がなく内服で対処できそうであれば退院ですし
それも、午前11時に回診していて「今日の午後に退院しましょう」と、即座に決定するので
切り替えの早さについていくのが背一杯でした。

反面、アメリカでは日本と違って医療保険制度が複雑で、
保険適応とするために、移植前の症状のない患者さんが入院していることもあり、
チーム方々も少し困っておられました。

午後からは、上野先生のBreast Clinicを見学させて頂きました。
上野先生は炎症性乳がんの患者さんを中心に診ておられるため、必然的に若い患者さんが多く
カルテだけ見ていると、もうどうしようもないような転移性乳がんの方でも
実際は、明るく日常生活を送っているというその明らかな対比が、昨日のDr.Theriaultの外来とは異なりました。

とくに印象的だったのは、スーツケースに一杯の過去のカルテや画像や診断書を抱えてフロリダからやってきた患者さんでした。
MDAは癌治療や研究において米国一有名なため、遠方から遙々、"the miracle cure(奇跡の治療)"を求めてやってくる患者さんが後を絶たないようです。
この患者さんはアメリカやブラジルの数多くの病院で検査や治療を受けていたため、情報が入り組んでいて非常に複雑でしたが
上野先生はすぐに前医と連絡を取り合い状況把握に努め、
とても明確で現実的なプランを立て、患者さんに分かりやすく説明しておられました。
"If we're going to do it, we've got to do it right(MDAで治療をするからには、きちんとやらなければいけない)"という上野先生の言葉に
先生の真剣さがにじみ出ていました。
また、方針を決める際に必ず、我々はどちらも対応できるので、患者さんがどうしたいのか?という希望を確認していたのが印象的でした。

ほかにも難しい症例が多かったのですが、そういった症例ほど、先生や看護師と患者さんが密に連絡を取り合っている様子がうかがえました。
たとえば病状の理解が思わしくなく、コンプライアンスの面で不安のある患者さんには
内服薬の指示をした上で、Registered Nurseが「明日と明後日にお家に電話して、症状をフォローアップするわ」
と、患者さんが家に帰ったあともこちらから積極的にフォローしているようでした。
また疼痛がひどい患者さんには、鎮痛剤を処方した上で、
「痛みがよくならなければ、すぐに連絡してほしい」と、上野先生がメールでも患者さんをフォローしていました。
患者さんも、困ったらいつでもメールで先生に相談できると思うと安心感が強いようでした。

忙しい外来診察の合間に、MDAの乳がんを扱う科が集まっているエリアや、外来化学療法室を見せて頂きました。
MDAでは乳がん外来(Medical Oncology, Radiation Oncology, Surgical Oncology)や、Undiagnosed breast clinic、乳房形成術、生検など、乳がんに関わる全ての部署が同じ建物の同じ階に集まっています。
MDAのような巨大な病院では、これはとても重要なことだと思いました。
外来化学療法室には同時に250人が点滴化学療法を受けることができる設備が整っており、
それぞれのベッドも日本のような簡易ベッドがカーテン越しに次々と並んでいるのではなく、
ゆったりとした個室に大きなベッドやテレビが用意されているので、患者さんにとって、ゆとりのある環境です。
外来化学療法室の奥には大きな調剤室(クリーンルーム)があり、外来で医師がオーダーした化学療法をすぐにそこで調剤し、投薬できる仕組みになっていました。
またここには専門的な訓練を受けたNurse Practitionerが大勢いるので、
化学療法を行ったり、問題が生じた際の対処においても、医師の出番は少なく
その分、医師は外来診察や他の業務に専念できるそうです。

各々の専門性の高さと、見事なチームプレイを今日も存分に見せて頂きました。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
三浦裕司(虎の門病院) 2011/03/02
吉松さん

はじめまして。虎の門病院で腫瘍内科医をやっています三浦と言います。
詳細なレポートをありがとうございます。毎日楽しみに拝見しています。

私は今年の5月に、JMEプログラムとしてMDAに研修に行かせていただくことになっておりますので、非常に参考になっております。私は、医師になって10年目になりますが、がん医療にどっぷり浸かってしまった我々には気付かない、学生の目だからこそ分かる事も多い様に思います。

明日以降もレポート楽しみにしております!
(とプレッシャーをかけてみたりして ^_^)
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
Takae Brewer(Eastern VA Med School) 2011/03/02
吉松さん、素晴らしいレポートをありがとうございました。
学生さんのときにMDAのような素晴らしいがん医療の現場を見学されて、多くのことを学んでこられたのが感じ取られました。

日本でもチーム医療を駆使したがん治療を、全ての患者さんが受けれるようにしなくてはいけないと思います。気合をいれて実現していかなくては、いけない課題ですね。

これからも、いろいろと頑張ってください。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
ちばつくる (横須賀共済病院) 2011/03/03
神奈川県で初期研修医2年目をやっています。
詳細な報告、楽しみに拝見させてもらっています。
なれないことも多いかと思いますが、欲張っていろいろ見たり
学んだりしてきてください!
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
徳田 恵美 (順天堂大学順天堂医院) 2011/03/03
吉松さん

はじめまして。順天堂大学の徳田です。1、2日目にしてこの熱い文章!!本当に楽しんですごされていることが伝わり、学生時代このような経験ができなかったのでとてもうらやましく思います。

いろんなVisionをもっている先生方・コメディカルの方々と接して、時にはdiscussionして自分のVisionについて考えていけるといいですね!仕事はじめてもうすぐ10年目になりますが、いまだに自分がどうあるべきか考えてしまう私に、2週間のMDA見学が吉松さんを変えたこと・MDA見学を通して見えたVisionについて、"What do you think?" 最後に教えて頂けることを楽しみにしています~。

三浦先生、
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/03
福岡で開かれたJTOPで大変お世話になりました!
Team Sukiyakiの熱い議論を見学させて頂いておりました。
虎の門病院で腫瘍内科を立ち上げられたお話なども教えて頂いたのを覚えております。

このたびはコメントを頂戴しありがとうございます。
今にも寝そうになりながら日々書いていましたので、楽しみにしてくださっているだなんて、とても嬉しいです。
これからはもっと気合いを入れて書かなくては、と励まされました。

MDA研修に選抜されたとは、おめでとうございます!
レベルが高いのはもちろんのこと、どのスタッフの方も熱心に教えてくださるので、
本当に恵まれた環境だと思います。
私もいつか三浦先生のように医師としてここに戻ってきたいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
Takae Brewer先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/03
コメントを頂戴しありがとうございます。
そうなんです、外国から来た学生に対して、先生方もコメディカルの方々も、そして患者さんやご家族までもが
本当に親切にしてくださるので、多くのことを学ばせて頂いております。
同時に、このご恩を決して無駄にしてはいけない、日本のチーム医療につなげていかなくては、という思いが強まりました。
これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ちばつくる先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/03
研修中のお忙しいときに、コメントを頂戴しありがとうございます。
随分長々と書いてしまい、読みづらくてすみません。
こんな文章でも楽しみにして下さっていると伺うと、より頑張ろうと気合いが入りました。
先生のおっしゃるように、どんどん欲張って色々なことを学んでこようと思います!
徳田先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/03
JTOPのTeam Sukiyakiを見学させて頂いてた吉松です。
ためになるコメントをありがとうございます!
本当に楽しんで過ごさせて頂いています。
けれどこの貴重な機会を、楽しんでいるだけではもったいないので、
先生のおっしゃるようにdiscussionを交えて、Visionを確立していくことをより意識して
残りの見学に挑もうと思います。
(早速、今日は上野先生と少しお話しでき、実り多き一日でした。)
今後ともよろしくお願いいたします。
三日目。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/03
こんばんは。初夏を思わせる日差しの強い日が続いているヒューストンからお送りします。

今日は午前中は上野先生のStem Cell Transplantation Clinicを、午後からはDr.AlvarezのBreast Clinicを見学させて頂きました。

こうして外来を見学していると、MDAの効率の良さが際立ちます。
患者さんが来院し一通りの検査を終えると、まずNurse PractitionerやPhysician's Assistantが診察室へ案内し、
問診や身体診察を済ませ、検査結果を説明し、患者さんの簡単な質問にも答えます。
その時間を利用して医師は、前の患者の記録をdictationしたり、次の患者のカルテを見たり地元の医師と連絡を取り合ったりしています。

コメディカルが医師のもとへ行き患者さんの現状を報告すると、医師とコメディカルが話し合いながらプランを考え、
今度は医師が患者さんのところへ向かいます。
細かい問診は既に終わっているので必要がなく、医師は
重要な問題に焦点を絞って病歴聴取や診察をでき
患者さんやご家族の方も、医師の診察時間内にたっぷりと質問や相談をすることができます。
医師の診察後、必要な検査はNurse Practitionerがオーダーし、薬剤はPharm-Dが処方し、
カルテは医師が電話越しに録音すれば、担当者が後日、打ち込んでくれます(dictation)。

医師の診察に20分、30分と時間をかけたとしても
診察室が8個ぐらいあり、Nurse practitioner2名と、Pharm-D1名を加えたチームの総力で外来診療をしているので
とても手際よく進めることができ、時間内に最大限の患者数を診れるのです。

また、日本ではあまり見ないSchedulerやMedical Photographerなどの専門職の存在も、外来診療の充実につながっています。
患者さんが来院すると、短期間に多くの検査が必要になり、こうしたケースでの日程調整をするのがSchedulerです。
また炎症性乳癌などでは皮膚の状態を前回と比較することが、癌の活動性の把握につながるので
こういうときはMedical Photographerを呼び、カルテ用に写真を撮ってもらいます。
日本ではこのようなオーダー・処方・調整・写真撮影など全て医師が行っていることがほとんどだと思うので
3分診療の解決の糸口がここに見えてきたような気がしました。

またMDAでは"My MD Anderson"というインターネット上のシステムがあります。
患者さんはMy MD Andersonに登録すると、次回予約日や検査日を把握できるほか、
検査結果や病理・画像診断のレポート、カルテに記載された事項など、
カルテから医療者と同じような情報を見ることができます。
更に、何か質問や不安なことがあれば、自分を担当しているNurse PractitionerやPharm-Dなど、医師以外の様々なスタッフにメッセージを送ることができ、
医師に聞きたいことがある場合はNurse Practitionerなどが転送してくれます。
このシステムは、完全なInformed Consentがあって初めて成り立つものだと、関心しました。
病理や画像診断の結果をぼやかして、曖昧に伝えることも少なくない状況では
こうした検査のレポートやカルテを患者さんに見られては困る、といったことになりそうです。
こうした情報開示があるからこそ患者さんもMDAを信頼して医療を受けることができるのだと思います。

信頼のもう一つの鍵として、終末期における患者さんの希望や考え方を初めから相談しておく、ということが挙げられます。
体調が悪く症状が重い状況では、誰しも「助けてください、なんでもしてください」というのが当たり前です。
癌があまり進行していない段階から常にend-of-life issuesに時間を割き、面と向かって話し合っておけば
終末期に入院したからと言って、挿管や延命治療に伴う問題は起こらないそうです。

日本では緩和ケアが広まりつつありますが、初期の段階から終末期について話し合うことはやはり難しい、ということが多いと思います。
緩和ケア医というよりむしろ、腫瘍内科や臓器別各科の先生方の間でMDAのようなコンセンサスを築くことが重要だと思いました。


また今日は、上野先生が将来のことについて少しお話しする時間をとって下さったので、そのとき伺ったことを書いてみようと思います。

まずとても耳が痛かったのは、「Visionを定めないとアドバイスをしようにも出来ないし、人を紹介することもできない」ということです。
今の私は、確固たるVisionなく、あれがしたいこれがしたいと欲張っている状況なので
本当に何がしたいのか、ただ○○科の医師になりたいというgoalではなく
それによって何を成し遂げたいのか、という部分をもっと深く考えて、少なくともたたき台を作らないと
もやもやとした状態で相談をしても、先生方を困らせるだけだと反省しています。
結局は焦りがあるということ、そして仕事とキャリアの違いを認識できていないことで
Visionが確立せず、だからMissionも立てられるず、10年後の自分を想像できないのだと分かりました。
研修医になると、落ち着いて考える時間などほとんどないでしょうし、
そもそもMission&Visionがあってこそ有意義な研修ができると思うので
この絶好の機会にじっくり考え、多くの人に相談してみようと思います!

(今日は簡潔に書こうと思いつつ、またもやだらだらと長くなってしまってすみません。)
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
豊田(神戸大学医学部附属病院) 2011/03/03
吉松さん

はじめまして。
Team Circleのメンバーで、神戸大学 腫瘍・血液内科の豊田といいます。

本当に素晴らしいコメント、毎日楽しく拝見しています。活きた記事を読むと、実際に自分がそこで見ているような気分になりますね。
吉松さんが日本で見てきた医療との違いをどんどん発見し、いかにみんながHappyになれるかを考えておられるかがよく伝わってきます。いろいろな発見からいろいろなOutcomeが出てくるのを楽しみにしています。
3日目にして、気候の話題がでてくるあたりは、吉松さんがMDAにadaptationしてきた証拠でしょうか。
自分の国試終了後の姿を思い返し、吉松さんを含め、いろいろな方から刺激を受け続ける毎日です。
体に気をつけて楽しんで下さい!
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
佐治重衡(saitama Med Univ) 2011/03/04
学生さんながら、細かなポイントまで見られており感服です。
よーく見て、聞いて、感じてきてください。

そして、もうひとつ、ではそのなかで、何が日本でも応用できるか、取り入れることができるかなどです。これは法律や財政的な裏打ちも必要になります。

MDAだけではないですが、米国の施設でみられる手厚い外来診療体制は、約3倍の医療コストのうえで成立しています。
日本も、医療費をそこまでコストをあげて、同様なことを考えていくのか、それともヨーロッパのような共済対象の疾患をそぼって、実現するのかなど、プログラム全体を見渡した知識や関心も重要と思います。

直接医療に関わるところ、それをとりまく医療の要素など、広い視点で研修してきてください。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
三浦裕司(虎の門病院臨床腫瘍科) 2011/03/04
吉松さん

虎の門病院の三浦です。
今日も非常に興味深く、楽しいレポートありがとうございます。
またしても楽しく拝見させていただきました。

日米のチーム医療の違いと日本における今後の展望について、現時点での私見を少しだけ述べさせて下さい。

吉松さんが現場で感じているように、日本とMDAの大きな違いは、そのマンパワーの差だと思います。scheduler, medical photographerどころか、私の外来に専属で看護師や薬剤師がついてくれるようなことは、ありえないのが現状です。ひとりぼっちでぽつんと外来をやっております。ある本には、「米国MDアンダーソンがんセンターは、愛知県がんセンターとほぼ同じ規模と機能を持っているが、職員数は100床あたり3125人と186人。日本は17分の1ほどの人数しかいない。」と書かれてありました。これは、佐治先生がおっしゃっているように、医療費の差から来るのかもしれません。

僕が思うに、MDAでは、このようにマンパワーが豊富なため、様々な職種が分業できるようになったが、その分業化がために、それぞれの職種がバラバラにならないように、「communication skill」や「team consensus」が必要になり、結果としてチーム医療が発展したのではないかと思います。(勝手な想像ですが)

日本における大きな問題点は、医療者(マンパワー)不足であり、MDAとは出発点が正反対ですが、communicationやteam consensusなどのskillは、少ない個々のパワーを高めるために役立つのではないかと思っています。

マンパワーを増やすと言うハード面の改善には、様々な社会的、政治的改革が必要になり、達成には時間がかかるかもしれませんが、ソフトの面をadjustする事が、さしあたっての日本におけるチーム医療改善のポイントではないかと思っています。

かなり抽象的な話しになってしまいましたが、具体的な事例については、折りをみてお話しようと思います。

長文失礼しました。

Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
高橋康一 (Beth Israel Medical Center) 2011/03/04
7月からクリニカルフェローとしてMDAにいく高橋といいます。骨髄移植医を目指しているので、大変にためになります。
学生の時点から素晴らしいローテーションに参加され、かなり的確な視点で分析されていることに感心しました。
頑張ってください。
しかし、BMTチームが常時4チームとはものすごいでかいですね。。。。自分がローテしたMSKCCでもひとチームしかありませんでした。。。規模が違いますね。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
西智弘(栃木県立がんセンター腫瘍内科) 2011/03/04
初めまして。
栃木県立がんセンター腫瘍内科/川崎市立井田病院総合ケアセンター(緩和ケア科+在宅)の西智弘と申します。

毎日、レポート楽しく拝見しております。
マンパワーの少ない状況で日々ストレスを抱えながら診療している身としては、MDAの体制は羨ましいばかりです。
もちろん、日本でそれを実現するのには他の先生方のおっしゃるように様々な問題があるのですが。

さて、話は変わりますが、私は吉松さんの「緩和医を目指すのにOncologyを勉強する」という考えに共感しています。
私自身、緩和ケアレジデントとして研修した後、同様の考えに至り、現在腫瘍内科医として勉強をしているところです。
私は「腫瘍内科医は緩和ケア医でもあるべき」と考えています。
これは、専門分化が進んだアメリカを見学している吉松さんから見れば、非常に日本的な考えで、野暮ったいかも知れませんが、日本の患者さんの意識はまだまだ「私の主治医」というところが支えになっている部分もあり、治療と緩和で主治医が交代することに強いストレスを感じている方も多いのです。
早期からの緩和ケアの導入と、チーム医療の確立、患者さんの教育などで徐々に日本も変わっていくかも知れませんので、在宅緩和まで自分で診ようとしてる私は、時代に逆行しているのかもしれません(笑)。
腫瘍内科医、緩和医、と一口に言っても、仕事の内容は様々で奥深く、全てを一人でやろうというのは困難です。
臓器専門は?専門以外の臓器はどの程度診るのか?臨床試験や研究にはどの程度関わりたいのか?神経ブロックや放射線の勉強はどの程度するつもりか?自分が拠点としたい診療圏とそのリソースは?・・・など、ひとつひとつ考えていき、自分のキャリアパスとVisionを作っていけば良いのかな、と考えます。
似たような志を持つ(かもしれない)者として、Vision構築の参考になれば、と思い、コメントさせて頂きました。
今後もレポート宜しくお願い致します。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
沖代 奈央 (大阪大学医学部付属病院 緩和ケアチーム ) 2011/03/04
吉松さん

沖代です、こんにちは。
とても充実した日々を過ごされているようですね。

病気の早くからend-of-life issuesについて、
正面から話し合うこと・・・確かに本当に大切なことだと思います。

医療者や患者・家族が死を思考の外に押しやって、
まるで「あってはいけないもの」ととらえて治療に賭けることは、時に両者にとって不幸で歪んだ結果をもたらすことがあるように思います。

楽しんで、色々吸収して帰ってきてください。
報告会などもしてほしいです。
豊田先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
いつも読んで下さってありがとうございます。
おかげさまでMDAにも随分慣れてきて、自分の希望も言えるようになりました。

もうすぐ働く身としてはお恥ずかしいのですが、薬の用法用量の議論はあまりよく分からず、
ついそのほかのことに目が行ってしまい、薄っぺらい実習にならないようにと気をつけなければと思っていたところでした。
そうですね、Outcomeを意識して残りの期間もたくさん発見していきたいと思います。
よろしくお願いいたします!
佐治先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
お忙しいところ、メッセージを頂戴しありがとうございます。
見えていない部分を指摘して下さり、大変感謝しております。
先生のおっしゃるように、米国の医療をあこがれの目で見るのではなく、冷静に多面的にとらえて、
日本の医療にどのようにつなげていけるかを考えてこそ、将来につながる実習、ですね。
確かにこちらの回診や外来では頻繁に保険の話題になります。
○○は誰々の保険対象ではないとか、誰々は保険の都合上、○日間しか入院できないとか。
一方、英国のホスピスで実習をした際には、最新の薬を使えないことや検査項目がとても限られていることに驚きました。
海外の医療を見ると、日本の皆保険のありがたみを感じますね。
広い視点を心掛けます。ありがとうございます。
三浦先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
今日もコメントを下さりありがとうございます!
先生の分析を拝見し、なんだか頭の中が整理できてきた気がします。
そうですよね、そもそも出発点が違うので、アメリカのやり方をそのまま日本に適応するのは難しいと思います。
でもソフト面の改善なら方法はたくさんありますし、それぞれの施設に合う形で少しずつ進めていけそうですよね。
今日は患者さんの退院指導を見学してみましたが、例えばこうした患者教育の充実も、
結果的には医療者の負担や医療費の軽減、そして医療の質の向上につながるのではないかと思います。
退院指導などについてまた後で書かせて頂きますね。
具体的な事例なども是非また教えてください。
高橋先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
コメントをありがとうございます。
骨髄移植医を目指しておられる先生にそんなもったいない言葉を頂戴してしまい、恐れ多いです。
こちらのBMTは4チームで、それぞれが常時25人ほどの入院患者さんを受け持っているので、常時100人以上の入院患者数だそうです。
こちらは入院期間も非常に短く、移植後すぐに退院し、その後は外来で毎日点滴や輸血を受けていることを思うと
年間の移植数にすると、相当な数になりそうですね。
Sloan-Ketteringの腫瘍内科にもとても興味があります!是非また教えてください。
西先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
緩和ケアも腫瘍内科もされている先生からのコメント、ありがたく読ませて頂きました。
日本の緩和ケアの在り方は難しい問題だと私も思います。
主治医制が根付いている社会で、そうした根本にある意識を改革していくことは、可能だとしてもとても時間がかかります。
社会の(患者さんやご家族の)変化を求めていくと同時に、
医療の側からも歩み寄っていくのが大事なのではないかと考えています。
欧米諸国の良いところを学び、持ち帰り、そしてそれを日本人の国民性に合う形に応用することで初めて、
欧米で学んだことをきちんと生かすことができる気がします。
Vision構築において、とても勉強になるアドバイスを頂戴しありがとうございます。
今後ともぜひ色々とご指導ください。
沖代先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
いつも本当にお世話になっています。ありがとうございます!
私にとって緩和ケアは沖代先生に教えて頂いたことが根本となっています。
end-of-life-issuesをどう扱うかは、本当に難しいですね。
なぜ日本では未だに告知が少ないのだろう、終末期のことを話さないのだろう、と不思議に思っていましたが
身近でそういうことがあると、伝えない気持ちも、分からなくもない気がしてきました。
日本に合った緩和ケアとはどのようなケアなのかが、とても気になります。
また帰国したら色々と教えて下さい。
四日目。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/04
こんばんは。
頂いた多くのコメントにとても励まされ、四日目の今日は回診、外来、そして病棟にお願いして患者さんのDischarge Class(退院指導)を聴講させて頂きました。

午前中の回診では、チームの方々とも大分うち解けてきて、質問もしやすくなってきました。
回診で日々驚かされるのは、やっぱり退院時期の早さです。
これについては二日目の報告でも書いたのですが、今日分かったことは
輸液ボトルをつけたまま退院される患者さんが多いということです。
骨髄移植に伴う化学療法下では脱水が合併症の大きな危険因子となるので、
移植後早期に退院し、その際にリュックサックに2リットルの輸液ボトルを入れた状態で退院するそうです。
患者さんやご家族がルートを抜去できるわけではないので、翌日にまた来院し、抜去または追加の輸液がなされるわけです。
日本では、在宅ケアで輸液をすることはあっても、輸液が必要な状態での急性期の退院は見たことがなかったので
患者さんがそれをどう受け止めるのかが気がかりでした。
けれどそこは国民性なのでしょうか、その白人の患者さんは驚きながらも、
「それなら水分が飲み込めなくても心配ないね」と、とても落ち着いていましたし
奥さまに至っては「あら、そんなことは初めてね!面白そう!」と、爆笑されていました。

また今日の回診で一番印象に残ったのは、(チーム医療からは外れてしまいますが)、回診中の患者さんが目の前で全身痙攣を起こしたエピソードでした。
ごく普通に会話をしていたかと思うと、途端に意識が消失し、四肢の不随意運動が見られ、
その後自分の頭を何度も殴る動作や、大声で叫んだり、泣いているような笑っているような様子も見られ
病室は一気に緊迫した空気になりました。
Ativanを2アンプル投与しても効果がなく、かなり持続したため
モルヒネ2mgの投与でようやく徐々に落ちつき、意識も回復しました。
骨髄移植に際し投与していたブスルファンの副作用と思われましたが
前投与薬としてDilantinが使われていたはずであり、チームのメンバーは不可解そうでした。
患者がDilantinを内服したかどうかを看護師が最後まで見届けたかどうかなど、現在確認しているようです。
いずれにせよ、このようなエピソードは、MDAほど症例の多い施設でさえ3年前の1症例以来ないそうで、珍しい場面に遭遇しました。


午後はDr.TheriaultのBreast Clinicを見学させて頂きました。
今日は初めてMDAに来院する患者さんがおられました。
この患者さんに対して、担当したAdvanced Nurse Practitionerは
まず今日の流れを説明し、患者さんが何を期待して来院したかを確認し、
ほかに主治医がいるかどうかを聞き、それから現病歴へと移っていました。
こうした説明や質問を初めにしておくことで、患者さんも心づもりができるので安心して診察を受けているようでしたし
医療者側も、どのぐらい介入し、どういう方向性へ進めたらいいかを把握した上で全身評価に入れるので
こうした心がけは大事だと思いました。
これはどこでも簡単に実施できることなので、腫瘍内科に限らず、私も心掛けていこうと思いました。

また喫煙歴を問われ、患者さんが10年間喫煙している旨を答えると、
"Is there anything we could do for your to help you quit?
We have things we can do for you here." と、すぐさま禁煙治療を提案していました。

今までの臨床実習で、喫煙歴を何度も聞いてきましたし、聞いているのを見学もしましたが
その場で禁煙知慮をすすめる様子は見たことがなかったので、これには関心させられました。
確かに、ただ病歴を聴取してそれをカルテに記載するだけでなく、
それが主訴と直接に関係していなくとも、それを改善する方法があるのなら提示することが大事だと思います。

患者さんも、これを聞いて"Really! Well, that's a step forward!" と、健康な身体に向けて一歩前進できることを喜んでいました。

また今日は、外来を途中で抜けさせてもらい、病棟でのDischarge Classに参加しました。
骨髄移植で入院中の患者さんは、治療以外にも様々な講義を受けることで大忙しのようです。
退院指導、栄養指導、投薬指導などです。
これら全てに出席したかどうかが厳密にチェックされます。

今日のDischarge classは自家末梢血幹細胞移植の患者さん向けで、
Nurse3名と患者さん・ご家族あわせて17名が参加していました。
内容は退院にむけての準備から、退院後、体調が回復するまでの
実に細かい生活指導が組み込まれていました。
患者さんによっては、同じ講義を何度も受ける方もいるようで、皆熱心に聞き入っていました。
質問も活発にしていましたし、患者さん同士の情報交換も盛んでした(あそこで売っているマスクは薄い、どこどこのはひもが2本ついていて使いやすい、など)。

参考までに、Discharge Classで扱われたことを箇条書きにします。
・退院に向けての準備(書類、保険、薬)
・どのような症状が予想されるか
・運転する上での注意事項(血小板10万以下は運転しない!)
・スキンケア
・外来(最初の14日間は毎日来院して輸血や化学療法を受ける。一日最低4時間はかかる。)
・CVポートのケア(日々のヘパリンロックを自宅でする場合はケア担当者が講義を2単位受け、実技試験を受けること。
         ガーゼ交換も自宅で行う場合は更に追加の講義を受けること。)
・移植後100日間はヒューストンに滞在すること。
・常時、介護者がいること
・感染予防(一日2回の体温測定、手洗い、アルコールジェル、マスクは2時間ごとに交換など)
・38.0度以上の熱があれば、何もせず直ちにMDAの救急センターに来ること。
・GVHD
・口腔ケア
・性行為
・ペットや植物にあまり近づかない
・禁煙
・血液型が変わること
・移植後は、輸血血液は放射線処理したものでなければならないこと
・栄養管理
・リハビリ
・日光対策
・退院までに病棟主治医に確認しておく事項
・どういうとき救急センターに行くべきか
・夜中に気になることがあれば病棟に電話すれば看護師が相談にのるので、朝まで我慢しないこと
・退院時に通常、処方される薬剤の名前、容量、用法、適応
・癌に関連する倦怠感に効く料理のレシピ集
・チャプレンについて
・転倒防止について


随分長くなってしまいましたが、以上の項目について、一つ一つ、具体的な方法や数値を交えながらの説明で
情報がぎっしり詰まった1時間でした。

この必修の講義以外にも、MDA院内では全ての患者さんやご家族向けに、日々様々な講義が開かれています。
たとえば糖尿病管理、癌による全身倦怠感とのつきあい方、介護者のための講義、などです。

回診や外来での医療者と患者の会話にもたくさんの患者教育の要素がありましたが
こうした講義などを開き積極的に患者教育を推進していくことで
患者さんは自己管理が上手になり、合併症を減らすことが出来、医療者の負担の軽減につながると思います。
スタッフ不足の日本において、こうした改革をしていくことも、患者さんとじっくりお話しする時間を作るためのひとつの方法だと思います。

今日は、一日目から気になっていたDischarge Classに参加できたので大満足でした。
講義で配られた分厚いプリント冊子をこれからじっくり読もうと思います。
五日目。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/05
こんばんは。広い院内をバタバタと走り回っているうちに
いつの間にか、見学期間の半分以上が終わってしまいました!

こちらでは先生が休暇を取られることが多いため金曜日は外来が少なく、
今日の午前中はStem Cell Transplantationの回診を見学し、午後はMDAを案内して頂いたり、Faculty Developmentを担当されているJanis Aptedさんとお話しする機会を頂きました。

今日の回診では患者さんやご家族が涙を流される場面が何度も見られました。
MDAでは外来でも病棟でも、患者さんが医師の前で泣いてしまうことが多いような気がします。
国民性の違いも大いに関係しているでしょうが、医師、そしてチーム全体が、患者さんを真っ向から受け止める姿勢で取り組んでおり
患者さんも心を許しているからこそ、とも思います。
日本では患者さんは医師の前では「優等生」にならなければ、という意識が強いとよく言われますが、
確かに診察や説明を受けるときも「素」の部分を見せることがこちらより少ないかもしれません。
またMDAでは「ずっと知りたかったけれど誰にも言ってもらえなかったことを言ってもらえた」という患者さんも多く、
その内容が良いか悪いかに関わらず、「なんでも話してくれる先生に、ようやく出会えた」というような、安堵の涙を見かけます。

EBMに基づき、かつ患者さんやご家族の希望に応じた'Truth telling'のスキルや
患者さんが心の壁を感じずに接することが出来る雰囲気を作り出すスキルを
しっかりと身につけようと思いました。

午後は、Patient Education を担当されているJaneさんにMDA内のいくつかの施設を案内して頂きました。
まず案内されたのがMDAの職員専用のジムです。
病院の中に用意されたこのジムは、MDAの職員なら誰でも無料で利用でき、
トレーニング用の機械が数百個あるほか、ヨガやエアロビクスなどの教室にも参加できます。
こうして職員の福利厚生や健康管理にも気を配っているところなど、さすが世界のMDAですね。

次に案内して頂いたのがResearch Libraryです。
これは主に医療者向けにジャーナルなどを取りそろえていますが、患者さんも利用して良いそうです。
21階にありヒューストン市内を360度見渡せる広々としたこの図書館では
自習机やパソコンも充実していて、多くの方が勉強しておられました。

さて、患者さんが自分の疾患についてより知りたいと思ったとき、このResearch Libraryを利用することもできますが、
患者さんが情報を収集するために、別個にThe Learning Centerという図書館が設けられています。
ここでは、癌と診断されたばかりの患者さんなどが利用する最初の手がかりとしてたくさんの無料冊子が用意されています。
冊子を自宅で読み、もっと知りたいと思えばその疾患に関する本やDVDを借りたり、
最新の論文を読みたければ職員に教えてもらながらパソコンで検索し、印刷することができます。
先日書いたMy MD Andersonという、オンラインで各種検査結果を確認できる
システムを利用して、印刷した病理診断のレポートを持参し
「この部分が分からないから教えてほしい」などと言って来られる方が多いそうで、
職員はどの医学書のどのページを見ればいいかを提案したり、論文を探したりと、様々な形で情報収集に努めるようです。
こういう場合でもやはり患者さんの自主性が重んじられており、なんでも図書館職員がしてしまうのではなく、
情報の集め方を手取り足取り教えていくことで、次第に患者さん自ら、ほしい情報に辿り着けるようになるのです。
日本でも「至れり尽くせり」な医療でなく、患者さんの自立を促進するようなやり方で
患者教育をしていくことができれば、患者さんもより主体的に治療に参加していけるかもしれません。


その後、Faculty Developmentに従事しておられるJanis Aptedさんが、私のCareer Developmentのために時間を割いて下さいました。
今なぜMDAで見学をしていて、なぜ緩和ケアや腫瘍内科に興味を持つのか。
キャリアにおいてどのような要素を重視するのか。
そういった質問に答えているうちに、自分の考えが整理されていくような感覚を覚えましたし
それ以上にJanisさんのほうが私の内面を把握している気がして、驚きました。
私が何かを言うたびに、「それなら○○先生に会って話をしてみると良い」と、すぐに電話をして下さったり
「そういうことに興味があるなら、この本を読みなさい」と教えて下さったりと
私にとって全く新しい出会いやツールを次々と提供して下さいました。

ひとまず来週までに、私がキャリアに求める要素を7個ほど選ぶ、
そしてMentoring Handbook for Facultyの中のCareer Developmentに関する箇所を読み、問いに答える、という宿題を頂きました。

充実した一週間を締めくくるにふさわしい、有意義な一日となりました。
土日を挟んであと3日、頑張ります。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
徳田 恵美 (順天堂医院) 2011/03/05
吉松さん

5日間お疲れ様でした。
前回、はじめまして、と申し上げたけど、TEAM SUKIYAKIで一緒に勉強しましたね!(というより、途中特に私たちが日本語で熱く話しはじめてしまった時など、MDAの先生方にそっと通訳をしてくださっていましたね!!!ありがとうございました★)

毎日あるたくさんのスタッフや患者さんとの出会いを、5日間続けて記せているってすごいです。大切なことだけど、なかなか続かないですよ。あふれる気持ちが伝わってきます。

>今の私は、確固たるVisionなく、あれがしたいこれがしたいと欲張っている状況なので本当に何がしたいのか、ただ○○科の医師になりたいというgoalではなく それによって何を成し遂げたいのか、という部分をもっと深く考えて、少なくともたたき台を作らないともやもやとした状態で相談をしても、先生方を困らせるだけだと反省しています。

3日目にこんなことを書かれてましたが、たくさんやりたいことがみつかっているのは、とても素晴らしいことだと思います★きっとはっきりと形にはなってないけど、吉松さんのVisionの方向づけはできていそう!でも、先生方や他の人に説明し理解してもらうには、まず自分でも順序だてて物事を考えたり、わかってもらうように工夫して説明したりすることが大事そうですね(って福岡での授業で理解したことのうけうり…)。Janisさんは、きっとそのためにはどうしたらいいかの手助けをしてくださっているのでしょうね。

よめばよむほど、うらやましい時間です。

ちなみに、MDAには日本以外にもほかの国からも見学にいらしている先生方も多いのでしょうか?アメリカの医学生と接することもありますか?学生のころからモチベーションが日本と少し違うのでしょうか?

さらに、MDAの先生の休暇って一年にどのくらいあるでしょうか?日本は夏休み一週間、冬休み4,5日というところだと思いますが・・・。

またお時間があったら教えてください。
レポート楽しみにしています。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
堀之内  秀仁(聖路加国際病院呼吸器内科) 2011/03/05
吉松 由貴 様

MDA見学記、大変興味深く拝読いたしました。

たとえば"Discharge Class"の記載ひとつとっても、読者に何かしらshareしようという
気持ちが嬉しい内容でした。

日本に戻られ、医師としてスタートされたときに、どちらが「よいわるい」ではなく、
どこがどのように違っていて、そのなかで自らのキャリアをどのように考えるか、と
いう視点で今回の実習を振り返ると、得るものがあると思います。もし、日本の"がん
専門病院"がどのような状況か、興味をお持ちでしたらお力になれます。

その上で、自らのキャリアをどのように築いたか、またどこかで皆にshareしてくださ
ると嬉しいですね。

国立がん研究センター中央病院
呼吸器腫瘍科呼吸器内科
堀之内 秀仁
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
西智弘(栃木県立がんセンター腫瘍内科) 2011/03/07
いつも楽しく拝見しております。
栃木県立がんセンター腫瘍内科/川崎市立井田病院総合ケアセンター 西智弘です。


MDAでは「ずっと知りたかったけれど誰にも言ってもらえなかったことを言ってもらえた」という患者さんも多く、
その内容が良いか悪いかに関わらず、「なんでも話してくれる先生に、ようやく出会えた」というような、安堵の涙を見かけます。

というところは、日本の現状とあまり変わりないのかな、と読んでいて感じました。
日本では、まだ「かわいそうだから」と言って、はっきりしたことを本人に伝えなかったり、家族にだけ伝えて口裏を合わせる、なんてことも多いですが、それでも次第に「患者さんの情報は患者さんのもの」という意識が育ってきていて、悪い話でも本人に伝える、というところも増えてきていると思います。
それによって、患者さんが自分の人生を、自分で考えられ、死を見据えながらも前向きに生きられるようになってきていると感じています。
ただ、精神面でのサポートは米国とくらべると貧弱かもしれず、悪いニュースを伝えた後、うつ的になっているにもかかわらず、誰も気づいてあげられていない、という場面も増えてきているように感じます。
医療スタッフの数の問題もありますが、日本なりに色々工夫していく必要がありますね。
徳田先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/07
お返事ありがとうございます!
JTOPでは先生方の熱い議論に関心しました。私も何年後かには先生方のように経験と知識に基づくしっかりとした意見をもてるように、真剣に研修に取り組もうと思いました。

徳田先生のおっしゃるように、お忙しい先生方に自分の話をするときは、まず自分の中で整理してからでないと、失礼になってしまいますね。就活の面接と同じように考えたらいいのかもしれないです。

今は就活を思い出して、ノートに(殴り書きですが)あれこれと単語を書きながら考え込んでいます。こうしてMDAの方々に一対一で相談に乗って頂いたり、じっくり内観している今は、とても贅沢な時間ですね。

ご質問は了解しました◎また先生方に聞いてみて、掲示板上でお答えしますね。私自身は他国からの見学者にはお会いしたことはないです。

また明日からもよろしくお願いします。
堀之内先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/07

ご親切なコメントをありがとうございます。
実は5日目の記事は、書きながら何度も眠ってしまっていたので、いつも以上に読みにくい文章になってしまって、お恥ずかしい限りです。

実は「腫瘍内科でなければ、呼吸器内科にしよう」と考えており、堀之内先生にそう言って頂けるととても嬉しいです。是非(お邪魔にならない範囲で)日本のがん専門病院のことを教えて頂きたいと思います。

先生のおっしゃる「よいわるいではなく、どこがどのように違っていて、そのなかで自らのキャリアをどのように考えるか、という視点」を意識して、明日から最後の三日間に挑みます。どうぞよろしくお願いいたします。
西先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/07
いつも読んでくださってありがとうございます。
コメントをして頂いてとても嬉しいです。

先生が引用された部分ですが、読み返すと完全に私の説明不足でした。
MDAで患者さんの口からこのような言葉が聞かれるというのは、病名や予後の告知をされたときというよりは、
例えば癌性疼痛で悩んでいる患者さんが「この痛みは、合う薬を使えば必ず治ります」と保証してもらったりしたときです。

MDAの先生方は何事も自信を持って言われるので、患者さんは先生を信頼でき、安心するようです。それはMDAの先生方の臨床経験が豊富で、EBMにも精通しているからこそ出来ることだと思います。同じ事実を伝えるにしても、裏付けがあるかないかで、自信の有無がしっかりと態度に出てしまい、それが患者さんの治療意欲にも大いに影響することを実感しました。

精神面でのサポートをしていけるようなるには、先生のおっしゃるようにまず患者さんの状態に気づくということ、そして自分の勉強や経験も大切であるように思いました。

今後ともよろしくお願いします。
六日目。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/08
新しい一週間が始まりました。月曜日はMDAのスタッフも皆さんお忙しそうです。
今日は午前・午後とも、Dr.TheriaultのBreast Clinicを見学させていただきました。

今日の外来ではなんと言っても、Multidisciplinary Conferenceでの感動をお伝えしたいです。
MDAのBreast Clinicでは月曜・木曜の午後4時からMultidisciplinary Conferenceを開いており、
乳がんに関わる各分野の当番に当たっている医師が参加し、新患のうち治療方針の判断が難しい症例につき
病歴や画像を見ながら議論し、さらに全員で患者さんの身体診察を行い、
再び議論をしながら治療方針を決定していく、という内容となっています。

今日11時に来院した新患さんは、3年前から胸に腫瘤を認めており、色々な病院でバラバラのことを言われ
混乱した状態で、信頼できる情報と方針を求め、MDAに来たのでした。
他院で行われた画像診断のレポートや提案された治療方針に不十分な点もあり、確実には言えないものの
腫瘍が7cmとT3であり、恐らく腋窩リンパ節転移を伴っており、
方針としては腋窩リンパ節の超音波検査を行った後に、
術前化学療法 → 外科的治療 → 放射線療法 → 内分泌療法
という治療計画になるだろうということでした。
Dr.Theriaultのご意向によりMultidisciplinary Conferenceで検討することとなりました。

これが決定した時点ですでにお昼前でしたが、午後4時に会議室に行くと
早くも研修医などによってプレゼン用のスライドが完成しており、
病歴や他院で撮られた画像などが分かりやすく提示してありました。
この手際の良さは、とても気持ち良いものでした。

会議では午前中に患者さんを診察したDr.Theriaultが患者さんについてプレゼンし、
出席していた十数名の腫瘍内科医・放射線科医・乳腺外科医が
画像診断の解釈や、考えられるシナリオとそれに応じた治療方針を熱く議論していました。

議論が一通り落ち着くと、その医師たちのうち7人で患者さんの診察室へ向かいました。
診察室に見知らぬ先生が次々と入ってくるので患者さんも目を丸くしていました。
先生方は、プレゼンで聞いた内容をもとに追加質問や説明をし、
そしてそれぞれが患者さんの乳房や腋窩リンパ節を触診していきました。
診察後、先生方はまた会議室に戻り、治療方針の議論が続きました。

複数の専門家による入念な診察の上、リンパ節は一切触診できなかったようで
当初考えられていた治療方針が大きく変わりました。
腋窩リンパ節の超音波検査は必要ですが、それにより腋窩リンパ節に転移が見つからなければ、
術前化学療法をせずそのまま乳房切除術を行い、続いて術後化学療法、そして内分泌療法を行うという方針になりました。
説明を受けた患者さんは、今まで他院で言われていた治療法との違いに驚き、
そして放射線療法を受けなくてよい可能性が高いということをとても喜んでいました。

その後、検査や手術の予定が次々と決まっていき、
超音波検査さえ陰性であれば2週間以内に手術が行われる流れとなりました。

30分以上に渡り、各科の専門家が一所に集まって一人の患者さんについて真剣に議論し合うこの状況は
患者さんにとって、大きな恵みであると思います。
全米どこを探しても、これほど乳がんに精通した先生方にこれほどじっくり診てもらえるところはありません。
今日の会議に初めて出席した研修医や看護師も
「自分が癌になったら、ここで診てもらいたい」と口々に言っていました。


外来でもう一つとても印象強かったのは、(以前も書いたのですが)EBMの実践です。
Dr.Theriaultは、何か事実を述べるとき、必ず出展も教えて下さいます。
話し相手が患者さんでも、研修医でもコメディカルでも私のような学生でも、必ず
「何年にどこの施設のどの先生が書いた論文で、○○○という結論が出ている」という形で
例えば骨転移を伴う乳がんの5年生存率や、組織検査と吸引細胞診の違いなどについて教えて下さいます。

また、MDAでは原発乳がん患者さんの治療後の経過観察には胸部X線や血液検査はせず、
身体診察とマンモグラムだけでフォローすることがほとんどのようですが
これも、エビデンスに基づきBreast Clinicに携わる各科で議論した結果決まったことだそうです。
初めはRadiation Oncologistの言い分が通り、胸部X線を撮っていたけれど
翌年には「胸部X線が有用であるというエビデンスはどこにもない」というMedical Oncologistの主張が認められ、胸部X線はルーチンから外されたそうです。

今までEBMについて曖昧なイメージしかなかったため、こうして徹底して実行されているところを見ると
今から英語論文を読み慣れておくこと、そして研修開始当初より常にエビデンスに基づいた診療を行う訓練を積むことの重要性を感じます。

米国では屋根瓦式教育により指導医がfellowを、fellowがresidentを、residentがinternを教えることになっており
internの頃から何事も出展を添えて述べる訓練を日々繰り返させられ、
residentになるとEBMを教える立場となるので、"see one, do one, teach one"の要領で
EBMの習慣が着実に身につくようです。

これは各自の意識と努力で少しずつ訓練していけることなので、日本でも実践していけると思います。
と言っても、医療従事者全員がEBMを米国ほど意識しているわけではなく
目の前の業務に追われていつの間にか忘れている、という状況になりかねないので、
人と議論するとき、「その出展は何?何故そう予測できるのか?」と、物事を批判的にとらえ
互いに刺激し合っていくなど、なんらかの相互協力が必要だとは思いますが。

また今日は第一月曜日ということで、外来の合間に、noon conferenceがありました。
今日のテーマはヒトゲノムの研究に関する講演だったのですが
基礎知識の不足から、途中からほとんどついていけなくなりました。詳しくレポートできず、申し訳ありません!
でもこうした抄読会のような場でも、こちらの先生方は講演後だけでなく講演の間にも口々に質問やご自分の解釈を述べていて
そこからdiscussionに発展することもあり、日本の(一部の)抄読会とは雰囲気も随分違いました。


今日は、Dr.Theriaultとのお話しの中で挙げられた多くの論文のうち一つ、
題名を聞いただけでは結論が分からず、分野的にも興味深いものを、最後に印刷していただきました。
Annals of Internal Medicineの最新号に載っている、David Wendler氏の "Systematic Review: The Effect on Surrogates of Making Treatment Decisions for others"です。
どの科においても言えることでしょうが、とくに緩和ケアでは患者さんの代理人が治療方針の決断を迫られることが多く、
その家庭が代理人に及ぼす様々な影響について書かれています。
今日来られた患者さんを思い出しながら、これから読もうと思います。

今日も長文を読んでいただきありがとうございます!
ご質問の答え
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/08
先日、徳田恵美先生に頂いたご質問の答えです!

1.日本以外の国からMDAに来る見学者:
多いそうです。
中国や中東、スペイン(そのほかメモを取りきれませんでした、ごめんなさい!)などの地域には、日本の聖路加国際病院や慶應大学附属病院のような「姉妹病院」があるようで、これらの地域から見学に来られる方がとくに多いようです。

2.アメリカの医学生:
私はMDAでは一人も会ったことはないです。residentはローテーションしているので、週によって違う先生にお会いします。

3.MDAの先生方の休暇:
MDAでの勤続年数に応じて、年間の休暇が増えていくそうです!
MDAで就職一年目の先生なら、2週間の休暇に加えて、学会やセミナーで30日間休むことが可能です。
Dr.TheriaultのようにMDAで24年間働いていると、(学会や病欠以外に) 毎月26時間の休暇をとることができます。

けれど実際には休暇を全てとっているわけではなく、Dr.Theriaultは何ヶ月分も蓄積しているとおっしゃっていました。
休暇は貯めていくことができます。


簡単になってしまいましたが、何かまた追加で聞いておけることがあればおっしゃってくださいね。

私はあと2日ほどMDAにいますので、その間どしどし質問をお寄せください。
七日目。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/09
こんばんは。
今日も盛り沢山な一日で、病院に12時間いました。
短い期間ですが、日数分以上のことをさせていただいている気がして、とてもありがたいことです。
今日は午前中はLeukemia Teamの病棟回診を、午後は上野先生のBreast Clinicを見学させていただきました。
また、これは自分の興味本位でアレンジしたことなのですが、
お昼休みを利用してMDAのMedical Interpreterのもとへお話しを伺いに行きました。

まず午前中の回診について書きます。
MDAのhematologyはLeukemia, Lymphoma, Stem Cell Transplantの3部門に分かれています。
先週ずっと見学していたDr.Qazilbashのチームを含むStem Cell Transplantでは100人以上の入院患者を、
Leukemiaも100人程度の入院患者を常時抱えており、
一番小さいLymphomaも80人程度の入院患者がいるそうです。
今日はLeukemiaの4つのチームのうち、Dr.Estrovのチームに付かせていただきました。
なおLeukemiaの4チームのうち3チームは活動性の白血病を、1チームは寛解中の白血病を扱うそうです。

Leukemiaの病棟では病棟の看護師だけでなくチームの看護師も一つの病棟に常駐しています。
回診ではチームの医師と薬剤師が病棟を回り、各病棟で、チームメンバーである看護師2人と合流し
まずその4人で、その病棟にいるDr.Estrovチームの患者さんについて順にdiscussionしていきます。
その後チームの4人と病棟看護師とで手早く回診をします。
その病棟の患者さんを回り終えると、細かい指示などは後回しにし、次の病棟へと移っていきます。

discussionや回診が速く、2時間少々でチームの患者さん25人を回りきりました。
Stem Cell Transplantのときと比べてあまりに速いので、質問してみたところ
Dr.Estrovは午後にもう一度、全ての担当患者さんのもとへ足を運ぶそうです。
状態も安定していて、症状もとくに訴えていない患者さんのもとへも毎日2回は回診するというのは
MDAでも皆がすることではないようです。
患者さんやご家族は、医師が気にかけてくれていると感じることができ、とても心丈夫だと思います。

回診の合間、9時から10時にかけて、週に一度のLeukemia全体のカンファレンスがあり、
全体で受け持っている100人の患者さんのうち、治療方針が揺らいでいる患者さんなどについてプレゼンし、
今後の方針について話し合っていました。
カンファレンスには医師が30名以上も出席しており、充実したdiscussionが繰り広げられていました。
またこのカンファレンスでは、死亡した患者さんの死因や解剖についても話題にのぼっていました。


午後は上野先生のBreast Clinicでした。
2週目ともなると、先週お会いした患者さんも数名おられたので、
先週からの経過が分かり、とても勉強になりました。
やはり同じ患者さんを一定期間フォローしていくことで、MDAの様子がより分かります。
先週初めて来院された転移性乳がんの患者さんは、局所・全身の検査を終え、phase 1の臨床試験への参加が決まっていました。
こちらでいつも思うことですが、物事がとてもテンポ良く進む場合が多く、
こうした配慮も患者さんのための最善のケアやそれに伴う満足度につながっているのを感じます。

また今日は、とてもお若く挙児希望のある新しい患者さんが来院され、
癌治療に伴う生殖機能の変化の取り扱い方の難しさと、診断時からの迅速な対応の重要性を実感しました。

今日の患者さんはすぐに外部のFertility Clinicに紹介され、
治療開始前に卵胞保存あるいは体外受精卵の保存をしておくことが推奨されました。

妊娠すると女性ホルモンの分泌が増えるので、乳がん再発のリスクが高まると聞いていたのですが
実は妊娠によるホルモン分泌の増加と乳がん再発リスクの関連性にはエビデンスはないそうです。
ここもEBMの活用どころです。

ホルモン療法中であっても一時中断すれば妊娠は可能です。
それよりも、一番問題となるのは化学療法です。
術前化学療法の適応と判断されれば初診から2週間後には開始されるため、
それまでに早急にFertility Clinicへ行き、卵胞や受精卵の保存をしておく必要があります。
幸い、MDA近辺のFertility ClinicではMDAからの紹介であれば12時間以内に対応してくれるそうで
こうした地域との見事な連携もMDAの強みの一つだと思いました。

今日の外来は結局7時までかかり、5時には皆が帰り出すアメリカの病院では、
6時にはさすがに辺りも静まりかえっていました。
上野先生はなんと朝4時から病院で働いておられたそうで、そのころには疲れ切っておられましたが
それでも、患者さんの部屋に入るときにはおおらかな笑顔とお元気な声で挨拶をされ、
最後までじっくりと、親身になって相談に乗っておられて、こうした姿がとても印象的でしたし
患者さんも長い待ち時間があったにも関わらず満足度も高く、先生にもとても感謝している様子でした。
どんなに疲れていようと、一人一人の患者さんに誠心誠意尽くす姿勢は
実際にはとても難しく、けれど非常に重要なことだと再確認しました。

見学は明日でいよいよ(ほとんど)おしまいです。あっという間でした。
最後までたくさん吸収してこようと思います!
七日目おまけ:MDAの医療通訳
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/09
今日はLeukemiaでお世話になった後、お昼休みにはInternational Centerの隣にある
Medical Interpreter(医療通訳者)の部屋にお邪魔しました。
アメリカにはスペイン語圏からの患者さんが多く、回診で時々、通訳を介して行われる場合があります。

私は日本でボランティア医療通訳・翻訳をしたり、医療通訳バンク(NPO団体)の立ち上げに関わるなどして
医療通訳の適切な活用に興味があったので、回診でお会いした通訳の方にお願いし
医療通訳の責任者の方とお話しさせていただきました。

アメリカでは、全ての医療施設において、英語が苦手な患者さんに通訳をつける義務があります。
これは法で決められており、開業医でも病院でも同じです。
通訳にかかる費用は医療施設(開業医の場合はその医師)が負担しなければならず、
通訳者を雇う形式はその施設の規模により異なります。

MDAではスタッフ通訳、電話通訳、ビデオ通訳の3種を組み合わせて行っています。
スタッフとしてはMDAから28人9言語を雇用し、更に委託業者を通じて不足分を補うことで、24時間365日、医療通訳が出動できる体制をとっています。
また通訳者の少ない時間帯や、まれな言語についてはまた別の業者の電話通訳を利用することで
いつでも電話1本で通訳を介した診療が可能です。
費用は1分当たりの定額制で病院に請求されます。
ビデオ通訳は互いのボディランゲージが分かるという点で電話通訳より優れていると思われていましたが
院内の回線の不具合により使いづらく、手話通訳もできず、現状ではあまり使われていません。
そのほか、書類などの医療翻訳ももちろん行っています。

医療通訳システムが進んでいるアメリカでは、医療通訳の認定制度を4つの州ですでに開始していますが
テキサス州ではそのような統一された認定制度はまだありません。
MDAでは医療通訳を雇う際、health scienceあるいはlanguageのいずれかのフィールドから来る人のうち
医療通訳の経験が1年以上あり、MDA特有の試験に合格した人を採用し
更に医学や通訳、倫理に関しての教育を行います。

MDAの病院スタッフは医療通訳を必要とする患者さんに関し、どういったことが予定されているかを
日々、36時間以上前に医療通訳に伝達することになっています。
それにより委託事業から追加で派遣をしてもらう日などを決めているようです。

これは論文なども多く書かれていますが、患者さんの家族や友人知人が通訳をした場合、
その通訳の医学・通訳に関する知識や経験不足に加えて、
患者さんが全てを話しにくい、通訳が全てを患者さんに言いにくい、などの障壁があり
大きな問題となります。
医療従事者が通訳を代行することも問題視されており、
どうしても自分の見解や自分の理解を挟んでしまい
「情報を加えず削らず100%そのまま伝える」という通訳の大原則が守られないことが多いのです。

患者さんには医療施設側の用意した通訳を断る権利がありますが、
同時に医療者には適切な通訳を用意する義務があるため、
どうしても患者家族が通訳をするという場合でも、
MDA側の通訳が横でモニタリングしておき、危険と判断した際には通訳を交代するようにしています。

MDAではこのようにして世界各国から来院する患者さんに対応しています。
資源不足によりごく一部の病院でしか通訳を望めない日本の現状と比べると、
こちらがとても羨ましく感じましたが、外国人が多いからこそこうした対応のコストパフォーマンス的にも可能となるのだとも思います。
電話通訳が日本でも発達すれば、各病院に通訳が待機する必要性はなく、効果的かもしれません。

以上、本来の見学予定からは多少脱線してしまいましたが、
せっかく学んだことなのでご報告しようと思いました。
長々と失礼いたしました。
八日目、最終日(?)。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/10
あっという間に、MDAでの見学期間が終わってしまいました。
今日は上野先生のStem Cell Transplantation Clinicや
Lymphoma noon conference、Clinical Reseaech Conferenceを見学し、
Lymphomaの大木先生や奥様、さらに今週から一ヶ月間MDAで見学される松木先生に
お会いし、お話しすることができました。


上野先生の外来では、患者さんが診察前よりも笑顔になって帰られるので、なんだか不思議な力を感じます。
今日の患者さんは先週来られたときと比べて驚くほど全身状態がよくなっていました。
それについて、こちらから感じたことを押しつけるというより
あえて"What's different with you compared to last week?" と、
患者さん自身が感じた変化を、本人の口から言ってもらうことで
一歩の前進が、二歩にも三歩にもなり得る気がしました。
本人が一週間前を振り返って比較することで、改善していることをより自覚でき、
焦る気持ちも自然とおさまるのではないかと思いました。

またこの患者さんは軽度の皮疹が心配で来院されたのですが
「今後、回復するに連れて、今まで気にとめなかった身体の異変に気づき、problemが増えていくだろう」ということを
先週(そして恐らくもっと前にも)すでに上野先生が説明して、患者さんも納得しておられたので
今回の皮疹についても、"You warned me, so I'm alright" とおっしゃっていました。
起こりうる症状を言い過ぎて不安にさせてはいけないですが、
何か症状があっても落ち着いて対応できるかどうかでQOLもアウトカムも変わってくるので
今後いつどのような変化が予測しうるかを、適度に伝えることは大切です。

また、これは先週Physician's Assistantがおっしゃっていたことなのですが
患者さんの状態を、健康だったときのbaselineと比較しないよう、常に意識していなくてはいけません。
病気が根治して体力が完全に回復すればもちろん言うことはないのですが
多くの悪性疾患では体力や身体機能が多かれ少なかれ低下してしまいます。
そのとき、患者さんやご家族はどうしても、病気になる前のbaselineと比較し
あれが出来なくなった、これも出来なくなった、と訴えます。
なので患者さんやご家族の訴えを聞くときは、この点にとくに注意し、
発症後にさらに悪化したのか、それとも発症前と比較してしまっているのかを
きちんと聞き分けることが大事だということでした。

少し話は変わりますが、上野先生の医師患者関係テクニックでまだ書いていないものをいくつかご紹介します。
・患者さんの「職業」と「趣味」を聞き、記録しておく。
  これを次に患者さんに会ったときに会話の中に盛り込むことで、
  患者さんは「この先生は、自分を一人の人間として見てくれている」と感じることができ、
  良好な医師患者関係につながります。
  また職業や趣味を知ることで、患者さんの背景もある程度分かるので、
  その後どのように説明をしていくかなどの参考になるのではないかと思いました。
・詳しい説明を聞きたいか、大まかなイメージを聞きたいかを、毎回聞く
  患者さんによっては、またその日の気分によっては、
  "No problems!"と聞くだけで安心して笑顔で帰られることも案外多いそうです。
  そういうとき、検査結果の細かい部分までいちいち説明して心配させるよりも
  大きくとらえてとくに問題がないのであれば、そう伝えることも一つの手なので
  今日はどちらがいいかを、まず初めに確認するのが大切だそうです。
・初診の患者さんに、がんについてどれぐらい知っているかを尋ねる。
  "How much do you know about breast cancer?"
  "Did you look it up on the internet?"
  こうすることで、患者さんが現状をどうとらえているかや、
  どのように説明していくかを考える参考になっていると思いました。
・今日どういうことを期待して来院したかを確認する
  これは初診患者さんだけでなくフォロー中の患者さんについても言えることですが
  患者さんの期待の方向性や度合いを知ることで、その後の方針も変わってきますし
  無謀であったり医学的に無意味なことを期待して来られたのなら
  早めに「それは根拠が証明されていないのでMDAでは行えません」ということができます。


話がどんどん脱線してしまいましたが、今日の見聞録に戻ります。
LymphomaのNoon conferenceでは、Lymphomaの各チームが受け持っている患者さんのうち
治療方針の決定が難しい症例について他のチームの医師に意見を求めたり、
また興味深い症例や画像を紹介したりする場として開催されています。
今日は出席者が少なかったそうで、7人ほどの先生方が来られていました。


その後、CRC(Clinical Research Conference)を見学する機会に恵まれました。
研究プロトコルを立てると、通常はIRBで審議されますが
MDAでは膨大な数のプロトコルがあり、IRBだけでは手に負えないので
まずはCRCで審議され、その結果により
rejectされればプロトコルを書き直すところからやり直しですが、
amendやapproveであれば指摘された箇所を修正すればIRBに提出することができます。
この八日間、完成したプロトコルが実際に患者さんに適応されていくという、末端の様子は見ていましたが
そもそもプロトコルが誕生するかどうかという、より原点に近い部分を見せてもらえてよかったです。


また今日は、上野先生以外にもMDAに色々な形で来られている3人の日本人の先生方とお会いし
皆さん様々な道を歩んで来られたこと、そして様々なキャリアを描いておられる
その多様性に、とても刺激を受けました。
アメリカに臨床留学する場合は、こうしてこうして・・・と、
知らず知らずのうちにレールを意識してしまっていましたが、
落ち着いて考えると、大勢の方がそうだからと言って必ずしもそれしか方法がないわけではなく
何事にも道は幾通りもあり、どの道を通ることも必ず自分にプラスになることを再認識しました。
こうした熱い先生方との出会いにとても感謝しています。


さて、実習は3月9日までということだったのですが、
私がどうしても緩和ケアの先生にお会いしたいということ、
そして出来るならばBreast Clinicのconferenceも見学してみたいという希望を叶えて頂き
明日の午前中もMDAに行けることになりました。
MDAの皆さまのご厚意に感謝し、(今度こそ)最終日に挑みたいと思います。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
豊田(神戸大学病院) 2011/03/10
先生のレポートは、いつもpassionを引き起こしてくれる内容であり、楽しく拝読させて頂いています。
JME2011組として、上野先生の診察、MDAそのもの、を見て学べる日が本当に楽しみです。
延長?での1日、また報告して下さいね。

Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
西 智弘(栃木県立がんセンター腫瘍内科) 2011/03/11
いつも楽しく拝見しております。

数日前の記事ですが、ディスカッションの際に引用元が必ず示される、という点について。
これは日本でも、がんセンターレベルであれば一般的な光景です。私は市中病院とがんセンターしか研修歴がなく、大学病院の実態はわかりませんが、市中病院で「慣例」に沿って治療が行われることが多いのに対し、がんセンターに来た際に、全ての診療行為に根拠を求められることに、かなり衝撃を受けたことを覚えてます。
私もまだまだ勉強不足で、出典の雑誌名や著者名がとっさに出てこないことも多いですが、この姿勢は大事だな、と実感しています。

今日は、緩和ケアの見学ですか?
ご報告楽しみにしております。
九日目、最終日。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/13
おはようございます。皆様、どのように今朝を迎えられたのでしょうか。
お一人お一人がご無事であることを願ってやみません。
私は木曜日の午後にヒューストンを経ち、太平洋上空を飛んでいる頃に最初の大地震が起こったようです。
羽田に到着後そのまま空港内で一夜を過ごし、24時間以上を経てようやく自宅に到着しました。

さて、九日目の見聞録が遅くなってしまいましたが、書きとどめておきたいと思います。
この日の朝はBreast Clinicの週に一度のMorning Conferenceを見学し、Dr.AlvarezのBreast Clinicを患者さん一人分だけ見学し、
Palliative Careをご専門とされているDr.Zhukovskyとお話しする時間を頂戴した後、
11時過ぎには空港へ向かうという、バタバタしたスケジュールを組んでしまいました。

Breast Medical Oncologyでは患者さんは外来がほとんどなので、その一週間に新しく来た患者さんについて
Morning Conferenceでそれぞれの外来担当医師が手短に紹介し、
興味深い症例や治療方針を立てるのが難しい例については医師同士で相談し合います。
MDAへ最高の治療を求めて遙々来られる患者さんの傾向なのでしょうが、
若い患者さんや転移性がんの方が多く、社会的・精神的要素も治療方針に大きく関与しているようでした。

Morning Conference後、Dr.Alvarezの朝一番の外来患者さんは、医療保険のトラブルで来られていました。
アメリカでは患者さんが個々に別々のPrivate insuranceに加入しており、
加入する財力のない場合はMedicaidやMedicareなどの公的保険を利用することになります。
それぞれの保険会社によって、どういう患者さんのどの疾患について
どの薬や検査をどれぐらいの頻度までカバーするか、などが厳しく決められており
新薬が高くて保険会社に補償を拒否されたり、治験に参加する場合は一切の医療費を補償しないなど
保険による制限で困っている看護師をよく見かけました。
通常は患者さんやご家族が保険会社と掛け合うのかもしれないですが、
MDAでは看護師や薬剤師が何度も保険会社とやり取りし、場合によってはMDA専属の弁護士の力も借りるようです。

この日来院した患者さんはPrivate insuranceがPET-CT検査代を出してくれないことに悩んでいました。
他院で最近撮ったPET-CTの画質が悪く何も写っていなかったため、MDAにて再度撮影したのですが、
保険会社は「先月撮ったばかりなのだから、補償できない」と言うのです。
こうしたやり取りを、この見学期間に何度も目撃しました。
手慣れたMDAスタッフの説得により、最終的には保険会社が折れることが多いようですが
保険制度に関しては、やはり日本のほうが随分patient-friendlyであることを再認識しました。

MDAで最後のスケジュールは、Palliative Careの先生とお会いすることでした。
私は緩和ケアに関心があり、MDAのような急性期の場での緩和ケアの位置づけを知りたかったため
上野先生やFaculty DevelopmentのJanis Aptedさんに懇願し、Dr.Zhukovskyを紹介して頂きました。
この先生は腫瘍内科、ホスピス、緩和ケア病棟、緩和ケアチームと、様々な現場で緩和ケアに当たられており
また教育者という立場からも、多くの緩和ケア専門医を育成されていて
お話ししているだけでも、その経験の抱負さや人柄の良さがにじみ出るようでした。

時間の都合上、じっくりお話をしたり病棟を見せて頂くことは残念ながらできなかったのですが、
私の考えていることや目指していることを、しっかりと聞いてくださり、とても応援して下さいました。
何をするにしても、色々な道があるけれど、
とにかく"Do what you like the most!"と、とても勇気づけられるメッセージをいただき、
MDAとはお別れとなりました。

豊田先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/13
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
お返事が遅くなってしまって、すみませんでした。
先生もMDAに行かれるのですね、おめでとうございます!
今回行かせて頂いて思ったのですが、どういう立場で行くかによって抱く思いや得るものは違ってきそうですし
私は次にまた行くことができるとしたら、より知識やものの考え方を身につけてから行き
新たな視点で学んでみたいと思いました。
先生の見学についても是非聞かせて頂きたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
西先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/13
栃木では地震の影響も大分出ているのではないかと心配しております。
楽しく読んでくださっていると、とても嬉しいお言葉をありがとうございます。
またディスカッション中のEBMについて、日本の現状を教えてくださり、とても勉強になりました。

これまでは大学病院や市中病院での実習がほとんどだったため、
EBMをしっかり織り込んだ診療やdiscussionをあまり見た経験がなかったように思います。
日本でもがんセンターでは「全ての診療行為に根拠を求められる」のですね!
そういった環境でしばらく働くと、Dr.Theriaultがおっしゃっていたように、EBMが習慣化できるのでしょうね。
雑誌名や著者名までさっと出てくるようになるには相当な反復が必要そうですが
こういったことは、まずはとにかく心がけていくことが大事だと思うので、
就職までにまず、EBMの本を読んでみることにします。
今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。
MDAでの見学を終えて。
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/14
MDAでの見学期間があっという間に終わっていきました。
9日間とは思えないほど多くのものを見て、聞いて、様々なフィールドの方とお話しすることができ、
新鮮な刺激に満ちた、楽しい日々でした。

今回は薬剤の種類や投与量といった面よりもむしろ、MDAの医療の仕組みや人の動きなど
よりダイナミックな部分でのOncology Teamを学ぶこと、
そして多くの方とお話しし、キャリアを考えることを目標としていたのですが
回診や外来やカンファレンスの見学、そして大勢の方との出会いを通して
これらを見事に達成できるプログラムを組んで頂き、大変感謝しております。

MDAでは日本よりコメディカルを中心としたスタッフが充実しており、
医師はチームのマネジメントに集中できるため質の高い医療を提供できます。
この掲示板を読んで下さっている皆様にもご指摘頂いたように、
保険制度や費用面のことを考えると今すぐに日本でこういった体制を作ることは難しく、
我々はアメリカを羨むばかりではなく、まずはソフト面から変えていくことで
現状で可能な範囲の、日本独自の体制を築き上げる意識も大事です。

けれど上野先生がおっしゃったように、アメリカも初めからこのような体制があったわけではありません。
何かが足りない、だから何かが出来ない。
それが補充されればどんな良い変化が起こるのか?
それを社会へ訴えかけることで、徐々に人々の共感を得て、体制を変えていく資金や人員が集まったそうです。

日本は皆保険だから無理、お金がない・コメディカルが足りないから無理なのではなく
自分で知らず知らずのうちにバリアを生み出してしまっているのかもしれないと教えられました。
妥協や受け入れも大事ですが、本当に叶えたいVisionがあれば、それを周りと共有し、
総力で改革していくことで、日本の医療も改善していく余地があると思います。

今回の東北太平洋沖地震では、日本の人々が冷静に、秩序正しく粛々と行動している様子が
全世界の感動を呼んでいると聞きます。
災害時にこれほどの思いやりや団結力を発揮できる我々ですから、
医療のピンチもきっと救えるはず、と思います。

MDAのスタッフは皆、自分のしていることに誇りを持っているのが目に見えるようでした。
洗練されたシステムと、個々人の専門性の高さから、自分のやっていることに自信を持つことができ
その誇りが、日々の原動力や笑顔につながっている気がしました。
チームは信頼できる優秀なスタッフの集まりですから、
自分一人で何もかもを抱え込み、不安と疲労に押しつぶされそうになりながら仕事をしなくとも、
自分は自分の専門をとことん追求し、周辺分野については仲間を信頼して一緒に向上していけばいいのです。

自分への誇りと他者への信頼は、案外難しいことなのでしょうが
研修医としては、まずは一つ一つしっかりと勉強し身につけていくことで
少しでも自信が生まれ、他者に信頼されるようになると思いました。

誇りを持つと同時に、生涯学び続ける姿勢も、MDAの先生方を見ていて実感しました。
先生方は何か言うときいつもEvidenceを添えますが、Evidenceを言えないときは
すぐに医療用のサイトから検索して提示するか、あるいは
「間違っているかもしれないので教えてほしいのだけど」と低姿勢ですし、
患者さんのケアのおいてコメディカルにアドバイスを求めたり相談する姿が日常的に見られました。
誇りを持つとともに自分の出来ないこと分からないことのラインを自覚しておくこと
そして周りをしっかり頼ること、
こうしたことでMDAはその高いレベルを維持しているのだと思います。



さて、話は変わって私がキャリアですが
何かの資格を取ることや、そうした目先のことに集中しすぎず、
本当に成し遂げたいことを見据えて、そのステップは柔軟にとらえていけばいいと思うようになりました(今さらですが)。

ステレオタイプ化してしまうのは良くないですが、
私が思うに、国民性による終末期ニーズの違いは探る余地があるでしょうし
日本人に合う緩和ケアを形成していくプロセスに主体的に関わりたいと思います。

そうした大きな方向性に向かうに当たり、腫瘍内科を勉強する道もあれば、他科で研修をする道もあり
そこのところは、まだもう少し考えていきたいと思います。



この9日間、MDAの方々は外国から来た見ず知らずの学生にとても親切に色々と教えて下さり、
その懐の広さ、暖かさにとても感謝しています。
掲示板上でも多くの方々に新しい視点を与えて頂き、導いて頂きながら、見学を進めていくことができ
本当に恵まれた環境で勉強することができました。
読みづらい文章をいつも読んでくださって、ありがとうございました。
何よりも上野先生にこのような貴重な機会を与えていただき、
一学生の私の将来を真剣に考えてくださり、
どう感謝をしていいかも分かりません。
日々の見学前後に、上野先生といろいろなお話しをした時間は
その日見たもの聞いたことを消化する、大切な時間となりました。
たくさんの得たものを少しずつ自分のものにしていき、成長していけたらと思います。
本当にありがとうございました。
今後ともどうぞご指導よろしくお願い致します。
Re:MDA見学 (2011年2月28日~3月9日)
徳田 恵美 (Juntendo Univ.) 2011/03/22
吉松さん

お疲れ様でした。順天堂大学乳腺内分泌外科の徳田です。St.Gallenの乳癌会議に参加しており、レスが遅くなってしまいました。

毎日の楽しい(&日本との違いにもどかしくなっている)レポートありがとうございます。質問にも答えていただきありがとうございます。

私は先生からのレポートからたくさん勉強させて頂きました。私の所属は大学病院ですので、学生さん・研修医の先生を教育をしなくてはならない使命もあります。しかし、いつも回ってきている先生たちがどうやったらOncologyに興味を持てるのか、どのようなことに興味を持っているのかあまりよくわかっていなかったように思えます。

MDAの教育システム、先生がたのお話の内容などを垣間見ることができ、ぜひぜひ今後に生かしていきたいと思います。

今後は医師として一緒にがんばっていきましょう!
徳田先生
吉松由貴(大阪大学医学部 ) 2011/03/23
お返事ありがとうございます!
私のほうが、先生に様々な視点を与えて頂き、おかげさまで毎日新しい気持ちで見学することができましたし
先生のご質問からいろいろなお話のきっかけにもなりました。
いつも読んでくださって、ありがとうございました。
徳田先生のもとで病院実習をできる学生さんはとても恵まれているなと思います。

私事ですが、国家試験に無事合格することができましたので
来週より早速、淀川キリスト教病院にて研修をさせて頂きます。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。色々教えてやってくださいね。