掲示板「チームオンコロジー」

Bulletin board

EDUCATIONAL SEMINAR
MDACCの見学(2013年秋)
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
この度上野直人先生のご厚意にて、MDACCにて1週間の見学をさせていただきました。米国最先端のがん医療・研究を実際に見てみたいという念願の希望が叶えられ、とても嬉しく思うとともに、この貴重な経験を、自分のキャリアにどう生かすかを考える日々です。この1週間体験したことを、ご報告させて頂こうと思います。
見学1日目
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
 まず、MDACCのある敷地に、数多くの高層ビルが連立し、このどれもが医療施設であることに圧倒された。緊張しつつも、上野先生のお部屋があるDuncan Buildingの入り口に入ると、そう広くないエントランスにはエレベーターが6台もあり、早々、アメリカの合理的な側面が感じられた。上野先生方がいらっしゃるフロアは病院というより、絨毯がひかれた、きれいなオフィスという印象を受けた。
 上野先生に見学のスケジュールを伺った後、早速、朝9時からの、Theriault先生の外来へ向かった。外来では、日本と異なり、担当医師ごとに部屋があり、医師、Advanced Practice Nurse(APN)、Pharm D等のスタッフが、診察前に患者さんの情報をチェックしたり、ディスカッションを行ったりする場となっている。まさに、チーム医療の現場である。この部屋は絨毯張りの小さな事務室といった様子で、木製の棚があり、病院であることを忘れてしまうようである。患者さんの情報共有に関しては、それぞれの立場がプロフェッショナルな知識を発揮し、臆することなく、発言、質問するのが印象的であった。
 外来の患者さんは、それぞれ個室へ待機し、診察を待っている。Theriault先生とPham Dの方に同行し、診察室へ入る。患者さんの調子をたずね、話をし、診察台の上へ登ってもらい、診察をする。診察の時、Theriault先生は患者さんの背中や肩を軽くたたいたり、触ったりしていらした。あまり見たことのない診察手技だったので、後で聞いてみると、これには骨転移の圧痛を調べるとともに、患者さんに優しく触れることで安心してもらう意味もあるということだった。Theriault先生は終始穏やかな表情で患者さんと対話をし、中には、取り乱して泣き出す患者さんもいたが、そのようなときも、とても落ち着いた優しい表情で患者さんに向き合ってらっしゃった。患者さんが取り乱した際も、安易に叶わない希望を持たせるような発言はせず、現状を冷静に受け止め、今何をすべきかを考えるように、時にジョークを交えながら、患者さんにゆっくりと説明していらっしゃったのが印象的であった。また、必要に応じて、診察中に先生とPham Dと患者さんの3人で話し合うという光景も見られた。
 また、患者さんの中にはとても専門的な知識を持っている方も多く、今行われているclinical studyについて質問している方もいた。日本にも、そのような患者さんはいらっしゃるに違いないが、その割合が、ここでは多いように感じた。先生も、患者さんのそういった質問に答えるときはもちろん、診察から戻った後のディスカッションでも、治療方針に関して、Clinical studyの結果をもとに議論されていることが多く、その細かな知識には驚いた。
見学2日目
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
朝9時から上野先生の外来を見学する。とても多くの患者さんがいるが、上野先生はどの患者さんにも丁寧に対応されていた。前日のTheriault先生もそうであるが、患者さんの住んでいる場所や、生活環境などのお話をドクター側から積極的にし、会話がとてもスムーズに進んでいるのが印象的だった。診察中、会話が途切れて間があいたり、重苦しい雰囲気になったりすることもなく、コミュニケーションが円滑なのは、診察中にカルテを書く必要がないことも一つの要因なのかもしれないと感じた。先生方は、最後に必ず、「ほかにご質問は?」とお聞きになるのも印象的だった。患者さんの立場からすると、医師の表情、言葉遣いなどから自分の病状の深刻さなどを推し量り、不安になることも多いと思うが、上野先生は、とても落ち着いていらして、患者さんが話している間も急かすことなく、じっくりと話をお聞きになる。診察から戻ると、先生はカルテを記録するために、電話に向かって診察内容を報告する。それは、日本語でも難しいのではないかと思うくらい、一瞬の淀みもない長文だったので驚いた。この日、患者さんの数は驚くほど多く、先生は一日中診察をされていたが、患者さんを前にして、そのようなせわしい雰囲気を一切見せないのが、素晴らしいと思った。また、私は治療の方針決定がどうなされているのか興味を持っていたが、事前に他の先生方と決めた治療方針がある程度確立されているので、医師によってさほど治療内容は変わらないとのことであった。新規の患者さんに関してはミーティングで話し合うこともあるそうだ。治療方針に関して、ある程度のコンセンサスが確立しているのは、EBMに基づく医療を実践するという立場からは当然のことのように思われるが、私にはそれが新鮮であったし、とても合理的に思われた。
見学3日目
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
 この日の午前中はいままで外来を見学していたMays clinicから離れ、Main BuildingにてStem Cell TransplantationのKhouri先生の外来を見学した。ここでは移植後の患者さんが多く、ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫などの様々な血液疾患を抱えた患者さんの診察を見学した。Physician Assistant(PA)の方と事前に患者さんを診察しに行き、その後Khouri先生と再び患者さんのもとへ行った。ここでもチーム医療を実感した。PA、その他どのスタッフもとても親切で、わからないことは快く教えてくださった。
 午後からは、日本人研究者である甲斐先生に、上野先生の研究室を案内していただいた。私は、大学の基礎研究室でしばらく実験をしていたということもあり、海外の研究室がどのようなものなのか、とても興味があった。ここでは、複数の研究室でスペースを共有していた。日本であまり見かけないFACSの装置なども見せて頂いた。他の研究室にいらっしゃる日本人の研究者数人にもお会いすることができ、アメリカでの暮らしぶりなどを聞くことができた。特に女性研究者のお話は、大変参考になった。また、その後、上野先生のところで研究をされている日本人の先生方のお話をゆっくりお聞きする機会を得たが、先生方のキャリアに関してお話をお聞きするうちに、自分のキャリアについて考えることができ、とても参考になった。
見学4日目
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
 午前中は朝8時から、Stem Cell Transplantationの症例カンファレンスに出席した。英語の理解力が至らず、詳細まで内容が把握できなかったのは大変残念で、反省すべきところでもあるが、先生方の活発なディスカッションは、とても新鮮であった。ここでもEBMの実践が感じられ、各症例に対して客観的で冷静な判断がなされていたように思う。数日を通して実感したのは、EBMが実践されている現場では、「わからないことはわからない」という姿勢が許されるということである。それは、EBMを実践しているからこそ自信を持って「現時点ではわからない」ということを言えるのだと思う。カンファレンスの後は、前日と同じく、Khouri先生の外来見学だった。Khouri先生は、最後に、「また時間があれば好きな時にいつでも来て見学やディスカッションに参加してください」と言ってくださった。教育熱心な先生が多いなあと思った。
 午後1時半からは、Faculty&Academic Careerの方と面談をするという機会をいただいた。キャリア形成について、自分なりに考えてきていたつもりではあったが、ここ数日の見学にて、色々と考えなおしたり、新たな発見をしたりすることも多く、私自身少々混乱していたため、とても緊張した。医師のキャリア形成や、mentorshipのことなどを色々とお聞きした。自分のmentorとなる先生には、きちんと自分のしたいことを伝えた方が良いとのアドバイスをいただいた。そのためにも、私はもう一度自分がしたいことを考え直さなければならないと思った。とても密度の濃い素晴らしい1時間だった。
 その後、午後3時からは上野先生の研究室のミーティングに参加した。ラボミーティングが一方的な論文紹介や研究発表にはとどまらず、質問や意見が飛び交い、ミーティングとして重要な意味を成していたのがとても印象的だった。
見学5日目
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
 そろそろ巨大な病院施設にも慣れてきたという頃には、もう最終日である。朝は9時から、APNの方について、移植病棟の回診を見学した。病棟を見るのはこれが初めてで、ぜひ病室の様子などを見たいと思っていたので、とてもわくわくした。病室は個室で、新しく、とても綺麗だった。回診は、それぞれの職種から1人ずつが参加し、チームで各病室をまわる。患者さん一人一人に関して、一旦ナースステーションで情報を確認してから回診するところが日本と異なっている。朝一通り回診をされているAPNによって、すでに患者さんの状況が報告されているため、医師による状況把握にも無駄な時間がない。移植後の患者さんが多いが、日本でいうところの無菌室がないように思ったので、聞いてみると、数年前から無菌室は使っていないということだったので、驚いた。外部からの感染を防いでも、体内からの(大腸菌などの)感染は防げないからというのが主な理由とのことだった。ここでは、なにか質問はありますか、と聞かれることが多かった。忙しそうな方たちを前に、普段はなかなか質問するのも気が引けることが多く、質問大歓迎な雰囲気というのも新鮮で、疑問に思ったことをたくさん質問できて、とても面白かった。とくに、APNという職種は、日本では馴染みがないので、普段どういう仕事をしているのかとか、チーム医療についてどのように考えているかとか、患者さんとどのようにして良好なコミュニケーションを構築するのかというお話は興味深かった。
 午後1時からはICBカンファレンスがあり、炎症性乳癌に対する研究結果やムーンショットプログラムのお話などをお聞きし、その後、Breast Cancer Clinical Research Fall Retreatに出席した。かの高名なHortobagyi先生をはじめとする先生方の発表、それに続く活発な議論は面白かった。こうやってお互いが交流し、議論する場を設けることで、どんどん新しい話が進み、医療の新たな流れが作られていくのだろうと感じた。
最後に
Y. Watabe(医学部学生) 2013/11/30
 私が見学したことの大まかな内容は以上のとおりです。振り返ってみると、なんと密度の濃い1週間だったことかと思います。この5日間という限られた時間の中で、私の希望に合わせて綿密なスケジュールを組み立ててくださった上野先生には感謝の気持ちでいっぱいです。百聞は一見に如かず、というように、自分の目で実際に見てみることはとても重要だなと実感した一週間でした。しかし、ただ漫然と眺めるのではなく、常に目的をもって観察することが大切です。それはとてもエネルギーを消費することですが、今後医師としてのキャリアを考える上でとても貴重な経験となりました。上野先生と私自身の今後のキャリア形成についてお話をする機会もありましたが、できるだけ早く、現実的なプランを立てなければならないと痛感する一方、やりたいことが、少しずつ見えてきたように思いました。最後になりましたが、上野先生をはじめとする諸先生方、スタッフの皆様方にお礼を申し上げて、ご報告を締めくくりたいと思います。本当にありがとうございました。
Re:MDACCの見学(2013年秋)
佐々木裕哉(小倉記念病院) 2013/12/01
福岡県で血液内科の医師をしております佐々木裕哉と申します。臨場感あふれるレポートを楽しく拝読させて頂きました。
きっと、Watabe さんの Passion が多くの患者さんを救う日が、そう遠くない未来にやってくると思います。
引き続き、勉強を頑張ってくださいね。いつか、直接お会いできる日が来れば、と願っております。
ありがとうございます。
Y. Watabe(医学部学生) 2013/12/02
佐々木先生、早速のコメントありがとうございます。そして、あたたかいお言葉ありがとうございます。今は色々と迷いながらも、たくさんのことを学び、考え、それらで得たものを将来の診療や研究に役立てたいと思います。私も先生にお目にかかれるのを楽しみにしております。