掲示板「チームオンコロジー」

Bulletin board

EDUCATIONAL SEMINAR
Team B の立場から
小西達也(東札幌病院) 2007/12/02
1. はじめに

今回、ワークショップにTeam Bの立場から(チューターとして)初めて参加させて頂きました。こうしたMDアンダーソンの、世界で最も先進的ながんセンターが主催される貴重な機会に参加させて頂きましたこと、そして、このような素晴らしいワークショップを企画された上野先生はじめとする皆様に深く敬意と感謝を申し述べさせて頂きます。

上野先生、そして笛木様より、今回のワークショップに参加しての感想を、Team Bの立場から書くようにとのお言葉を頂きましたので、あくまでの今後のよりよいワークショップ実現のために、少々失礼なところもあるかもしれませんが、(アメリカ式に)率直なところ書かせて頂きたいと存じます。おかしなところ、間違っているところなどは、ご指摘・ご指導頂ければと存じます。

2. ワークショップそのものにつきまして

まず、世界最高のチーム医療のエッセンスを、日本の医療者達が日本にいながらにして学ぶことができるというのは、本当に素晴らしいことであると感じました。

ただ、MDアンダーソンのやり方の中には、アメリカの医療制度の中だからこそ、実現できていることも多々あるのではないかと思います。例えばStatisticianが30名もいらっしゃることなどは、医療・研究内容が優れていれば優れているほど、そこに雪だるま式にどんどん優秀な人材、資金が集まってくるようなアメリカの医療・研究制度のもとではじめて実現できることではないか、そのような制度を持たない日本で同じようなことを実現することは難しいかと思います。しかしもちろん、今回教えて頂いたことの中には、現在の日本の制度の中でもできることはたくさんあると思います。特に医師とそれ以外の職種のコミュニケーションの改善、協力体制の構築ということは、文化的なものゆえ、変えていくことに時間はかかっても、制度的に不可能なことではないと思います。

従いまして、やはり参加者の皆様が、ここで学んだことをいかに日本の医療現場に持ち帰るか、どう現場に合う形に修正して実行していくか、あるいは現場を可能な範囲でどのような形へと変えていくべきか、ということが非常に重要なテーマになってまいりましょう。個人的には、そうしたこともワークショップの中での検討内容の一つになり得るのではないかと感じました(もちろん、ワークショップの時間は極めて限られておりますので、それはむしろこのワークショップ卒業後に、会員同士のネットワークを通じた情報交換に委ねられているのではないかと理解しております。)

3. ワークショップの内容につきまして

今回のチームに分かれてからのワークショップについてですが、多くの参加者の方が指摘なさっているように、やはり「プログラム」の意味が分かるまでに多くの時間を要してしまったこと、もっと端的に言えば、「なぜ、このプロトコルが渡されたのか」、プロトコルの位置づけが見えなかったことが一つ問題であったかと思います。これにはもちろん、今回のワークショップの内容が、開始直前に見直されたとのことでしたし、またこうした「不測の事態にどのように対処していくか」ということ自体も大きな学びになると思いますので、結果的には良かった面もたくさんあったと思います。

また、各チームが内容を検討していく途中で、各メンターが各チームの部屋をまわってきてアドバイスなさるということは、それぞれのメンターが各々独自の視点から光を当て、アドバイスされることによって、そのチームの検討内容をますます発展させていく上で、とても有効な方法ではないかと思います。しかし今回の場合は、例えば「プログラム」にしても、メンター間でもコンセンサスがとれていなかった面があったように感じており、互いに必ずしも首尾一貫性のないアドバイスをなさっていることもあったように見受けられ、それが混乱を招いていた面があったような印象を持っております。

また、本ワークショップの最大のキーワードは「チーム医療」であるかと思いますが、今回のワークショップの中では、「なぜチーム医療か?」という点が、あまり議論されなかったように思います。私の考えでは、「チーム」というのは、常に何らかの目的があって、その目的達成のために「チーム」という形態をとる必要があるからこそ組織されるわけですが、その点が今回ほとんど全く議論されなかったように感じました。たとえば、Bチームが掲げていたように「患者さんのQOLを最大化するために」とか、何らかの目的があるはずで(そして更には「QOLとは具体的に何か?」「その支配因子は何か?」という議論が必要であるはずで)、それを実現するための「チーム医療」なのではないかと思うのです。そして、この「何をチーム医療の目的とするか」というところも、非常に大きなテーマとなり得るのではないかという印象を持ちました。

4. Team Bとして

私自身は、他のTeam Bの方々とも異なり、MDアンダーソン関係のワークショップに参加させて頂くのが今回全く初めてでしたので、一体Team Bとして、どのような形で貢献させて頂くのがよろしいのかがわからず、正直かなり面食らいました。私自身が一体何を期待されているのか、ということについても事前に伺っておりませんでしたし、当日もコア・スタッフにお伺いしても、あまり明快なお答えは頂けなかったように存じます。

私が伺っている限りでは、前回(あるいはそれ以前の)ワークショップで、Team Bの影響故に、医療者としての基本であるEBM等の側面が多少おろそかになってしまった、したがって今回のワークショップでは、そうした医療者としての基本的な点をもう一度しっかりと強調なさろうとしていた、したがって今回のワークショップではTeam Bの色を多少抑えることが求められている、ということでございましたので、私と致しましても、あまり積極的な動きはしないように心がけていた面があったように思います。

5. 自己紹介

また今回は、メンター、チューターの皆様も、私たちが十分に自己紹介させて頂く時間がとれなかったこともあり、私(達)が一体何者か、なぜここにいるのか、どうして急に仲間として加わることになったのか、ということをご理解頂くことが難しかったのではないでしょうか。

そしてそもそも、どうしてチャプレンのような存在がいるのか、どうしてTeam Bの代表として宗教者がいるのか、というところも、チューターの皆さんだけでなく、参加者の皆様にとっても不明であったのではないかと思います。ワークショップの中で、メンターの方々が度々「チャプレン」ということばを使っていらっしゃいましたが(アメリカでは大抵の病院にはおりますので)、日本人の参加者の多くの方々は「何それ?」という感じだったのではないかと推測します。

Team Bとしましても、私たちが決して何か宗教を持ち込もうとしているわけではない、むしろ患者さんがいわば人生の試練ともいうべき状況の中で、その内面についてお話を伺っていく中で、患者さんやご家族のお気持ちやお考えの整理をサポートしていくこと、そしてその結果として「それでは一体自分はこの置かれた状況の中でどうすべきなのか?」「自分は一体どうしたい何のか?」といったことを見出して頂くことが役割であること、また患者さんやご家族と同時にバーンアウトの危機にさらされている医療者のお気持ち整理のサポートも重要な役割であること、といったことが十分にお伝えできないまま、チューターとしての活動を行っていくことが、少々きつかったように感じています。

また今回は、私の立場から致しますと、メンターやチューターの方々に、自己紹介頂く機会がなく、お名前もなかなかわからず、また皆様がどういう方々なのかがわからず、同時に、チューターの皆様に、これまで、MDアンダーソンでの研修や毎年のワークショップでのご苦労を通じて育んでこられたのであろう、OB・OG会のような非常に強い「結束力」のようなものを感じ、そうした中に入らせて頂くことが、最初は少々難しく感じました。

また、名札の名前が英語で書かれており、(私もアメリカの大学院を出てアメリカの病院で働いておりましたので、多少は英語に慣れているはずですが、それでも)特に日本人の名前の場合とても読みづらく、よく見ないとお名前がわからない、したがってお名前を覚えることも容易でないということもあったのではないかと思います(したがって、私は日本語と併記した方がよいのではないかと思います)。

これは余談になりますが、私は本ワークショップ参加前までは、MDアンダーソンの方がメンターをなさり、しかも英語で行われるということで、アメリカ的な文化のワークショップを想像しておりましたが、実際には参加者が全員日本人ということもあり、また各チームに分かれての検討も多くが日本語で行われていたこともあり、「アメリカ的なフォーマットを用いつつも、日本的な文化のもとに行われたワークショップ」であるとの印象を持ちました(考えてみれば当たり前のことなのですが)。そこのところをなかなか理解できず、時間を費やしてしまいました(笑)。

6. 最後に

大体以上でございます。いろいろと勝手なことをのべさせて頂きましたが、これらは一重に、今後このワークショップを少しでもいいものにしていきたい、という気持ちからの発言でございますので、ご理解頂ければと存じます。

本当に今回は、上野先生、笛木様、そしてメンター、チューターの皆様、そして参加者の皆様には大変お世話になりました。再度感謝申し上げます。

今後ともどうぞよろしくお願い致します。
Re:Team B の立場から
谷山洋三(四天王寺国際仏教大学) 2007/12/03
The 1st TeamOncology Workshop に Team B チューターとして参加しました。かつてビハーラ僧(仏教チャプレン)として緩和ケア病棟に勤務し、今は大学教員の傍ら臨床スピリチュアルケア・ボランティアとして現場をいただいています。今回のワークショップでは、私たち Team B だけでなく製薬会社やマスコミなどの Team C も参加し、お互いの協力によって成立していることに感銘をうけ、大きな刺激を受けました。ありがとうございました。

さて、今回は“Team B 的方向に流されないようにする”ことがワークショップの課題の一つになっていました。Team A は Evidence-Based で客観性・情報重視、Team B は Narrative-Based で主観性・感情重視という特徴があります。この違いを確認した上で、コメントを申し上げます。

私は7月の「第4回みんなで学ぼうチームオンコロジー」@岡山と、今回の「The 1st TeamOncology Workshop」@幕張に参加しています。主催者も参加者も若干異なりますが、ワークショップにおける Team A/B の特徴の表れ方を切り口にして比較してみます。

岡山では、チューターとグループの両方に Team B が参加していて、一つのケースを想定したものでした。患者と家族の関係性や感情面を含めて具体的にイメージすることが期待されていたので、グループメンバーたちは「私という専門職が実際にどのように治療やケアをしていくべきか、していきたいか」という思いを描き、主観と客観を交えたイメージ持ちやすかったでしょう。発表はロールプレイなので、主観が表現されやすい設定でした。つまり、どちらかというと<主観的でミクロな視点>が求められたワークショップでした。

幕張では、Team B はチューターのみで、「プログラム」(壮大かつ詳細な計画案)を作成することが期待されていました。「乳がん患者」「直腸がん患者」という総体としてイメージが必要だったので、グループメンバーは「個々の専門職はどのような業務を担っているのか、担うべきなのか」というより客観的なイメージを描くことになりました。発表はパワーポイント中心なので、主観が表現されにくい設定でした。つまり、どちらかというと<客観的でマクロな視点>が求められたワークショップでした。

大雑把な見方ですが、岡山と幕張ではグループメンバーに求められる視点が大きく異なっていたと思います。Team B がチューターもしくはグループメンバーとして参加するか否かだけではなく、ワークショップのプログラミングによってもアウトプットが異なってくるのではないでしょうか。

プログラミング次第で“Team B 的方向に流されないようにする”ことが可能になるのであれば、今後のワークショップには、グループにも Team B が参加することを期待しています。そのことによって(ワークショップの中でも、もちろん現場でも)Team A が B の役割を背負わなくても済むようになり、A の役割がより明確になるといいですね。

最後に手前味噌ですが、今回のワークショップにおける Team B チューターの貢献として次の3点が挙げられると思います。

(1)グループ内のコミュニケーションの促進。ただし、インフォメーション(情報)レベルではなくむしろメッセージ(感情)レベルでのコミュニケーション。例えば、職種の違いによる感情的な距離感を個々のメンバーに意識してもらい、気づくことによって距離を縮める(お互いに近づく)。
(2)チューター同士のコミュニケーションの促進。この場合には、インフォメーションもメッセージも両方とも。
(3)参加者のケア。ワークショップにおける問題だけでなく普段の仕事に関することも。

今後ともよろしくお願いします。
Re:Team B の立場から
瀬良信勝(臨床スピリチュアルケア協会 ) 2007/12/10
今回、ワークショップ に Team B チューターとして参加した4人のうちの一人です。私は、谷山さん生と同じく、7月の「第4回みんなで学ぼうチームオンコロジー」@岡山と、今回の「The 1st TeamOncology Workshop」@幕張に参加しています。私の方は、両方に参加して、共通して感じられたことをTeam Bの視点から若干述べたいと思います。

EBMを基礎とするTeam A の視点がしばしば目的、例えば“治療”にそのウエイトが置かれるとするなら、Team Bは、その目的に至るプロセスで起こるさまざまな、そしてそれぞれの思いにウエイトが置かれると言えます。この視点は、患者のみならず、医療スタッフに対しても有しています。今回のワークショップでは後者の医療スタッフに対して感じたこと、そして私が彼らにどのように関わったかを見ていきたいと思います。

多くの医療スタッフは同職種内外の期待に沿った役割を担っており、自然にその役割を果たしているように感じられます。例えば、「ドクターとしての立場では・・・」、「患者に一番近い看護師としては・・・」等々というように。しかし、一方でその役割を担っているがゆえに、意識的であれ無意識的であれ、自他の職種に対して不満を持つといった複雑な思いもしばしば見受けられます。

チームにおいて仮に目的が想定されても、コミュニケーションがうまくいかないことが起こります。コミュニケーションの齟齬は、必要な情報の不足や、また情報の扱いに不慣れであるためという次元で起こることもありますが、一方上記に述べたように役割に対する複雑な思いによるものも見受けられますし、またそのことを私自身が幾度か感じました。そのようなとき、私がその人たちに関わりの姿勢は、「あなたが望むもの、“本音”は何ですか?」ということの確認を促すものでした。

思いが確認されることで、その人から発せられる言葉のインフォメーション(情報)とメッセージ(気持ち)の乖離が少なくなり、コミュニケーションの齟齬が減少し、また論点が明確になることがしばしば見受けられました。また、程度差はありますが、その人の思いが確認されないと、しばしばそれは自他に対する不満にとどまり、思いが確認されると、期待や要望として表現されるということが幾度か見られました。

チームオンコロジーのワークショップでは、コミュニケーションが大切だということがとても強調されます。ワークショップで出された課題は、コミュニケーションがうまくいかないとすぐに行き詰ります。チームとして機能しません。しかし、コミュニケーションの齟齬が起こったとしても、当事者としてはどこでそうなってしまったのか明確に見えないように思います。そのコミュニケーションの齟齬が起こっている渦中にいて、そのことを外からただ指摘するのではなく、どうして齟齬が起こったのかを自分自身の思いを確かめることで気づいてもらうよう促進するのがTeam Bの役割の一つだと感じましたし、またその役割を十分とはいえないまでも務めさせていただきました。その点で多少なりともワークショップで貢献ができたのではないかと思っています。

次回以降も、何らかの形でワークショップにて貢献できればと願っております。
どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。
Re: TeamOncology Workshopの改善
上野 直人(M. D. Anderson Cancer Center) 2007/12/10
皆様コメントをいただきありがとうございます。この会は常に変化を求めています。またよりよい会にしたいという気持ちがいっぱいで活動しています。
これらのコメントに関しては真剣に検討させていただきます。

コミュニケーションが即決でできないのはチーム医療では致命的です。患者は待ってくれません。チームオンコロジーワークショップは確かにバーチャルな世界ですが、日本の今の現状をよく反映していており大変参考になります。