掲示板「チームオンコロジー」

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患者と医療者のコミュニケーション
自殺企図者ということ....
たかはし(栃木県) 2009/01/12
上野先生、ご無沙汰しております。たかはしです。
闘病も四年半目を迎えましたが現在私は自殺企図者の要注意患者として扱われています。
昨年、帯状疱疹を発症しまして右半身の痛みに悩まされました
ガンの痛みなのか、帯状疱疹の痛みなのか自分も判断が付きません、水疱が消えても神経痛としての痛みが残ると言われましたが耐えるしかありませんでした。
麻酔部でブロック注射で痛みのコントロールをしようという事になったのですがガンと肺の繊維化の状況からみて注射は中止した方が良いとの結論になり塗り薬の麻酔剤を塗ることになりましたがなかなか痛みも取れず夜も眠れない事から睡眠剤を増やしてもらう事になったのですが四ヶ月近く経過しても痛みが
和らぐ事もなく憂鬱な日を送っておりました。
10月になり睡眠剤を長期間服用しているせいか午前中にまでふらつきが残るようになり躓いて転倒する回数も増えて何とかしなければと思っておりましたが一度で良いからゆっくり眠りたいと思う気持ちが強くなり...魔が差したとしか言いようが無いのですが、寝る前に残っていた睡眠薬を全部飲んでしまいました。
レンドルミン20錠、ハルシオン20錠、リスミー10錠、パキシル 
10錠です、飲み終えてから家内には全部飲んだので様子を見ていて欲しいと頼みベットに入りました目が覚めたのは30時間くらい経過してからでした実によく眠ったと云うのが実感でした
それから三日後が外来の受診日でした、何か変わった事はありませんかと主治医の問いかけです、特にありません、じゃ血圧を測りますよ、上が170もありますね、おかしくありませんか
何時も110位なのにね本当に変わりはありませんか、下痢をしている位かなー、何時から血圧上がりました、三日くらい前から...、奥さん本当に何もなかったのですか..と家内に問いかけまして家内が睡眠薬の件を話ました。
それからが大変でした、奥さん貴方も看護師をしていたのですからご主人が何をしたのか位解りますでしょ!!
主治医が操作していたパソコンの電子カルテの色が突然に紫色の表示に変わりました、主治医は私に話しかけず家内に根り葉ほり聞き始めました、何故救急車で直ぐに来なかったのか、せめて電話くらいはして欲しかった...等々、家内は謝るばかりでした。
カルテの一面は主治医の打ち込む文字で埋まっていきました。
一通り聞き取りが終わると精神科の受診はいつが良いかとか
もう一度麻酔部での治療方針に付いて話し合おうとか主治医は
私の顔をのぞき込んでなんて事をして呉れるんですか...大事が無かったからいいようなもので、もしもの事があったら取り返しが付かないじゃないですか、これは裏切りですよ。
確かに私は主治医を裏切る行為をした事は事実です。
今更ながら自分のした事を恥じると同時に悔いております。
上野先生の教えにあるように最高の治療を受けるには最高の患者にならなくてはならないと思っていた私は最低の患者になってしまいました。
その後は、内分泌科へ回っても..どうしたの全く..、麻酔部へ
行っても..うーん、やってくれるね...と。
私は決して自殺を企図した訳ではありません本当に静かに思い切り眠りたかっただけなんです。
以来、四年間服用を続けていた睡眠剤は必要とせず眠る事が出来るようになりました。
帯状疱疹の神経痛もどこかに無くなってしまいました、こんな患者は何れ見放されるのでしょうね。お笑い下さい。


   
Re:自殺企図者ということ....
伊藤高章(大阪府) 2009/01/13
たかはし さま
 上野先生が珍しくBBSに返信ができにくい状況です。しかし是非たかはしさんにはすぐ返信がしたいということで、ピンチヒッターを仰せ付かりました。スピリチュアルケアを専門にしている伊藤高章といいます。
 まずは、睡眠薬を使わずに睡眠がとれるようになられたこと、帯状疱疹の神経痛が無くなられたとのこと、本当に良かったですね。これで、今回の憂鬱さの大きな原因やふらつきや転倒の不安が減少されたのだとしたら、何よりです。
 さて、現代の医療は科学的で合理的な作業です。その成果が、現在私たちが享受している医療のレベルです。このような医療に従事する者には、論理的で合理的な思考をする責任と専門職倫理があります。ですから「睡眠薬の話」は、事柄として医療記録に記述せねばならず、手続きに従って重大事象として扱わなければならないのは、やむをえないことです。
 しかし、患者の日常生活や心の動きは、必ずしも論理的・合理的であるとは限りません。長い間がんを抱えながら生活して居られると、医療者の指示を大切にして、論理的・合理的に生活を律してゆくのが当たり前になってきますし、それを守れないと罪悪感すら覚えるようになってきます。でも私たちは、それだけで生きているわけではありません。時には、医療的にはどうしようもないこと、常識的には外れたこともしながらの人生です。コントロールの効いた場面とそうでない場面とのバランスが「生活」の中にはあります。たかはしさんにとってのバランスと医療者が感じるバランスとのズレは仕方ありません。もしかしたら、たかはしさんのご判断に、いろいろな意味で適切でなかった部分があるかもしれません。病気の苦痛のかなで判断の誤りがあったとしても、それは仕方がありません。
 ご投稿を読んで、私は、この出来事を医療者が<療養の過程で患者がたどっても不思議ではない思考と行動>、と客観的にとらえることが大切だと思います。たかはしさんの人格や考え方の問題ではないからです。人格評価のように受け取れる言動があったとしたらプロフェッショナルとして望ましくないと思います。もちろん、患者の自殺念慮を取り除くことはとても大事ですし、そのために「裏切り」という言葉を使うレトリックも、時として許容されるのかもしれません。ただ、「今更ながら自分のした事を恥じると同時に悔いております。」というたかはしさんの罪悪感に訴えることで問題が解決するわけではないのです。
 この出来事も、闘病の中でのひとつの出来事として、お覚え頂くのが良いのではないでしょうか。医療的にコントロールの効いた場面とそうでない場面とのバランスを大事にされ、豊かなお時間をお過ごしください。看護師として医療の合理性を熟知されながら、30時間の睡眠を見守っておられた奥様のバランス感覚に敬服いたします。どうかこれからもよき二人三脚を。
Re:自殺企図者ということ....
たかはし(栃木県) 2009/01/14
伊藤先生ご丁寧なご指導を頂き有り難うございます。
肝に銘じて今後の療養生活を送りたいと思います。
あの後ですが少し状況に変化がありました、麻酔部の先生から電話がありまして外来で診察をする以外にもう少し踏み込んだ
付き合いしてみませんかと..、その一つの提案として交換日記をやりませんかと云うことでした。
私もそれなら出来るかもと思いまして次回の外来までに色々と書き込んで持参する事を約束した次第です。
内容は自分の事、家族のこと、毎日の生活のこと、趣味のこと、医療のこと、病院のことなど思い付くままに何でも書いて下さいとの事でした。
この先生は内科、救急、麻酔と勤務して来て現在は麻酔部で
緩和ケアも担当されている方です。
何となく頼もしく感じられる先生なので交換日記は是非にもやってみたいと思う次第です。
上野先生にもご心配をおかけしましたが宜しくお伝え下さい。
本当に有り難うございました。

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