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治療とその選択
術前ホルモン療法→術前化学療法TCの効果
吉野  うらら (千葉県) 2010/08/12
術前ホルモン療法→術前化学療法TCの効果

術前の治療についてご意見を伺いたくメールいたしました。
このような個人的な事情をご相談していいものなのか不安なのですが、真摯な気持ちで書き込みをしてくださっている皆様を拝見して、ワラにもすがる気持ちで投稿させていただきました。

以下のように診断されております。
・・・・・
40歳 既婚
右胸C領域に2.8cm×2.7cm×2.5cmの腫瘍
浸潤がん   
乳頭腺管癌     
核グレード2  
エストロゲン(ER)強陽性7/8
プロゲステロン (PR)強陽性6/8
HER2たんぱく質陰性  
センチネルリンパ節生検は陰性
MRIも左乳房以外に癌の転移は現在のところ所見なし

・・・・
術前の手術待ちの間に2ヶ月ほど(7月と8月),術前ホルモン療法(タモとゾラ)をおこなっています。

術前の手術待ちの間にホルモン療法をやることを決めたのは、
・全摘希望なので腫瘍の縮小を特には目指さない
・抗癌剤をやるのは副作用が強そうで怖い
 (心のの準備ができていなかった)
・主治医から抗癌剤が必須ということではなく、説明を聞いた上で自分が納得する治療を選択するよう言われた
・手術の待ち時間に無治療があるのは怖い
・ホルモン療法であるなら、どうせ術後にやるのだから抵抗なく治療できる
・・というのが主な理由です。

術前のホルモン療法をやりながら、今後の治療方針について主治医と相談しました。
主治医からは、抗癌剤の投与による予後の改善は3%程度だとお聞きしました。
この数字には本当に悩みました。
が、
抗癌剤については、非常に迷い紆余曲折を経て、結論として「TC治療(3ヶ月)」を受けると決めました。

TCという選択肢は、第一選択肢として主治医から示されたものです。

MRI・センチネルで転移なしと診断されていますが、癌患部や胸壁・センチネルリンパの手術跡などが、時々 うずくように痛く、医学的なエビデンスは全くないのですが「痛い」というのは、癌の恐怖感をより身近なものとし、少しでも抗癌剤で再発の可能性を減らしたいと考え、抗癌剤を決意しました。

「TCを3ヶ月受ける」と決意したのは、いいのですが 「術前」「術後」のどちらに 抗癌剤治療を受ける方がいいのか悩んでいます。

既にホルモン療法を始めているので、術後に化学療法を追加する方が一般的ではないかと思うのですが、自分のモチベーションを考えると、辛い抗癌剤を乗り切るためには 術前に腫瘍が小さくなっていると実感できることが 何よりの心の励ましになるのではと思っています。

前にも同じことを述べていらっしゃる患者さまがいましたが、術後に見えない治療をするよりは、術前にやりたいと思うのは医学的に間違いなのでしょうか。

もし化学療法を始める時期に医学的な治療効果の差がないのであれば、手術を4ヶ月ほど伸ばし術前ホルモン療法から術前抗癌剤に切りかえたいと悩んでいます。

主治医からは、術前に抗癌剤をやりたいのならばその選択も可能だと言われています。

ただ、この術前ホルモン+術前抗癌剤という 治療の効果については、データーがないので なんとも言えないとおっしゃっていました。
今は、全摘予定ですが、術前の抗癌剤が腫瘍の縮小につながれば、その時は温存も検討してみたいと思います。
ホルモン療法2ヶ月で、誤差範囲を入れても一回り(3ミリくらい?)は、癌が小さくなっていますねと言われましたから、少しはホルモンも効いたということでしょうか。

前置きが長くなってしまい申し訳ございません

自分では、術前にホルモン療法2ヶ月+術前抗癌剤TC3ヶ月→手術→ホルモン療法
という治療の流れにしたい(つまり、今からホルモン療法を抗癌剤治療に切りかえたい)と希望しておりますが、次の点について、ご意見をお聞かせ願えないでしょうか。

(質問1)
A:術前ホルモン2ヶ月→手術→【抗癌剤TC】→ホルモン療法
B:術前ホルモン2ヶ月→【抗癌剤TC】→手術→ホルモン療法

のAとBでは、抗癌剤の効き目、予後(再発・転移の可能性)などが違ってくるのでしょうか。

(質問2)*一部質問1と重なりますが
抗癌剤(TC)を投与する場合、
A:最初からTCだけを投与する場合
B:ホルモン療法の後でTCを投与する場合
C:ホルモン療法とTC療法を併用する場合
では、効果に差があるのでしょうか。

差があるとしたら、ホルモン療法と抗癌剤の間はどのくらい空ければいいのでしょうか。

(質問3)
現在、ゾラとタモで治療中ですが、抗癌剤中もゾラの注射だけは続けていくと言われています。
ゾラと抗癌剤(TC)の併用について、何かご存知のことがあれば教えてください。
効果が薄まったりするのでしょうか。

(質問4)
手術を4ヶ月延ばして術前に抗癌剤を追加することで心配なことがあります。それは、抗癌剤治療中も癌がどこかに微笑転移しているのではないかという心配です。
抗癌剤を投与していても微笑転移が進むことはあるのでしょうか。


長々と申し訳ございません。
もし何かご意見があればお聞かせください。

らら

   
Re:術前ホルモン療法→術前化学療法TCの効果
向原 徹(兵庫県) 2010/08/12
こんにちは、はじめまして。神戸大学腫瘍・血液内科の向原と申します。

乳がんというご病気にはたくさんの種類の治療がありますので、いろいろ悩まれるのはよくわかります。

まず、一つ目のご質問ですが、術前化学療法と術後化学療法を比較した臨床試験はいくつかあるのですが、一貫して同じ化学療法をした場合、術前でも術後でも治療成績(転移を含めた再発)は同等と考えられています。その観点からは、TC療法について、術前と術後を比較した臨床試験はないですが、おそらく術前、術後いずれでも治療成績の差はないと推測されます。

二つ目のご質問ですが、術後療法として化学療法とタモキシフェンを同時に行うと化学療法→タモキシフェンと順次行った場合より、治療成績が劣ることが示されています。そのため、基本的には化学療法とホルモン療法は同時には行いません。ただ、信頼のできるデータがあるのは、タモキシフェンに関してだけであって、三つ目のご質問にも関連するのですが、ゾラを含めて他のホルモン剤については、化学療法と同時に使うことのメリット・デメリットは不明です。ゾラに関しては、化学療法による閉経を予防する効果が検討されていますが、これについても推奨するだけのデータはなく、現時点では推奨はされていません。TCに悪影響があるか否かは不明ですが、一度ゾラを続けられることについて、主治医の先生のご意図をきかれてはいかがでしょうか。また、ホルモン剤と化学療法の間をどの程度開けるべきかについてですが、これには一定の基準はないと思います。ただタモキシフェンは毎日飲むお薬で、やめると約1日で血の中の濃度が半分になるとされていますので、数日開ければ十分ではないかと想像します。

四つ目のご質問ですが、術前に化学療法をされる場合、乳腺の腫瘍の大きさを診ながら治療を行いますので、薬の効果が目に見えます。もちろん微小転移についてはあるのかないのか、ましてや治療効果までは分からないのですが、微小転移の元となった乳腺の腫瘍がコントロールされていれば、微小転移もコントロールされているだろう、という理論で治療を進めていくことになります。術前に化学療法を受けられるメリットの一つはそのことで、術後だと確かに治療効果は全く分からないまま予定された治療を進めることになります。ただ、術前化学療法を例にすると治療中に腫瘍が明らかに大きくなってしまう率は数%以内ではあります。術前にされるそのほかのメリットとしては、(希望されないとのことですが)乳房を温存できるチャンスが増えること、また手術時の組織で生きている癌細胞が見当たらない場合非常に予後がよいことが分かる、というのがあります。
逆に術前にされるデメリットについて触れますと、やはり小さな生検標本を元に治療を選択していますので、手術でとった大きな組織に比べると、病理組織所見の信頼度が多少落ちる可能性はあります。また、化学療法で体調を崩して手術が先延ばしになる可能性は一般に小さいですがあります。

たくさん書いてしまい、正確にお伝えできない部分もあるかもしれません。本来治療方針は、診察をさせていただいて、乳がん以外のお身体のこと、その他さまざまな要因を含めて患者さまと決めていくことですので、最終的にはよく主治医の先生とご相談ください。

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