掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
タモキシフェンとエストラジオールの濃度
なお(大阪府) 2010/11/27
お世話になります。なおといいます。

以前はLCISの件で質問させて頂きました。
その節は、本当にありがとうございました。


済んだことなのですが、スッキリしないので、質問させていただきます。
今回も、どうぞ宜しくお願い致します。


Invasive lobular carcinoma
;f,ly(-),v(-),EIC(-),Nuclear Grade 1,
cue ent(-)(see description)非浸潤性小葉癌の形で断端陽性
Nuclear Grade 1(Nuclear atypia:1,Mitotic counts:1)
Malignancy
t1b(10mm)
n0(SNB 0/2)
MO stage1
ER(+++),PgR(+++),HER2(0)


42歳閉経前。
手術(1月)→放射線50グレイ→5月からタモキシフェン単独治療開始。
(LH-RHアゴニスト製剤は、していませんでした)


乳がん手術後、タモキシフェン単独治療を5か月続けていました。

タモキシフェン(ノルバデックス)を1日20mg、5か月服用後、E2値を測定したところ、685.6pg/mLでした。

このような高い値(685.6pg/mL)でも、タモキシフェンは(タモキシフェンの濃度は)、
エストロゲン拮抗剤として、治療上有効な血中濃度に足りていたのでしょうか?


・エストロゲンの単位は「pg」
・タモキシフェンを服用した場合、血液中に存在する量の単位は「ng」
・「pg」と「ng」は1000倍の差
・タモキシフェンのエストロゲンレセプターとの結合能は、エストラジオールの約0.7%

ここまでは調べたのですが、その後が難解で理解できません。

過去のことなのですが、スッキリ理解したいので質問させていただきました。
恐れ入りますが、どうぞ宜しくお願い致します。

(今後の治療については、リュープリンを追加して、タモキシフェン+リュープリン併用の治療に変更する予定です)

   
Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
向原徹(兵庫県) 2010/11/28
こんばんは、神戸大学病院の向原と申します。

ご質問の件ですが、残念ながら”スッキリ”さして差し上げるのは難しいかもしれません。

確かに685.6pg/mLのE2は閉経前の生理的なレベルよりも高いレベルですね。ご心配なされているように、試験管の中で飼われた癌細胞を使った実験では、生理的なレベル以上にE2を加えると、タモキシフェンの効果が薄れることが報告されています。
しかし、一方で、タモキシフェンで治療を受けると、E2の血中濃度が上昇することも知られています。タモキシフェンがエストロゲン受容体を占拠してしまうので余ったE2が血の中で増えてしまうのか、あるいはタモキシフェンが何らかE2を上げる作用をもっているのか、はっきりした理由は分かりません。言いたいのは、タモキシフェンがご自身のお身体の中できっちり仕事をしている結果、E2が上がったとも考えられるのです。
ホルモン療法というのは、それだけまだミステリーの部分も多くて、試験管実験の結果だけでは、説明できないことがたくさんあるのです。

ただ、術後療法において、タモキシフェンにLH-RHアゴニストを加えるほうが、タモキシフェン単独に比べて明らかによい、という確固たるデータはないものの、転移性乳がんでの成績などから、閉経前の患者さまでは、タモキシフェン+LH-RHアゴニストが最強のホルモン療法と考えられています。タモキシフェン使用後であっても、685.6pg/mLは比較的高い値ですし、LH-RHアナログを加えることで、がんに対して悪い影響を与えることも考えづらいですので、リウプリンを加えられるというのは、妥当な判断ではないかと思います。

もし、混乱させただけならばごめんなさい。
Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
佐治重衡(埼玉県) 2010/11/28
ホルモン療法関連の細胞実験をしていますので、ざっと科学的なお話だけ書いてみます。

体のなかで、癌細胞にどの程度の濃度のエストロゲンやタモキシフェンが届いているかははっきりわかりません。血液に細胞が接しているわけではないので、実際に細胞が直面している濃度は不明です。ただ、このあたりはどうしようもないことなので、細胞実験では、細胞に直接あたっている培養液中の濃度で計算をします。

685.6pg/mLはざっと実験で使う単位だと2500pM(モーラー)で2.5nMということになります。
我々が実験で、ふつうの濃度のエストロゲン(estradiol=E2)がある状態として設定する濃度はだいたい1nMくらいにしています。ですので、やや高いとはいえそうです。ちなみに1nM E2存在下であれば、タモキシフェン(正確にはその代謝物ですが)は普通に血液中で到達可能な濃度で癌細胞の増殖を半分以下に抑えることができます。2.5nMで実験したことはありませんが、E2の濃度が2倍になってもあまり変化はないはずです。10倍、100倍となると影響がでてきます。

この話しがどれくらい、実際の患者さんの体内で意味があるかはわかりません。
判断の基準には使えませんが、知識として書いてみました。

Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
なお(大阪府) 2010/11/28
◆向原先生
はじめまして、こんばんは。なおといいます。
宜しくお願い致します。

早速のご回答、ありがとうございます。
お詫びの言葉まで頂きまして、恐れ入ります。

答えには、白・黒・グレーがある、ということでしょうか?

◆佐治先生
こんばんは。お世話になります。
いつもありがとうございます。

すごく詳細なご説明、本当にありがとうございます。
先生、薬剤師さん、メーカーさんに伺っても、ここまで詳しく教えてもらえなかったので感激です。
本当にありがとうございます。


1nMよりやや高い2.5nMだけど、E2の濃度が2倍になっても、あまり変化はないはず

なので、

タモキシフェン(の代謝物)は、普通に血液中で到達可能な濃度で、
癌細胞の増殖を半分以下に抑えることができていた

判断の基準には使えないけど、そういうふうに考えられる。
ということでしょうか?


だとしたら、
例えばの話しで申し訳ありません、
E2が685.6pg/mL前後の値が、仮に続いたとしても、
LH-RHアゴニストをせずに、タモキシフェン単独治療でも、
治療上、特に気にしなくても問題なく大丈夫なのでしょうか?



お二方の先生のご回答を読ませていただいたおかげで、
一番気になっていたのは、質問の仕方をかえさせていただくと、

①タモキシフェンが原因でE2値が上昇してたの?
②仮にそうだとしたら、治療として逆効果だったの?

という疑問でした。

①は、「そういうこともあるみたい」というのは、なんとなく理解できました。
②は、単なる私の勘違い?思い違い?なのでしょうか?

度々申し訳ございません。
宜しくお願い申し上げます。
Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
佐治(埼玉県) 2010/11/29
この掲示板では特定の治療を奨める記載はできませんので、再度、わかっていることだけを書きますね。

実験上は、当然ですが、E2濃度が少ないほうがタモキシフェンは少ない濃度で効果を発揮できます。よりよいのはどちらですかという点では、E2はないならない方がよいです。ですので理屈ではE2濃度をさげてもらえる治療を一緒にしてもらったほうがよいという考えになります。


ただし、このことは転移性乳癌の臨床試験結果ではある程度このとおりなのですが、術後補助療法の試験では確定的な差を証明している結果がないのです。(向原先生のご指摘にもあり)
どのくらいの差があると、実際の患者さんでも差としてみることができるかということにも関連しており、エビデンスとしては限界のあるところです。

掲示板で説明できるのはここまでです。
Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
佐治(埼玉県) 2010/11/29
ちなみに、タモキシフェンでE2濃度があがる理由や、その場合の考え方はいろいろあるのでが、説明が長くなるので、ご希望でしたら、わたくしのところを一度受診ください。
たぶん直接お聞きになったほうがわかりやすいと思います。

主治医先生とご相談いただくのが一番のお勧めですが、標準的なレベルを超えてかなり細かな知識が必要な部分にはいってきていますね。それだけ患者さんがよく勉強されているということになります。
Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
なお(大阪府) 2010/12/01
佐治先生

お返事ありがとうございます。
受診させていただきたいですが、残念ながら距離的に難しいです・・・。
そんなふうにおっしゃっていただいて、本当にありがとうございます。

E2が増えてしまい、不安で心配ですごく悩みました。
だから勉強せざるを得なかったです。

タモキシフェンが仕事をしてくれてたとしても、
E2を増やしてしまっていたらダメなのでは?と私は思うのですが
それは考えすぎなのでしょうか?

タモキシフェンとE2上昇については、
先生、薬剤師さん、メーカーさんに伺ったり、幾つかの文献を読んだりして、
なんとなく理解できました。

「タモキシフェンが原因でE2、がんの大好物が増えてしまい、私には逆効果だった」
と私は思っているのですが、これは的外れな考えで、私の勘違いなのでしょうか?

間違いならご指摘いただき、理解を深めたいなと思い、質問させていただいてます。

今後の治療は、タモキシフェン+LH-RHアゴニスト併用治療に変更しましたので、ありがとうございます。

掲示板での範囲を超えていたら、申し訳ありません。
Re:タモキシフェンとエストラジオールの濃度
佐治重衡(埼玉県) 2010/12/01
逆効果と考える必要はないと思います。
閉経前のかたでタモキシフェン単剤であればおこりえることですので。

それでは。

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