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子宮頸がん(肺転移)の抗がん剤治療について
Yoko(東京都) 2010/12/12
はじめまして。70歳になる母は、2年前に子宮頸がんのIIB期と診断され、化学療法+放射線治療を行いました。しかし今年になって、肺転移(2X1cmがひとつ、2-3mm程度のものが4つ)が確認されました。現在、シスプラチン+タクリパキセルでの抗がん剤治療を行っております。延命効果が期待できて、なおかつQOLを維持できるような抗がん剤について、お知りの方がいらっしゃったら、ぜひご意見を聞かせていただけますでしょうか?母のPerformance Statusは良好で、仕事も続けております。よろしくお願い致します。

   
Re:子宮頸がん(肺転移)の抗がん剤治療について
朝倉 義崇 (東京都) 2010/12/14
Yokoさん

はじめまして。私は都内のがん専門病院で勤務している医師です。
お母様が子宮頸がんで再発されたとのこと、さぞかし御心配なことと存じます。

私は婦人科がんの専門家ではありませんが、一般的な腫瘍内科医の立場からコメントします。長文となりますが、ご容赦ください。

結論から申し上げますと、転移性の子宮頸がんに対する抗がん剤治療において、明確に延命効果やQOLの改善効果を示した治療はありません。以下に詳細を申し上げます。

抗がん剤という毒物を使用した治療は、効果とともに少なからず毒性を伴います。その毒性が命に関わる場合も稀ではありません。
一般にがんは、抗がん剤の有効性から四つに分類することができます。すなわち、(1)抗がん剤の効果が高く、治癒が期待できる疾患(例:白血病、リンパ腫、胚細胞腫瘍など)、(2)抗がん剤による効果がある程度期待できる疾患(例:乳がん、卵巣がんなど)、(3)抗がん剤による治療効果が低い疾患(例:子宮頸がん、子宮体がん、胃がんなど)、(4)抗がん剤の効果が殆ど期待できない疾患(例:悪性黒色腫、甲状腺がんなど)です。

抗がん剤の進歩により、以前に比べて効果的な抗がん剤の種類は増えてきていますが、残念ながら子宮頸がんに有効な抗がん剤は数少ないままです。
毒物である抗がん剤が真に有効であるかを確認するためには、抗がん剤を使用しない治療(=症状に応じた治療)と、抗がん剤治療との比較をする必要がありますが、子宮頸がんではこうした比較が過去に行われたことはありません。
従って、転移性の子宮頸がんに対して抗がん剤による延命効果は明確には示されていません。

次に、QOLに関してですが、一般にがんの治療においては、救命が第一の目的として研究が進められてきた経緯がありますので、きちんとしたQOLの評価はなされてきていませんでした。さらに、QOLは主観的かつ様々な側面を有するため、簡単に評価することが困難です。例えば、FACT-Cxという子宮頸がんのQOL評価ツールでは、40もの項目を評価する必要があります。

現在、お母様が受けられているTP療法(パクリタキセル+シスプラチン)に関しては、米国で行われたシスプラチン単剤との比較試験において、FACT-Cxを含む4つの評価ツールを用いたQOLの評価も行われています。この臨床試験では、病気が悪化することなく生存している日数(無再発生存期間)はTP療法が勝るが、病気の状態に関わりなく生存している期間(全生存期間)やQOLについてはTP療法とシスプラチン単独療法で同等であり、いずれの治療を選択しても治療効果が低いとQOLは悪い、という結果が示されています。

こうした事から、転移性子宮頸がんに対して、QOLを維持しつつ明確な延命効果を示した治療はないのが現状だと思います。すなわち、転移性子宮頸がんに対する抗がん剤治療は、症状を緩和する治療(緩和的治療)の一つということになります。
その上で、一度お考えいただきたいことが二点あります。

一点は、肺の病変が、真に子宮頸がんの転移性病変であるか否かに関する病理学的な検査です。画像などを拝見しておりませんので断定はできませんが、他の癌や癌以外の疾患の可能性もあります。肺は検査をすることが簡単な部位ではありませんが、検査のリスクを十分に考えた上で検討してみる必要があると思います。
二点目は、お母様が人生で最も大切にしていらっしゃることは何かという点です。既に治療が開始されているようですので、ご存じかと思いますが、TP療法は楽な治療では決してありません。治療による延命効果が明らかに示されてないことから、肺病変による症状と抗がん剤による副作用とを天秤にかけた上で、治療の継続を検討されては如何でしょうか。

やや難しい表現があったかもしれませんが、ご参考になれば幸いです。よろしくお願いします。
Re:子宮頸がん(肺転移)の抗がん剤治療について
Yoko(東京都) 2010/12/14
朝倉先生、

貴重なご意見をありがとうございました。細かく説明していだいて大変参考になりました。

子宮頸がんの肺転移については、これといった治療方法がないようですが、母には少しでも長く生きてほしいと思っています。そのためにはベストを尽くそうと思っております。

朝倉先生の都内の病院にうかがって、正式にセカンドオピニオンをいただくのは可能でしょうか? もしご迷惑でなければ、一度お話を聞かせていただければ幸いです。
Re:子宮頸がん(肺転移)の抗がん剤治療について
朝倉 義崇 (東京都) 2010/12/17
Yokoさん

お返事ありがとうございました。返信が遅くなり申し訳ありません。

私自身、医師になってから祖父の膀胱癌再発、祖母の悪性リンパ腫を経験しましたので、Yokoさんのお母様に対する気持ちはよく理解できます。

私は国立がん研究センター中央病院に勤務しておりますが、婦人科がんの化学療法に関しては乳腺・腫瘍内科の医師が担当しております。また、当院のセカンドオピニオン外来は、医師だけでなく、看護師も一緒に面談致します。
乳腺・腫瘍内科では、どの医師も婦人科がん診療に精通しておりますが、セカンドオピニオンにはFAXによる予約が必要です。下記URLをご参照ください。

先日、私が申し上げた意見はごく一般的な意見に過ぎません。婦人科がんを専門とする腫瘍内科医とお話しすることで、お母様とYokoさんにとって最善のがん診療を見つけることが出来ることを心から願っております。


セカンドオピニオン(がん相談対話外来について)
http://www.ncc.go.jp/jp/ncch/consultation/jushin.html#02

FAX予約の方法について
http://www.ncc.go.jp/jp/ncch/consultation/fax_yoyaku.html
Re:子宮頸がん(肺転移)の抗がん剤治療について
Yoko(東京都) 2010/12/18
朝倉先生、

どうもありがとうございました。ぜひ近いうちに、うかがわせていただきたいと思います。今後ともご指導のほど、お願い致します。

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