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治療とその選択
皮下乳腺全摘後の放射線治療
そら (神奈川県) 2011/01/10
以前、トリプルポジティブの術後治療で相談に乗って頂いた”そら”です。
その節は大変お世話になりありがとうございました。

現在はEC4クール終了TH3クール目の治療中です。次回でドセタキセルの投与が終わり、
その後、放射線治療に入る予定です。

主治医の先生と話をする次回の診察前に、放射線治療について教えて下さい。

以下は病理結果の記述です。

手術方法は皮下乳腺全摘なので、皮膚、乳頭は温存です。
乳頭直下の断端は陰性でした。腫瘍はBD領域
脂肪組織、リンパ管浸潤多数

Surgical margin: positive for DCIS at distal side(#3)
superficial margin for DCIS(#11)

所見:遠側断端はDCIS陽性で、乳頭に近い表面断端も陽性です。追加治療が必要と考えます。


手術方法を決める際の判断基準で「放射線治療をしないで済ませたい」と考え、主治医に「断端陽性が出たら放射線治療が必要になりますよね?」と確認したら、「迅速術中診断をして断端陽性は出ないようにするから大丈夫」と言われて皮下乳腺全摘を選んだ経緯があります。
(術後の結果で断端陽性が出てしまったことについて、潔く皮膚、乳頭もあきらめて全摘するべきだったとは思いましたが、ぺちゃんこながらおっぱい?は残ってるので、不満を持ってはいません。)


温存手術後の放射線治療はガン細胞を取りきったという前提で25回の照射を行いますが、私の場合、断端陽性あり=ガン細胞が残ってるということですよね?
やはり、私の場合は25回の他に断端陽性部分に対して追加照射をする必要がありますか?

追加照射する場合としない場合のメリットとデメリットを教えて下さい。
生存率に影響が無ければできるだけ少ない治療方法を選びたいのが本心です。
やっぱり、放射線治療自体を省略するなんて無茶ですよね?







   
Re:皮下乳腺全摘後の放射線治療
向原徹(兵庫県) 2011/01/14
そら様

神戸大学病院の向原と申します。内科医です。
お返事が遅くなりすみません。

お返事が遅くなった理由のひとつは、そら様の今の状況で、どのように治療をすべきか、を指し示す臨床試験からのデータ(エビデンス)がないことがあります。医療の中には、絶対すべきことと、絶対してはいけないこと、今のそら様の放射線治療(また追加照射)のようにその間のことがありますが、実はその間のこと、というのが圧倒的に多く、そこは医療チームと患者さまでコンセンサスを作っていって、方針を決めることになります。

そういう観点から、まず最初にお伝えしたいのは、そら様が今勧められている治療法は、妥当な選択肢の一つであると考えられるということです。

今回受けられた皮下乳腺全摘は、ご承知の通り現時点では歴史の浅い術式でデータの蓄積はないものの、一般的には乳房切除後と同じように術後療法が計画されるようです。乳房切除後に放射線治療をあてたほうがよい(上でいう絶対にすべきこと)と判断されるのは、唯一リンパ節転移が4個以上のリンパ節にみられた場合です。なぜなら、そういう患者さまでは、局所再発のみでなく乳房切除後照射が生存率を向上させることが示されているからです。
もちろん断端が陽性である場合も、陰性である場合に比べて局所再発が多いことは確かなのですが、放射線照射が生存率まで影響を与えるかは、質の高いエビデンスが不足しており分からないのです。
最初からDCIS(非侵潤癌)と診断され、乳房切除(その中には皮下乳腺全摘の方も含まれていますが)を受けられた患者さんで断端が陽性または極めて陽性に近かった方31名をその後経過観察すると、5名(16%)に局所再発がみられたとのデータがあります。DCISの乳房温存術をした場合でも断端(手術でとった癌を取り囲む正常組織の厚さ)が<2mmであれば、それ以上の場合より局所再発は2倍程度多いといわれています。つまり、そら様の場合も局所再発はある程度見積もられることになります。DCISで乳房温存術をした場合は、術後放射線治療で局所再発が減ることは明らかですので、おそらくそら様の場合も局所再発を抑制する効果は十分期待できると思います。ただ、元に戻りますが、放射線をあてずに局所再発した場合も、再度治療(放射線や追加手術)を加えて治ってしまうチャンスもありますので、生存率への寄与は不明としかいいようがありません。
追加照射についても、局所再発をさらに抑えることは期待できると思います。ただ、やはり絶対的なエビデンスはなく、どれだけ抑えるかということはなかなかお話できません。
乳房温存術後の照射では、追加照射のデメリットとしては、乳房の線維化(硬くなる)に伴う美容的な問題が、追加照射なしの場合よりやや多いと、されています。

以上、沢山煩雑に書いてしまいましたが、治療方針は、実際患者さまと直接向き合い、決めていくものだとの信念をもっています。特に最初にお話しした、”その間のこと”の場合はなおさらです。もちろん、少なくとも”絶対してはいけないこと”に当たる治療ではないと思いますので、安心されて、主治医、また放射線治療医とよくdiscussionされた上で、納得して治療にのぞまれることをお祈りします。
Re:皮下乳腺全摘後の放射線治療
中川 智恵(東京都) 2011/01/15
そら 様

初めまして、乳腺外科医で現在乳腺病理を研修中の中川と申します。
抗がん剤の終わりがようやく見えても、まだまだ治療方針に関する悩みが尽きないご不安なお気持ちお察し致します。一つ提案ですが、主治医の先生に「断端陽性」をもう一度確認して頂けますでしょうか。

たくさんの照射に関する論文がありますが、これはほとんど海外からのものです。実は、海外と日本の手術の病理の断端の評価は異なります。アメリカでは断端から2㎜以内に癌があると陽性、日本では5㎜以内です。つまり、そらさんの断端陽性は、断端から4㎜のところにはがんがないかもしれないので、そうなるとアメリカでは陰性と評価されます。なので、必ずしも胸にがん細胞が残ったままというわけではありません。

ただし、これは日本でも施設間で異なることがあります。日本の乳癌取扱い規約では、5㎜以内で陽性と提言しているのですが、中にはがんが外に顔を出して初めて陽性と扱う(5㎜以内を「断端近接」と表記する)施設もあります。これは、規約違反とかではなく、そう記載する分かりやすさもあるため柔軟性をもって許容されています。

それから、断端陽性の程度も重要です。断端陽性の場合、非浸潤癌(DCIS)が数個だけ陽性なのと、20個ぐらいで陽性とでは意味が違います。同じ非浸潤癌でもおとなしそうな顔つきのものと元気のよい悪そうな顔つきのものがあります。追加照射をしても再発を抑えきれない可能性があるものに関しては、再度手術をするなど他の治療法の選択肢があがってくる場合もあります。
乳腺全摘後の場合、温存術より残った乳腺が少なく、再手術の適応や術式を決めることが難しいのでよく主治医と相談する必要があります。

生存率に影響があるかどうかは向原先生も書いておられるように難しいです。ただし、DCISであった病気が温存療法後、再発するとき約半数は浸潤癌で再発してくるというデータがあります。そうなると今度は手術や放射線だけでは治せない転移を心配しないといけなくなります。転移が生じるとそれは生存率に影響を与える可能性があるため、少しでも再発を抑える確率を上げる追加照射を行うことは、一つの選択肢であると言えるかと思います。

照射自体を省略できるかどうかに関しては、温存術後の照射省略に関して研究を行っている施設が日本にもありますが、少なくとも断端陰性が絶対条件ですし、病理診断の問題もあって、どこの施設でもできうる標準治療にはなりえない状況です。照射は期間が長いことからも、お仕事をされている方やご高齢の方にとって通院が大きな負担になると感じています。今後、しっかりとしたエビデンスを作る必要性を痛感しております。

乳頭や皮膚を最初から大きく取っても、断端陽性の場所や程度によっては照射や再手術などの追加治療が必要となる患者様もおられますし、そらさんの場合、思いがけない追加治療ではあるかと思いますが、照射だけで再発抑制が期待できるようであるのならば、最終的には乳頭と皮膚を残した術式を選択したメリットはあるのだと思います。なので、最初の治療法を現時点で悔やまれる必要はないかと思いますよ。

それと、もう一つ気になったことは、そらさんは今後乳房のふくらみを作るような再建術をお考えでしょうか?乳房に照射を行うこと自体、皮膚が硬くなることがあるので、今後人工物による乳房再建が難しくなるというデメリットはあります。ただし、絶対できないわけではないですし、もちろん自家組織(自分の背中やおなかの筋肉を使う)での再建は可能です。

以上、長々とすみませんが、そらさんが主治医の先生や治療に関わる幅広い専門分野の先生方とよく相談された上、是非安心して治療法が受けられるよう心より祈っております。
Re:皮下乳腺全摘後の放射線治療
そら (神奈川県) 2011/01/17
向原先生、中川先生 
大変丁寧なご説明をありがとうございました。

日曜日からずっと先生方のコメントを何回も読み返しては考えていました。

放射線治療については一度、かけたところにはもう一度使うことができないーと考えると、最終手段として残しておきたい。
再発してしまってから、使える手を残しておきたいという気持ちがあります。

一方、絶対に再発したくないから初期治療でトコトン頑張ることにして、抗がん剤まで取り組んできたのに「断端陽性あり」と言われながら放射線治療をしないのは片手落ちだとも思います。

中川先生のコメントに
<それから、断端陽性の程度も重要です。断端陽性の場合、非浸潤癌(DCIS)が数個だけ陽性なのと、20個ぐらいで陽性とでは意味が違います。同じ非浸潤癌でもおとなしそうな顔つきのものと元気のよい悪そうな顔つきのものがあります。

と、ありましたが、私の浸潤がんはHER2陽性=元気の良い悪そうなガンですよね?これだけやったのに、それでも再発されてしまったらとても怖い種類だと認識しています。

断端陽性の内容など、細かい事について聞きたいのですが、
主治医の先生はデータなどの話はしてくれません。
細かい事を聞こうとしても「そんなことまで聞いてどうするの?」「一番良い方法を考えてあげてるから(僕に任せなさい)」と、言った感じです。

病理診断科があるのでそこでなら詳しい説明を聞けるかな、と思うのですが、主治医にどう切り出せばよいのか悩みます。

「病理診断科で詳しい話を聞きたい」と言ったら「病理結果の所見に追加治療が必要って書いてあるんだから、それを書いた人にわざわざ聞きに行く必要ないでしょ」と言われそうです。

自分の事を自分で知る権利ーーごく当たり前の事なんですが、
なかなか言い出しにくのが現実です。



「再建についてですが、もともとかなり小さな胸なので乳頭が残ってるだけで十分と思っていましたが、カルデラ湖状態の胸をみると最近はやっぱり、少しでも出っ張ってたらいいなぁという気がしてきています。皮下乳腺全摘なら再建の可能性も残せると選択の理由の一つでした。
ただ、実際には費用や身体的負担を考えると踏み切れない気がします。「可能性は残ってる。いつでもその気になれば胸が作れる」という心理状態でいられることが大事です。
Re:皮下乳腺全摘後の放射線治療
中川 智恵(東京都) 2011/01/23
そら 様

投稿が遅くなってしまいすみません。
以前もそら様は主治医の先生とのコミュニケーションでお困りになり、ご投稿下さっておりましたね。きっと、主治医やスタッフに気兼ねなく何でも相談できて、ご自身の病気の状況、治療方針を納得できるまでの説明を受けることができたのなら、こうして掲示板でお尋ねになられるようなお悩みは解決するのでしょう。

掲示板でお答えするという性質上、どうしても最終的な判断は主治医とご相談して頂く必要があり、前回いろいろ書かせて頂きましたが、本当にコミュニケーションがとれない(とれないと感じる)状況におられるそら様にとって、少しお辛いご提案だったかもしれません。

前回のご投稿の際、主治医側のコミュニケーションの障壁として時間の制約などが問題点として挙げられていました。コミュニケーションがとりづらい状況に対しての改善策としていろいろなご意見を皆様出して下さっておりましたので、まとめてみますと
①患者会を利用する。たくさんの同志と意見を交換する。共に、医療者側にコミュニケーションの改善などを提言する。
②主治医とコミュニケーションをとれなかった部分は、コメディカル(看護師、薬剤師など)、若手の医師などに相談する。主治医との仲介役になってもらう。
③「ご意見箱」など、匿名で医療者側に提言する。
④とにかく、遠慮せずに主治医に尋ねる。主治医の度量を見極めることもできる?
どのような形であれ、あきらめず医療者側にご要望や改善点を発信して頂ければということでした。そうすることで、医療者も患者にいっそう寄り添い、より良い医療を提供するために成長するチャンスになるのではないかと。

前回のご投稿から、しばらく経ちますがその後もあまりご関係に変化はないのでしょうか?

更なる医療者側の改善策に関して案をいくつか考えてみました。
①患者さんの希望があれば、自由にご自身の電子カルテがインターネット上で見られるサービスの普及。カルテには検査結果の他に治療方針に至った理由なども記載されているので、これを読めば主治医の思考回路がある程度分かるはずです。(実際、日本でもすでに行っている病院があります。)
②事前にアンケートで、患者さんがどこまで知りたいか把握しておく。
例えば、a資料不要、b資料のみ、c資料と主治医からの説明、d資料と専門医(画像診断医、病理医)からの説明など、患者さん個人の価値観に合わせた説明方法をとることにより、限られた診察時間の効率化を図る。
③教育、啓蒙。
そもそも医療者が、患者さんが個々の価値観に基づき求める情報を納得いくまで得ることができる権利、自分のことを自分で知る権利を持っているということをしっかり認識しているかが重要です。アメリカと比べると日本は認識が低いところがあるかもしれません。悪気はもちろんなく、医療者なりに患者さんのことを思い遣って、不要な心配をかけないための最善の策だと考えているのだと思います。ただ、目の前の患者さんは必ずしも主治医が考えているように理解し、納得するとは限りませんので、臨機応変、柔軟に対応することが必要なのだと思います。学生には教育を、すでに医療者になられている方々とは、セミナーなどでそういったことを勉強し合い、全国に広げていくことが重要だと思っています。
(マンパワーを増やせたり、コメディカルの専門性を更に向上することができ、日本における一人の医師にかかる負担や時間の制約などの問題点を改善することができれば、価値観の違いや効率化にこだわらずに全ての医療者がアメリカのように、最初から情報は全て開示する、全て説明するという姿勢が当たり前、という認識になっていけるのではと思っています。)

こんな風だったら、もっとコミュニケーション取りやすいのにとか、こんなシステムがもっと病院に欲しいとか、もしご意見あったら是非お願いします。上記の案も含めそら様がお困りの今現在の問題解決には間に合わないかもしれません。ただ、今後そら様と同じようなことで悩まれる方を一人でも減らせるよう医療者の一人として尽力していきたいと思うばかりです。

毎度長くてすみません。患者様の立場からのご意見が医療現場を変えていくのだと思います。宜しくお願いいたします。

Re:皮下乳腺全摘後の放射線治療
そら (神奈川県) 2011/01/24
中川先生

お忙しい中、沢山アドバイスをありがとうございました。

8月25日から化学療法が始まり明日で8回目になりました。
化学療法が始まってからは、化学療法室で看護師さんや薬剤師さんに質問ができたりアドバイスを頂く事が出来るようになりました。

先日、主治医の先生と話して感じたのは「先生が私を警戒してたのかなぁ。。」ということです。きっと、私が余裕のない状態で先生と対峙していたので、先生に「私が先生のことを信用できなくていろいろと聞いてくる」と感じさせてしまったのかも。と思いました。(ガンについて無知だった上に、知りたいことに何も情報もえられない中、決断を迫られる状況で余裕あるわけがない・・・)

初診から9カ月が過ぎて最近は先生のことも、病院の状況もわかって来たし、先生に自分の事を理解して頂けてきたので以前ほどのジレンマは減ってきました。

患者仲間から「は放射線科は乳腺外科と違ってのんびりしているから、いろいろと聞きたいことはそっちで聞いたりしてる」という話も聞きました。

ここからの治療はしばらく放射線科の先生との関係がメインになると思うので、今度は切羽詰まらず、(今は、ガンという状況に順応してしまったので大丈夫)上手に先生とコミュニケーションを取れるように心がけたいと思います。

明日も、朝早いので今日はここで失礼させて頂きます。


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