掲示板「チームオンコロジー」

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患者と医療者のコミュニケーション
癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
浅川  美奈 (神奈川県) 2011/02/03
癌患者さん本人やその身近なご家族の方のご意見を伺いたいと思います。

肺癌患者の父は、現在都内の病院へ化学療法の為、通院しています。2か月経過した時点で、画像診断検査の結果、病変縮小効果が確認でき、辛い副作用もなく今のところ治療は順調です。

本人は、医学関連の書籍、文献などを咀嚼して、病気について理解していますが、根治は期待できない将来に対する失望感で、治療に対して前向きでなくなって、最近では早く死にたいと言っては家族を困らせ、辛い毎日です。
私たちは、これまでの成功した人生を否定するような事は絶対にしてほしくない、穏やかな最期をと願っています。

例えば米国のように、医師が患者に対して、正しい医療方針や治療のゴールを認識できるように導く患者教育は、日本の5分診療では望めないにしても、チーム医療の中で、多忙な医師や
看護師以外の医療コーディネーターのような相談できる立場の
方がいれば、安心して自立した患者生活が望めるのではないかと思います。

癌患者さんやご家族の方は、こうした不安などに対してどのように対処されていらっしゃるのでしょうか?
ご意見等、よろしくお願いします。

                     







   
Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
朝倉 義崇 (東京都) 2011/02/05
浅川様

都内のがん専門病院で勤務する医師です。闘病されているお父様自身だけでなく、ご家族の皆様も大変苦しんでいらっしゃることとお察しします。
患者さんご本人かご家族へのご質問で、私自身、祖父が膀胱がん、祖母が悪性リンパ腫、肺がんという経験がありますが、みな高齢であった事もあり、浅川様のように悩んだことはありませんでした。
今回は医療従事者としてコメント致します。

浅川様のお父様のような状況の場合、日本の病院では臨床心理士の方が対応されることが多いと思います。
臨床心理士の方は、例えば当院では精神腫瘍科(精神科)に所属し、精神腫瘍科の先生を介して心理士の方にご協力を依頼しています。
お父様が治療を受けておられる病院に臨床心理士の方が勤務されていれば、主治医に依頼して面会をお願いすることが可能ではないかと思います。
もし院内に心理士の方が勤務されていないのであれば、近隣の心療内科などにご相談されるのも良いかもしれません。

お父様のような精神状態は、がん患者さんでは多くの方が経験されることですが、そのような患者さんを拝見するとき、私自身は業務の忙しさとは別に、自分に十分なカウンセリング能力がなく、看護師の方や心理士の方にお願いすることが多いです。
多くの医師は、十分な教育やトレーニングを受けていないので、恐らく同じようにしているのではないかと思います。

このようなことしか情報提供できませんが、少しでも御参考になれば幸いです。
お父様が再びご自分の人生に対して前向きな姿勢に回復されること、また、浅川様はじめご家族の方が疲弊してしまうことがないよう、心から願っております。
Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
やまうち(滋賀県) 2011/02/05
朝倉先生コメントの補足で、精神腫瘍学(サイコオンコロジー)の患者・家族向けのページです。http://jpos-society.org/patients/

ほかには、がん患者会も頼りになる存在かと思います。罹患者の多い癌だと「肺がん患者会」とかあると思います。私自身は少ないほうのがんでインターネットでは見つけられませんでした。
ほかに部位別でない地域患者会(○○県がん患者会)とかもあるみたいですね。

私は今完治を目標に治療中ですが、がんのことで頭がいっぱいになり、周囲の気遣いにさえ鈍感になることがよくあります。本当は家族のほうがずっとつらい思いをしてると思います。でも、患者本人として一番怖いのは、家族の心が折れてしまうことです。
だから、私は妻とのコミュニケーションを一番大事にしたいと思っています。治療の目標にずれがないか、家庭への負担はどうかなど共有できるように考えています。幸い主治医もそのことを大切にしてくれて、治療の大事な節目には三者での時間をとってくれます。

浅川様のお話で言えば、現実医療従事者は時間ないので、「家族力」でひっつかまえて状況を伝えるしかないですね。まともな医者なら、いまのお父様の状況は治療計画に支障があると判断できるでしょうから。

失望はいつか何らかの形で希望に変わるはずです。つらいことは多々あるでしょうが、希望を持ってお父様を支えてあげてほしいと思います。
Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
浅川 美奈 (神奈川県) 2011/02/06
朝倉先生

ご丁寧なコメントをありがとうございました。
早速、臨床心理士の方が勤務されているか調べてみます。

ところで、以前に医療関係者の方の掲示板で朝倉先生(国立がんセンター幹細胞移植科の先生でいらっしゃいますね)のMDACCの研修レポートを拝見して、Chaplainについて書かれて
いらしたのを思い出しました。
NoReligionの日本で言えば、確かに臨床心理士に当たりますね.

私は以前、テネシー州の大学病院で4科国語対応の医療通訳として勤務していたので、米国の医療事情はよく知っています。
キリスト教徒の多い米国では、当然大病院にも牧師がいて医師、APN、看護師、薬剤師と共にチーム医療のスタッフになって、本当に尊敬するべき役割を果たしていました。
(話が脱線してすみません)

父同様、今の私も臨床心理士の方に相談する必要があるかもしれません。まだ先は長いので、頑張りたいと思います。
ありがとうございました。


やまうち様

患者さんのお立場でのコメントをありがとうございました。
精神腫瘍学(サイコオンコロジー)という分野があるのは知りませんでした。早速患者、家族向けのページを調べてみます。

やまうち様は、奥様と共に闘病されていらっしゃるということですが、私の場合2人の娘を持つ家庭の主婦でもあるので、時々余裕がなくなって、本当に心が折れそうになります。
何とか良い方法を見つけて、父を支えていきたいと思います。

また、受診しているのは都内でも有名な病院で、患者さんも
大変多く、主治医や看護師さんたちも気の毒になるくらい忙しそうなので、治療以外の余計な事は聞けないのは仕方ないと思っています。

では、やまうち様のご病気がよくなられることをお祈りしています。
ご親切なコメントを頂き、本当にありがとうございました。








Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
伊藤高章(海外在住) 2011/02/06
浅川さま

医療機関の中で臨床スピリチュアルケア(宗教色を出さないチャプレン)専門職として活動をしている伊藤高章と申します。私自身、アメリカの病院でチャプレンをしておりました。

浅川さんの、「これまでの成功した人生」というお言葉の中から、お父様への深い尊敬のお気持ちが伝わってきます。そのお父様がそれを「否定するようなこと」をされているように見えるのは、とてもお辛いことなのだろうと拝察します。

また、おそらくアメリカの医療機関の中で医療通訳という重要なお仕事をなさっていらしたご経験からでしょうか、浅川さんご自身が医療に向けていらっしゃる信頼も感じられます。「正しい医療方針」「治療のゴール」というお言葉からは、浅川さんご自身には、医療者の考えは理解しやすいのだろうと感じられます。

患者さんのナマのお気持ちというのは、お一人お一人違うので、その方の「想いの丈(たけ)」で感じていらっしゃることを理解するのは本当に難しいことです。心理士も、診療内科医も、そしてチャプレンも、それぞれの専門の立場から、患者さんのお気持ちに近づこうと努力します。患者さんご自身にとっても手に負えない悶々とした思いには、周りの者は共感しにくいものです.専門家がお手伝いできる部分だと思います。少しでも患者さんやご家族のコミュニケーションのお手伝いが出来れば良いと願っています。通院されている病院にあるリソースが、お父様の中で渦巻いている様々な想いに少しでも近づくために役立つことを期待しています。

その上で、付け加えさせていただくと:
「根治は期待できない将来に対する失望感」「治療に対して前向きでなくなって」「早く死にたい」というお父様のご様子をお伝え下さいました。それが《浅川さまそしてご家族の皆様に向けて》どのようなメッセージをお伝えなのか、もう一度そして折に触れて伺ってみてはいかがでしょうか。日々変化する、皆様に向けられた、いろいろなお気持ちが込められているのだと思います。
ご家族が、患者さんにより良い治療を受けさせてあげたいと思う愛情と《責任感》は、他の者が代わることのできない働きです。しかしそれと同じように、言葉になりきらない患者さんの深い思いや不安やいらだちを、理解し、患者さんとご一緒に悩み苦しむお働き(compassion 共苦)も、ご家族にしか出来ないものです。医療者は、ご家族が患者さんの側に立って患者さんの思いを深く理解してお伝え下さることをとおして、患者さんご自身のお気持ちに叶う医療を進めることが出来ます。(医療通訳者として、そのようなお仕事も多くされて来られたことと思います。)これがスムースにできると、患者さんご自身を含んだチーム医療が実現できます。

その中で、やまうちさんが投稿されているように、ご家族の心が折れてしまうのを防ぐために、病院のリソースを、浅川さんやご家族のみなさんのサポートのためにご利用頂くのも大切だと思います。

お父様との豊かなお語らいの機会があることを祈念しております。
Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
朝倉 義崇 (東京都) 2011/02/06
昨日投稿しました朝倉です。

伊藤先生、やまうち様、詳細な投稿ありがとうございました。私自身も大変参考になりました。

浅川様、少しでもご参考になり、幸いです。また、私の拙い研修報告を読んで頂き、ありがとうございます。今読み返すと、ちょっと足りない部分も多いですね。
伊藤先生のコメントの後で恥ずかしいですが、チャプレンについて、私自身がMDアンダーソンがんセンターで感じた事を少し述べます。

MDアンダーソンがんセンターでは、複数の診療科単位で、その忙しさに応じてチャプレンの担当が割り当てられています。
緩和医療科などでは、チームにチャプレンが加わっており、毎日の回診にも参加しておられましたが、その他の診療科では、チャプレンの方に介入を依頼する形で業務が行われていました。

チャプレンの方は24時間対応で、大変多忙です。例えば、患者さんが亡くなるような際には、夜中や休日であっても面談をされていました。
また、時として燃え尽き症候群に陥る医療従事者に対するカウンセリングも担当されており、もちろんチャプレンの方同士でも、お互いの業務の状況・精神状態などを把握して、カウンセリングや業務調整が行われていました。
こうしたことは、専門職が十分に認知されていないこともあり、日本での整備は遅れていますが、はっきりした宗教を持たない方が多い日本であるからこそ、より必要とされるのではないかと思います。

最近、厚生労働省でチーム医療に関する議論が盛んに行われていますが、各職種の役割に対する啓蒙活動も積極的に行っていく必要があると改めて感じました。
Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
浅川 美奈 (神奈川県) 2011/02/06
伊藤先生

ご丁寧な、心温まるコメントをありがとうございました。

伊藤先生がカリフォルニアで臨床スピリチュアルケアのご研究をされていらっしゃるのは存じていましたが、チャプレンのご経験があるとは素晴らしいですね。

私は、次女を妊娠中にBaptizedしました。その3年前に心臓病で生まれた息子を生後9カ月で亡くしたので、ものすごく悩みましたが、病院のChaplainをはじめ、多くの方から励まされ、神様を信じて健康な子を出産することができました。

アメリカ(特にバイブルベルトと呼ばれるTN)のように、社会全体が信じる物がほぼ同一であれば、互いを理解しやすく困難な事も助けられる事が多いのですが、宗教の背景がない我が国では難しいですね。

さて、先生の仰るように、日々変わる父の訴えは漠然とした不安なのか、時に年寄りの我儘に聞こえることもあり、家族だから聞いてあげられるのか、或いは専門家のお力をお借りした方がよいのか、いずれにしても院内外でリソースを探して、本人の心の負担を楽にしてあげて、心穏やかに過ごせることを願います。

ありがとうございました。











Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
浅川 美奈 (神奈川県) 2011/02/06
朝倉先生

再度のご投稿ありがとうございました。

実は私もHustonに行く機会があって、MDアンダーソンガンセンターを見学しました。
医療者ではないので、患者家族のフェローシップに参加しただけですが、病院の巨大さに圧倒されたのと、あちこちに元患者というボランティアの方が働いていて、とてもフレンドリーに話しかけてきたのが、とても印象的でした。

こうしたボランティアの方達も含めて,患者さんを支えていく本当のチーム医療が実現できたら最高だと思います。

また、さらに余談ですが、以前にMDAの研修に参加されたK大学の医学生の方が、NP(ナースプラクティショナー)について大変興味を持たれている様だったので、掲示板を通して、米国でNPをしながら日本でのNP導入の活動をしている友人を紹介したことから、彼らと交流をが持つことができました。

これからの日本の医療(NP導入を含めた)の改善には、厚生労働省や医師会が、こうした熱い志を持っている若者達の声にも耳を傾けて前進していく必要があると思います。

一患者の家族ということだけで、医療に関係ない立場で余計な事を書いてすみません。








Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
やまうち(滋賀県) 2011/02/07
浅川様、私よりはるかに知識豊富な方に、えらそうな物言いをしてしまたようで、すみませんでした。
ただ1点だけ
>主治医や看護師さんたちも気の毒になるくらい忙しそうなので、治療以外の余計な事は聞けないのは仕方ないと思っています。
とおっしゃっているのは大変気になります。本当に仕方ないことでしょうか。また本当に仕方ないと思っていらっしゃるのでしょうか。

チーム医療があらゆるリソースの活用を目指しているのはそのとおりと思いますが、それとは別に主治医、受け持ち看護師との直接的コミュニケーションをはかることを、テーマタイトルに込められておられるかと思ったので。
Re:癌患者とその家族、医療従事者のコミュニケーション
浅川 美奈 (神奈川県) 2011/02/07
やまうち様

鋭いご質問ありがとうございます。

やまうち様は、診療の他にも、ご夫妻をよく理解する努力をされる主治医で、大変幸運であったと思います。

朝倉先生も仰っていたように、日本の多くの医師は十分な教育、トレーニングをうけていないので、患者に対するカウンセリング能力に乏しいので、臨床心理士やソーシャルワーカーの
方に面会、相談を任せてしまうようです。

実際父も、化学療法が始る前に、若い医師と面談した時に一言「ガンは治りません」と言われて、しばらく落ち込んでいました。
医学生の方達も言っていましたが、アメリカでは、医学部で徹底したコミュニケーション教育を受け、医師になってからも
How to break bad news(癌告知などの悪い知らせを伝えるプロトコル)を研究しているそうです。

でも日本の医療が全て劣っているわけではなく(私は東南アジアでも生活したことがあるので、日本の病院は衛生面では◎です笑)

本題の患者と家族、医療従事者のコミュニケーションについてですが、医療従事者とは医師や看護師に限定しないで、薬剤師やオンコロジーナースやソーシャルワーカーの中で悩みを聞き
共感し理解する努力をしてくれるスタッフを見つけることでしょうか。

また、仕方ないというのは本心でしょうか?と聞かれてしまうと、もし私が患者本人だったら、這ってでもMDACCかMayo Clinicとかに行くでしょうね(笑)

では、寒さも増しインフルエンザも流行してきたので、お身体ご自愛下さいませ。
お互い頑張りましょう。




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