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治療とその選択
乳癌術後のホルモン療法について
ゆう(石川県) 2011/04/04
先日、全摘手術を受け、次にホルモン療法として、注射剤(リュープリンまたはゾラデックス)及び内服(ノルバデックスまたはフェアストン)の両方を勧められています。現在、45才です。
2点質問があります。
①主治医からは、注射剤は3~5年投与と言われましたが、一般的に2年間投与というのが多いみたいですが、3~5年投与を行う方が良いのでしょうか?
②内服はノルバデックスまたはフェアストンのどちらかを選択してくださいと言われ、フェアストンの方が子宮体癌のリスクが若干低いので、フェアストンを勧められました。他の方の話を聞くと、一般的にはノルバデックスの服用の方が多いと思われます。フェアストンの服用でも特に問題はないのでしょうか?ノルバデックスとフェアストンの違いは何かありますでしょうか?

   
Re:乳癌術後のホルモン療法について
向原徹(兵庫県) 2011/04/07
ゆう様

はじめまして、神戸大学、腫瘍・血液内科の向原と申します。
返事が遅れまして申し訳ありません。

①主治医からは、注射剤は3~5年投与と言われましたが、一般的に2年間投与というのが多いみたいですが、3~5年投与を行う方が良いのでしょうか?

LHRHアゴニスト(リュープリンやゾラデックス)のタモキシフェンや化学療法への追加効果というのは、過去に沢山の臨床試験で検討されています。タモキシフェンへのLHRHアゴニストの追加効果については、確固たるデータはないものの、一般的に化学療法を行わない閉経前の患者さまには、両者を併用されることが多いです。ただ、LHRHアゴニストの使用期間は、臨床試験の間でも、1.5年から5年とばらつきがあるので、本当にどれくらい使うのが最適なのか、については結論がでていません。一般論でいうと、2-3年併用することが多いようです。

②内服はノルバデックスまたはフェアストンのどちらかを選択してくださいと言われ、フェアストンの方が子宮体癌のリスクが若干低いので、フェアストンを勧められました。他の方の話を聞くと、一般的にはノルバデックスの服用の方が多いと思われます。フェアストンの服用でも特に問題はないのでしょうか?ノルバデックスとフェアストンの違いは何かありますでしょうか?

フェアストンとノルバデックスは一般的には非常によく似たお薬と考えられていますが、フェアストンはHDLコレステロール(世間的に善玉コレステロールといわれている分です)を上げる効果があって、動脈硬化にはいいかもしれない、と考えられているようです。ただ、実際に心筋梗塞がノルバデックスに比べて少ないかどうかは分かっていません。子宮内膜癌についても、確かにフェアストンで少ないかも、というデータはあるようですが、ノルバデックスに比べてフェアストンの使用頻度がかなり低いため、確定的なことは分かっていない、というのが私の理解です。
フェアストンとタモキシフェンの術後療法としての効果が同等であった、という臨床試験は私の知る限り2つあるのですが、いずれも閉経後の患者さまを対象にした試験です。転移性乳がんでも、両者は同等の効果があると示されていますが、これも閉経後の患者さまが対象です。
よく似た薬ということを考えると、恐らく両者の治療成績は同等なんだろうなあ、と想像しますが、フェアストンの閉経前ホルモン療法としての役割は、臨床試験できっちり示されたわけではないので、慎重に判断されるべきだと考えています。
ちなみに、日本の乳がん診療ガイドラインでも、フェアストンは術後ホルモン療法としてのオプションに入れられていません。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
ゆう(石川県) 2011/04/08
回答ありがとうございました。
②で再度質問です。
フェアストンのガイドブックを見ると、選択的にエストロゲンレセプターに作用するということで、乳癌には抗エストロゲン作用をするが、肝臓や骨にはエストロゲン作用を示すため、骨密度が保持されると記載ありました。私は骨密度が低いと健診で言われており、この点は良いかなと思いましたが、選択的に作用するというのもあまり確立された知見ではないのでしょうか?ノルバデックスも選択的に骨や肝臓にはエストロゲン作用を示すのでしょうか?なぜ、フェアストンは閉経後の適応しか取っていないのでしょうか?閉経前に使用しても、同じ効果は得れるのでしょうか?再度、よろしくお願いいたします。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
向原徹(兵庫県) 2011/04/09
ゆう様

こんにちは。分かる範囲で答えさせてください。

ノルバデックス(タモキシフェン)もフェアストン(トレミフェン)も、薬のグループの名前としては、選択的エストロゲン受容体モデュレーター(Selective Estrogen Receptor Modulator, SERMと略します)ですので、一般的に乳腺や乳がんには抑制的に、子宮内膜や骨にはむしろエストロゲン刺激的に働くといわれています。余談ですが、ラロキシフェンというSERMは骨粗鬆症の治療薬として使われます。
実際、閉経後の患者さまでは、タモキシフェンが骨密度の低下を抑制し、骨折のリスクを下げるという報告があります。トレミフェンに関しては、前立腺がん(もちろん男性)でこれも骨密度の低下につながる抗アンドロゲン療法に併用することで、骨密度を上昇させたという報告があります。小さな臨床試験ですが、閉経後の乳がんを対象に、トレミフェンとタモキシフェンの骨密度に与える効果を比較したものでは、タモキシフェンの方が若干勝っていたようです。このように閉経後(男性も含め)ではタモキシフェンもトレミフェンも骨密度維持に貢献するというのは確かなようです。

ただ、理由は分かりませんが、タモキシフェンは閉経前の患者さまでは、むしろ骨密度を下げる方向に働く、という報告が複数あります。トレミフェンについては、健常人を対象としたトレミフェンの乳がん予防薬としての有用性と問うた小さな臨床試験では、骨密度を下げはしなかった、とされています。しかし、これら別々の臨床試験の結果をもって、閉経前ではトレミフェンの方がタモキシフェンより骨によい、というのは少し乱暴ではあると思います。

トレミフェンが閉経前乳がんに開発されなかった経緯は、ごめんなさい、分かりません。タモキシフェンと同等の効果があるか、は閉経後乳がんの術後療法としては前回書かせていただいたようにそれをサポートする臨床試験はありますが、閉経前では評価されておらず、誰にも分からないと思います。

乳がんは他のがんに比べて沢山の臨床試験が行われます。沢山のデータがあって、それは基本的にはよいことなのですが、迷うことも増える、という側面もあります。情報を消化するのが大変だと思うのですが、今書かれたようなご質問を、主治医にもされることをお勧めします。私以上に沢山のことをご存じかも知れません。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
ゆう(石川県) 2011/04/09
回答ありがとうございました。
主治医に確認してみて、決めたいと思います。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
じゅんじゅん (大阪府) 2011/04/11
すみません。
横からのレスで申し訳ありません。

42歳閉経前で、リュープリン+ノルバデックスの治療中です。


>>ただ、理由は分かりませんが、タモキシフェンは閉経前の患者さまでは、むしろ骨密度を下げる方向に働く、という報告が複数あります。


「タモキシフェンは、骨には良い作用をする」と、ずっとそう思っていたのですが、
それは、「閉経後の人だけ」なのでしょうか?

閉経前だと、「むしろ骨密度を下げる方向に働く」のですか?

「報告が複数」ということですが・・・。
初耳だったので、驚いています・・・。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
向原徹(兵庫県) 2011/04/14
じゅんじゅん様

こんばんは。返事が遅くなり申し訳ありません。

正直に申しますと、お恥ずかしながら、私自身も、タモキシフェンは閉経前、後に関わらず、骨密度を保つ方向に働くものと信じていました。

しかし、よく調べてみると、次のような報告があります。
一つは、閉経前の患者さまが化学療法をされた場合、一部の方はそれがきっかけで閉経されますが、化学療法後閉経をされなかった方だけをみると、タモキシフェンを飲まれた方のほうが、タモキシフェンを飲まれなかった(ホルモン受容体陰性)の方よりも、腰椎の骨密度が低かった、逆に化学療法で閉経された方では、タモキシフェンを飲まれた方のほうが骨密度を保っていた、という報告です。
もう一つは、タモキシフェンを乳がんの予防薬として飲まれた方とプラセボ(偽薬)を飲まれた方を比較した研究で、閉経前の方では、タモキシフェンを飲まれた方のほうがプラセボの方よりも骨密度が低下する傾向にあり、閉経後ではその逆であった、という報告です。

このようなことから、タモキシフェンは閉経前と閉経後では骨密度について反対の働きをするかもしれないと考えられているようです。

ちなみに、ゾラデックスだけされた方(つまり薬で閉経状態をつくた状態)と、ゾラデックスとタモキシフェンをされた方では、ゾラデックス+タモキシフェンをされた方のほうが、骨密度の低下が少なかった、という報告もあります。

乳がんで手術をされた患者さまでは、まずは治す確率の一番高いものを選んでいくのが原則だと思いますが、早期閉経、骨密度、妊よう性、の問題など、その方の人生をひっくるめてケアのできる医療を発展されられたらいいなあ、と思っています。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
じゅんじゅん (大阪府) 2011/04/15
向原先生
お忙しいところ、ありがとうございました。
とってもお詳しく説明して下さり、本当にありがとうございます。
骨粗鬆症のクリニックが近くにあるので、骨のチェックも定期的にしていこうと思います。
ありがとうございました!
Re:乳癌術後のホルモン療法について
川内 (鹿児島県) 2013/07/10
初めまして。こちらの掲示板を、たまに拝読しています、知らなかった情報を勉強するきっかけになり、助かっております。横からの質問で、申し訳ございません。

質問:ノルバデックスよりもフェアストンのほうが、子宮体がんや子宮頸がんのリスクが少ないようですか?(このことについて、臨床の統計のようなデータがいくつか、あるのか知りたいです。お医者様のあいだで共通の認識としてほぼ確立されているのかも、知りたいです。)

なぜ知りたいか: ご質問者のかたが「フェアストンの方が子宮体癌のリスクが若干低いので」と書いておられるように、私も、主治医から、「ノルバデックスよりもフェアストンのほうが、子宮に優しいから」と伺いました。(臨床試験などのデータが存在するのか、とまでは、気がまわらなかったのでお伺いしませんでした。)そこで、こちらの掲示板で、自分のケースではない、一般的な情報を、教えていただけたら、ありがたいと存じました。横からの質問で、申し訳ございません。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
Koji(神奈川県) 2013/07/22
向原先生のコメントに大きな追加点はございませんが、コメントさせて頂きます。参考になれば幸いです。
以前向原先生が述べられていた様に、「子宮内膜癌についても、確かにフェアストンで少ないかも、というデータはあるようですが確定的なことは分かっていない」「 よく似た薬ということを考えると、恐らく両者の治療成績は同等なんだろうなあ、と想像しますが、フェアストンの閉経前ホルモン療法としての役割は、臨床試験できっちり示されたわけではないので、慎重に判断されるべき」という事になります。
トレミフェンとタモキシフェンを投与された患者さん同士でその治療効果と副作用を比較した研究を集めて解析した結果が論文化されているものがあり、そこから類推することになります。簡単に結論を申しますと、その有効性はおよそ同等で、副作用にも大きな差は無いという事の様です。トレミフェンの方が明らかに子宮内膜癌が少ない事を証明するデータは現在のところ無い様です。
薬の副作用は個人々々で異なりますし、長く続けるわけですから、副作用について主治医と良くコミュニケーションをとって、薬の種類を選択されるのが良いと考えます。
Re:乳癌術後のホルモン療法について
川内 (鹿児島県) 2013/07/24
Koji先生

お忙しいところ、詳しく教えていただき、大変ありがとうございました。

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