掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
以前の上野先生のブログ"完治?寛解?"より
ko(和歌山県) 2011/04/04
ふと、以前に読みましたこのブログを思い出しました。閉経前、転移性乳癌でホルモン療法中です。抗がん剤治療ではありませんが、画像検査や腫瘍マーカーに変化が表れない限り、どのくらい継続可能なのでしょうか?たとえば、1年、2年、あるいはどのくらい不変の状態が保てたとしたら…。また、薬の継続と一次中断することのメリット、デメリットとは?やはり、「答えはない」ということでしょうか。

   
Re:以前の上野先生のブログ"完治?寛解?"より
向原徹(兵庫県) 2011/04/07
ko様

はじめまして、神戸大学、腫瘍・血液内科の向原と申します。
返事が遅れ、申し訳ありません。

転移性乳がんで、ホルモン治療をしている場合、お書きになっているように、病気が小さくなるか、あるいはそのままの状態でとどまっている場合には、続けていくのが通常です。ホルモン治療をしながら6か月以上病気が大きくならずにとどまっていた方の予後は、がんが一旦小さくなる方と変わらないと言われています。ホルモン剤は一般に副作用が少ないですので、年単位で同じホルモン剤を飲まれる方もいらっしゃいます。しかし、ホルモン剤といえど、副作用が辛い方もいらっしゃいますので、続ける、休む、他の治療に切り替える、のかはバランスを考えて決めていくしかありません。

ホルモン剤の場合は、上に書いたように基本的には大きくなるまで続けていきます。化学療法(いわゆる抗がん剤)については、とことん大きくなるまで使う方法と、ある一定のコース数(数か月間が多いです)で一旦終了する方法を比べると、治療スタートからがんが大きくなってしまうまでの期間は前者で長い傾向にありますが、全生存期間となると、あまり変わらないというデータが、最初に受けられる化学療法(一次化学療法といいます)に関しては大勢です。そう言った点から、休薬期間(drug holidayといいます)を上手くとりながら治療をする工夫をするようにしています。

化学療法について、一時中断することの最大のメリットは、造血機能を含めて、気持ちや身体をリフレッシュできること(その結果次の治療が上手くできるかもしれません)だと思います。デメリットは、次の治療を使う前に、体調が急に崩れてしまって、次の治療をする機会を逸する、というリスクがどうしても残る、ということです。

このようなことなので、薬を休むかどうかを考える際には、今何回目の治療をされているか、次に病気が悪くなった時の治療がどのようなものか、急に悪くなって次の治療ができないリスクがどの程度か、というようなことを予想しながら、患者さまと相談するようにしています。

以上、長く書きましたが、一般論として、ご参考にしていただければと思います。
Re:以前の上野先生のブログ"完治?寛解?"より
ko(和歌山県) 2011/04/08
向原先生 お返事ありがとうございます。急ぎませんのでもう一つお伺いしてもよろしいでしょうか。「転移性乳がんで、ホルモン治療をしている場合、お書きになっているように、病気が小さくなるか、あるいはそのままの状態でとどまっている場合には、続けていくのが通常です。ホルモン治療をしながら6か月以上病気が大きくならずにとどまっていた方の予後は、がんが一旦小さくなる方と変わらないと言われています。」たとえば、この場合の予後とはどのくらいでしょうか?また、予後は変わらない(大きくならない方=一旦小さくなる方)というのはなぜでしょう?よく”全生存期間は変わらない”という言葉をみますが、いつも疑問に思っています。
Re:以前の上野先生のブログ"完治?寛解?"より
向原徹(兵庫県) 2011/04/09
ko様

こんにちは。
予後がどれくらいか、というのは一概には言えません。特に乳がんの場合は、病気の進行の速さが、違いが相当あるからです。

なぜホルモン剤でがんが小さくなった人と、ホルモン剤で大きくはならずに留まっていた人の予後が同じか、というのはとても鋭いご質問です。
2つの考え方があると思います。1つは、やはりがんが小さくならなくても、ホルモン剤が大きくなるのを抑えてくれたのだから、小さくなった人と同じだけホルモン剤の貢献が大きかった、という考え方です。ホルモン剤をできるだけ長期間続けていく理由はこのような考え方からです。
もう1つは、ちょっとうがった考えに聞こえるかもしれませんが、6か月もの間大きくならずに留まっている場合、がん自体が非常にゆっくりと育つタイプで、ホルモン剤の効果うんぬんより、もともとそういう患者さまの予後はよいんだ、という考えです。
この2つは、恐らく両方正しくて、同時に起こっているのだと思います。この両者のどちらが、”ホルモン剤でがんが小さくなった人と、ホルモン剤で大きくはならずに留まっていた人の予後と同じである”ことをよりよく説明するかは、実際には検証は極めて困難です。また、繰り返しますが、恐らく両方同時に起こっていることなので、ホルモン剤は病気が悪くならない限りはずっと続けていく、という考え方になるのです。

とても、難しいですね。医療者でも難しい話題です。

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