掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
タモキシフェンの服用量について
aizi(埼玉県) 2007/03/05
先日初めての投稿でしたが、さっそくにも上野先生からコメントを頂戴し、感激しております。
私は、乳癌温存手術後2年3ヶ月を経過したところです。
2005年4月から術後抗エストロゲン療法として、タモキシフェン服用しましたが、子宮内膜症状が亢進し、卵巣腫大なども発生し難渋しました。
ただいまは、タモキシフェン服用を断念し、ラロキシフェンに切り替えての治療を続けていますが、こうした経験から素人ながらに思うのは、こうしたSERM系の薬剤に関して、適量と言うものがあるのではないかと言うことなのでした。
私は、148センチと、いまどきの日本人小学生高学年よりも小さい体格しか有しておらず、長い間、西洋人基調で臨床が進んでスタンダード化したタモキシフェンの標準服用量では、私には量が多かったのではないかと、勝手に思っているのですが、最近、アロマターゼ阻害剤に関して、日本人特有の遺伝子型に沿った処方があるのではとの論説なども耳にしており、①SERM系を、量を徐変しながらの服用の可否、②日本人やアジア人などの民族の差異がホルモン療法に関係しているのか否か……なにしろ医療は明るくないのに、それだけに、いろいろ邪推してばかりで申し訳ないですが、ご意見お伺いできればと存じます。

   
Re:タモキシフェンの服用量について
上野直人(海外在住) 2007/03/06
質問の気持ちは分かります。
日本人(アジア系)と欧米人(白人)、黒人、hispanicの間にどれだけ人種格差がホルモン剤によって差があるかに関しての確かな臨床的なデーターは確立されていません。現実の米国の外来は人種によって、doseを変えないのが現状です。でも、この点が疫学、臨床研究の対象になっているのは事実ですし、将来は、個々の遺伝子の配置によって、薬の用量、種類が決まることが期待されています。返事になっていますか?
Re:タモキシフェンの服用量について
aizi(埼玉県) 2007/03/15
さっそくにも返信ありがとうございました。
エビデンスがまだないんですね。人種間の相違については、臨床が進んで欲しい反面、レイシズムの問題もはらむのかもしれませんね。おかげさまで、今は、ラロキシフェンに切り替えて、副作用は穏やかで、治療生活QOL保てています。
Re:タモキシフェンの服用量について
上野直人(海外在住) 2007/03/15
レイシズムよりも、まだこれから確立されるけんきゅうぶんやだと思います。人種間の格差を証明するのは簡単ではないですね。恐らく、人種の定義から科学的に確立する必要がありますからね。これからの研究に期待しましょう。
Re:タモキシフェンの服用量について
佐治(東京都) 2007/03/19
ホルモン療法の研究をしている臨床医師としてすこし付け加えさせていただきます。実験上でも細胞株によって必要な量は違いますし、タモキシフェンは代謝されて活性化するタイプですので、効果という点でいえば、本来は代謝酵素による個人差があるはずです。新規発生予防目的であればすくない量でも効くデーターありますので、目的によっても本当は差があります。実地の医療でそこまで量の調整をする方法がないですし、そのような差を証明することも難しいので、充分いきわたる程度に均一にせざる得ないというのが現状です。ただし、副作用に関しては量を調整して変化するということはないように経験上感じています。どちらかというと薬剤そのものを変更しないとうまくいかないことが多いと感じています。(質問者さんはそのようにされていますね)
Re:タモキシフェンの服用量について
aizi(埼玉県) 2007/03/23
上野先生に引き続き、佐治重衡先生のご意見までお伺いでき、恭悦です!
両先生とも、診察で日々ご多忙の中、毎回、迅速なレスをありがとうございます。
おかげさまで、ラロキシフェンにスイッチして、つらい副作用から脱却して、前向きな毎日ですが、自分の今回の一連のイベントを経て、つくづく、ホルモンという目に見えない世界の不思議を実感しています。
タモキシフェンの現行容量は、長年の臨床の結果はじき出された、民族を超えた世界最大公約数なのですね。
癌細胞がエストロゲンの刺激を受け取れないようにするというのがタモキシフェンの働きですよね。
これまた、素人考えですが、すると、踏切のように、エストロゲンの通行をシャットアウトする、on/off的作用機序なので、抗がん剤のように容量を加減しながら使うという無階調な処方はなじまないということなのでしょうか?
この際、もうひとつ質問なのですが、フルベストラントは、なぜ日本での認可に至らないのでしょうか?
エビデンスが少ないからでしょうか?
これは、エストロゲンレセプター自体を減退する薬剤だそうですが、タモキシフェンのセカンドラインとしての位置づけなのですか?
Re:タモキシフェンの服用量について
佐藤 由美子(愛知県) 2007/03/27
aizi様、こんにちは。

お返事遅くなってごめんなさい。
実はあまり詳しくないので、誰かが返事をしてくれるのを待っていました。

抗エストロゲン薬の作用機序については
まさにおっしゃるとおりで、
あくまでブロックすることが目的なので、
用量調節がないのだと私も考えます。
ただ、aizi様のように副作用が問題になってきますと、
その意味での用量調節があってもよいのではないかと
思いますが、現段階ではそこまで研究されていないと
いうことでしょう。

それからフルベストラントについて、
一般的に新薬の情報は
詳しくはその製薬メーカーしかわからないのですが、
私の調べた範囲では、フルベストラントは
日本では現在治験のPhaseⅡ、
つまり少数の患者さんに使って、
臨床効果などを確認している段階のようです。
つまり、何年か後に治験が終了して、
厚生労働省から認可されれば、
日本でも使用可能になるでしょう。

現在認可されて使用されている国での適応症は、
他の抗エストロゲン薬に耐性を示す閉経後進行再発乳がん
のようです。(2004年EUでの認可時)
つまり、おっしゃるとおり、
タモキシフェンなどのセカンドラインで、
しかも術後再発予防では使わないということらしいですね。
Re:タモキシフェンの服用量について
佐治(東京都) 2007/03/28
あまり話が細かくなると実地の医療から離れすぎそうですので、一部だけ修正意見です。ラロキシフェン、タモキシフェン、フルベストラントのいずれもレセプターのリガンドとして作用する薬剤ですので、作用に用量依存性はあります。癌細胞を死滅させる効果は基本的にはS字曲線で、ある一定以上の濃度に達すればほぼ同じ程度にききます。むつかしいのは細胞の種類やその細胞がいる環境、また機能目的(増える、動く、分化するなど)で、細胞にあたえる影響がかわってくる点です。うすくても、こくても同じ作用をする部分もあれば、薄いほうがよい方向に作用、濃すぎると悪くなる作用があります。このあたりはエストロゲンの作用の多様性に関わっているのであまりシンプルにするのが難しいのです。
なので、だいたいの濃度を確保して、100%ではないけど、充分治療上意味のある濃度をさがし、それがだいたい許容できる副作用で収まることを臨床試験で確認して標準となっていきます。こんな感じでご理解ください。
Re:タモキシフェンの服用量について
aizi(埼玉県) 2007/04/04
上野先生・佐治先生・佐藤先生
日々お忙しい中、タモキシフェンに端を発した質問もろもろに、専門的で難解な内容を、私にもわかるよう平易にご回答くださり、ありがとうございました。
モヤモヤしていた疑問が晴れて、気持ちがすっきりしました。
私は、現在44歳の独身で、出産経験はなく、タモキシフェン副作用で、子宮に諸症状が出るに及んで初めて、婦人科とご縁ができました。
一生涯の総量がティースプーン一杯ほどのごく微量のホルモン分泌が、女の一生の森羅万象をつかさどる…私たちは、実に微細なバランス均衡の中に生きているのですね。
ティースプーンのさらに何何分の一かが、乳癌環境に関与していて、それを制御するタモキシフェンの最適量を定量的にはじき出すなんて、それはやはり、至難なことなんだなあと、私なりに理解できました。
そんな難解な問題に、臨床の現場でチャレンジ続けるドクターやスタッフの方々に、あらためて感謝の思いを感じます。

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