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治療とその選択
CYP2D6無活性型のホルモン治療の薬について
サツキ(東京都) 2011/06/19
はじめまして。
乳がん3年目。44歳です。
CYP2D6無活性型の場合の薬についてお伺いしたいです。よろしくお願い致します。

病理は
ステージ2
腫瘍径 2,8センチ(術後病理で2センチをこえる)
リンパ節転移 なし
悪性度 2
ER、PR 共に強陽性(Allred score)
Her2 +3

治療は
温存手術
術後抗がん剤 Fec75 4回
放射線治療60グレイ
ハーセプチン 16回
現在ホルモン治療中 タモキシフェン、リュープリン

リュープリンが終了予定で、タモキシフェン単独になるため、CYP2D6の検査を希望して受けてみました。
結果、日本人では珍しい無活性型*5と、正常型*1でした。
無活性型の場合、薬を変えたほうがよいのでしょうか。
私が調べてみた限りでは

トレミフェンとリュープリン
アロマターゼ阻害剤とリュープリン
タモキシフェンとリュープリン(変更なし)

の選択肢になるようですが、どれがいいのでしょう。また、他にありますでしょうか。
今、ホルモン治療は2年半ほどたちましが、変更した場合、何年続ければいいのでしょうか。
どう調べてもよく分からず、少しでも情報やご意見を伺えれば、と思い、投稿させていただきました。
主治医の先生は、希望があれば変更しましょうというご意見でした。
どうぞよろしくお願い致します。



   
Re:CYP2D6無活性型のホルモン治療の薬について
向原徹(兵庫県) 2011/06/23
サツキさま

こんばんは、神戸大学、腫瘍・血液内科の向原と申します。
レスポンスが早くできず申し訳ありません。

いただいたご質問は、とてもとても難しい課題で、実は明確な答えを持っている医師は世界中どこにもいないと思います。

無活性型の*5と活性型の*1の遺伝子型ですので、両方無活性型の方に比べると、CYP2D6の活性は高いと考えられますが、両方活性型の方に比べると、低いということになります(つまり中間)。

既におそらくご存じのように、タモキシフェンは体内で薬理作用をもつといわれるエンドキシフェンへ変換されます。その時に使われる酵素がCYP2D6なのですが、その活性が弱いと、エンドキシフェンが少なくなる、これはある程度確かな事実として報告されています。
また、タモキシフェンの効果が、どうもCYP2D6の活性が弱い患者さんでは有効性が低そうだ、というデータもあります。ただ、これらのデータはすべて後ろ向き研究といって、過去に別の目的でされた研究に参加された患者さまを対象に、あと付けでされていますので、どうしても信頼度が劣ってしまうのです。つまり、たまたま偶然そういう結果になった可能性が否定できないのです。実際、CYP2D6の活性によって、タモキシフェンの効果はあまり変わりません、という逆の結果も報告されているのです。エンドキシフェンが低いといっても、フラスコの実験では、十分効果を出すレベルですので、「あまりCYP2D6活性はあまり関係ないよ」と主張する先生は、そうおっしゃいます。

これが、世界で明確な答えをもっている方はいない、と最初に話した理由です。

当然私もどうしたらよいか分かりませんが、ひとつは、リュープリンが終了されるとのことですので、現在閉経されているのかどうか、リュープリンを止めて生理が再開されるかどうか、また血中のエストロゲン、やFSHなどを参考に検討されるのはよいかもしれません。タモキシフェンを内服されていると実際閉経されているかどうか、ホルモンの検査をしても難しい場合もありますが、NCCNのガイドライン(米国)でも、閉経前の患者さまでは2-3年タモキシフェンを内服された時点で閉経されているかどうか検討しなさい、閉経されているならば、アロマターゼ阻害薬に変更を考えなさい、とあります。

現在閉経されているようであれば、単純に(CYP2D6と関係のない)アロマターゼ阻害薬に変更ということもオプションになると思います。ただ変更した場合は、定期的に、エストロゲン、FSHを測定するなど、慎重な管理が必要だと思います。また変更され場合は、タモキシフェンとあわせて、5年間行うのが一般的ですが、最近ではそれ以上アロマターゼ阻害薬を続けたほうがよりよいというデータもあります。

ご参考にしていただければと思いますが、最終的にはやはり主治医の先生とよくご相談なさってくださいね。

治療が上手く進むことをお祈りします。
Re:CYP2D6無活性型のホルモン治療の薬について
サツキ(東京都) 2011/06/24
向原先生、とても詳しく丁寧な説明をしていただき、ありがとうございました。
とてもよく分かりました。自分も患者として、今まで乳がんのことを色々調べたり、勉強したりしてきたのに、今回この事は本当によく分からなくて悩んでしまいました。まだ明確な答えのない、未知の領域なんですね。
その中でも、現在の考え方や具体的な説明をいただき、本当に感謝しています。治療を受けるのに、知らない分からない、というのは私にとってとてもこわい事だったのですが、今の状況を知る事ができ、少し安心しました。
今後は、主治医の先生とよく相談し、決めていきたいと思います。
本当にありがとうございました。

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