掲示板「チームオンコロジー」

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患者と医療者のコミュニケーション
抗がん剤治療するか否か
なつ(千葉県) 2011/09/26
上野先生、諸先生方・・・初めまして。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

●5年に右乳ガン、温存、
トリプルネガティブ、グレード3、乳頭腺管ガン、
脈管侵襲あり、断端陽性、リンパ節一個転移ありで
術後化学療法(EC4+タキソ4)、放射線30回をしました。

●今回、左乳ガン(原発・乳頭腺管ガン/一部のみ軟骨成分伴う浸潤ガン)、全摘、トリプルネガティブ、
グレード1、脈管侵襲なし、断端陰性、
リンパ転移なしでした。
初めは抗がん剤をやるような感じで主治医に言われていたのですが、
病理結果後、予後が良いし内容的にも主治医から抗がん剤をしなくても良いのでは?と言われました。
自分としてはする気でいたのですが、一回五年前に抗がん剤投与していることもあり、するメリットもないと言われ悩んでます。
5年前の32歳の時から5年を無事に迎え、結婚もしてこれから
妊娠を・・・と考えてた矢先の今回の出来事だったのですが、
やはり今後妊娠を考えているので、抗がん剤をしない方が良いのか、凍結して抗がん剤をするかを悩んでいます。
母も12年前乳がんになり、祖母は卵巣がんで亡くなってる為、家族性乳がんと言うことと(遺伝子検査はしてません)
トリプルネガティブ・両側異次性乳がんを考えると、無治療は怖いし、でも妊娠を・・・と思うと悩んでます。
恐らく、将来妊娠を希望してる為、凍結も考えていると主治医に前に話していたので、その辺りも考慮に入れて、主治医はそう言ってくれているのでしょうか?
抗がん剤の話を私がしつこく言ってるもので、もしやるならECかゼローダと言われました。
そして、ECは一回やってる為、効き目がなさそうだから、やるならゼローダが良いのでは?と言われました。
ゼローダは再発転移に使うものだと思いますが、
原発で再発転移予防に効き目はあるのでしょうか?
もし、今後再発転移した際に、今回ゼローダを使ったら、もう使えなくなりますか?
あと、ゼローダは卵巣機能障害にはなりませんか?

仮に無治療になった場合、どれくらい経ったら妊娠は可能ですか?

どちらかと言えば、先生も抗がん剤をやらなくても良いと思われますでしょうか?
とても悩んでます。

お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い致します。

   
Re:抗がん剤治療するか否か
向原徹(兵庫県) 2011/09/26
なつ様

こんにちは、神戸大学腫瘍・血液内科の向原と申します。
とても、お悩みな様子がとてもよくわかります。沢山勉強もされているようにお見受けしますが、何処にも答えが書いていないのではないかと想像します。そうなると、余計に不安になりますね。

ただ、化学療法をすべきかどうかは、今分かっているすべての知識を使っても、1つの答えは残念ながらないと思います。
そこで、どういう風なことを考えていく必要があるかを書きたいと思います。

①今回の左乳がんの再発のリスク:癌の大きさ(正確には侵潤径)も参考になるかと思います。また、可能であればKi67というマーカーもあれば参考になるかもしれません。
②ECが無効か:これについては分かりません。左に出てきた乳がんは、ECの前にできて耐え抜いてでてきたのか、ECの後にでてきたのか、誰にも分からないからです。ただ、ECを術後に受けられた患者さんが、再発(例えば肺転移など)をされた場合、5年の年月が経っていれば、再度ECなどをトライすることはありますし、効果がでることもあります。ですので、全く効果がないか、と言われたらそうは言えないとは思います。
③心リスク:ECを4コースされているということは、標準量でされたとすると、300mg/m2 (m2は体表面積、1回75mg/m2を4回)点滴を受けてらっしゃると思います。もう4回されてもトータル600mg/m2ですので、他のリスク因子がなければご年齢からすると心機能に影響する可能性は低い(<5%)と思われますが、やらない場合よりは気にする必要はあると思います。
④閉経のリスク:EC療法での閉経のリスクは私の知る限りあまり分かっていないと思います。よく似た治療のAC (doxorubicin+cyclophosphamide)と同じであれば、ASCOという学会のガイドラインでは、40歳未満の方だと、閉経してしまうのは<20%とされています。ただ、前回にも受けられているので、程度は分かりませんが、それより上にみつもる必要があるかもしれません。ちなみにゼローダについても同様に閉経のリスクはよくわかっていないと思います。ただ、ゼローダは身体の中で5FUという抗がん剤に形を変えて作用しますが、その5FUは一般に閉経のリスクは低いとされています。
⑤ゼローダ:ゼローダに関しては、既に書かれていたように、術後化学療法としての役割は不明です。65歳以上の患者さまを対象にCMF療法やAC療法とゼローダを比較した臨床試験では、ゼローダが劣っているという結果でしたが、何もしない場合と比べられた訳でないこと、EC療法を既に受けてらした患者さんはほとんどその臨床試験に参加していないこと、などからなつ様にゼローダをすべきか否の答えは与えてくれません。

このようなことを総合した上で、どうしていくのか相談の上、コンセンサスを作っていく他ないのだと思います。

もし化学療法をされることになれば、③にも書いたように、閉経のリスクは0ではないですから、受精卵保存について専門医とdiscussionされるほうがよいと思います。

無治療になった場合の妊娠ですが、特に外科的な創が癒えれば可能だと想像しますが、その場合再発のリスク、をどのように考えるかだと思います。①のことと、ご年齢のことを含めて、主治医の先生とどの時期に妊娠を考えるか相談されるべきだと思います。一般にtriple negative乳がんの再発率は3年以内が高くてその後は減っていくとされています。また化学療法中はご存じだとは思いますが、妊娠は避けるべきです。一般に化学療法終了から半年は避妊していただくように教科書には書いてあります。

答えにはなっていませんが、頭の整理、どのようなことを主治医とdiscussionすべきかの参考になれば、と思います。

向原

Re:抗がん剤治療するか否か
なつ(千葉県) 2011/09/29
向原先生、お忙しいなかお返事を頂きまして
ありがとうございます。

お忙しいのに、長い文章を書いて下さったこと、
とても嬉しく感動してしまいました。そして、とても解りやすい説明をありがとうございます。

①腫瘍の大きさですが、4.6×4.6×2.6cmです。
ki-67=18% です。

もし、抗がん剤をすると言う選択肢を選んだら、
薬剤はEC単独又はゼローダ以外に何かありますでしょうか?
タキサン系、T/C療法はいかがでしょうか?

度々、恐縮ですがよろしくお願いいたします。
Re:抗がん剤治療するか否か
上野 直人(海外在住) 2011/09/29
非常にどう解釈すべきかがとても簡単でないケースですので。いくつかのポイントを整理するべきですね。
つまり、向原先生、主治医の先生と何が確実な情報なのか、何が確実でないのか、何の情報がないのかに分けるべきです。

確実ではない。
1.タキサン系以外とアンスラサイクリン系以外の化学療法、たとえばゼローダが意義があるかは未知数です。
2.化学療法をすべきか? 大きさと若さを考えると考慮の必要? ただ、閉経のバランスをどうとらえるかですね。

確実であるのか・
1.子供が欲しいなら、それが優先すべき事項であり、これに併せて治療計画をかんがえるべきですね。結局はあなたの人生なのです。
2.つまり今後の人生設計が治療計画に大きな影響を与えると思うので、その点は主治医とのコミュニケーションが重要です。

確実。
1.遺伝子Brca1 とBrca2を図るべきですね。
Re:抗がん剤治療するか否か
向原徹(兵庫県) 2011/10/04
なつ様

返事が遅くなり、申し訳ありません。

腫瘍の大きさからは、もし前治療など前回お話したような要素がなければ、化学療法をお勧めするところだと思います。

化学療法の選択肢は一つではないですが、おっしゃるようにTC療法は一つだと個人的には思います。ただ、ここにはいろんな考え方がありうるので、一番はやはり主治医の先生とお話されることだと思います。TC療法や、タキサンのみ、について尋ねてみられたことはありますか?

とてもよく勉強されて、的外れなことは何もおっしゃっていないので、自信をもって聞いてみられることだと思います。

応援しています。

向原
Re:抗がん剤治療するか否か
なつ(千葉県) 2011/10/06
上野先生、お忙しいところ ご回答下さいまして
ありがとうございました。

先生のおっしゃる通り、確実であるもの・確実でないものに
分けて自分なりに少しずつ答えが出てきました。
自分で決めたことには、後悔はしない!!と思い、
先生の提示して頂いたことも含め、考えて答えを最終的に出したいと思います。

遺伝子検査は今更という感じもあるので、
今のところはしないつもりです。
子供のこととかもあるので、した方がいいのかもしれませんが・・・

本当にありがとうございました。

          
Re:抗がん剤治療するか否か
なつ(千葉県) 2011/10/06
向原先生、
お忙しいところお返事を頂きまして
誠にありがとうございます。
先生の温かみのあるお言葉に心がとても楽になり、
感激してしまいました。
とても励まされました。スゴク嬉しかったです。

主治医が年配の先生で且つお忙しいので、
さほどじっくりははなしてない部分もあるのですが、
今回に限っては二度目の乳がんということもあり、
主治医もじっくり対応してくれてますので、
向原先生のおっしゃる通り、主治医とじっくり話してみたいと思います。
結局は自分の人生だから、先々後悔だけはしないように
最終的に自分の価値観や想いを大事に治療に励んでいきたいと思います。

お忙しい中、本当にありがとうございました。
また、何かあったらよろしくお願いいたします。

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