掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
乳がんの骨髄転移に骨髄移植は有効ですか
西澤 昌子(群馬県) 2011/11/17
45歳になる妹のことで質問があります。妹は術前化学療法をした後、2008.1月に全摘手術をしました。ステージはⅢAで、リンパ節転移は7個でした。その後、ホルモン療法をしていたのですが、腫瘍マーカーが徐々に高くなっていくので、CTやPETには何も移ってなかったのですが、ここ1年位TS-1を服用してはいました。そして、先月受けたCTで骨や肺、全身のリンパ節に転移が認められました(悪性リンパ腫の疑い)。ただ、乳がんの転移だろうということで11月11日から通院でのエリブリンの治療をはじめることにしたのですが7日頃に体中に青あざがあるのに気づき主治医の先生に話したところ、血液検査となり、結果血小板の数値が100000とのことで、服用中止即入院となりました。現在、輸血や抗生剤などを点滴しながら数値のよくなるまで抗がん剤を打てずにいるのですが、先生から抗がん剤をすると急性悪化する可能性もあるので、抗がん剤をやめるという選択肢もあるといわれました。本人は、熱はあるもののとても元気でいるのですが、脊髄に転移したということでこれから急激に悪くなるとのことです。素人考えで、骨髄移植をすれば生きるすべがあるのではと考えてしまいます。今、先生は学会でいないので、直接聞けずにいますがアメリカの上野先生は乳がんと骨髄移植がご専門だということで、アメリカであればそのような選択肢もあるのかどうか教えていただけたらと思います。

   
Re:乳がんの骨髄転移に骨髄移植は有効ですか
向原徹(兵庫県) 2011/11/22
西澤さま

はじめまして、神戸大学病院、腫瘍・血液内科の向原と申します。

エリブリンは多少血小板減少の原因となるお薬ですが、血小板10,000(100000と書かれていましたが、青あざがあったことから1万と想像します)となるのは、稀だと思います。となると、骨髄にご病気が住みついてしまったような病態(骨髄癌腫症といいます)も疑わなくてはなりませんが、そのように主治医の先生からは言われていますか?いただいた書き込みでは、「脊髄に転移」と書かれていますが、骨髄でしょうか?

骨髄移植について書かせていただくと、これは主に白血病に使う治療法です。白血病は白血球ががん化した病気ですが、骨髄移植をする理由は2つあります。1つは、骨髄=白血球の工場ですので、他人の"工場"を借りることで、白血球が0になるような大量の化学療法を行うことができます。もう1つは、移植される骨髄にとっては患者さんの白血球細胞は他人の白血球なので、それを攻撃してくれる効果が期待されます。このような理論で、骨髄移植を用いた大量化学療法は一部の白血病では標準治療になっていますが、乳癌ではその有用性は示されていません。

もし骨髄癌腫症という病態になっているとすれば、抗がん剤をしないと白血球や血小板が下がったまま、一方で抗がん剤が効かなければ抗がん剤の副作用でより白血球や血小板が下がってしまう、というジレンマに立たされます。ですので、抗がん剤が効果的で、骨髄の細胞をやっつけて、白血球や血小板を上げる方向に働く見込みがどれだけあるか、ということを考える必要があります。もちろん、白血球や血小板への副作用が少ない化学療法をできれば選択したいところです。そういった観点から、過去に受けられた化学療法が重要な情報になりますが、手術のあとは化学療法を受けられていますか?

向原
Re:乳がんの骨髄転移に骨髄移植は有効ですか
上野 直人(海外在住) 2011/11/27
骨髄移植が骨髄転移に効くかといわれると答えは、不明確です。がん自体のコントロールはあるかもしれませんが、明確な生存延長と直結していません。それだけに臨床試験の枠を超えて行うことはお勧めできません。
Re:乳がんの骨髄転移に骨髄移植は有効ですか
朝倉 義崇 (沖縄県) 2011/11/29
沖縄県で血液内科を中心に診療している医師です。
妹さんの病状が急激に悪くなる可能性を担当の先生から説明されたとのこと、ご心配ですね。

血液内科医としての立場から、コメントします。
まず一点確認なのですが、骨や肺の転移、全身のリンパ節転移、骨髄転移に関して、病理学的な検査は受けられましたでしょうか?
当初、悪性リンパ腫の疑いとされたそうですが、これらの病変部位からは乳がんとは別に悪性リンパ腫も十分考えられ、非常に病状の進行が早いことも予想されます。
悪性リンパ腫の場合、全身に病気が広がっていても抗がん剤により治癒の可能性がありますので、もし病理学的検査をされていないようでしたら、検査をお勧めします。

次に骨髄移植についてお話しします。
骨髄移植(造血幹細胞移植)には、自分の造血幹細胞(幹細胞)を用いる自家移植と、他人の幹細胞を用いる同種移植があります。

自家移植は、予めがん細胞の混入のない自分の幹細胞を保存しておいて、骨髄が空っぽになるくらいの大量の抗がん剤を用いた後に、自分の幹細胞を戻す、という治療です。
一般的に骨髄にがんが転移している場合、がん細胞の混入なく自分の幹細胞を保存することは非常に難しく、骨髄にがん細胞がなくなった後でなければ自家移植は行われません。
向原先生や上野先生が言及されましたように、乳がんに対する自家移植は、病気の症状や大きさをコントロールできる可能性はありますが、明確な生存延長効果は示されていません。

他人の力を借りる同種移植は、自家移植と同様に骨髄が空っぽになるくらいの大量の抗がん剤を用いた後に、他人の幹細胞を頂いて自分に移植する治療です。
自家移植と異なる点は、がん細胞の混入のない細胞を用いることが出来ること、他人の免疫力によりがん細胞を根絶させられる可能性があること、の二点です。
一般に56歳以上の方では、移植前の抗がん剤を減量したミニ移植が行われます。

他人の免疫力といいましたが、免疫は万能ではありません。
第一に、移植後しばらくは免疫の力が弱いため、移植前に十分にがんの勢いがなくなっている、できればがんが殆どなくなっている状態であることが最も重要で、腫瘍の勢いが強いと免疫力がすぐに負けてしまいます。
第二に、アレルギーやリウマチ疾患は自分の免疫が自分に病気を起こす病気ですが、同様のことが同種移植でも起こります。
つまり、他人の免疫が自分のからだを攻撃することがあり(GVHD)、時に命に関わることもあります。

これらのことから、とても状態が良い方であっても、一般に同種移植では、おおよそ三割の方が治療の合併症で、別の三割の方が病気の再発で命を落とす危険があります。
また、病気の勢いが強い方では、合併症や再発の割合はさらに増す可能性があり、患者さんや御家族とよく相談して治療方針を決定しています。

残念ながら、これまでの国内外の検討により、乳がんを含む固形がんでは同種移植の効果はみられませんでした。

従って、乳がんに対しては自家移植も同種移植もお勧めできないというのが現状です。
尚、上野先生が言及された臨床試験ですが、日本国内で乳がんに対する骨髄移植の臨床試験を行っている施設はないようです。

以上、長文となりましたが、御参考になれば幸いです。
よろしくお願いします。

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