掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
妊孕性と術後補助療法について
T(東京都) 2012/04/06
不妊治療をされていた女性が、乳がんstageⅠと診断され、術前生検でluminal Aでした。術後診断が重要になりますが、術後補助療法を乳腺チーム(多職種)で検討する予定です。

リスクとベネフィットを説明した上で、もし患者さんが妊娠を希望された場合、患者さんの意思を尊重して術後補助療法をしないという選択肢もあると思います。

補助療法として、再発リスクに応じて、ホルモン療法、術後補助化学療法を考慮しなければなりません。タモキシフェンは妊婦禁忌であり、5年間内服終了後に妊娠を希望されれば、不妊治療の再開もあるかもしれません。
化学療法の影響(妊孕性、催奇形成のリスク)についてPubmedで調べたところ、LH-RH agonist先行投与あるいは併用下で化学療法を行うと、卵巣機能が保存されるという報告が散見されましたが、比較的新しいRCT(JCO 30:533-8,2012)はnegativeでした。現状としてはLH-RH agonistはcontroversialになりますか?また、受精卵保存も選択肢にあげられます。

国立がん研究センター中央病院から2007-2009年に手術を受けた40 歳以下の女性乳癌患者を対象とした実態調査で、妊孕性に関する情報提供率は56%と報告されています(癌と化学療法 39:399-403,2012)。この数値は一般的に高いですか?

今回、妊孕性の問題について情報交換できればと思い、投稿させて頂きました。

   
Re:妊孕性と術後補助療法について
C(東京都) 2012/04/06
2010年に行った乳癌学会の乳腺専門医(おもに外科の先生)に対するアンケート調査(回収率52%)(Shimizu et al. Breast Cancer, 2012 Jan 24, e-pub ahead of print)では、83%の医師が若い患者さんと積極的に妊孕性についての話をすると回答されています(熱心な方が回答されている可能性はあるので、少し高めに出ている可能性はありますが)。ただ積極的に患者さんが診察室で妊孕性についての話を持ち出すことはもっと少ないようです。治療の場で、妊孕性などのサバイバーシップに関連したことについて患者さんが話しやすい場時間を生み出すこと、あとは生殖医療の専門家との連携などが課題だと思います。
Re:妊孕性と術後補助療法について
A(東京都) 2012/04/18
妊孕性については、主に外来診療においてICされることが予想されます。
その際、妊娠希望の有無、リスクとベネフィットを説明される患者さんへの話し方、接し方などで考慮すべきことについて、アドバイスお願いします。また、同席される看護師はどのようなことに配慮していますか?

実際に、患者さんが妊娠を希望され、術後補助療法をしなかった経験があれば、その後どのようなフォローアップをされたかアドバイスお願いします。
Re:妊孕性と術後補助療法について
C(東京都) 2012/04/18
乳がんの再発リスク、治療によりどれくらい再発リスクが下がるか、治療後に予想される卵巣機能、妊娠や排卵誘発をすることの安全性についての情報提供は、そのエビデンスの限界も含め、乳がんの治療医からの話の中でおさえるべきポイントと思います。
一方、生殖医療の観点から、治療前の卵巣機能の評価(がんがなくても高齢になってくると妊娠しにくくなりますし、高リスク妊娠となります)や妊孕性温存の方法に関する選択枝についての情報提供は重要ですそのほかパートナーの有無、家族の考え、経済的な状況なども踏まえた、患者さんご自身の判断が必要と思います。生殖医療に関しては倫理的な問題が発生する可能性がありますので、乳がん治療医と生殖専門医の間で一定のルールをつくっていく必要でしょう。
看護師が同席する場合には、患者さんが、たくさんの情報のなかで、自分自身の考えを整理することを手伝うことが大事だと思います。
術後に妊娠をするかどうかをランダム化することができない以上、乳がん術後の妊娠や排卵誘発が安全であるといいきることはできないと思います。妊娠中、出産後も、赤ちゃんが生まれると忙しくはなりますが、定期的にフォローをすることが大切だと思います。
Re:妊孕性と術後補助療法について
B(東京都) 2012/04/19
建設的なコメントありがとうございます。

>乳がん治療医と生殖専門医の間で一定のルールを作っていく必要があるでしょう。

自施設では乳腺外科医と周産期母子センターの医師で連携を進めているとのことです。
総合病院ではない、がんセンターなど周産期母子センターなどがない施設ではどのような連携を作られていますか?院内に産科がないとなると他施設、地域連携が重要に思います。

他施設の医師、看護師さん、患者さんからのご意見お待ちしております。
妊娠希望の有無、リスク/ベネフィットを説明される患者さんへの話し方、接し方などで考慮すべきこと、同席される看護師はどのようなことに配慮していますか?
Re:妊孕性と術後補助療法について
朝倉義崇 (沖縄県) 2012/04/21
沖縄で血液がんを中心に診療している医師です。血液がんでは、診断した時点で治療までの時間的猶予が少なく、妊孕性を温存するために可能な手段も限られていることが多いですが、最近、凍結保存した未受精卵により悪性リンパ腫の治療後に妊娠した方のニュースがありましたね(http://sankei.jp.msn.com/life/news/120308/trd12030820270025-n1.htm)。

リスクとベネフィットは、患者さん毎に異なり、一概に比較することは難しいですので、我々に出来るのは、考えうる全ての選択肢を提示して、患者さんや御家族が納得できる決断をお手伝いすることだと思います。

もし妊娠を希望され、今回の術後補助療法のようにある程度の時間的猶予がある場合には、受精卵・未受精卵の凍結保存と化学療法中のLH-RH agonistは、どちらも選択肢となりえると思います。

また、がんの診断後という心の余裕がないときに、「患者さんが医療従事者に妊孕性についての話をすること」は、やはり大変困難だと感じます。同様に、がん治療後の性生活などについても、相談しづらいナイーブな事ですが、とても大事な事ですよね。

「妊孕性をはじめとしたサバイバーシップについて患者さんが話しやすい場時間を生み出すこと」は、簡単に実現できないことだとは思いますが、例えば、待合室や病棟の目に付きやすい場所に、自由に参照できるように妊孕性や性生活に関するパンフレットを置く、といった小さなことからであれば、私が勤務しているような地方の小病院でもできそうです。

そして何より「生殖医療の専門家との連携」、私もこれが最も大切だと思いますが、離島県である沖縄では、なかなか難しいようです。

こうした情報が自由に討論出来る場も大事ですね。このようなテーマを提示して頂いて、ありがとうございます。
Re:妊孕性と術後補助療法について
C(東京都) 2012/04/23
離島!確かに。でもきっと沖縄にも生殖医療の先生はおられて、まだ接点がないだけなのかもしれません。オンコロジーにかかわる医療者から生殖医療の専門家への働きかけと対話が必要ですね。

ところでLHRHA agonistによる乳がん患者の卵巣の保護に関しては、ドイツ(ZORO)とイタリア(PROMISE-GIM6)の試験で異なる結果で、また詳しく論文を読んでいないのですが、移植の患者さんでも、最近のランダム化比較試験でnegativeな結果が出ているようですね。実地臨床で使用するエビデンスとしては不十分で、今のところお勧めできない方法なのではないかとおります。
Re:妊孕性と術後補助療法について
T(東京都) 2012/04/24
本邦におけるデータを知らないのですが、最近読んだ総説では若年乳癌患者(35歳未満と定義)は再発リスクが高く、予後不良であること、エストロゲン陽性腫瘍パラドックスが指摘されていました(The Breast 20(2011)297-302)。これは、やはり日本人でも該当するのでしょうか?

>考えうる全ての選択肢を提示して、患者さんや御家族が納得できる決断をお手伝いすることだと思います。

とすれば、妊孕性温存を期待して可能な手段を全て講じると考えれば、受精卵・未受精卵の凍結保存と化学療法中のLH-RH agonistは、どちらも選択肢になりませんか?
Re:妊孕性と術後補助療法について
朝倉義崇 (沖縄県) 2012/04/25
>でもきっと沖縄にも生殖医療の先生はおられて、まだ接点がないだけなのかもしれません。

そう願います。ただ現実問題として、地方では化学療法中の妊孕性が問題となるような患者さんの絶対数が少なく(私自身は沖縄に来てからの1年でお一人も担当していません)、また生殖医療の中でも、より専門的な知識・技術・経験を要する治療と思われますので、地方の生殖医療の先生方では対応が難しいのではないかと想像します。
ですから私が主治医であれば、東京など中央の先生に紹介すると思います。

>実地臨床で使用するエビデンスとしては不十分で、今のところお勧めできない方法なのではないかとおります。
>妊孕性温存を期待して可能な手段を全て講じると考えれば、受精卵・未受精卵の凍結保存と化学療法中のLH-RH agonistは、どちらも選択肢になりませんか?

LH-RH agonistよりも未受精卵の凍結保存、未受精卵よりも受精卵の凍結保存の方が、安全性・確実性が担保されていると認識していますが、急速な病状やパートナーの有無などによって全ての選択肢が可能とは限らないので、あらゆる可能性を排除せずに患者さんにご説明することが重要だと思っています。

LH-RH agonistのエビデンスが不十分であるのはご指摘の通りで、私もLH-RH agonistによる卵巣機能の温存についてはあまり期待できないと思っています。ただ、エビデンスが不十分であると言うことも含めて患者さんにご説明し、その上で患者さんの選択を尊重したいのです。

その選択肢のなかには、化学療法を延期あるいは減量する、もしくは化学療法自体を行わない、というオプションについても、リスクを含めて提示するべきだと考えます。

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