掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
HER2陽性乳がんの治療について
T(沖縄県) 2012/06/27
お世話になります。妻の乳がんのことで相談させて頂きます。
11年3月より術前化学療法としてFEC(4クール)、11年6月よりハーセプチン(3W)+タキソール(1W×12回)を行い、11年9月に右乳房全摘手術を行いました。術後、ホルモン治療としてノルバデックス投与とともに、ハーセプチン(3W)を再開し、この12年6月に完了する予定です。お手数をお掛け致しますが以下についてアドバイスを頂けると助かります。

(1)脳転移を防ぐため、ハーセプチン完了後ラパチニブを服用したいと考えております。治験も進んでいると伺いますが最新の情報では治療の上乗せ効果はいか程でしょうか?

(2)混合治療を避けるため、主治医と相談のうえラパチニブを自費で購入し服用することは治療に支障が生じるものでしょうか?(病院に迷惑がかからないかが心配です)

(3)ハーセプチンについて 最近2年投与を行う機関が増えてきていると伺います。再発・転移はしていない状況ですが予防のため更に1年間の投与を希望した場合、投与可能なのでしょうか?

以上、どうぞ宜しくお願いします。

   
Re: HER2陽性乳がんの治療について
向原徹(兵庫県) 2012/07/11
Tさま

返事が大変おそくなり、申し訳ありません。
神戸大学、腫瘍・血液内科の向原と申します。

1)のご質問で、「治験も進んでいる」とおっしゃるのはALLTO試験のことでしょうか。ALLTO試験では、標準治療であるハーセプチンを1年間する群と、①ラパチニブを1年間する群、②ハーセプチンを4か月してラパチニブを8か月する群、③ハーセプチンとラパチニブを1年間する群、をそれぞれ比較する臨床試験です。この結果はまだ発表になっていません。したがって、現在のところ世界のどの地域においても、ラパチニブを術後療法で用いることは適応上認められていません。またこの試験では、Tさまがお考えのハーセプチンを1年した後、ラパチニブをさらに追加すべきか、という答えを与えてくれるわけではありません。ラパチニブの脳転移に対する効果についても、ALTTO試験の結果の一部として報告されるかもしれませんが、まだ誰もしらないと言わざるをえないと思います。

2)に関しては、1)を踏まえて主治医の先生と相談されることをお勧めします。

3)については、2年投与を行う機関が増えている、というのは、私自身は聞いたことがありませんでした。HERA試験という臨床試験ではハーセプチンなし、ハーセプチン1年、2年ハーセプチンという群があったのですが、ハーセプチン2年のデータがまだオープンになりません。したがって、今のところ1年が標準で、通常は1年以上投与することは、勧められないと思います。現在は、むしろハーセプチンの投与期間を短くしても大丈夫じゃないのか?という疑問に答えるような臨床試験が多く進行中で、長くしたほうがよい、という考えの医師は少ないのではないかと想像します。

ご質問の内容から、とても奥様のことを思っていらっしゃって、勉強されているのが伝わります。
ご質問いただいた内容を、主治医の先生にもなげかけてみられることをお勧めします。よく勉強されているからこそ、疑問も生じるのは当然と思うからです。
Re: HER2陽性乳がんの治療について
あい(東京都) 2012/07/13
Tさま

はじめまして。ちょうど5年前の今日、術前化学療法を始めた乳がん患者あいと申します。
夫として奥様をご心配なさるお姿、羨ましく拝読させていただきました。それに比べ私の夫と言ったら、、、

術後の化学療法が終わりを迎え不安が募るお気持ち、よくわかります。特に1,2年は再発のことが頭から離れず私も落ち着かない日々を過ごしたこともしばしばでした。

少しでも可能性があるのなら、と更なる化学療法を検討なさりたいお気持ちもわかります。でもそれは本当に必要なことなのでしょうか?
分子標的薬は一般的な抗がん剤に比べ副作用が少ないとされてはいますが、全くないわけではありませんし、長く続けることで新たな問題が出てこないともいえないように私は思うのですが。

何をどれだけやっても再発してしまうことがあるのも事実ですが、それと同時にTさまの奥様の身体にはもうがん細胞が一つも残っておらず術後のハーセプチンやホルモン療法も無駄、という可能性もあるのではないでしょうか。
それならば、身体に新たな負担をかけることよりも化学療法からの解放感を享受するのもよいのでは、と思います。

これは一患者としての勝手な考えです。お気に触りましたら申し訳ございません。
一番大事なのは患者本人が納得がいくかどうかです。疑問や不安がある時はどんどん主治医と話し合ってください。

Tさまの奥様の治療が順調に進みますようお祈りいたしております。

Re: HER2陽性乳がんの治療について
T(沖縄県) 2012/07/23
向原先生
あい様
 
非常に丁寧かつ暖かいアドバイスをくださり、誠にありがとうございます。
またコメントに気づかず返事が遅くなりましたことをお詫びいたします。

腫瘍内科の最前線で戦っていらっしゃる先生と、同じ乳がん患者としての経験を持つ あい様のコメントを拝読し、改めて考えさせられました。
「あの時ああすれば良かったと後悔したくない」「再発・転移した場合の為に薬を温存するより、今できる予防に全力を注ぎたい」との思いが先走ってしまい、決して充分でない情報に基づき行動を起こそうとした自分を恥ずかしく思います。

相応の治療だからこそ、治療にあっては理論だけでなく、多少時間を要しても充分なエビデンスを待ち、様々なリスクを排除したうえで適用する。そして、現時点で行うべき治療を行ったのであれば、あとは前向きに自分らしく生きる。このことが妻の為になるのではないかとの思いに変わりつつあります。

いずれにしましても、改めて主治医の先生と相談させて頂き、納得した上で方向性を決めていきたいと考えております。
他では得がたい大変貴重なアドバイスを頂き本当に感謝しております。
向原先生のご活躍、あい様のご健康を心よりお祈りしております。

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