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治療とその選択
センチネルリンパ節生検の意義について
みさき(東京都) 2012/12/02
乳癌の手術を受ける予定の患者です。

ACOSOGZ-0011試験の結果からすると、センチネルリンパ節生検陽性時の腋窩郭清は基本的には必要ないと理解したのですが(「医療関係者の方」の掲示板で津川先生が問題提起されておられ、それも拝読しました)、そうであれば、郭清の要否判別のためにセンチネルリンパ節生検をする必要も基本的にはないという帰結になるのではないでしょうか。
また、St. Gallen 2011で示された治療指針によれば、Luminal A(ER+or PgR+、HER2-、Ki-67<14%)の患者は基本的に内分泌療法単独で良いとのこと、そうであれば、術後補助療法を決めるためにセンチネルリンパ節生検をすることも基本的に必要ないことになりはしないでしょうか。

そうしますと、ACOSOGZ-0011とSt. Gallen 2011で示された結果を踏まえてもなお、センチネルリンパ節生検をする意義としては、多数(3個以上?)のリンパ節転移が認められる場合には、やはり、①腋窩郭清が必要だから(?)、②Luminal Aでも化学療法が必要だから(?)、多数のリンパ節転移がないかどうかを調べるために、センチネルリンパ節生検をする必要がある、と理解すればよいのでしょうか。

①に関しては、腋窩郭清は予後に影響しないと聞きましたが、そうだとすれば局所再発のコントロールのためには、QOLを著しく低下させる腋窩郭清ではなく、他の治療法で対処すればよいのではないでしょうか。
②に関しては、手術で摘出した腫瘍の病理検査の結果得られる情報やオンコタイプDXなどで、化学療法の要否を判断できるのではないか?と考えました。また、画像診断も含め臨床的にはリンパ節転移がない場合で、例えば腫瘍径が1㎝以下、Ki-67が5%、というような場合でも、センチネルリンパ節生検(が陽性でさらに腋窩郭清)をしてみたらリンパ節転移が多数だったという確率がどの程度あるのだろうか?とも考えてしまいます。

センチネルリンパ節生検のみで郭清を行っていない人でも、約3割がリンパ浮腫を経験したという報告もあると聞きました。3割は極端にしても、何らかの合併症が起きる可能性はゼロではないと理解しております。
加えて、私は術前ホルモン療法をしたため、センチネルリンパ節生検の精度はどうなんだろうかという疑問もあります。
長くなりましたが、質問をまとめると以下のとおりです。
(1)ACOSOGZ-0011とSt. Gallen 2011で示された結果を踏まえてもなお、センチネルリンパ節生検をする意義をどのように考えたらよいでしょうか。
(2)術前ホルモン療法後のセンチネルリンパ節生検の精度はどう考えればよいでしょうか。
ご教示いただけますと幸いです。

   
Re:センチネルリンパ節生検の意義について
KEN(愛媛県) 2012/12/07
愛媛県の乳腺外科医です。近年確かにセンチネルリンパ節陽性の際、ACOSOG Z-0011試験に示されたように腋窩郭清そのものの意義が問われていますし、センチネルはあくまでも検査の一つに過ぎないとする考えもあります。ただリンパ節郭清については、これは大きな問題でいっぺんに答えが出ない問題であることをまずご認識ください。センチネル関係では各種臨床試験が行われていて、術前リンパ節転移がなくT1-3対象に郭清とセンチネル+郭清を比較したNSABP B-32試験、T1-2N0でセンチネルで陽性の時、郭清と放治を比較したAMAROS試験、等があり、それらの一つである今回のACOSOG Z-0011試験は、術前リンパ節転移がなくT1-2までの症例で部分切除可能な症例を対象に、センチネルで転移してないときにはACOSOG Z-0010試験に進んで腋窩郭清せずに乳房放治のみの単アーム試験、転移があるときはZ-0011試験に進んで腋窩郭清か経過観察(いずれも乳房放治あり)に2群に分けられる、という2つの試験が並行して行われました。
今回の腋窩郭清は行う必要がなくセンチネルで十分ではないかという議論ですが、依然としてセンチネルの周りの非センチネルリンパ節への転移の可能性、臨床試験でもセンチネルリンパ節への転移の形式が、転移巣の最大径が2㎜より大きい大型転移だけでなく、微小転移(同0.2~2㎜、予後因子として重要)や孤立性転移(同0.2㎜以下、予後因子としての意義は乏しい)という転移形式はどうだったのか、それらが予後に及ぼす影響はどうか、放射線照射や薬物療法で抑えられる特別な乳癌タイプがあるのではないか、日本における普通に行われている放射線治療の品質保障はできているのか、という検討すべき事項は残っています。また最近のEBCTCGという世界の臨床試験の統合解析をするグループのデータでは、もしかしたら腋窩郭清が生存に及ぼす意義があるのではないかということを示唆するデーターも出ています。昔から腋窩リンパ節転移は予後因子であることは明らかですし、少数の転移を含めて、さまざまなステージの手術症例を対象に腋窩郭清を考えないといけないと思いますし、腋窩郭清の省略の意義は一概には言えないかもしれません。さまざまな研究の積み重ねが必要ではないでしょうか?
また術前治療におけるセンチネルに関してはまだエビデンスがなく、その意義は不明であると思われます。
以上雑駁な回答となり、不十分だとは思いますが、みさきさんにはある程度お答えになりましたでしょうか?
Re:センチネルリンパ節生検の意義について
津川浩一郎(神奈川県) 2012/12/07
私も関連した投稿を以前にした関係から一言だけ。

 ステージI以上の浸潤性乳がんの初期治療においては、乳房部分切除(乳房温存)術+センチネルリンパ節生検がまずはミニマムの手術かと思います。手術後の病理結果(針生検と異なることもあります)から、最終のステージ、がんのバイオロジーを確認して治療方針を決定するのが確実な方法かと思います。
 浸潤がんにおけるセンチネルリンパ節転移陽性例の腋窩リンパ節郭清省略は、あくまで転移リンパ節2個以下、術後放射線治療と薬物療法を必ず行うなどの限られた症例が適応になります。また、オンコタイプDXも例えば閉経前ではリンパ節転移のない方が適応になります。
 我々は過剰治療も避けたいですが、過小治療で治癒率が下がることも危惧しています。臨床試験の結果は、結果のみに注目するのではなく、その対象となった患者さんの適格条件をよくみて実際の適応を考える必要があります(これはお薬の臨床試験と同じです。すべての人に同じように効くわけではありませんよね。手術や検査もそうなんです)。
術前内分泌療法後であっても、内分泌療法開始前の腋窩リンパ節が正常ならセンチネルリンパ節生検は行えると考えられています。
あなたの命はあなたとあなたのご家族にとって大切なものです。 担当医とよくご相談して、確実な道を選んでいただきたいと思います。
Re:センチネルリンパ節生検の意義について
みさき(東京都) 2012/12/07
KEN先生 津川先生

師走のお忙しいところ、ご回答下さいまして、お礼申し上げます。
主治医は、閉経前でリンパ節転移陽性の場合に術後化学療法は必須であるから、その判断のためにセンチネルリンパ節生検の省略はあり得ないという見解です。
他方、術前ホルモン療法を行うに際してセカンドオピニオンを頂いた医師は、腋窩リンパ節郭清は予後を改善しない、局所再発を抑制しない、との考えに立ち、センチネルリンパ節生検(→腋窩リンパ節郭清)は術後療法をやるかどうかの判断のために意味があると考えているところ、術前療法をやる以上は、その結果により判断できるから、センチネルリンパ節生検は不要という意見でした。
術後放射線治療と術後薬物療法(ホルモン療法)は行うことになると思いますので、そうなると、センチネルリンパ節生検を行った場合、転移リンパ節が2個以下かどうかが重要であるということになりますね。
私としましては、センチネルリンパ節生検自体、やらないで良いならばそうしたいと考えてきたのですが、先生方の貴重なご意見を踏まえて、改めて良く考えてみたいと存じます。
ありがとうございました。

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