掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
異時性乳がんにAC再投与は可能?
たろちゃん (広島県) 2013/06/20
乳がんの家族の治療方法(情報)についてアドバイスいただければ幸いです。
異時性の乳がんが見つかり術後にAC再投与を検討していますが、心毒性回避のため4回でなく2回しか投与できないとのことでした。
トリネガということもあり、心毒性リスクを負ってもAを行くべきか?リスクは避けるべきか?あるいは次善の治療法を検討すべきか?迷っています。あちこち調べてみましたが、なかなか類似のケースについての情報にたどり着けません。
以下に経過を記します。
5年前(41歳)、片側乳房に浸潤癌(ステージ3A、腫瘍径5cm、腋窩リンパ節転移あり、ホルモン陽性、HER陰性、核異形度3)が見つかりました。治療は、全摘+リンパ郭清、放射線療法、術後化学療法(AC+T)、ホルモン療法(リュープリン+ノルバデックス)を継続してきました。
この度(46歳)、反対側に新たな浸潤癌(腫瘍径1cm、トリプル・ネガティブ)が見つかり、全摘と術後化学療法(AC+T)をすすめられています。ただし、Aは生涯投与量の6分の4を前治療で使用しているので、今回は2回分しか投与できないそうです。
心毒性を心配してくださる主治医のお考えをありがたく思いながらも、10年後かもしれない心毒性リスクをとるか今現在のがんリスクをとるかで心が揺れています。
AC半分か全量か他の治療か...このようなケースの参考情報をお持ち方、どうかご教授願えませんでしょうか?

   
Re:異時性乳がんにAC再投与は可能?
向原徹(兵庫県) 2013/06/21
たろちゃん様

はじめまして。腫瘍内科をしています向原と申します。
とても悩ましい状況ですね。お気持ちをお察しします。

まず、心毒性についてですが、既に聞かれているように生涯総投与量に依存します。通常のAC療法では(ご本人が受けられたものがそれかお確かめください)、Aは60mg/m2(m2は体表面積)を1サイクルあたり使います。4サイクルしたとすると、現在総投与量は240mg/m2となります。米国のアドリアシンの添付文書では、心不全のリスクは、300mg/m2で1-2%、400mg/m2で3-5%、450mg/m2で5-8%、500mg/m2で6-20%とあります。もう少し低めの報告もありますが、400mg/m2を超えるとリスクがぐっと上がってくるのは確かで、400mg/m2を一つの基準として、それを超える場合は利益がそれを上回ると判断した時、よほど理由がない限り550mg/m2まで、という考え方が一般的です。また、起こる時期は一番多いのは1年以内とされています。もちろん、おっしゃるように10年後に起こることも稀にあります。

上記のようなことから、前のAC x 4と合わせて今回2サイクルすると、恐らく総投与量が360mg/m2になるので、2回しかできない、と言われているのだと思います。400mg/m2を超えてするかは、それでえられる利益と心リスクをどう考えるか、としか言いようがありません。とても難しい判断です。

アドリアシンが最近の乳癌術後療法として中心的な役割を果たしていることは、既に調べられていると思いますが、アドリアシンを使わない方法としては、TC療法(タキソテール=ドセタキセル、シクロフォスファミド)という方法、あるいは、アンスラサイクリンがよくつかわれる前に標準的に使われていたCMF(シクロフォスファミド、メトトレキセート、5FU)という方法もありますが、絶対にこれ、っと言えるものでもありません。

一つの答えがない中なので、患者さんを含めたチームでコンセンサスを作っていくしかないと思います。上にあげた方法についても医療者でも考え方が分かれるところです。担当医の先生とよく相談されて、納得したうえで治療に向かわれることをお祈りします。
Re:異時性乳がんにAC再投与は可能?
たろちゃん (広島県) 2013/06/22
向原先生、お忙しいところ ご回答いただきありがとうございます。
アドリアシンの心毒性について 大変よく理解できました。
と同時に他の薬剤の選択も難しいということも理解できました。
抗がん剤を投与するからにはちゃんと治療を受けたいと思うだけにジレンマを感じていますが、主治医の先生とよく相談して自分にとって良い選択をしたいと思います。

今回、文面から先生の優しいお人柄を感じ、機会があれば診ていただきたいと思いました。
先生からご回答頂けたことに感謝しています。
どうもありがとうございました。


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