掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
乳がん Her2陽性について
まこと(京都府) 2013/11/15
乳がんと診断され、術前化学療法(抗がん剤治療)を行った後、左乳房全摘手術を受けました。センチネルリンパ節生検の結果、リンパ節転移はありませんでした。

術前の針生研では、浸潤がんでHer2陰性とされていました。
ところが、術後の病理で、浸潤がんに加え、少し離れたところに数センチ程度に散在する非浸潤がんが存在していたことが分かりました。そして、浸潤がんは増幅なくHer2陰性ですが、非浸潤がんはHer2陽性であることがわかりました。
主治医は、原発は同じがんで、Her2が強くでたり、弱くでたりしたのではとおっしゃっています。

そこで質問させてください。
①同じ乳房に同じ原発のがんが複数ある場合(もしくは広がっている場合)、一部がHer2陽性、一部がHer陰性になることはあるのでしょうか。
それは、一般的(よくあること)なことなのでしょうか。
②今回のような場合(術前化学療法を行っている。非浸潤部分のみHer2陽性、浸潤部はHer2陰性)、患者が希望したら、ハーセプチン治療の対象となりますか。

以上です。どうか宜しくお願い致します。

   
Re:乳がん Her2陽性について
向原徹(兵庫県) 2013/11/19
まこと様

こんばんは。神戸で腫瘍内科をしています向原と申します。

HER2の測定に関しては、国際的な基準が設けられていて、つい最近改定されたものが公表されました(ASCO CAPガイドラインといいます)。そこではHER2の陽性、陰性は、浸潤がんの部分で行うとされています。実際、日常診療でもそのルールに準拠しています。

通常、免疫組織染色という方法がよく用いられますが、同じ浸潤がん成分の中で染色の強い部分と、弱い部分があることはあります。上述のASCO CAPガイドラインでも、同じ腫瘍(浸潤がん成分)の中で10%<の細胞にHER2の強い陽性像がみられた場合、HER2陽性としなさい、となっています。つまり極端な話、90%の細胞が陰性でも腫瘍全体としては陽性と判断します。くどいようですが、浸潤がん成分での判断です。

まこと様の場合、惑わされるのは、浸潤がん成分でHER2陽性が確認されていないことですよね。もともとないのか、HER2陽性の部分が術前化学療法で消えてなくなってしまったのか。

そこで非浸潤がんの部分の情報が使えるか、ということになるのですが、今のところ確固たる根拠はないようです。非浸潤がん部分と、浸潤がん部分のHER2を比較した研究は、いずれも小規模のもので、まだ日常診療で使えるだけの結論は出されていません。

まとめますと、まこと様からいただいた情報からは、浸潤がん部分でHER2が陽性であった証拠がありませんので、通常はハーセプチンはお勧めしないと思います。主治医の先生のお勧めはいかがだったでしょうか?

本来は、顕微鏡診断をする病理の先生などとも十分ディスカッションして検討する深い内容ですので、参考にしていただいて、治療方針について納得されるまで主治医とお話されることをお勧めします。
Re:乳がん Her2陽性について
まこと(京都府) 2013/11/19
向原先生

まことです。お忙しい中、お返事をいただきありがとうございました。

【今後の治療方法】
浸潤がんはHer2陰性のため、ハーセプチン治療は一般的には勧められないとのこと理解いたしました。これから主治医と治療方針について相談しますが、参考にさせていただきます。

【誤判定の可能性】
ただ、心配なのは向原先生も書いてくださっている点です。針生研、術後の病理でもHer2陰性と出ており、浸潤部はHer2陰性でほぼ間違いないのではと推測できます。
しかし、本当はHer2陽性だったが、①針生研でHer2陰性のところしか抽出されなかった。②化学療法でHer2陽性部分がなくなってしまった。それらの結果、Her2陰性と誤判定されてしまった可能性も否定できないところが少し心配です。たぶん、その可能性は極めて低いように思いますが、その点も含めて相談してみます。

【ご質問:同じ原発?それとも異なる原発?】
それと、再度、質問させてください。同じ浸潤がんの中でHer2が強く出たり、弱く出たりすることはあるとのことお教えいただきありがとうございます。
ただ、私は、浸潤がん部分がHer2陰性、少し離れたところにある非浸潤がん部分は陽性(陽性だが増幅値は比較的低い)となりました。主治医は「恐らく同じ原発のがんだろう」との見解です。
少し離れた場所にあって、Her2陽性/陰性も異なるがんなのに、なぜ原発が同じだと考えられるのか素人の私には十分に理解できません。
質問①:原発が同じだと判断する場合、どのような要因が考慮されるのかお教えいただけませんでしょうか(広がり方、Her2値など?)。
質問②:また、今回のような場合、異なる原発の可能性もあるんでしょうか。

お忙しいところ、再度の質問となり誠に申し訳ありません。どうか宜しくお願い致します。
Re:乳がん Her2陽性について
向原徹(兵庫県) 2013/11/21
まことさま

遅くなり申し訳ありません。

①と②について、私の理解の範囲でお答えすると、やはり非浸潤がん部分と浸潤がん部分とがつながっているか(連続性)というのが問題になると思います。ただ「連続性」の判断はそう簡単ではないようです。というのは、腫瘍は本来3次元つまり立体ですが、病理標本ではそれを5ミクロン程の薄い切片に切って2次元で観察します。つまり、その切片で離れているように見える2つの病変も、3次元的にたどっていくと何処かでつながっている可能性があるのです。現実には、何cmかある腫瘍を、まるでCTをとるかのように5ミクロン幅の切片をつくることは困難なため、「連続性」の評価はそう容易ではないのです。
また病理学的な「連続性」のみならず、MRIやエコーでも「連続性」は検討されていると思います。

主治医の先生がどのような情報をもとに、同じ原発であると推定されているか尋ねれみられてはいかがでしょうか。

Re:乳がん Her2陽性について
まこと(京都府) 2013/11/24
向原先生

非浸潤と浸潤がんがあり、少し離れているのですが、なぜ、原発が同じといえるのか不思議に感じていました。
先生のご説明を読み、理解できました。連続性があるかないかで判断するのですね。その連続性は、病理だけではなく、MRIやエコーなども対象になり得るとのこと。主治医には、どのような点から同じ原発と判断なさったのか、もう少し詳しく聞いてみたいと思います。
患者になって思いますが、がんの治療は本当に次々と重要な選択をしていかなければならず、本当につらいです。
そのような中、このような掲示板があること、とても心強く感じます。向原先生、本当にありがとうございました。

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