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治療とその選択
神経内分泌癌(乳癌)の遺伝性乳癌検査について
ひびつれづれ (茨城県) 2015/07/05
2015年4月17日に乳癌の告知を受け、4月20日から術前化学療法を開始し、予定では10月初旬まで継続予定です。
診断結果ですが、

・ 小細胞癌相当の、低分化な神経内分泌癌
・ 左胸みぞおち寄りに腫瘍
・ 腫瘍サイズ 3.8cm(MRIから)
・ Ki67 77%
・ 胸骨傍リンパ節に転移有
・ N/C比 高い
・ エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2いずれも陰性

現在は乳癌の標準治療を受けております。

 AC3週間×4回(4月20日~)
 DOC3週間×4回(7月13日開始予定)
 手術→放射線

ACは1クール終了時には腫瘍の縮小が認められたのですが、2クール目は横ばい、3クール目に入ったところあたりから腫瘍が大きくなり始め、現在4クール目後半ですが、ほぼ治療前の大きさに戻っています。ACに関しては、抗がん剤の効果があまり得られていない状況です。

教えていただきたいのは、神経内分泌癌と乳癌との違いについてです。

遺伝子性乳癌の検査(BRCA)がありますが、神経内分泌癌であっても、遺伝子性乳癌であることもあるのでしょうか。高額ではありますが、有用であるなら遺伝子検査を受けたいと思っています。

私の癌はトリプルネガティブと言われているのですが、神経内分泌癌であっても受容体陽性ということもあるのでしょうか?あるいは、神経内分泌癌の場合、受容体陰性が当然と考えたほうがよいのでしょうか?

手術で摘出した腫瘍サンプルを使っても遺伝子検査を行えるそうですが、この場合の検査項目は乳癌と神経内分泌癌で違いなどあるのでしょうか。

非常に珍しい癌であると聞いていますが、現時点ではトリプルネガティブ乳癌として治療を進めております。ただ、私のタイプは肺がんに多いという情報を見たりしていて、乳癌の遺伝子検査を受ける意味があるのだろうか?と疑問に思っております。有用ならば受けたいのですが、あまり意味がないのであれば、高額なこともあり、受けないという選択肢もありかと思っています。まだ主治医には相談しておりません。

ご意見をいただけると大変ありがたいです。どうぞよろしくお願いします。

   
Re:神経内分泌癌(乳癌)の遺伝性乳癌検査について
向原徹(兵庫県) 2015/07/05
ひびつれづれ様

こんにちは。腫瘍内科をしているものです。
まず、ご自身が書かれているように、乳房原発の神経内分泌癌は、乳癌の中で極めて珍しい組織型なので、まだまだ分かっていないことが多いのが現状です。

まず、言葉の定義ですが、神経内分泌腫瘍と呼ばれる大きな枠組みがあり、そのうち比較的分裂能が高そうなもの(ki67が高い)が神経内分泌癌と分類されます。過去の報告では「神経内分泌腫瘍」として一色単にされているものが多いので、以下の解説でも、神経内分泌腫瘍と書いているものの中には、神経内分泌癌とそれ以外の神経内分泌腫瘍が入っているものと御理解ください。

最初の、「神経内分泌癌であっても、遺伝子性乳癌であることもあるのでしょうか?」というご質問ですが、過去の報告では、BRCAに変異をお持ちの乳癌患者さんの組織型を調べた中には、神経内分泌腫瘍も含まれているようです。そういった意味では、神経内分泌腫瘍であっても遺伝性であることは否定はできません。ただ、乳房原発神経内分泌癌の方で何%にBRCAの変異があるかは、調べた範囲では報告がありませんので、それだけで遺伝子検査をすべきかどうか、申し上げられないと思います。
薬物療法についていうと、神経内分泌腫瘍では、肺にできる小細胞癌という神経内分泌癌の一種に準じた化学療法(プラチナ製剤というお薬を含んだ化学療法)をされることと、通常の乳癌に使われる化学療法をされることがあるようです。そのどちらがいいのか、というのは稀なご病気ゆえはっきりしていませんが、BRCA変異と関連した癌にはプラチナ製剤が有効とも言われているので、遺伝子検査をしてBRCA変異があれば化学療法の選択を考えるきっかけになるかもしれません。ただ、検査をだして、結果が判明するのに時間がかかったり、実際その情報が利用できるかについては慎重に判断が必要です。もちろん他の乳癌の患者さんと同じように、ご自身の年齢や、血縁の方々の癌の既往歴などを含めて、遺伝子検査をされるか、主治医とよく相談していただくのがよいと思います。

そのほかのご質問ですが、過去の報告では、神経内分泌腫瘍でもホルモン受容体陽性のことがあるようです。
手術検体で遺伝子検査は乳癌と神経内分泌癌で違うか、という点についてですが、遺伝子検査(BRCAに変異があるかどうか)そのものはどちらの癌であっても同じだと思いますし、血液検査でも可能だと思います。

繰り返しになりますが、遺伝子検査をすべきかどうかは、さまざまな要因を含めて考えるべきことなので、主治医の先生とよく相談していただければと思います。私が書いた内容が、相談をされる上でお役に立てれば幸いです。
Re:神経内分泌癌(乳癌)の遺伝性乳癌検査について
ひびつれづれ (茨城県) 2015/07/06
向原先生、ご回答いただきありがとうございます。

神経内分泌腫瘍の中に神経内分泌癌が含まれること、これまでにも乳癌の方で神経内分泌腫瘍も含まれている方がいたことなど、初めて知りました。また、いくつか疑問点が出てきました。たびたびで申し訳ありませんが、ご回答いただけると大変ありがたいです。

教えていただきたいこと:
肺にできる小細胞癌の場合、プラチナ製剤を使用する・しないの判断に、BRCAの変異が関係してくるのでしょうか?あるいは、乳癌の方にプラチナ製剤を利用する場合に参考としているのでしょうか。BRCA変異とプラチナ製剤の効果は、癌種によらず共通の認識となるのでしょうか?

7月13日からドセタキセル(DOC)の治療を予定しています。治療開始まで時間がないためBRCA変異の確認は間に合わないのですが、主治医と相談し、DOCから「パクリタキセルとカルボプラチン(TC)」へ変更することは可能なのでしょうか?

知人で、「乳癌の術前化学療法→手術→放射線→カルボプラチン」という流れで治療をされた方がいまして、その場合、カルボプラチンでの術後化学療法は保険適用外だったと聞いております。カルボプラチンが保険適用になる場合、ならない場合があるのでしょうか?それは、術前、術後、あるいは、手術の際の病理結果などで異なってくるのでしょうか。

カルボプラチンの副作用を考えると、追加するという判断は決断は非常に勇気がいりますが、術前化学療法に取り入れる選択肢も検討する必要があるのかなと感じております。

次回治療まで1週間しかない中でこのような迷いが出ていること、これまで主治医とこの点に関して相談してこなかったこと、後悔しております。ただ、次回の治療までの1週間、後悔しないよう精いっぱい納得できる形にしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
Re:神経内分泌癌(乳癌)の遺伝性乳癌検査について
向原徹(兵庫県) 2015/07/07
ひびつれづれ様

こんばんは。
まず、小細胞肺癌とBRCA1との関係はあまり言われていないと思います。小細胞肺癌では歴史的にプラチナ製剤が使われてきて、今日の標準治療はシスプラチンとエトポシド、またはシスプラチンとイリノテカンが使われます。

ひびつれづれ様のように肺以外に小細胞癌(神経内分泌腫瘍の一種)ができることはあって、その場合肺にできたものと同じように上に書いたような化学療法をする場合もあります。つまり、小細胞癌の診断が確かであれば、BRCAの変異がなくてもプラチナ製剤(特にシスプラチン)で治療することは医学的には正しい選択の一つと言えます。ただ、前回書いたように乳腺にできることは稀なので、通常の組織型の乳癌と同じような治療をされることもあるようですし、どちらが正しいかは明らかではありません。
カルボプラチンとパクリタキセルは前者がプラチナ製剤ではありますが、小細胞肺癌ではあまり使われないのでひびつれづれ様に使う根拠は薄いと思います。

シスプラチンもエトポシドも乳癌には、保険が通っていません。先ほど書いたように医学的には正しい選択の一つですが、保険の制約を乗りこえて使うべきかは意見の別れるところではあります。しかし、繰り返しになりますがそういう選択肢があるのは確かですし、恐らく主治医の先生も考慮はされているのではないでしょうか。一度率直に相談されることをお勧めします。
Re:神経内分泌癌(乳癌)の遺伝性乳癌検査について
向原徹(兵庫県) 2015/07/07
補足ですが、カルボプラチンも小細胞肺癌や他の部位にできた小細胞癌の治療に用いられることがありますが、一般に、腎機能が悪い方とか、お年を召した方などで、シスプラチンを使いづらい場合に選択されます。

カルボプラチンが乳癌で保険償還されるのは、パクリタキセル(タキソール)とトラスツズマブ(ハーセプチン)と併用されたときのみのようです。

イリノテカンは、乳癌の再発例、転移のある乳癌には保険が通っていますが、術前・術後の治療には認められていません。

したがって、ひびつれづれ様がプラチナ製剤を使って、小細胞肺癌に準じた治療をするには、保険上の制約かかることになります。いずれにしても、先ほど書いたように、一度よくご相談されて、納得して治療に臨まれることをお祈りします。

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