掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
ホルモン治療と皮下注射
S(東京都) 2015/07/10
いろいろなサイトで同じような質問を見ては考えてしまいます。
ルミナルタイプの皮下注射についてです。最新の試験でルミナルタイプのホルモン治療に皮下注射をプラスが推奨されるのは、35歳以下の若年層と化学療法をするようなハイリスクのグループと聞きました。
私はルミナルAで上記ハイリスクグループではなく適応外ですが、担当医に勧められました。そこでいろいろネットを調べてみると、やはり同じような方々がいらっしゃいます。また、先生方によっても考え方がまちまちで、適応外だから上乗せはないと言い切る方、この試験がやられる前は当然やっていたから、とかあります。
患者側としては上乗せ効果が少しでもあればやるべきとも考えるし、昨年の試験で効果なしと言われればデメリットもあるので受けたくないです。どちらか選べですとまだいいのですが、私の場合は当然のように言われ、試験のことも聞いたのですがやはりやった方がいいと言われました。
このホルモン治療に皮下注射をプラスするかについては、やはり試験で結果は出ていても考え方に違いがあるものなのでしょうか。

   
Re:ホルモン治療と皮下注射
向原徹(兵庫県) 2015/07/15
Sさま

はじめまして。腫瘍内科をしているものです。
主治医の先生がおっしゃろうとしていることを、推測して書いてみたいと思います。推測が当たっているかは不確かですが、主治医の先生とディスカッションをする助けになればと思います。

まず、書かれている”昨年の試験で効果なし”ということについてですが、おそらくSOFT試験という臨床試験のことを指しておられると推測します。この試験は、従来、閉経前の患者さんの術後ホルモン治療として使われてきた、タモキシフェンというお薬に比べて、タモキシフェン+卵巣機能抑制(皮下注射でする場合が多い)や、エキセメスタン+卵巣機能抑制が治療成績で上回るか、を問うたものでした。その結果は、タモキシフェンと、タモキシフェン+卵巣機能抑制を比べると、全体としては差がありませんでした。ただし、化学療法を受られてたにも関わらず(化学療法には卵巣機能を抑制する副作用があります)閉経に至らなかった方に限ると、タモキシフェン+卵巣機能抑制のほうが勝ってそうだ、という結果でした。
この結果をどう解釈するかは難しいところなのですが、化学療法を受けても閉経に至らないほど卵巣機能がもともと強い方、SOFT試験でも若い方が多かったのですが(平均40歳)、そういった方では卵巣機能を抑制する価値があるのではないか、という考え方もできるのです。逆に化学療法を受けなかった患者さんでは差がなかった訳ですが、もともと化学療法が勧められないくらいリスクが低いから差が開かなかったとも考えられますが、実際には化学療法を受けられた方よりも年齢層が少し高い方がこの群に多かったので(平均46歳)、卵巣機能がもともと強くないから卵巣機能抑制の上乗せがみられなかった、とも解釈できるのです。

いろいろ書きましたが、Sさまが今おいくつでらっしゃるのかわかりませんが、おそらく主治医の先生は、Sさまの卵巣機能が比較的高いと踏んでらっしゃるのではないかと推測します。文面からは化学療法を受けられていないと想像しますが、見積もられている再発リスクと、ご年齢などから推測される卵巣機能に鑑みて皮下注射を勧めておられるのだと思います。

すべて、ご自身の状況でどうすべきか白黒はっきり示してくれる臨床試験の結果があればよいのですが、実際にはそうはいきません。化学療法は受けていないけど、お若くて卵巣機能は相当高そう、という方に皮下注射をすべきかどうか、という疑問にはSOFT試験も答えてはくれていないのです。そういう方がSOFT試験では少数派であったからです。

白と黒の間のグレーのところをどう埋めていくかは、医療者間それから医療者と患者さんのディスカッションしかないと思います。私が書いたことがその助けになればうれしいです。



Re:ホルモン治療と皮下注射
S(東京都) 2015/07/18
お返事ありがとうございます。
私は閉経前44歳で、核グレードやKi67は低値のルミナルAでした。転移もなかったのでデメリットも考え化学療法はせず、ホルモンの値も強陽性の為ホルモン療法となりました。当初から皮下注射の話しは出ていたのですが、私自身がそのsoft試験の事を後から知り、疑問に思った次第です。
腫瘍が2.5< 3でステージ2aでしたので大きくはないけど小さくもないということと、化学療法より副作用が少ないという事ですすめられています。また、担当医は数%の上乗せはあると言います。
ただ、上乗せが否定されたと断言される先生もいらっしゃいますので、悩んでしまいました。
Re:ホルモン治療と皮下注射
S(東京都) 2015/07/31
先日ご回答頂きましたが、ふとまた疑問が生じましたのでお伺いいたします。

化学療法をしたり若年層だったりのグループではないグレーゾーンの皮下注射について、担当医が皮下注射を勧めたのは卵巣機能が強いと判断したのではないか、とのご意見がありましたが、例えばどのような時にこの人は卵巣機能が強いと判断するのでしょうか。私は44歳です。卵巣機能が強いとわかることがありましたら教えて下さい。

また、私の場合は担当医とお話した時には、腫瘍も大きくはないけど小さくもない(2.9センチ)という話しをされ、抗がん剤程副作用もないから、と言われました。
他の先生で若年層だったり化学療法をしたりするグループ以外は皮下注射しても上乗せ効果は期待出来ないと断言する(SOFT試験の結果より)乳腺外科の先生もいらっしゃるとも担当医に言ったのですが、3%ぐらい上乗せがあると。確かに核グレードやKi-67は低値でサブタイプもルミナルAと大人しいタイプで転移もなしなのですが、腫瘍の大きさは気になります。腫瘍の大きさは皮下注射をする上で判断材料となるのでしょうか。また3%ぐらい上乗せがあるというのは、そう判断する先生も多いのでしょうか。
Re:ホルモン治療と皮下注射
向原徹(兵庫県) 2015/08/11
S様

返事が遅くなり大変申し訳ありません。
まず、「どのような方が卵巣機能が強そうか」という点については、科学的な説明は私にもできません。ただ、やはり月経周期が20代の頃と同じようにあるような方は卵巣機能が保たれている傾向にあるのでは、と推測します。

3%の上乗せがある、との数字を主治医の先生がどこから算出されたのかは分かりません。しかし、たとえばSOFT試験の結果をみても、数字だけみると、タモキシフェン群の5年の無再発率は84.7%でLH-RHアナログ併用群では86.6%です。この数字だけをみると2%くらい後者のほうが上乗せがあるように思います。しかし、実際には、臨床試験の結果は、統計学的に評価され、それでは有意差はなしと判定されています。少し難しい話ですが、通常、見ている差が偶然ついてしまった可能性が<5%のときに有意差あり、とします。逆にいうと、SOFT試験でみられた差は、たまたま偶然ついただけという可能性が5%以上ありますよ、ということになります。これは、統計、数字の話であって、みている数字上の差が、本当の差である可能性も残るのです。

ということで、主治医の先生がおっしゃる、3%というのは、「統計学的に差はなかったけど、少し併用群がよさそうだ」という意味合いでおっしゃったのかもしれません。「統計学的に有意差はないけど、少しよさそうだし、副作用も少ないからLH-RHアナログを勧めよう」という考えの先生と、「統計学的に有意差がないんだから、それは差がないんだ、使わなくてよい」という考えの先生がいらっしゃるのは事実です。

とても悩ましいですね。

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