掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
ノルバデックス服用中における薬の飲み合わせについて
Y(愛媛県) 2016/03/14
ノルバデックス治療9年目を迎えようとしていますがここにきてノルバデックス服用期間にノルバデックスの代謝酵素CYP2D6を中程度阻害するとも言われている降圧剤アムロジピンを服用したのが3年4ヶ月程あったということが判明しました。
このことは京都大学付属病院の石黒 洋先生の
「CYP2D6遺伝子多型解析とタモキシフェン治療効果」というトピックで知りました。
http://nyugan.info/tt/topics/pdf/topics34.pdf
NCCNガイドラインにも適切な代替薬が存在するならば強いまたは中間のCYP2D6阻害剤を敬遠することは妥当である。との記載があり戸惑っています。
質問①
ノルバデックスの薬効がどれくらい落ちていると考えられますか?
ウィキペディアでこのような記載を見つけました。中程度であれば50~80%効果を落とすと理解しますか?
ウィキペディアより
強力阻害剤は、血中濃度における曲線下面積(AUC)の値を5倍以上増加させるか、クリアランスを80%以上減少させる[1]。
中等度阻害剤は、血中濃度におけるAUC値を2倍以上増加させるか、クリアランスを50~80%減少させる[1]。
弱力阻害剤は、血中濃度におけるAUC値を1.25倍以上増加させるか、クリアランスを20~50%減少させる[1]。



質問②
ノルバスクのほかにも
■CYP2D6を使用して代謝する薬を
セレスタミン(dクロルフェニラミンマレイン酸塩)20日服用
カフコデN配合錠(ジヒドロコデイン酸塩)50日服用していました。
★CYPを使用して代謝する。★CYPを阻害する。★CYPと関与している。★CYPを誘導する。以上4つとも薬効を落とすと考えるのでしょうか?


質問③
CYP2C9やCYP3A4も
http://nyugan.info/tt/topics/pdf/topics34.pdfの中の図を見るとタモキシフエンの代謝酵素にあたるようですが図の中に出てくるCYPの他の種類のCYP2D6と同じようにタモキシフェンの薬効を落とすと考えるのでしょうか?

   
Re:ノルバデックス服用中における薬の飲み合わせについて
横田(海外在住) 2016/03/16
Y 様
薬剤師の横田と申します。
アムロジピンを長期内服したことによる乳癌治療への影響を心配されているお気持ち、お察しいたします。現在のエビデンスと考えられることについて順に回答させていただきます。

質問① アムロジピンのCYP2D6阻害作用とノルバデックス(タモキシフェン)の薬効への影響

Y様のお読みになられた資料の中では、アムロジピンは軽度~中程度のCYP2D6阻害作用を示すとされています。一方で、タモキシフェンの日本の添付文書では特に相互作用の記載はなく、またアメリカの医薬品情報集LexicompにおいてもアムロジピンはCYP2D6阻害作用を示す薬剤として記載されておらず、相互作用をきたす薬剤としては認識されていません。
おそらく、アムロジピンは軽度のCYP2D6阻害作用を示すものの、それによるタモキシフェンの代謝および薬効を示すエンドキシフェンの血中濃度への影響度は軽度であると考えられます。
ご存知の通り、CYP2D6を強度に阻害するパロキセチン等との併用やCYP2D6の遺伝子多型(代謝作用の個人差)について、タモキシフェンの代謝や乳癌の治療効果への影響が多く研究されておりますが、治療自体の変更を推奨するほどの高いエビデンスはないのが現状です。(NCCNガイドラインにおいては特に阻害作用の強い薬剤は代替薬へ変更することを薦める程度となっています)。
これらのことを踏まえますと、アムロジピンの併用によるタモキシフェンへの影響は低いと考えられ、また治療自体への影響も不明であり、併用しないことを強く薦めるというエビデンスもない、というのが現状です。
もちろん避けておくに越したことはないので、ブロプレスに変更後血圧の管理が問題ないようでしたら、そのまま継続されるということで良いと思います。

前述の通り、CYP2D6の強度阻害薬や遺伝子多型においても乳癌治療の変更を推奨するほどのエビデンスはないので、アムロジピンの併用においても同様のことがいえると思います。もちろん、もともとの再発リスク等に応じて治療期間を検討する必要はありますが、10年間を越えてのホルモン療法についてはエビデンスはないのが現状です。

質問② CYP2D6へ影響する薬剤について

Y様の挙げている4通りのCYPへの関わりは、すべて代謝酵素を介した相互作用を引き起こすメカニズムと認識されています。しかし、併用する薬剤同士の酵素への関わり方は様々であり、CYP2D6に関連する薬剤すべてが、注意すべき相互作用を示すとは限りません。
ちなみに、セレスタミンはCYP2D6阻害作用を中程度示す薬剤で、他の薬剤を選択した方がよい、コデインはCYP2D6で代謝される薬剤ですが特にタモキシフェンと相互作用を示すとの記載はありません(Lexicompより)。どちらも内服は長期ではなかったようですし、過度に心配しすぎる必要はないかと思います。
薬物代謝酵素の相互作用による血中濃度への影響は、必ずしもその薬剤の効果に比例的、また臨床的に治療効果を変動させてしまうとは限りません。
(血中濃度が半分になる = 薬効が半分になる とは限りません)
また、薬剤の併用の是非について考える時には、それぞれの治療上の必要性や投与期間などを含めて検討しています。

質問③ CYP2D6以外の代謝酵素について

おっしゃる通り、相互作用の原因となる代謝酵素はCYP2D6以外にもいくつか存在しています。
しかし前述の通り、これらの代謝酵素に関連するすべての薬剤がタモキシフェンに影響を強く及ぼすとは限らず、薬剤ごとに考える必要があります。
なので、今後何か新しいお薬をタモキシフェンと併用する必要がある場合には、相互作用の有無と影響度合いについてその都度確認し、Y様の治療において重要な薬かどうか、他に影響の少ない薬剤へ変更できないか、など相談されることをお勧めします。

長文となりましたが、少しでも安心して治療を継続できるよう、Y様の疑問を解決する一助となれば幸いです。
Re:ノルバデックス服用中における薬の飲み合わせについて
Y(愛媛県) 2016/03/21
横田先生丁寧な回答ありがとうございます。
治療法を変えるまでのエビデンスはないということは理解しました。患者の気持ちとしてはやはり薬効を落とす可能性があるものは避けておきたいという気持ちが強く長文ですが教えてください。

質問①この掲示板に投稿する前にアムロジピンの製造元の製薬会社さんに問い合わせしたところCYP2D6阻害薬ではないと回答を頂きましたが石黒先生のトピックに書いてある内容を説明しましたら石黒先生のトピックの中の参考文献1)を調べて下さいました。
海外論文ジャーナルオブクリニカルオンコロジーという医学雑誌の中でアムロジピンはインビトロの試験でCYP2D6を中程度阻害もしくは阻害する可能性はあるが人体では実験していないというような内容です。と説明を受けました。
どうもこの文献だけがアムロジピンがCYP2D6阻害薬剤になる可能性があると書いていたようでした。

ここで教えていただきたいのですが薬剤においてCYP2D6を阻害する検査というのは全てインビトロでの検査になるのでしょうか?
インビトロの検査ではそんなにエビデンスがないと理解しますか?

質問②
質問が繰り返しになり申し訳ありませんが★CYP2D6を使用して代謝する。★CYP2D6を阻害する。★CYP2D6と関与している。★CYP2D6を誘導する。以上4つのうち★CYP2D6を阻害するという代謝は避けたほうがいいということでしょうか?関与する・誘導する・使用するは過敏にならないでもよいということでしょうか?

質問③
先生がアドバイスくださったように 今後何か新しいお薬をタモキシフェンと併用する必要がある場合には、相互作用の有無と影響度合いについてその都度確認するということは気を付けていきたいと思います。
しかしながらアムロジピンの製造元もCYP2D6を阻害する薬剤であるとは把握していなかったり横田先生が中程度のCYP2D6の阻害薬であるとご指摘の下さったセレスタミンに関してもセレスタミン製造元の説明はCYP2D6を代謝において使用するが阻害薬ではないと説明を受けておりました。
このようにそれぞれの薬剤の代謝についての回答が様々でタモキシフェンの薬効を落とすのかどうかの見極めが非常に難しく感じます。
また古い薬はCYPの阻害については把握していませんという薬剤も多いです。
この辺りをどう解決していけばいいでしょうか?

質問④
代謝酵素についてはCYP2D6以外もなるべくであれば避けた方がいいけれど投薬期間やその薬の必要性に応じ対応していくということですか?

治療3年目にCYP2C9を阻害すると言われているニューロタン錠を1年間程ノルバデックスと一緒に服用しておりました。
少なからず薬効が落ちたと考えますか?

現在降圧剤のブロプレスをタモキシフェンと服用していますがブロプレスはタモキシフェンが代謝されるときに使われるCYP2C9を使って代謝すると製薬会社に聞きました。タモキシフエンが代謝されるときに使うCYPを使わない薬剤を使う方が飲みあわせの点ではいいということですか?

降圧剤は私にとっては絶対不可欠な薬です。以前オルメテック錠を服用していましたがこの薬は代謝にCYPを使用しないと聞きました。それならばタモキシフェンの飲みあわせだけで考えればブロプレスよりもオルメテックの方が問題をクリアーにしてくれると考えますか?

咳止めも私にとっては必要不可欠な薬ですが咳止めは古い薬が多くCYPの検査データーが無いものがほとんどでCYPを使って代謝しない薬があれば教えてください。

質問が繰り返しになり申し訳ありません。どうかよろしくお願いいたします。


Re:ノルバデックス服用中における薬の飲み合わせについて
横田(海外在住) 2016/03/23
Y様

挙げられた質問に関して、できる範囲で回答させていただきます。

質問① 薬物代謝酵素(CYP)を介した相互作用の研究について

  CYP2D6をはじめ、ある薬剤が代謝酵素へどのように影響するかを調べるには、まずin vitro(細胞のみ)の実験を行ないます。これによって、薬剤がどの代謝酵素に関連があるかを調べる事ができます。ただ、その結果が実際に人に投与した時に起こりえるか、またどの程度の強さで起こるかについては、肝臓中の薬物濃度など様々な要因が関与するため、in vivo(人や動物などの生体)で実験を行うことが望ましいです。しかし、生体を使ってすべての薬剤の相互作用や代謝酵素への影響を詳細に調べることは、現実的に難しく、限りあるデータを元に考察し判断するというのが現状です。またその判断のためには、単に薬物代謝酵素に関するデータのみならず、治療における重要度やその他様々なことを総合的に考慮する必要があります。

質問② 

  薬物代謝酵素を介した相互作用は、同じ酵素を使用する(競合する)、誘導する、阻害するといったどの過程においても起こりうるものです。阻害する薬剤だけ避けるべきということではありません。しかし、薬剤同士を同時に使った時に、それぞれの代謝過程にどのように影響し合うのか、どの程度血中濃度が変動するのか、というのはとても複雑です。そしてこのような作用を示す薬剤全てが、併用することに問題があるわけではありません。さらに、それが薬効へ必ず影響するとも限らず、個々の組み合わせ毎に考える必要があります。

質問③

  現在使用されている薬剤全てにおいて、薬物代謝酵素への影響が明確に研究されているとは限りませんし、データ自体も様々存在するので、参考にする資料によって結果が異なることはあると思います。もしかしたら、未知の相互作用もあるかもしれません。医療者としても、現在参考にできるデータおよび専門知識を元に判断を行っているのが現状です。
  
質問④

  まずタモキシフェンの相互作用について、薬効や乳癌治療への影響が検討されている薬剤は、CYP2D6を強力に阻害するお薬(パロキセチン他)であり、併用を避けるべきと推奨されていること、乳癌の治療自体を変更の是非については明確なエビデンスは明らかにはなっていないことをご理解ください。
つまりそれ以外の薬剤については、薬物代謝酵素を介する相互作用により血液中濃度に変化が起こりうるとしても、それが治療効果にどの程度影響するかは、明確なことは分からないというのが現状だと思います。

・ニューロタン(ロサルタン)はCYP2C9で代謝され、さらに中程度のCYP2C9阻害作用が認められています(Lexicompより)。  

・ブロプレス(カンデサルタン)はCYP2C9で代謝されますが主となる代謝酵素ではないので相互作用を引きおこすとは認識されていません。

・オルメテック(オルメサルタン)はCYPを介した代謝を受けない薬剤なので代謝酵素に関連した相互作用は認められていません。

鎮咳薬は代表的なものとして、ジヒドロコデイン、メジコン錠(デキストロメトルファン)などがありますがCYPを介して代謝される薬剤です。

掲示板という特性上、ここで具体的な薬剤の選択について明言することは控えさせていただきます。どうかご了承ください。

本来ならば、全てのデータが明確になっていることが望ましいのですが、現実には限りがあります。さらに、細かなデータ自体が重要なのではなく、それをどのように考察し個々の患者さまに当てはめていくのかが重要となってきます。
もちろんお分かりのことと思いますが、まずは10年間のタモキシフェンの内服を飲み忘れなく継続することが何よりも大切なことです。その上で、何か他のお薬を併用する必要がある場合には、主治医の先生やかかりつけ薬局の薬剤師と考えを共有して、薬剤の選択やその妥当性について一緒に相談しながら治療を継続していくことをお勧めいたします。

Y様の疑問を解決するには不十分な点もあるかと思いますが、どうかご理解いただければと思います。
Re:ノルバデックス服用中における薬の飲み合わせについて
Y(愛媛県) 2016/04/01
横田先生お返事が遅くなり申し訳ございません。
先生の丁寧な回答に深く感謝いたします。

自分の治療にきちんと向き合えば向き合うほどいろんな疑問や知りたいことが溢れ出て
きます。
医療者サイドから見たらとるに足らないことかもしれませんが私の疑問に真摯に向き合ってくださったことそしてこのような掲示板がある事に深く感謝しています。

他の誰でもなく自分で選んだノルバデック10年という治療をきちんと完結していきたいと思います。

これからは病院薬剤師に相談にのって貰いながら薬を選択していきたいと思います。
ほんとうにありがとうございました。

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