掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
乳がんの抗がん剤の効果について
しょうか(愛知県) 2016/07/29
乳癌の術後の治療について御意見をお聞かせ下さい。

病理結果は、
・腫瘍の大きさ:1.0×1.0(乳管内広がり約4.5cm)
・ホルモン感受性:ER,PgRとも90%以上
・Ki-67:10%以下
・核グレード:3(核異型度:2、核分裂の数:3)
・リンパ節転移:1個(センチネルリンパ節)
・血管、リンパ管侵襲:マイナス
・HER2:マイナス
・年齢:45歳

サブタイプはルミナールAなので主治医はホルモン剤のみで抗がん剤はやらなくてもよいのではないかという意見ですが、リンパ節転移がありグレード3ということがとても心配なので抗がん剤を受けた方がよいのではないかと迷っています。

核グレードが高い方が悪性度が高いということで再発もしやすくなりますか?

核グレードもKi-67と同じく核分裂の割合を表す数値のようなので、Ki-67の数値が高い方が抗がん剤の効果があるということはグレードが3だと抗がん剤の効果が大きくなるということでしょうか?

グレード3の場合はKi-67が高いことが多いようですが、私のように10%以下になるようなこともありますか?
ki-67は術前の数値なので術後の病理検査では数値が変わってくることもありますか?(主治医からは術後の数値はでていないと言われました)

色々と質問してしまってすみません。
どうか御意見をお聞かせ下さい。

   
Re:乳がんの抗がん剤の効果について
三浦裕司 (東京都) 2016/07/31
しようかさん

初めまして。虎の門病院で腫瘍内科をやっております三浦と申します。
この掲示板でも、乳がんで術後の抗がん剤をやるべきかやらないべきか?という質問がきますが、確かにみなさんが迷われるところですよね。
我々はしようかさんを直接診察しているわけではないので、治療法の意思決定に直接的に関わるようなアドバイスはできないのですが、しようかさんが納得のいく治療選択ができるため、主治医の先生やチームの医療者とうまくコミュニケーションが取れるよう、一般的な知識や考え方などについてアドバイスできればと思います。

さて、下記のご質問についてですが、よくお調べになっていると思います。
==============================================================
① 核グレードが高い方が悪性度が高いということで再発もしやすくなりますか?
②核グレードもKi-67と同じく核分裂の割合を表す数値のようなので、Ki-67の数値が高い方が抗がん剤の効果があるということはグレードが3だと抗がん剤の効果が大きくなるということでしょうか?
③グレード3の場合はKi-67が高いことが多いようですが、私のように10%以下になるようなこともありますか?
④ki-67は術前の数値なので術後の病理検査では数値が変わってくることもありますか?(主治医からは術後の数値はでていないと言われました)
==============================================================
①、②について、程度の問題はあると思いますが、概ねご理解の通りだと思います。
③、④については、そのようなこともあると思います。ただ、④については、それほど大きく変わることはないように思います。

以下、とても長文になってしまいますが、我々が抗がん剤治療について患者さんと相談する際の考え方についてご説明しようと思います。

抗がん剤をするかしないか、という意思決定をする際に大事なことは以下の3つを考えることだと思います。
1) 抗がん剤治療のメリット(再発をおさえることや生存を伸ばすこと)はどのくらいか
2) 抗がん剤のデメリット(副作用など)はどのくらいか
3) 患者さんは何に優先順位をおいているのか

そして、その上でもう一つ大事なことは、なるだけ『具体的に」考えることです。
例えば、腫瘍の大きさやリンパ節転移の個数、核グレード、Ki-67などはすべて再発リスクに関わる要因ですが、どれにどのくらいの重みがあるのか、一つでも悪い要因があれば再発するのか、など迷ってしまいます。また、極端な話、40代の方と80代の方では治療の目標も変わってくるでしょう。

1)について、あくまで参考にはなりますが、下記のweb siteで腫瘍の性質や年齢によって、治療効果(それぞれの治療法で生存率や再発率が何%くらい改善するのか)を予測することができます。残念ながら英語のsiteでしかも専門用語が多いため、できれば主治医の先生にお願いして説明してもらった方が良いと思いますが、具体的に数字でイメージがつかみやすいと思います。

AdjuvantOnline (2016年7月時点で工事中)
https://www.adjuvantonline.com

CancerMath.net
http://www.lifemath.net/cancer/

Predict
http://www.predict.nhs.uk/predict.html

2)について大事なことは、「抗がん剤」とひとまとめにすることなく、具体的に何という薬をどのくらいのコース行うという選択肢があるのかを具体的に聞くことです。薬によって副作用はだいぶ違いますので、薬によってメリットとデメリットのバランスが異なります。

最後にもっとも大事なことは3)になります。仮に抗がん剤の効果が10年生存率を5%あげるとした場合、「1%でも再発を防ぐためならできることを何でもやりたい」と考えてる人と、「なるだけなら副作用がある治療は行いなくない」と考えている人では、同じ5%でも捉え方が違うと思います。このことについて自分がどのように考えているかを、主治医やチームの医療者に伝え、その上で一緒に相談することが必要です。また、セカンドオピニオンで他の先生のご意見も聞いてみるというのも一つの方法だと思います。

しようかさんが納得のいく治療を選択できるための一助になれば幸いです。
Re:乳がんの抗がん剤の効果について
三浦裕司 (東京都) 2016/08/04
しようかさん

下記質問に対して、回答を変更させてください。

②核グレードもKi-67と同じく核分裂の割合を表す数値のようなので、Ki-67の数値が高い方が抗がん剤の効果があるということはグレードが3だと抗がん剤の効果が大きくなるということでしょうか?

抗がん剤の治療において、「一般的に」増殖の激しい腫瘍ほど抗がん剤の効果が高いという性質があるため、大まかには正しいと思います、と前回回答させていただきました。ただ、正確に言うと、乳がんにおいてKi-67や核グレードが高ければ抗がん剤の効果が高い(効果予測因子になる)という科学的根拠を示した論文はありません。あくまでもKi-67や核グレードは再発のリスクを予測する「予後予測因子」となります。

三浦

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