掲示板「チームオンコロジー」

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治療とその選択
個別化医療(テーラーメイド医療?)
上野 直人(海外在住) 2008/03/25
★★最近、M.D.アンダーソンの上野直人氏のブログで、上のテーマをめぐって興味深い議論が展開されました。それを多くの医療従事者の方にも読んでもらいたいということで、この掲示板に転載することにしました。どうぞご一読ください。★★
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今日はBethesdaからの報告です。癌の標的療法の会にでています。

会の名前は立派だけど、中身は従来の学会の中身とあまりかわらないので少しがっかりしています。長年の友達に会えたのはたのしかったけど。

さて、癌の標的療法をなぜするかというと?より、正確な標的をみつけることにより治療の効果、効率をあげる。それに副作用を減らすなど様々なことがありますね。癌の研究者は自分もふくめて必死にこのテーマに取り組んでいますけど。なんかこれだけでは、不十分だと思うのです。もちろん標的療法をすることは個別化医療への一つの道かもしれないですが。

個別化医療とは何でしょうか。たぶん二面性があって、科学的に治療を個別化する面と患者一人一人の心のニーズを満たすことができることだと僕は信じています。
みなさんはどんな個別化医療を求めていますか。

個別化というと大げさに聞こえますけど(笑)、どんな医療を本当に私たちはもとめるべきなのでしょうかね。

   
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
ふ(東京都) 2008/03/25
患者個人の状態、社会、精神的な背景に基づいたきめ細やかな対応がよりよい医療であることは万人異論ないところだと思いますが、それが供給されるためにはそれなりの対価が必要になってくると思います。よいサービスには高い金額が必要。そんな当たり前のことがこと医療に関しては非常識になってしまうのでしょうか。日本の皆保険制度の中で万人に向けた個別化治療は破綻します。医者の人数を増やす、日本の医療費抑制を緩和することで解決する問題でしょうか。

(サイト管理者:注)投稿者ふさんの住所・性別などは不明です。ここに掲載した住所などは仮のものです。
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
上野直人(海外在住) 2008/03/25
なるほど。日本の皆保険制度を維持する中で個別化医療を推進するのは難しいのでしょうか?

1.医療従事者を増やすこともひとつですが、医療に赴く人間の数を減らすのはどうでしょうか?
2.本当に医療の必要な人たちが医療を受けているのでしょうか。
3.また、その後のフォローが近すぎることはないでしょうか?
4.OTC薬を増やすことは出来ないでしょうか。
5.病院以外における医療サービスの緩和をするのはどうでしょか?
6.もしかしたら数を増やすよりも、質の高い患者と医療従事者を増やす必要があったり?
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
ふ(東京都) 2008/03/25
NIHからですか?お返事ありがとうございます。
確かに患者が自分の医療についてもっと勉強すれば、本当に必要な医療が、本当に必要な検査のもと、本当に必要な治療薬で行われるでしょう。そうすると全体的な医療費も抑制され、その抑制分が医療サービスのほうへ補填されれば、医療者も患者もハッピーということになるのでしょう。しかし、後者は絶対実現しません。日本の馬鹿な官僚はサービスに補充せず、抑制のままとします。これは確実です。医療者の努力は見返りを受けません。これが日本の現実です。一方患者側も世界と比較して極めて安い診察代で高度な医療を受けられることを当たり前としており、「安いからついでにこれももらっておくわ」的な発想で、医療をスーパーマーケットの買い物のように考えています。これを改善、是正していくためにはアメリカ並みに医療単価をあげるしかありません。そうすれば、自分で適正に判断して医療を受けるでしょう。つまりは国民皆保険制度に甘えた患者、なんとか医療費を抑制しようとする官僚に起因する問題なのです。
表、裏
上野直人(海外在住) 2008/03/25
NIHからもどって、Houstonからです。
厳しい状況を書いていただきありがとうございます(笑)。
仰るとおりの面も十分認識しています。でも、変化を生むには相手を押す。この場合、政府や、組織を変えるのではなく。自らを変え、周りを少しでも増やし、地道に自分の信じている良い医療を仲間と共に語る必要があります。

日本で一番難しくしてるのが、個人レベルでは政府の官僚も、現場の人たち、患者も良い意見を持っているのですが、集団になったら、黙りか、極端な意見を言うか、コンセンサスをとることが苦手みたいですね。特に医療従事者、製薬メーカーと官僚にこの手のタイプが多いですね。

表、裏がある。これが問題なんです。特に医療では最悪です。
Re:表、裏
ふ(東京都) 2008/03/25
なぜ日本では個を押し殺し、集団に迎合することが多いのでしょうか?これでは変革は起こらないと誰もが分かっていながらなぜしないのでしょうか?個々人の民度が低いからだけでしょうか?
どうすれば個々人の頑張りが空転せず、社会全体に反映されるのでしょうか?このメカニズム、打開策を考えなければいけません。
何度も一人がコメントを繰り返して申し訳ありません。もう一つだけ教えていただきたいことがあります。
裏・表 Part 2 (^^)
上野直人(海外在住) 2008/03/25
これは日本人の問題ではありません。日本人の社会の問題よりも、医療の世界の問題です。患者はまさか医療に表裏があるなんてわかっていないと思います。患者のためなら必死にどんな状況でも発言してくれると信じている。でも、これが違うんですね。
私の活動は今、まさにcommunication、leadership, EBMをどのように日本の医療に理解していただくかに関心があります。去年からのTeamOncology Workshopはそこにfocusがあるんですよ。よろしくお願いいたします。
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
ふ(東京都) 2008/03/25
標的治療についてです。個別化には2つの重要な因子があります。prognostic Fとpredictive Fです。Riskに基づいて本当に治療が必要な人に必要十分な治療を加えることが前者の役割であり(治療が必要な”人をselectionする”こと)後者は(”Drugをselectionする”こと)が役割であると思っています。
その方法についての疑問です。factors or tagetsはmultipleかSingle かどちらがよいのかどうかです。癌は遺伝子病であり、増殖進展のPathwayは網の目のように張り巡らされています。Arrayなどのように網羅的に探求することは理にかなっていると考えられます。コスト、手技の煩雑さ、再現性のなさなどが障害となっています。逆にSingleでは、やはり癌の複雑性を正確には捉えられないということになってしまいます。Drugにしても同じですが、現在のTargeted therapyは確かにSingle targetを狙い打つことはできますが、必ずBypass wayがあります。では同時多発的にPathwayをつぶせばよいかというと、このさらに先を癌は行き、逃げていきます。果たして、何をどう用いて我々は癌を征圧することができるのでしょうか。
もう一つ課題があります。私のところだけなのかもしれませんが、いわゆる”包括同意”がみとめられておりません。単一のProtocolにのっとったProspectiveな解析でしか患者のサンプルを用いることができません。そして得られたサンプルは他の、将来の研究に流用することはできません。もし使用するならば再度、患者に同意を得る必要があります。つまり患者は一つ一つの研究にその都度同意する必要があるのです。(例外的、慣習的に病理組織学的研究は院内IRBを通せば研究可能ですが、遺伝子、血清サンプルはだめ)。これからの癌研究にとって大きな障害だと思いますがどうすれば解決できると思いますか?MDAはきっと包括同意ですよね。
P.S. 日経メディカル見ました。日米の医療のGapを埋める立役者として、これからもお元気であることを祈念しております。
とてもおもしろいテーマです
上野直人(海外在住) 2008/03/25
ふ さんへ

これて凄く良いテーマだとお思います。是非返事させていただきますが、これをBBSに転載していただくことは可能ですか。多くの医療従事者に読んでもらいたいのですが。

日経読みましたか。ありがとうございます。あれは手術から2週間後にインタビューを受けました。本当に今回の冒険は色々と考えさせられましたし、まだ、考えているというのが正直な感想ですね。
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
ふ(東京都) 2008/03/25
さすがです。経験の浅い未熟者のつまらない質問にも真摯に向き合えるのはリーダーたればこそですね。ここで先生の言葉が思い出されます。このテーマを同僚の上司などにいうと、「そんなの知らん」という黙りか、「それは○○に決まってる、もうすでに議論されている」という押し付けかの両極端の答えで議論になりません。BBSで熱い議論を希望します。
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
上野 直人(海外在住) 2008/03/26
先日の質問にお答えしたいと思います。
こたえるというよりも個人的な考え方かもしれません。

標的を絞った方が絞らない方がいいのか、これはなんともいえないと思います。おそらくどちろも正しいのではないかと思います。遺伝子などを多角的にとらるにしもて、あるいは一遺伝子にまたをしぼっても、その科学的な真実はただしいのだと思います。

問題は、今の科学レベルではまだまだ、現場の医療から標準からほどとおいですね。それは、おそらく、薬にしても、検査にしても、科学的にさらに発展の余地があるんだと思います。

それだけに将来のどのような個別化医療をもとめるのかは医療従事者も患者も一般国民もかんがえる必要のあるテーマだと思います。

このままでは、科学専攻の医療になりかねないか危惧しています。
Re:個別化医療(テーラーメイド医療?)
ピョン吉(兵庫県) 2008/03/29
ある患者が、有名病院へ希望転院されたのですが、しばらくして当院に帰ってこられました。
理由は「自分がベルトコンベアーにのせられた大量生産の部品のような感じで、医療者と人としての関わりがないことが耐えられなかった」とのこと。

超有名病院を求める人や、医療者との関わりを大切にしたい人。患者のがん医療に求めるニーズも個別だと思います。

当たり前の話かもしれませんが、医療者は「科学的な治療の個別化」と同時に、「患者一人一人の心のニーズを満たすための個別化」を求め続けていく必要があると考えています。

少し前ですが薬科大学の大学院の試験で個別化治療に関する問題がありました。
その後の教授陣と個別化治療の話題になったとき、「患者一人一人の心のニーズを満たすための医療者による関わりも個別化治療のひとつではないか」と話を持ち出したのですが、間違いなく空振りでした。
(これであきらめたら、だめな日本人なんでしょうね。)

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