掲示板「チームオンコロジー」
Bulletin board
治療とその選択
針生検での病理と術後病理診断に著しい差異がある場合について
デミオ(宮城県)
2012/11/02
51歳。左乳房温存手術後、1カ月ののちようやく病理結果がでました。
最大径 0.9㎝ 脈管侵襲なし、リンパ節転移なし 断端陰性
HER2 1+
ER TS8 PGR TS7
MIB 1%
核グレード1 ルミナルA
非常におとなしいタイプのがんということでしたが、針生検の病理では、
HER2 3+ MIB 30% ER 99% PGR 99%
と出ており、いわゆる増殖高めのトリプルポジティブなので抗がん剤+ハーセプチン、放射線、ホルモン療法のフルコースの術後治療になるだろうと言われていました。
HER2などの結果が違う理由として、採取部位による違い、術前治療の影響、組織検体の取り扱いによる違いなどがあると本で読みましたが、私の場合、乳がん判明後、子宮内膜症と子宮筋腫による月経困難症のため服用していた低用量ピル(ルナベル)を中止したという経緯があります。服用は3年間でした。ピルを止めたあと月経の猛烈な痛みが復活することへの恐怖があったものの、結局、その後(3カ月程度)ずっと生理は来ず、血液検査でもE2 12 FSH 60の閉経レベルで、婦人科での内診でも「子宮内膜が全く厚くなっていないので閉経とみて間違いなさそうだ」と言われました。
つまり閉経している(可能性が強い)のにピルを服用し続けていたことになります。さる震災で被災したこともあり、閉経を気にしながらも痛みへの恐怖感が強く、漫然とピルを服用していました。
そして、服用を中止して36日後、手術前日に受けた乳腺エコー検査において、針生検時のエコーと比べ、約5ミリの明らかな縮小が見られました。(エコー上で約1.2㎝が約0.7㎝に縮小)
その際、主治医は「更年期のホルモン補充療法と乳がんの関係はアメリカなどで取りざたされているものの、ピル服用と乳がんの関係ははっきりしていない」とおっしゃりながらも、「ピル服用を止めたことで縮小したのかなあ…」としきりに首をかしげておられました。
そして、術後の病理結果が出たあと、針生検時の病理と大きく異なるので、再度病理検査を行うことになりました。
今のところの主治医の判断は、エコーで縮小したことと病理が変わったことと整合性があるように思われるということで、「現在の病理の結果では非常におとなしいタイプのガンなので術後補助療法としては放射線治療も必要なし、ホルモン療法でいく」ということでした。再度の病理診断を待っている間、アリミデックスを処方されました。
お尋ねしたいのは以下の2点です。
1.針生検と術後の病理診断が一致しない理由として、ピルを中止したからということは考えられるか? またそのことでHER2やMIBの数値にこれほどまでに違いがでてくるものなのか?
2・当初、主治医からは放射線治療は温存手術とセットと聞いていたが、温存で放射線が必要ない、というのは上記のような病理結果から一般的にあることなのか?
主治医をとても信頼しておりますが、乳がんがわかってからジェットコースターのように目まぐるしく、もろもろ心配でたまりません。ご教授いただければ励みになります。
最大径 0.9㎝ 脈管侵襲なし、リンパ節転移なし 断端陰性
HER2 1+
ER TS8 PGR TS7
MIB 1%
核グレード1 ルミナルA
非常におとなしいタイプのがんということでしたが、針生検の病理では、
HER2 3+ MIB 30% ER 99% PGR 99%
と出ており、いわゆる増殖高めのトリプルポジティブなので抗がん剤+ハーセプチン、放射線、ホルモン療法のフルコースの術後治療になるだろうと言われていました。
HER2などの結果が違う理由として、採取部位による違い、術前治療の影響、組織検体の取り扱いによる違いなどがあると本で読みましたが、私の場合、乳がん判明後、子宮内膜症と子宮筋腫による月経困難症のため服用していた低用量ピル(ルナベル)を中止したという経緯があります。服用は3年間でした。ピルを止めたあと月経の猛烈な痛みが復活することへの恐怖があったものの、結局、その後(3カ月程度)ずっと生理は来ず、血液検査でもE2 12 FSH 60の閉経レベルで、婦人科での内診でも「子宮内膜が全く厚くなっていないので閉経とみて間違いなさそうだ」と言われました。
つまり閉経している(可能性が強い)のにピルを服用し続けていたことになります。さる震災で被災したこともあり、閉経を気にしながらも痛みへの恐怖感が強く、漫然とピルを服用していました。
そして、服用を中止して36日後、手術前日に受けた乳腺エコー検査において、針生検時のエコーと比べ、約5ミリの明らかな縮小が見られました。(エコー上で約1.2㎝が約0.7㎝に縮小)
その際、主治医は「更年期のホルモン補充療法と乳がんの関係はアメリカなどで取りざたされているものの、ピル服用と乳がんの関係ははっきりしていない」とおっしゃりながらも、「ピル服用を止めたことで縮小したのかなあ…」としきりに首をかしげておられました。
そして、術後の病理結果が出たあと、針生検時の病理と大きく異なるので、再度病理検査を行うことになりました。
今のところの主治医の判断は、エコーで縮小したことと病理が変わったことと整合性があるように思われるということで、「現在の病理の結果では非常におとなしいタイプのガンなので術後補助療法としては放射線治療も必要なし、ホルモン療法でいく」ということでした。再度の病理診断を待っている間、アリミデックスを処方されました。
お尋ねしたいのは以下の2点です。
1.針生検と術後の病理診断が一致しない理由として、ピルを中止したからということは考えられるか? またそのことでHER2やMIBの数値にこれほどまでに違いがでてくるものなのか?
2・当初、主治医からは放射線治療は温存手術とセットと聞いていたが、温存で放射線が必要ない、というのは上記のような病理結果から一般的にあることなのか?
主治医をとても信頼しておりますが、乳がんがわかってからジェットコースターのように目まぐるしく、もろもろ心配でたまりません。ご教授いただければ励みになります。
モーダルを閉じる
Re:針生検での病理と術後病理診断に著しい差異がある場合について
村上 (広島県)
2012/11/16
はじめまして、広島で乳腺外科をしている村上と申します。
震災のあと、いろいろとご苦労が多かったことと思います。また乳がんの治療でも悩みが多かったようですね。でもよく勉強されていると思います。
ご質問に分かる範囲ですがお答えします。
1:ピルの影響でHER2やMIBの数値にこれほどまでに違いがでてくるものなのか?
ピル中止の影響に関しては、はっきりしたデータがありません。理由はそのようにピルを内服していて発症した方が日本では少ないこと、さらにピルの服用中止前後で病理検査を行った方がほとんどおられないからです。ですからご質問に正確にお答えできるデータは誰も持っていないと思います。術後の治療に関しては、針生検のデータではなく手術の摘出した検体のデータをもとに決めていくのが一般的です。
2:放射線治療は省略可能か?
一般的には放射線治療がセットになります。理由は温存した乳房の再発が1/3に減少するからです。ただし放射線をしなかった場合の再発率は、患者さんそれぞれで違いますから、一概に1/3減少するといってもどれだけの再発抑制の絶対値が得られるかは、患者さんそれぞれで異なることになります。
その一方で放射線治療の副作用は必ず一定の確立で起こります。再発抑制の絶対値と、副作用の起こる絶対値を比較して省略することも実地臨床ではあり得ます。そのあたりは主治医の先生とご相談なさるのがよろしいかと思います。
震災のあと、いろいろとご苦労が多かったことと思います。また乳がんの治療でも悩みが多かったようですね。でもよく勉強されていると思います。
ご質問に分かる範囲ですがお答えします。
1:ピルの影響でHER2やMIBの数値にこれほどまでに違いがでてくるものなのか?
ピル中止の影響に関しては、はっきりしたデータがありません。理由はそのようにピルを内服していて発症した方が日本では少ないこと、さらにピルの服用中止前後で病理検査を行った方がほとんどおられないからです。ですからご質問に正確にお答えできるデータは誰も持っていないと思います。術後の治療に関しては、針生検のデータではなく手術の摘出した検体のデータをもとに決めていくのが一般的です。
2:放射線治療は省略可能か?
一般的には放射線治療がセットになります。理由は温存した乳房の再発が1/3に減少するからです。ただし放射線をしなかった場合の再発率は、患者さんそれぞれで違いますから、一概に1/3減少するといってもどれだけの再発抑制の絶対値が得られるかは、患者さんそれぞれで異なることになります。
その一方で放射線治療の副作用は必ず一定の確立で起こります。再発抑制の絶対値と、副作用の起こる絶対値を比較して省略することも実地臨床ではあり得ます。そのあたりは主治医の先生とご相談なさるのがよろしいかと思います。
Re:針生検での病理と術後病理診断に著しい差異がある場合について
デミオ(宮城県)
2012/11/16
村上先生、お忙しいなか、温かいお言葉とともにこちらのつたない質問にご回答をいただきまして本当にありがとうございました。
ピルと乳がんの関係を示したデータがないこと、よくわかりました。
また放射線治療についても、条件によっては温存手術後の放射線治療をしないケースもありうることも理解できました。
自分でもいろいろ調べてみたところ、2008年の乳がん学会で、放射線治療を省略できるケースがある旨、厚生労働省がん研究助成金研究班の先生がたが発表なさっているのですね。
浮かんでくる不安や疑問など率直に主治医に話しつつ、術後の治療にのぞみたいと思います。
村上先生にご回答いただいたコメントを繰り返し読むことで、とても気持ちが落ち着きました。
ありがとうございました。
ピルと乳がんの関係を示したデータがないこと、よくわかりました。
また放射線治療についても、条件によっては温存手術後の放射線治療をしないケースもありうることも理解できました。
自分でもいろいろ調べてみたところ、2008年の乳がん学会で、放射線治療を省略できるケースがある旨、厚生労働省がん研究助成金研究班の先生がたが発表なさっているのですね。
浮かんでくる不安や疑問など率直に主治医に話しつつ、術後の治療にのぞみたいと思います。
村上先生にご回答いただいたコメントを繰り返し読むことで、とても気持ちが落ち着きました。
ありがとうございました。
:針生検での病理と術後の病理に違いがある
宮城 律子(千葉県)
2018/03/07
ステージ1の乳ガンにて、温存手術をしました。
手術前では、ホルモン低値ではあります
が、ルミナールと言われてました。
(ki高よりルミBと思ってました)
しかし、術後の病理結果にて、トリプルネガディブと言われております。
「針生検の結果」
ER PS3 IS2
PgR PS0 IS0
「術後病理結果」
ER マイナス
PgR マイナス
担当医からは、
「癌は、色々組織からなっており、トリプルネガディブベースであるところに、
ホルモン受体の部分が微量混在している。1センチの大きさでも、このような事は
時折有ることです」
と説明を受けています。こんなことはあるのでしょいか?
私はいろいろな所見をみても、標本時に何らかの理由で(固定に時間がかかったなど)
染色性が低下したのではとみるのですが、いかがでしょうか?
ちなみにオンコタイプも出しましたが、ホルモンマイナスでした。
手術前では、ホルモン低値ではあります
が、ルミナールと言われてました。
(ki高よりルミBと思ってました)
しかし、術後の病理結果にて、トリプルネガディブと言われております。
「針生検の結果」
ER PS3 IS2
PgR PS0 IS0
「術後病理結果」
ER マイナス
PgR マイナス
担当医からは、
「癌は、色々組織からなっており、トリプルネガディブベースであるところに、
ホルモン受体の部分が微量混在している。1センチの大きさでも、このような事は
時折有ることです」
と説明を受けています。こんなことはあるのでしょいか?
私はいろいろな所見をみても、標本時に何らかの理由で(固定に時間がかかったなど)
染色性が低下したのではとみるのですが、いかがでしょうか?
ちなみにオンコタイプも出しましたが、ホルモンマイナスでした。
Re:針生検での病理と術後病理診断に著しい差異がある場合について
S(神奈川県)
2018/03/09
M様はじめまして (イニシャルでお呼びする非礼をお許しください) 。医師の S と申します。生検標本と手術切除標本でホルモン受容体 (ER, PgR) の結果が異なったということですね。「意見を」ということでございましたが、この掲示板は「意見=オピニオン」をお伝えできない取り決めになっておりますので、一般的な内容の回答となりますことをあらかじめご了承くださいませ。
主治医の先生のご説明の通り、術前のホルモン受容体の発現結果と手術で切除したホルモン受容体の発現結果が異なることがあります。異なる可能性があるために同じ評価 (ER, PgR の発現など) を術前、術後の2度に渡って行うという言い方もできるかもしれません。生検標本、手術標本の結果が異なることもありますが、その場合は手術標本の病理結果が優先されます。なお、ER, PgR, HER2, Ki67 は免疫組織化学染色という手法で評価されることを追記いたします (HER2 は一部例外があります)。免疫組織化学染色は採取された標本内に存在するタンパク質を検出する手法です。言い方を変えれば、生検標本でも、手術標本でも ERタンパク質、PgRタンパク質、HER2タンパク質、Ki67タンパク質を評価しているということになります。
さて、ご質問の「ホルマリン固定時間の影響で結果が変わったのではないか」という点です。固定不良や過固定が免疫組織化学染色の結果に影響することについては、あり得なくはないものです。免疫組織化学染色のターゲットになる ERなどのタンパク質の形がホルマリンの影響で変わるために固定の仕方このような差が出ることがまれにあります。
M様はオンコタイプDXを利用されておられますね。オンコタイプDX は手術標本を対象に行われることのある検査で、RNA と呼ばれるタンパク質とは別の物質を対象に行われる検査です。ご投稿を拝見させていただきますと、手術標本において、オンコタイプDX と免疫組織化学染色の結果が一致しているようです。2つの検査で一致していますので手術標本についての解釈は主治医の先生のご説明の通り (ER陰性、PgR陰性) となるのではないかと思われますが、再度、この点において主治医にご相談されるのがよいかもしれません。M様がお気になされている染色性の低下についても、病理の立場から再確認してもらえることもあるかもしれません。その旨、主治医に具体的にご相談してみてはいかがでしょうか。
また、主治医以外の意見をお知りになりたい場合はセカンドオピニオンの利用が有効です。セカンドオピニオンには乳腺医師の意見のみならず、病理の意見も合わせて尋ねられる様式のものもあります (セカンドオピニオン先の病理医の意見はセカンドオピニオン先の乳腺医師が代わって説明することが多いです)。病理のセカンドオピニオンを利用なされた場合も、ホルマリン固定の部分からやり直すということはできませんが、別の施設からの意見を聞くことでよりご理解が深まるかもしれません。
ご納得の上、治療に臨んでいかれますよう陰ながら M様を応援しております。
主治医の先生のご説明の通り、術前のホルモン受容体の発現結果と手術で切除したホルモン受容体の発現結果が異なることがあります。異なる可能性があるために同じ評価 (ER, PgR の発現など) を術前、術後の2度に渡って行うという言い方もできるかもしれません。生検標本、手術標本の結果が異なることもありますが、その場合は手術標本の病理結果が優先されます。なお、ER, PgR, HER2, Ki67 は免疫組織化学染色という手法で評価されることを追記いたします (HER2 は一部例外があります)。免疫組織化学染色は採取された標本内に存在するタンパク質を検出する手法です。言い方を変えれば、生検標本でも、手術標本でも ERタンパク質、PgRタンパク質、HER2タンパク質、Ki67タンパク質を評価しているということになります。
さて、ご質問の「ホルマリン固定時間の影響で結果が変わったのではないか」という点です。固定不良や過固定が免疫組織化学染色の結果に影響することについては、あり得なくはないものです。免疫組織化学染色のターゲットになる ERなどのタンパク質の形がホルマリンの影響で変わるために固定の仕方このような差が出ることがまれにあります。
M様はオンコタイプDXを利用されておられますね。オンコタイプDX は手術標本を対象に行われることのある検査で、RNA と呼ばれるタンパク質とは別の物質を対象に行われる検査です。ご投稿を拝見させていただきますと、手術標本において、オンコタイプDX と免疫組織化学染色の結果が一致しているようです。2つの検査で一致していますので手術標本についての解釈は主治医の先生のご説明の通り (ER陰性、PgR陰性) となるのではないかと思われますが、再度、この点において主治医にご相談されるのがよいかもしれません。M様がお気になされている染色性の低下についても、病理の立場から再確認してもらえることもあるかもしれません。その旨、主治医に具体的にご相談してみてはいかがでしょうか。
また、主治医以外の意見をお知りになりたい場合はセカンドオピニオンの利用が有効です。セカンドオピニオンには乳腺医師の意見のみならず、病理の意見も合わせて尋ねられる様式のものもあります (セカンドオピニオン先の病理医の意見はセカンドオピニオン先の乳腺医師が代わって説明することが多いです)。病理のセカンドオピニオンを利用なされた場合も、ホルマリン固定の部分からやり直すということはできませんが、別の施設からの意見を聞くことでよりご理解が深まるかもしれません。
ご納得の上、治療に臨んでいかれますよう陰ながら M様を応援しております。
モーダルを閉じる
記事内容を変更することはできません。記述を修正したい場合はコメント欄を使って補足・訂正を行ってください。