コラム/エッセイ
患者がチーム医療に加わるということ
The importance of having a multidisciplinary team
Vol.01
患者がチーム医療に参加するということ
私が初めて聖路加国際病院の中村清吾先生をお訪ねしたのは、サードオピニオンを聞くためでした。他の病院で受けた検査の結果、乳がんであることが判明し、どこの病院でも乳房切除、全摘手術をするという説明を受けました。しかし、それがどういうことなのか、「乳がん」とは何なのか、自分はどういう状態なのか、治癒するのか、生命に関わるのか、どのように手術が行われるのか、手術後の自分はどうなるのか、他に治療法はないのか、どの病院に掛かるのか、先行きが見えないまま、2-3日は「どうして自分が発病したのだろう」と思い悩みましたが、発病という現実からは逃れないと心の折り合いをつけながら、それからは実際の手術日まで、納得のいく治療を受けるための情報収集とその理解、決断で時間との戦いでした。
良い診療を受けたいというのは患者の誰もが願うことだと思います。がん医療の先進国といわれるアメリカでは日本と治療が何か異なるのか、私はアメリカで治療を受けるという選択肢も含めて考えました。その際にアメリカでは「チーム医療」が進んでいると知り、色々な職種の方々がチームに加わって総合的にサポートしてくださるというチーム医療に関心を持ちました。しかし同時に、乳がんの治療は術後のフォローアップ期間が長いとわかり「アメリカへは通えない」と選択肢から消えましたが、聖路加病院でもチーム医療を目指していると知りお世話になることにしました。
聖路加病院では、手術の方法(例えば切除について、切開する位置等)、術中・術後の病理検査の結果如何で異なる術後のフォローアップの治療法オプションについて説明を聞きました。今でもいちばん深く印象に残っているのは「術後の人生を考えよう」という先生のお言葉でした。そこで初めて乳房再建について具体的にその術式オプションを伺いました。その時、ふっと何かが吹っ切れたような気がして「私の人生は術後も続くんだ」「乳房再建は生きるため」「これまでと同様に下着も洋服も着られる」と思ったら、術後の生活のビジョンを思い描くことができ、すぐに同時再建をすることに決めました。
私の場合、検査中に反対側の乳房にも腫瘍が見つかりました。幸い良性でしたので当初はそのまま何もしない予定でした。しかし、その腫瘍が将来悪性に変わる可能性もあるため頻繁に検査をしなければいけないという事情から、主治医と読影医の先生と相談した結果、「良性腫瘍のうちは糊しろをつけないで小さく取れるから乳房の形も変わらない」という利点と、「悪性腫瘍に変わるかもしれないならそのリスクファクターは少しでも減らしたい」という私の要望で良性腫瘍も乳房切除の際に同時に取っていただきました。
こうした過程の中で医療者の方々とのコミュニケーションを通じながら、病気や治療について理解を深め、必要に応じてそれぞれの時点で私自身が選択し、決めてきたことに気づきます。手術に臨む際にも不安や恐怖心はほとんどありませんでしたが「納得していたのかな」と当時を思い起こし、納得した治療が受けられることをありがたく思っています。「患者がチーム医療に主体的に参加する」ということについて、この度、上野先生からいただきましたこの機会にこちらのコラムの場をお借りして私見を綴っていきたいと思っております。
(2006年12月執筆)