コラム/エッセイ

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Vol.09

患者会副会長: リンパ浮腫に悩むすべての患者のために治療体制を充実させたい

東 厚子(患者会副会長)
東 厚子(患者会副会長)
30歳で子宮頸がん、同時に左下肢リンパ浮腫を発症。治療法を知ってから、毎日のセルフケアで歩行困難な状態から全力疾走ができるほど、普通の日常生活ができるようになった。現在は、患者会のスタッフとして電話相談、講演会・セルフケア講習会の開催、関連学会への参加などの活動をしている。

1.リンパ浮腫の発症

私は1988年、子宮頸がん(腺がん)Ibと診断され、子宮全摘、リンパ節郭清を行った。手術前の同意書には、「排尿・排便障害、更年期症状、脚の腫れが後遺症として起こるかもしれない」と書かれていたように記憶している。

手術直後より、すべての後遺症と痛みに耐える日々だったが、脚の腫れはさほど重要とは感じていなかった。主治医からも「治療法がないから我慢するしかない」と言われていた。脚の腫れ以外の後遺症については体が慣れ、薬によって対処できた。

だが、脚の腫れは徐々に広がり、次第に歩行困難となり、日常生活にも支障をきたすようになってきた。この時は、この脚の腫れが「リンパ浮腫」という病名であることも、完治が難しいということも知らなかつた。

2.リンパ浮腫の治療

「リンパ浮腫に治療法がある」と知ったのは、発症してから11年後であった。当時、リンパ浮腫は、医師や看護師など医療従事者にもあまり知られていない病気だった。

治療法は、「複合的理学療法(スキンケア・医療リンパドレナージ・圧迫療法・圧迫下での運動療法を併せて行う)」という保存療法が国際標準であり、セルフケアが重要であることもわかった。リンパ浮腫は、発症しても早期の治療で重篤化を予防できる。当時は治療法があることを知っても、それを正しく知る術がなかった。

3.患者会の設立

インターネットで「リンパ浮腫」を検索して見つけた掲示板で、原発性リンパ浮腫患者の現会長(森洋子)や当時では珍しいリンパ浮腫に興味を持つ医師と出会い、オフ会で数人の仲間たちと大阪で講演会を企画した。この活動がメディアに取り上げられ、問い合わせが殺到した。多くのリンパ浮腫患者が太い脚や腕を抱え、なにも情報がないまま身体的、精神的なダメージを受け、不安な生活を送っていたのである。

これをきっかけに、リンパ浮腫に対してたくさんの情報を発信したいと考え、会長が中心となり2000年に患者会を設立した。同時に、医療リンパドレナージセラピストの存在とその育成に力を入れている方々を知った。リンパ浮腫の治療には、医師、医療リンパドレナージセラピスト(看護師・理学療法士・作業療法士・あん摩マッサージ指圧師)の協力が欠かせないと思った時期である。

4.リンパ浮腫治療が抱える問題点

平成20年4月に厚生労働省の通達により、リンパ浮腫重篤化予防を目的とした「リンパ浮腫指導管理料」、治療に必要な装具である「弾性着衣」の保険適用(療養費)が認められ、リンパ浮腫への関心が高まってきたように見えた。平成20年4月以前にリンパ浮腫を発症した患者は指導の対象外である。また、弾性着衣の療養費支給対象者は、悪性腫瘍によるリンパ節郭清をした患者に限られ、原発性リンパ浮腫を含めたすべてのリンパ浮腫患者が対象ではなかった。

「同じ病名であり、同じ弾性着衣を用いる疾患にもかかわらず『がんの治療後ではないため療養費が支給されない』という国の判断は誤っている」というのが、私たち「あすなろ会」の主張である。

また、現在、複合的理学療法が医療技術として保険が適用されていないため、医療機関が積極的にリンパ浮腫治療に取り組める体制が整っていない。このため、治療をする側、される側、どちらにも治療を継続するうえで厚い壁となっている。

例えば、治療者側の問題では、リンパ浮腫治療をしても診療報酬の点数がつかず、経営の支障となり、やむを得ず外来での活動をやめてしまう病院がある。こうなると、患者側は自由診療の診療施設に行くことになるが、治療費が1回1万円を超えることも多く、治療すれば改善するにもかかわらず継続することを断念せざるを得ない人もいる。

リンパ浮腫を診断する医師も少ないことから、全国的な指針として、リンパ浮腫の診断・治療に関する各学会の統一されたガイドラインが作成されることも必要ではないだろうか。

5.患者会の役割

リンパ浮腫患者グループ「あすなろ会」が一番力を注いでいるのは、大阪と東京で行っている電話相談である。リンパ浮腫患者特有の体や心の悩みを、同じ患者だからこそ分かり合えることもある。全国各地の患者さんからの「ありがとう」の一言は、私たちにとって大きな喜びである。

また、日本リンパ学会や日本脈管学会などの市民公開講座では、患者の代表として発言の機会を与えられ、医療者側の方々に私たちの切実な願いを伝えることもできる。

6.チーム医療に望むこと

現在、リンパ浮腫治療に直接関わっているのは、医師・看護師・理学療法士・作業療法士・あん摩マッサージ指圧師である。その医療機関によって、治療をする職種は様々だが、直接関わらなくても、がんの治療後に腫れた脚や腕を直接見る機会がある放射線技師や、がん診療連携拠点病院に設置義務がある、がん相談支援センターの医療ソーシャルワーカーの方々にも、リンパ浮腫に関心を持って欲しい。

リンパ浮腫患者の約9割を占めるがん患者の場合、入院治療中はある程度の指導を受けられるが、退院してからの発症では満足のいく指導や治療は受けられないのが実情である。せめて、がん診療連携拠点病院には、リンパ浮腫治療や指導ができる多職種の連携や体制が必要不可欠であると思う。なぜなら、リンパ浮腫の早期からの治療は、患者の日常生活を大きく左右するほど重要なことだからだ。

(2011年9月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。