コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

チームオンコロジーとキャリア・ディベロップメント ~それはメンターシップとメンティーシップを学ぶ道

薬剤師:佐藤由美子

佐藤 由美子 Yumiko Sato

薬剤師

名古屋市立西部医療センター薬剤科 Nagoya City West Medical Center

1.チームオンコロジーへの道 ~それは誰も通ったことのないケモノ道?!

私は2005年にEducational Seminar in Japanに、2006年にJapanese Medical Exchange Program (JME) に参加しました。チームオンコロジーを学ぶと、チームオンコロジーを実践したくなります。

しかしながら、地方の中規模市民病院でとてものんびりとした雰囲気の当院では、それは誰も通ったことのない道でした。かろうじて週1回の乳がんチーム回診や不定期の勉強会などを始め、細々と続けていました。ある意味アットホームなチームでしたが、自分の知識不足のせいもあって、患者さんに最高の医療を提供できているかどうか確信が持てない日々が続きました。

【その頃のMission & Vision】
Mission: 日本の医療の中に臨床薬剤師という職能を確立させる。
Vision: 日本の医療がすべて、医療スタッフと患者が対等に話し合えるチーム医療になる。

2.社会人大学院、認定薬剤師への挑戦 ~メンティーシップを学ぶ

上のような壁を感じていた2008年、母校の名城大学で、がんプロ大学院社会人コースが開講されました。「日常診療で疑問に思っていることを検証し、改善していくことが最高の医療につながる」とチームオンコロジーで学び、「リサーチができる、エビデンスが作れる臨床薬剤師になりたい」という強い思いがあったので、大学院で臨床研究を学ぶことにしました。

しかしながら、実臨床のエビデンスになる研究をやりたいと考えている私と、まず身の回りの身近なテーマをと勧める指導教官との間ですれ違いが起こりました。紙のカルテを夜中までめくってデータを集めてまとめてみても、いまひとつ的を射ない。まずスタディ・デザインを教えてほしいと思う私と、とりあえずやってみようと促す教官。まさに悪戦苦闘の日々でした。

その間に愛知県がんセンターで3ヶ月間の研修を受け、がん薬物療法認定薬剤師になることができました。でもやはり、研究は思うようには進みませんでした。

今になって考えてみれば、最初から大きな目標を掲げすぎていたのだと思います。何事にも練習が必要、Baby stepから始めることを見失っていました。また、どこが悪いのか、どうすればいいのかをとことん聴くことが出来ずにいました。メンティー(Mentee)として、自分の考えを素直に話して助けを求める姿勢が欠けていたと思います。

こうして、いくつかの研究はまとめることも出来ず、いくつかの研究はまとめて投稿しても受理されず、もう無理かもしれないと諦めかけた頃に、少しずつ手応えが感じられてきました。4年間かけて、学位取得に必要な2報の論文がやっと受理され、現在は学位審査に向けてまた悪戦苦闘しているところです。

3.J-Mentorへの挑戦 ~メンターシップを学ぶ

チームオンコロジーのメンターはMDアンダーソンがんセンター(以下MDA)の先生方だけでしたが、2010年、日本側のメンター(J-Mentor)が公募されました。「チームオンコロジー・ワークショップがどのように創り出されているのか」、「人を育てる、インスパイアするとはどういうことなのか」を学びたいという思いが先に立ち、自分にその資格があるかどうかは周りが決めてくれるだろうと考えて、思い切って挑戦してみました。

J-Mentorとしてワークショップを2回経験しましたが、改めてMDAメンターの偉大さと人間らしさを合わせて感じています。メンターだからといって、何に対しても優れている必要はなく、自分の強みを活かしてメンティーに惜しまず与えること、そして支援する心が大切なのだと学びました。

4.キャリア・ディベロップメント ~それは新しい扉を開く魔法の杖かも?

大学院に進学し、がん薬物療法認定薬剤師、そしてJ-Mentorとなったことで、自分の意識と周りの意識が変わったと感じました。勤務していた市民病院ともう1つの市民病院が合併して、2010年の5月に新病院が誕生しましたが、計画段階から現在まで、化学療法の担当として中心的に関わっています。

また、県の病院薬剤師会や愛知県がんセンターの研究グループにも関わるようになりました。自分も周りの方を頼るようになりましたし、周りの方からも声をかけていただくことが多くなりました。毎日が感謝の日々です。このご恩を、今度は患者さんに返していく番です。これから化学療法の副作用を改善するための臨床試験を少しずつ始めるとともに、副作用マネジメントについて院内で標準化を行っていきたいと考えています。

【現在のMission & Vision】
Mission: すべてのがん患者の笑顔のために、症状や治療による苦痛の無い医療に貢献できる臨床薬剤師になります。
Vision: 緩和医療の臨床研究とチームオンコロジーの推進によって、がんになっても笑顔で闘病できる医療、すなわち、症状や治療に伴う苦痛の無い、集学的な最高の医療を患者さんに提供します。

(2012年 1月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

作家の本田健さんが好きで、Podcast(写真の「本田健の人生相談」)をいつも聴いているのですが、そのなかで自分にぴったりかも?と思うお話があったので、以下に書き留めてみました。

「計算しすぎると人は不幸になる」

計算ができる人、頭のいい人は、うまくいかない未来しか計算できない。幸せな未来は計算できない。いま幸せな人は、計算ができない人。計算ができなくて、なんとなくバーン!とやっちゃう人の方がなんとなく上手くいってしまう。

つまり、計算ができる人は自分の未来を計算ばかりして、自分の知性を、自分の人生を楽しく生きないということに使ってしまっている。それは、うまくいった例を見ていなさすぎるからではないだろうか?

(2012年 1月執筆)

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