コラム/エッセイ
チームオンコロジーへの道
Essay: Road to TeamOncology
私にとってのEBMとチーム医療
濱嶋 夕子 Yuko Hamajima
看護師
Stanford Cancer Center
看護師の私にとってのEBM
看護師として働き始めて、まず驚いたことの一つに、カルテで使われる略語の多さがある。特にICU(集中治療室)で働いていた頃、科によって略語の意味が異なることにはよく混乱したが、EBMという略語も、私にとっては時とともに異なる意味を持つ言葉である。
EBMというと、言うまでもなくEvidence Based Medicine(エビデンスに基づく医療)の略語であるが、今振り返ると恥ずかしいくらいに、看護師の私にとってEBMのEは、EvidenceではなくEmotion(感情)であった。
患者さんの治療方針をめぐり、医師とのカンファレンス等での私の主張は、いつも“患者さんが可哀想”という私の感情移入にのみ基づいて行われていた。恥ずかしながら、これは新人時代だけでなく、時としてこれにExperience(経験)のEも加わり、 その後数年間にわたり、私のベースになっていたように思う。
J-TOPのワークショップに参加してからのEBM
2011年、Japan TeamOncology Program (J-TOP)のThe 5th TeamOncology Workshopに参加して、わたしはEvidence Based Medicine の大切さを知った。EBMという言葉はもちろん知っていたが、それをどう活用していくのかを、ワークショップを通して多職種でフラットに話し合う機会を持つことにより、よりよく理解することができるようになり、私にとってのEBMはようやく本来の意味となった。
実際ワークショップを終えて、臨床の場でも、医師をはじめとする他職種との話し合いにおいて、医師や薬剤師がどのような視点で患者さんにアプローチしているのかを理解しやすくなり、効果的な話し合いができるようになった。
また普段行っている看護ケアの妥当性を検討する良い機会にもなった。しかし、時として、EBMだけに基づいて治療方針を決定された患者さんが、本当にその治療を希望しているのか良く分からない現状に葛藤した。
JME Programに参加してからのEBM
2012年、Japanese Medical Exchange (JME) Program を通じて、MDアンダーソンがんセンター(以下MDA)で5週間の研修に参加する機会に恵まれた。 そしてMDAでの研修中、Ethics Conference(倫理検討会)に参加したり、Clinical Ethicist(臨床倫理家)の話を聞いたりする中で、患者さんの価値観に重きをおいて、患者さん中心の治療方針を模索する医療者のチームワークにとても感銘を受けた。
この研修に参加した後、当院でも臨床倫理検討会などがあることを知り、また臨床倫理の研修などにも参加するようになった。医師、薬剤師、ケースワーカー、栄養士など様々な立場で医療に関わる人たちとともに、治療方針を決定するにあたり、患者さんの価値観をどうとらえるか、またそれを踏まえてどんな医療が必要なのか、そしてその治療のEvidenceはどうなのかといった話し合いが活発に行われている。
臨床倫理というと、とても難しいものという先入観を持っていたが、治療方針の決定、療養場所の決定、高齢者への抑制、延命治療など、臨床倫理の関わる問題は医療の様々な場面に常に存在しており、患者さんのニーズにあった治療の実践において大切なものである。
以上のようなことから、JME Program参加後、私にとってのEBMの意味は、Ethics(倫理) Based Medicineに変化した。
Ethics Based Medicineを実現するために
患者さんの価値観やニーズに基づく医療を提供するために、看護師として自分は何ができるのだろうか? 答えは今まで自分が看護師として当たり前のようにしてきたことにあった。
患者さんの価値観を知ること、時として医療チームの中で患者さんのAdvocator(代弁者)になること、また他職種の専門性に基づいた意見を聞くこと、EBM(Evidence Based Medicine)について知識を深めること、患者さんが必要な選択を適切に行えるように患者教育などを通じてサポートすること。そして、他職種と、また同職種とコミュニケーションをとっていくことが何よりも大切である。
今もついつい、Emotionが全面に出ることもあるけれども、患者中心の医療が提供できるよう勉強していきたいと思う今日この頃である。
(2013年10月執筆)
私の大好きなことは人と関わることであり、そんな自分にとって旅行は欠かせない。異なる文化や背景を持つ人と話すことで、自分と異なる価値観を尊重し、コミュニケーションスキルを磨き、新しい発見をするにはとっておきの場である。
写真は、3年前にヨーロッパを3か月放浪した際に立ち寄った、ミュンヘンでのオクトーバーフェスト(ビールのお祭り)。
世界中から、たくさんのビール好きな人々が来ており、3日間異なる国の人たちと乾杯して、楽しい時間を共有した良き思い出である。
次はスペイン語をマスターして、南米を巡りたい!!
(2013年10月執筆)