コラム/エッセイ

チームBの役割

Role for Team B

Vol.01

「Team B」概念の誕生

筆者は、いわゆる医療職に絶大な尊敬と感謝の念を抱いている。EBM(Evidence-based medicine)に基礎をおく現代医療は、人類の学問的・技術的可能性の最前線を突き進んでいる。人類の未来は、医療に懸かっている。この専門領域を「Team A」と呼ぶ。しかし同時に、科学的に厳密な医学は、その実現のために合理的・論理的な思考に入りきらない多くの「生活者の現実」を捨象せざるを得ない。患者の内面には、病気の状態、家族・社会関係、世界観・人生観、信念・信仰によって、一人一人異なる主観世界がある。患者の主観世界に、共感的かつ対話的に関わる職種を「Team B」と呼ぶ。これに地域リソースを「Team C」として加え、三者による患者ケアを図示したものが、「チームオンコロジーABC」である。医療者にとっては、「生活者の現実」の重要性を認めつつも適切な対応策を持っていない臨床現場の苦悩があるのだろう。「Team B」概念はその対応策を提示しているが故に歓迎されているのではないか。

図:「チームオンコロジーABC」説明図。チームA、チームB、患者の円が重なり合う。すべてを囲う枠がチームC。

私は「Team B」概念を、第2回「みんなで学ぼうチームオンコロジー」(2006年7月15~16日、岩手医科大学)で初めて発表した。その後M. D. Anderson がんセンターの上野先生が洗練させ、学会等で提案されている。また私自身、機会あるごとに紹介している。半年と経たない内に、日本のがん医療において様々に用いられ始め、基礎概念になりつつある。幸せなスタートをさせていただいた概念である。(おそらく、今後幾多の経験と,時には苦難をも重ねることであろう)しかし、多くのチームオンコロジー関係者の共感が得られ、臨床の現場でこの概念の有効性を検証し利用くださっていることが、普及の最大の原因であろう。

発想の発端は、極めて単純であった。スピリチュアルケアを専門とする筆者が、がんチームケアの最も権威ある研究会に招かれた。会の内容が、医師・薬剤師・看護師によるチーム医療の体験学習と事前に知らされ、自分がその場には「ふさわしくない」のではないかと感じざるを得なかった。そして、その感覚が、患者・家族を訪問しようと病棟に出かけた際に、スタッフから向けられた「お前は誰だ?何しに来た?」という視線にさらされた時の感覚と同じであることに気づく。この「ふさわしくない」という感覚の原因とその構造を語ろう、という思いが、この概念誕生の背景である。

科学的な論理が中心の臨床現場で、自分の個人的な事情や信念など話してはいけないのではないか、「ふさわしくない」のではないか、と感じている患者の不安な思いがある。私自身が出会わせていただいた、病気を抱えた側の方々の思いを、医療の中に適切に伝えたい、との責任感が、この概念には込められている。

(2006年12月執筆)

伊藤 高章
伊藤 高章
1956年生まれ、上智大学大学院実践宗教学研究科教授、同大学グリーフケア研究所副所長
日本スピリチュアルケア学会事務局長
2002-3年度スタンフォード大学病院スピリチュアルケア部スーパーヴァイザー・イン・レジデンス
専門は、臨床スピリチュアルケア、国際社会福祉論、キリスト教史