コラム/エッセイ
チームBの役割
Role for Team B
Vol.02
「Team B」の役割
がん治療の目的の一つは、EBM(Evidence-Based Medicine:科学的根拠に基づく医療)における、科学的根拠(エビデンス)の創出とその適用のサイクルである。しかしこのサイクルは、インフォームド・コンセントを基軸とする患者個々の自己決定によって、初めて可能となる。
それにも関わらず、日本の医療は、患者の自己決定プロセスが抱える課題に十分取り組めていない。患者は生活者としての営みの中で様々な社会的・心理的条件を背負っている。また、独自の信念・価値観・世界観を持っている。これらが患者の自己決定の前提となる主観世界である。つまり、治療についての客観的で正確な情報は、自己決定の必要条件ではあるが十分条件ではない。患者の主観世界におけるプロセスに共感的かつ対話的に関わり自己決定を支援することが、「治療基盤ケア」として求められる。これが実現しない限り、インフォームド・コンセントは、単なる手続論へと矮小化されてしまい、治験への理解不足、治療不信、満足度の低さが残る。
Team A | Team B | Team C | |
---|---|---|---|
職種 | 医師 看護師 薬剤師 など |
臨床スピリチュアルケア MSW(医療ソーシャルワーカー) 心理職 など |
社会福祉 NGO マスコミ 政財界 など |
目的 | EBMの実現 | 治療基盤のケア | 地域資源の活用 |
課題 | 集学的直接医療 | 自己決定支援 コンプライアンスの実現 |
医療の公共性 ケアの社会性 |
技術 | Team A内 コミュニケーション |
主観への共感 非指示的 |
情報公開 アクセシビリティ |
「チームオンコロジーABC」
Ito version (C) 2006 teamoncology.com
EBMに理解を持ちつつ、患者の自己決定支援を担うのが「Team B」、特に臨床スピリチュアルケア専門職である。社会学・心理学の技能に加え、患者の信念・価値観・世界観に共感的かつ対話的に関わる能力を備えた職種である。時として医療者の期待する方向と異なる自己決定に直面し、それを適切に評価し、必要に応じて患者側の代弁者となることもある、極めて専門性の高い職種である。
「Team A」職種のうち看護師は、EBMの重要な担い手であると同時に、患者の内的世界に共感的かつ対話的に関わる訓練を積んでいる。反対にMSW(医療ソーシャルワーカー)は、治療基盤ケアという「Team B」の役割を持ちつつ、具体的な問題解決の知識能力をゆたかに備えた職種である。このように役割の分担や重複はあるが、「Team B」という概念を独自に表現することによって、医療臨床における「治療基盤ケア」の必要性が明らかになる。医療における自己決定支援という重要な領域が見えてくる。
「Team B」が全国のがん医療機関に適切に配置されることによって、インフォームド・コンセントが実質的な機能を持ち、治験への理解が深まり、治療へのコンプライアンスが確保でき、患者の治療満足度の向上が期待される。
(2007年1月執筆)
日本スピリチュアルケア学会事務局長
2002-3年度スタンフォード大学病院スピリチュアルケア部スーパーヴァイザー・イン・レジデンス
専門は、臨床スピリチュアルケア、国際社会福祉論、キリスト教史