コラム/エッセイ

医療者とのコミュニケーションの取り方
~主体的に医療を受けるために~

Communicating effectively with medical proffessionals

Vol.03

私が強く医師の免許更新制度を望むわけ(1)

教員免許の更新制度導入がいよいよ現実のものになりそうです。今国会(2007年通常国会)に法案が提出され、可決されれば、免許の有効期間は10年になり、更新時には30時間の講習を受けなければならなくなります。ただし、すでに教員免許を持っている人は、免許に期限はもうけず、10年ごとに講習だけ受ければよいということです。またもや、若い世代にだけ負荷を課し、既得権は守られる制度変更ですが、そのことを議論しようというのではありません。

ここでお話したいのは、医師の免許更新制度導入についてです。そもそも、私が「病気を医者任せにできない」と強く感じるようになったのは、娘のアトピー性皮膚炎の発症がきっかけでした。娘は私の最初の子どもで、アレルギー体質を持っています。その兆候は、生まれてすぐに出はじめました。一ヶ月健診のとき、赤ちゃんの多くは、頭や顔、首などに湿疹が見られます。娘は、それが少しだけ、他の子より多く強く出ていました。

健診に訪れたのは、出産した産婦人科病院です。院長でもあった医師は、一本の軟膏を処方してくれました。新米の母親で、予備知識もなかった私は、言われたとおりに首や頬の赤くなっているところに薬をつけました。すると、ものの数時間で嘘のように赤みがひくのです。はじめこそ、「よく効く薬だなあ」「赤ちゃんは新陳代謝が激しいからすぐ直るんだ」と感心していましたが、あまりに劇的に皮膚が変化することに、しだいに不安になりました。そして、ほんとうに赤みが強くなり、ジュクジュクしてきてしまったときにのみ、薬をつけるようになりました。

3ヶ月、4ヶ月とたつうちに、娘の乳児湿疹は治るどころか、しだいにひどくなっていきました。そのころになると、親戚や友人の訪問も増えてきました。湿疹が目立ち、娘の世話の仕方をあれこれ言われるのがいやで、せっかく使用を控えていた軟膏を、悪魔のささやきに促されるように、来客や外出のたびに使うようになっていました。

5ヶ月、6ヶ月、毎日娘の顔ばかり見て暮らしている母親には、軟膏を塗っても湿疹がよくならないどころか、かえって状況が悪くなっていくように感じられました。無知な母親は、ようやく「この薬は危ない」と気づき、薬を持って皮膚科を受診しました。3軒まわった皮膚科は、口をそろえて「この薬は赤ちゃんの顔には使ってはいけません」と言いました。ステロイド剤をお使いの方はご存知と思いますが、ステロイド剤には大きく5段階の強さがあります。私の娘に処方されていたのは、強いほうから2番目の薬。大人でも顔や首には使わないようなものでした。

「この薬は使わないほうがよい」と言った医師たちも、娘がどうして湿疹が出るのか、薬を使ってどうなってしまったのか、これからどうすればいいのかについて聞くと、曖昧な答えしか返ってきませんでした。そして、やっぱり、また違う軟膏を処方するのです。私は薬への不信感と、物言えぬ娘にとんでもない薬を塗り続けていたことに対する自責の念で、胸がいっぱいになりました。(vol.04に続く)

(2007年3月執筆)

難波 美帆
難波 美帆
1971年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科 准教授。 サイエンスライター。患者向けがん雑誌の編集に携わるなかで、チーム医療の理念に共感する。アドボカシーを担うNPOや出版活動に関心がある。