コラム/エッセイ

チーム医療が全国の医療施設で実施され
メディカルスタッフが
「顔の見える職種」になるために

Effective communication makes for a good team and good results for patients.

Vol.01

チーム医療推進協議会とは?

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福原 麻希(医療ジャーナリスト)
病院で働く医療専門職についての本を執筆後、チーム医療やメディカルスタッフに関する記事を多数執筆。現在、チーム医療推進協議会のアドバイザーとして、協議会の発展とチーム医療の推進に尽力している。

1.本会の3つの特徴

2009年9月、医療機関で働く医療専門職の職能団体と患者会が集まり「チーム医療推進協議会」を発足した。おもな活動目的は、(1)国民にチーム医療やメディカルスタッフの役割や仕事内容を知ってもらう (2)全国のチーム医療を分析・選定し、モデルケースを全国に普及させる (3)チーム医療ができる医療現場の環境を整える、の3本柱で動いている。

早くからチーム医療に取り組んできた医療機関では、近年、患者満足度だけでなく、病院経営にも好影響を与えている。だが全国的には、いまだにチーム医療のあり方や進め方について模索しているようだ。

チーム医療では、医師・看護師だけでなく、医療機関で働く全職種の関り方が大きく影響する。そこで、本会ではコメディカルとは呼ばず、医師・看護師を含めて「メディカルスタッフ」という総称を使い、「メディカルスタッフの専門性やスキルが発揮できるようなチーム医療」を提言する。

さらに、本会では患者を輪の中に入れず、チームのメンバーとして考える。医療機関では、連日「患者のために」とカンファレンスやキャンサーボードで時間をかけて話し合いを重ねているが、医療の受け手の患者(国民)はチーム医療どころか、自分のチームには、どんなメンバー(職種)がいるかすら、よく知らない。それでは、患者の声は治療にも療養にも反映されない。熊本大学医学部附属病院の患者満足度調査(*1)に関する取材では、「チームラウンドによる相互作用で、患者へ安心感や嬉しさをもたらしている」という反面、「患者がチームやメディカルスタッフの役割を認識していなかったため、病棟ラウンドしてもあまり効果が上がらなかった」というコメントも出た。

医療政策は、異なるステークホルダーが集まり、一緒に知恵を絞りあいながら考えていかなくては実現できない。そこで、チームの周囲では医療者や患者のほかに、行政・政治・学問・企業・メディアがサポート体制を築く。

筆者は、2003年からメディカルスタッフの取材を続けており、07年には書籍『がん闘病とコメディカル』(講談社)を上梓した。このため、各職能団体にネットワークを持っていたことから、本会の発足に携わり、その後も全体の調整役として運営に関っている。

2.チーム医療を実践するための5つの課題

協議会で会議を重ねたところ、臨床現場でチーム医療を実践していく上で、以下のような課題を抱えていることがわかった。

(1)現場の人員が少ない

メディカルスタッフは、病院や医療の質を向上させるための下支えをしている。だが、看護師以外の職種には配置基準がないどころか、雇用人数に縛りがある。このため、病院経営者がメディカルスタッフの有用性を理解していても、人員を増やすことができない。

だが、それではメディカルスタッフの専門性やスキルを十分、患者に提供できない現実を生み出している。例えば、ソーシャルワーカーは患者の相談を受けることが業務だが、人数が少ない場合、患者の話を十分に聞くことができない。近年、薬剤師は病棟を回って患者からの服薬相談などを受けるようになったが、人数が少ない場合、それはできない。

管理栄養士も病気の進行や治療後の食べられない患者のために、個別相談にのりたいと思っているが、人数が少ない場合、それができない。そのほかの職種も、今よりもう少しマンパワーがあれば専門性を生かすことができるが、実際にはかなわない実情がある。

さらに、現状では人員不足のため、なかなか欠勤できない。メディカルスタッフはその専門知識やスキルアップが医療の進歩とともに必須だが、週末勤務も増えた現在では「(職能団体の実施する)生涯教育を受けられない」と悲鳴があがっている。特に、「1人職場」は深刻である。例えば、放射線技師や作業療法士は、全医療施設の4分の1が1人職場という。(*2、3)。そこで適正な人員配置について、各職種の現状と増員時のメリットなどを医療政策に盛り込んでもらえるよう訴えている。

(2)チーム医療実施時の壁がある

実際の臨床現場での業務内容が、かつて策定された医療法と適さなくなってきたため、現場では通称「グレーゾーン」と呼ばれる業務内容が散見される。例えば、診療放射線技師の場合、検査時の一次画像読影は、実際には診療放射線技師が行っている。だが、これは医師法で違法になる。また検査時、実際には診療放射線技師が患者の静脈を確保し、造影剤を投与し、抜針をしているが、これも保助看法の下、違法に当たる。

管理栄養士の場合は、今年4月30日に厚労省医政局局長通知が出て、「一般食(常食)について、医師の包括的な指導を受けて、その食事内容や形態を決定し、又は変更すること」と現場の業務が拡大されましたが、実際には診療報酬上で医師が食事のオーダーをすることが前提となっており、いまだ管理栄養士はその業務に手を出すことができません。

マンパワー不足の診療現場では臨機応変に人材を活用しなければならないが、このままでは現場で担当者が安心して業務を遂行できない。業務内容の整理と責任の明確化が求められている。

(3)多職種連携が教育されていない

現在、働き盛りの年代のメディカルスタッフには多職種連携教育がなかった。このため、そもそも、チームメンバーであるお互いの職種の専門性やスキルについての理解に乏しい。さらに、チームとして機能するためのスキルに欠けている人も多い。特に、自主性、判断力、共通言語とコミュニケーション力、マネジメント力、全体を俯瞰する力など。

例えば、サッカーの試合では、あらかじめ監督が決めたゲーム戦略に従って、選手が自主的な判断の下、お互いにアイコンタクトや声掛けをしながら、自分の専門性やスキルを発揮してゴールに向かう。病院のチーム医療でも同じようなイメージで動くことができる。

このような日常の業務を実践するためには、「在学中、どのようにチーム医療を教育課程に盛り込むか」「どのようにすれば、生涯教育の中で多職種連携のスキルを身に付けることができるか」、その方策を検討しなければならない。

(4)患者の参画が検討されていない

病院では連日、多職種が集まり、「患者中心の医療」を目指してカンファレンスをしている。だが、医療の受け手である患者やその家族は、チーム医療どころか、チームのメンバーに誰がいるかすら、よく知らない。それでは、患者の声はチームに反映されにくい。どのようにチーム医療に参加してもらうか、という検討が遅れている。

チーム医療の図を描くとき「患者は輪の中心か、輪に手をつなぐ形か」という議論になることがある。そのとき、患者は圧倒的に後者を選ぶ。NPO法人・ささえあい医療人権センターコムルの辻本好子さんもその一人。「納得と協働の医療を求める」と講演では話している。

(5)チーム医療の有効性を検証する

今年度、厚労省や日本医師会主導で「看護師の業務の実態調査」が行われた。だが、病院で働く多職種の業務の実態調査、あるいは、チーム医療を推進・普及させるための実態を反映するデータが不足している。

また、チーム医療を全国に実施・普及させるためのインセンティブが少ない。チーム医療は患者個々の多様性やニーズに合わせて医療を提供するため、会議や情報共有に時間と手間がかかる。現場には一時的に負荷がかかる。だが、職種間で業務を分担・協働することによって、チームがスムーズに回るようになれば、結果的には効率的になることもある。

今後はさらに、チーム医療を実践した場合、そうでない場合と比較するなど、どのように効果が上がったか、多角度から検証していくことが必要である。

本会は発足から1年余りだが、現在、15職種18団体とメディアアドバイザーとともに、上記のような課題に取り組んでいる。チームオンコロジーのみなさん、ぜひ一緒に活動しましょう。

(注)

*1 鬼塚美穂:患者満足度からみる乳癌患者チームラウンドの現状と課題, 第16回日本乳癌学会総会プログラム抄録集; 449, 2008
*2、3 日本放射線技師会、作業療法士会からチーム医療推進協議会に提出された資料

(2010年12月執筆)

■参考資料

「チーム医療って何?」の疑問に答えます ― 体も心もケアしてくれる、多職種連携チーム医療を徹底解説(Webサイト『がんナビ』掲載)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。