コラム/エッセイ

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Vol.02

医療ソーシャルワーカー: “その人らしい生活”を社会福祉の立場から支援する

池山 晴人(社会福祉士 / 精神保健福祉士)
池山 晴人(社会福祉士 / 精神保健福祉士)
救急病院、リハビリ病院、精神科診療所を経て、現在は呼吸器疾患専門病院で地域医療連携室に所属し、多職種協働で患者・家族の相談支援にあたる。また、がん相談支援センター相談員研修内容検討班の一員としても活動。

1.相談支援内容の双璧 “医療費・生活費”と“退院” に関する課題への支援

(1)主治医や看護師には言い出しにくい経済的課題

昨年(2010年)12月半ば、初診担当医から「胸水貯留で紹介のあった男性Xさんに入院を勧めても応じない。話をしてほしい」という電話がある。私は病棟カンファレンス中だったため、もう一人の医療ソーシャルワーカー(以下MSWと呼ぶ)に連絡するが、面接中で対応できない(*1)とのこと。20分ほどして、私が外来に向かうと、Xさんは待合で前屈みに座り、すでに酸素吸入をしていた。面接室でお話したいので少し移動できますか(*2)と尋ねると、「動くのがしんどいのでここでよい、立ち入った内容でも構わない」と言われ、目の前の処置室の片隅で面接することにした。

Xさんは、アルバイトで生計を立てていた2年前から仕事が激減、食費と家賃の支払いで精一杯とのこと。国民健康保険料を滞納したため3割負担ではなく、10割全額支払が必要な「資格証明書」(*3)での受診となった。保険の意味は、まるでない。

この日、初診料やCTなど検査を含め10割で4万円強の請求をうけたXさんは、「今日の医療費は支払いますが、このまま入院してもとても支払えないから、これ以上はもう結構です」と語った(*4)。

当院では2010年夏頃から、国民健康保険「資格証明書」での受診が目立つ。中でも、がんの診断を受け積極的治療が可能な場合でも、種々の社会資源を利用しても医療費を支払えず、奏効するとされる高額な抗がん剤の中止を自ら申し出る決断をする、などの相談が多く見られた。

(注)

*1 機関によるが、MSWの配置は少なく、即時の依頼に対応しきれないのが悩み。
*2 MSW業務の核は面接であり、プライバシーの保持、守秘義務について倫理規定をもち、厳格に対応する。
*3 正式には「国民健康保険被保険者資格証明書」といい、市町村が保険税を1年以上滞納している方に対し、保険証を返還してもらい、その代わりに交付するもの。この証明書で医療機関にかかる場合は、医療費が一旦全額自己負担となり、後日申請すると患者負担分を除いた額が払い戻される。
*4 Xさんはその後、種々の社会資源を活用して治療を継続された。
(2)退院支援は退院先を決めるだけではない

私が経験する相談のうち、上のような経済的課題と並んで多いのは退院に関することである。特に、がんの積極的治療が終了するにあたっての退院、つまり終末期の生活場所選定を支援する際に感じることは、単に退院先を「自宅にするのか、転院なのか、施設なのか」を選定して、必要なサービスを調整する以前に、患者さんが積極的治療の終了を受容する気持ちにMSWがどう寄り添えるか、という点である。「積極的治療の終了=命の限界」を視野に入れ受容すること、退院先を決めること、どちらかひとつでも重大な決断を、双方同時に課せられた患者さん・家族を支援するMSWの役割に重みを感じずにはいられない。

2.「ぜひ相談にいってらっしゃい、一言伝えておくから」

「入院患者で相談したい課題がある人のうち、相談に応じる専門職がいることを知っているのは半数。その半数の中で相談部門の場所を偵察したり電話番号を調べたりする人が半数。そして相談室のドアをノック、または受話器を手にする人はさらに半数」 これは学生時代、病院実習でMSWから聞いた話である。

メディカルスタッフにお願いしたいのは、患者さん・家族が相談したい課題を持っていると感じたとき、ぜひ背中を押してMSWに繋いでいただきたいこと。その際、機関によって依頼様式などの手続きをお願いすることもあるが、簡単でも「一言」を電話などで添えていただけると、患者さん・家族にとっても、MSWにとっても連続性が感じられ、安心して相談支援がはじめられる。

経済的な課題、退院に関する課題、家族関係などの「困りごと」はもちろん、復職や就職など仕事のこと、地域での活動など、「こんなふうに生きていきたい」といった、こころと暮らしの課題にもMSWは対応している。

3.患者さん・家族の歩く速さで支援する

私たちは社会福祉を学ぶ課程で、「相談者の歩く速さで共に考える」ことを繰り返したたき込まれ現場に出る。しかし、医療環境の変化、治療や入退院のスピードは早く、生活する人と家族は、身体、こころ、くらしに起こるさまざまな課題を考え、決断するのに十分時間があるとはいえない。競歩、いや駆け足以上のスピードで共に考えることも必要な場合もある。私はチームの一員として、患者さんが医療を受けながら「その人らしい生活」ができるよう、支援していきたいと決意を新たにする。

(2011年1月執筆)

■参考資料

◇連載:こんなとき、このエキスパートのもとへ
第1回 医療ソーシャルワーカー(上) がんとともに生きる人の“伴走者”
(Webサイト『がんナビ』掲載)

◇連載:こんなとき、このエキスパートのもとへ
第2回 医療ソーシャルワーカー(下) 涙も悩みも受け止めてくれる、家族や遺族のサポーター
(Webサイト『がんナビ』掲載)

チーム医療推進協議会
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2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。