コラム/エッセイ
チーム医療が全国の医療施設で実施され
メディカルスタッフが
「顔の見える職種」になるために
Effective communication makes for a good team and good results for patients.
Vol.04
管理栄養士:入院患者の栄養管理と心のサポートを目指して
1.ある患者さんとの出会い
「おはようございます!」「食事は食べられた?」「体重増えたかな?」
血液内科病棟の担当として、毎日、患者さんと会話をしながら各部屋を回る。化学療法を受ける患者の多い、この病棟では「匂いがダメ!」「食事を見るだけでも吐き気がする」という副作用による食事の要望は尽きない。
ある日、30代の白血病の患者さんのベッドサイドで栄養スクリーニングをしていたところ、「栄養士さんなら、どう考える?」と声をかけられた。
「もう自分がどれだけ生きられるか、わかっている。移植やったらいいだろうけど、そこまでして何がある?お金もかかる。それで成功すりゃいいけど、うまくいかなかったら親に借金残すだけ。これ以上、親に苦労かけたくない。これが俺の人生なんだと思っている」
この話を聞いたとき、自分自身が親を早くに亡くし、生きる大切さを痛感していることもあり、延々1時間以上話し込んだ。
「なぜ、否定的に物事を考えるのか。ダメもとでも、トライしてみるべきではないか。それも親孝行では。その先に、もっと別の世界があるかも……」
その後も何度か、機会あるごとに話をした。
「栄養士さんが、こんなに話を聞いてくれるとは思わなかった。それだけでもうれしかったよ……」
何度かの入退院を繰り返すうち、患者さんの身体は明らかに衰弱し、2年後に人生を全うされた。その時「この患者さんのために何ができたのだろう」と自問した。
しかし、「これこそ、チーム医療の一員としての仕事である」と今は思っている。闘病生活において、いろいろな医療職種が関わることにより、患者さんの精神的・肉体的な苦痛を和らげることができる。そのなかで管理栄養士は、食をきっかけとして患者さんに安らぎを与えることができる。医師でもなく看護師でもなく、管理栄養士だからこそ、患者さんが満足してくれることもある。
2.顔の見える管理栄養士の誕生
「栄養士さんって、どこにいるんですか?病院の食事のこと、いろいろ聞きたいんだけど……」
以前は、病院内で良く聞かれた言葉である。
2006年診療報酬改定において、「栄養管理実施加算」が新設された。わずか12点というささやかではあるが、我々管理栄養士にとって大きな変革となる出来事であった。先述の患者さんとの出会いも、この加算がきっかけである。
病棟へ足を運び、直接患者さんから食事の感想や病状を聞き、またナースステーションでカルテからの栄養状態の把握を行うようになった。
それまでの病院管理栄養士は、栄養食事指導が唯一患者さんとの接点の場であった。昭和の時代までさかのぼると、白いゴム長靴とビニールエプロンをかけて厨房の中を走り回っている姿が病院の栄養士のイメージだった。カッコよく言えば「縁の下の力持ち」、悪く言えば「厨房のおばちゃん」である。この地下の暗い一室から脱却する、きっかけになったのが栄養管理実施加算である。
3.病棟における栄養管理の重要性
病院管理栄養士は現在どれくらい配置されているのであろうか?
厚労省調査(*1)によると100床あたりの配置数は1.2人。医師の13.3人、看護師の43.7人は別にしても、臨床検査技師3.4人、薬剤師・理学療法士の2.9人、診療放射線技師の2.7人と他のメディカルスタッフと比べても明らかに少ないことがわかる。
たとえば、100床に1人配置の管理栄養士が病棟で何ができるのだろう。管理栄養士が食事案内を行い、栄養状態を把握するという「栄養管理業務」を完遂するためには、患者さん1人あたり最低30分の時間を要する。1日8時間勤務と設定し、100名の栄養管理を行うためには、約6.5日はかかる。栄養管理業務だけで、これだけの時間を要する。他の給食管理業務や栄養食事指導を加えると、とても病棟管理栄養士としての役割は全うできない。
給食管理業務は病院を運営する上で、欠かすことができない。栄養食事指導も退院後の患者さんの食生活の観点から必要不可欠である。しかし、患者さんの栄養管理のために費やせる時間は微々たるものである。場合によっては、その業務は残業時間に回されることさえある。
「110床に1人」と「40床に1人」の管理栄養士の配置による業務内容の違いをある施設で比較した結果がある。110床に1人の配置では栄養管理実施加算算定率は約30%、その一方で40床に1人の施設では99.5%であった(*2)。この数字からも、医療施設における管理栄養士の配置が十分でなければ、栄養管理業務がほとんどできないことがわかる。
栄養管理のベッドサイド訪問は医療事故防止にもつながる。食物アレルギーの患者さんに対する禁止食品を、確実に栄養部門へ情報伝達できるのは管理栄養士だけである。たとえば、「生麩の原材料は小麦粉である」ということは、誰でも知っているだろうか。小麦粉アレルギー患者のアナフィラキシー様症状は深刻である。つまり、栄養管理は、褥瘡・感染予防・早期回復・早期離床・早期退院だけでなく、医療事故防止にも多大な貢献をしている。
4.管理栄養士の病棟配置
栄養サポートチーム加算(NST加算)が2010年に新設され、管理栄養士の活躍の場はさらに広がりを見せることになる。しかし、前述の通り、現場には管理栄養士が足りない。さらに、算定条件が厳しいゆえ、二の足を踏んでいる施設も多いと聞いている。
今後、充実したチーム医療を行う上で、病棟への管理栄養士の配置は必須である。管理栄養士が病棟に常駐することで、刻一刻と変化している患者さんの容態にあわせ、必要に応じ栄養管理内容や食事内容の変更を医師・看護師に提案・相談する。医師の指示のもと、管理栄養士がオーダーを発行することも可能となる。
患者さんはもとより、メディカルスタッフに対しても「いつでも、どこでも相談できる管理栄養士」が病棟に存在することにより「栄養管理の充実」を図ることができる。このように管理栄養士の病棟配置は、チーム医療の充実、そして患者さんにとって満足のいく医療に結び付く。
(注)
*1 平成20年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概要
*2 厚生労働省チーム医療方策検討推進WG資料
(2011年3月執筆)
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。