コラム/エッセイ
チーム医療が全国の医療施設で実施され
メディカルスタッフが
「顔の見える職種」になるために
Effective communication makes for a good team and good results for patients.
Vol.07
救急救命士: 命の最前線!EMT科で活躍する救急救命士のパイオニア達
EMT科とは
救急救命士の主たる就職先は、消防機関である。しかし、救急に関わる医療専門職である救急救命士が医療機関の救急部門で採用される事が昨今多くなってきた。その職域拡大については、大きな可能性を秘めている。
川崎幸病院(以下、当院)では、年間6,000件近くの救急車を受け入れている。“救急を断らない”という病院方針を実践するため、受入れ体制の強化を目的として、平成20年4月に救急の入口と出口をコーディネートするEMT科(Emergency Medical Technician)を設立した。それに伴い新たに「救急コーディネーター」が誕生した。当院は全国的にも珍しく、救急救命士が自立した1つの科を持ち、今や1メディカルスタッフとしての地位を確立、11名の救急救命士が在籍している。
救急コーディネーターの主な業務は、(1)救急隊からの患者受入れ要請の電話対応、(2)ER(Emergency Room)での診療・処置・検査介助、(3)満床時や専門治療のための転院先手配、(4)当院救急車による搬送業務(患者の個々の病態に合わせた質の高い車内ケアを実践)、(5)防災(訓練企画運営や防災リーダー教育)・災害対策活動、(6)院内・院外での心肺蘇生や応急手当の普及啓発活動(講習会・演劇)、(7)イベントでの救護班派遣などを行っている。
EMT科における救急救命士の役割
救急コーディネーターの導入により、救急外来での診療は医師・看護師・救急救命士で分業化を図れるようになり、それぞれの業務に専念することで診療効率を向上させ、より多くの患者対応が可能となった。
その結果、救急車の長時間の現場滞在が問題となっている神奈川県川崎市医療圏において、救急隊が病院を選定する時間の短縮に貢献している。中には、救急車で30分以上かけて来院される患者も少なくない。患者Aさんは、「体がしんどいのに救急車がなかなか出発してくれなくて。たくさんの医療機関に電話した挙句にやっと受け入れてくれたのが川崎幸病院だったんです」と現場滞在中の不安だった声も聞く。とにかく、迅速な救急処置を行うことが、いかに重要であるかを痛感している。
また、満床や専門的治療を理由に当院から転院する患者については、担当となった救急コーディネーターが、患者に出来るだけ負担が少なく、かつ病態に合わせた最適な転院先を選定する。患者の保険情報や家族背景、自宅から転送先の距離など社会背景や経済的事情にも配慮して交渉を進める。救急患者ゆえ迅速に入院加療が開始できるように、およそ1時間以内にはすべての手配と準備を終えることができるように心掛けている。その後、担当救急コーディネーターが同乗し、当院救急車にて患者の転院搬送サービスを行う。受入れ先医療機関の救急医師へ患者情報を伝達し、引き継ぎを終えるまでが我々の仕事となる。
不本意ながらも当院にて入院の受入れが出来なかった患者でも、初療から関わっている救急コーディネーターが共に転院先まで同行する。その安心感は、患者家族Bさんからも「救急車で送ってもらえる上に、転院先まで一緒に付き添ってくれるんですか…本当に心強い」との言葉や、他にも数多くの感謝の声を頂いている。
また、当院にて発生した転院搬送は、極力当院救急車にて行う努力をしている。このため、川崎市の救急車は本来の住民サービスとしての救急に対応できるようになったので、行政との地域連携を図り、協力体制の基盤を作ることができた。さらに、消防機関所属の救急隊と同じ資格を持つ救急救命士として、周辺地域の関係機関との情報交換や交流を図り、顔の見える救急受入れ体制を作る動機付けとなれたのではないかと思っている。
おわりに
多種多様なメディカルスタッフが活躍する医療機関で、チーム医療の一員に、あえて救急救命士を配置するには、それ相応のインパクトが求められる。すでに先駆者として活躍している我々が、「救急救命士も病院でチーム医療の一員として活躍できる場がある」ということを、チーム医療のモデルケースとして全国に発信していきたいと思う。
そのためには、当院における救急コーディネーターの存在意義と業務実績を数多く残し、救急救命士の特性を活かせる様々な“活躍場所”の確保のために力を尽くし、チーム医療の実践を通じて成長していきたい。
(2011年7月執筆)
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。