コラム/エッセイ

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Vol.06

緩和ケア認定看護師: 緩和ケア病棟における緩和ケア認定看護師の役割

小野 芳子(緩和ケア認定看護師)
小野 芳子(緩和ケア認定看護師)
緩和ケア病棟師長

私は、山口赤十字病院の緩和ケア病棟で看護師長として勤務しています。また、2003年に緩和ケア認定看護師の資格を取りました。私の役割は、できるだけ患者様の苦痛を緩和することと、その人らしく生きられるようにお手伝いをすることだと考えています。そのためには多職種によるチーム医療が必要です。今回は、緩和ケア、緩和ケア認定看護師の役割、緩和ケア病棟におけるチーム医療の必要性についてお話します。

1.緩和ケアとは

私たちの緩和ケア病棟では、「病気を治すことを目的とした治療」は行いませんが、痛みをはじめとした生活に支障を与える「つらい症状を緩和する治療」を行っています。その治療の目的は、患者様ができるだけ心地よい日常生活が送れること、できるだけ普通の生活に戻れるようにすることです。
*なお、参考として文末に緩和ケアとホスピス緩和ケアの定義を掲載しています。

2.緩和ケア認定看護師とは

認定看護師とは、1998年に日本看護協会によって制定された資格認定制度のひとつです。認定看護師認定審査に合格し、ある特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて、水準の高い看護実践のできる者をいい、看護現場において実践・指導・相談の3つの役割を担います。

その中でも緩和ケア認定看護師は、(1)徹底した苦痛症状の緩和(疼痛及び疾患に伴うその他の苦痛症状の緩和 ― リンパドレナージ、呼吸理学療法、口腔ケア等)及び療養の場に応じた患者・家族のQOLの向上を図り、(2)患者・家族のグリーフケアを行います。

2011年5月現在、21の認定看護師の分野があり、認定看護師の総数は7,334名で、その中で緩和ケア認定看護師は912名おります。

3.山口赤十字病院の緩和ケア病棟におけるチーム医療の現状

当院の緩和ケア病棟に入院される患者様は全員が悪性腫瘍です。がんの痛みには、4つの痛み、すなわち身体的、精神的、社会的、そしてスピリチュアルな痛みがあり、これらの痛みを別々のものとして切り離すのではなく、トータルペインとして捉えてケアを提供しています(図1)。

図1 トータルペイン(全人的苦痛)

図1 トータルペイン(全人的苦痛)

(図は恒藤暁(1999):最新緩和医療学, P.7, 最新医学社より)

その人らしく生きられるようになるには、まずは身体的苦痛を緩和しなければなりません。その上で、精神的苦痛・社会的苦痛・霊的苦痛(スピリチュアルペイン)の緩和をしていきます。トータルペインの緩和には、医師・看護師の他にも栄養士・薬剤師・MSW(医療ソーシャルワーカー)・音楽療法士・ボランティアなどの多職種がチームを組んで取り組みます。

また、緩和ケアでは、患者様だけではなくご家族もケアの対象としています。患者様やご家族のニーズは多様であり、それらをすべて一人で満たせる専門家はいません。そこで、専門性を活かしたチームと患者やご家族、それを取り巻く人々による全人的アプローチが必要になります。当緩和ケア病棟では図2のような様々な職種のチームメンバーで医療を提供しています。

図2 チームアプローチ

図2 チームアプローチ

(注)OT:作業療法士、ST:言語聴覚士、PT:理学療法士(図は小野芳子氏の作成)

その中でも24時間ベッドサイドにいる看護師の役割は、その人らしさを知り、患者様自身が「どのように生きていきたいか」「どのようになりたいか」という希望を把握することです。

そして、その患者様の望まれる医療・ケアを提供していくために、多職種チームカンファレンスを行います。カンファレンスでは、チームメンバーで様々な方面からの患者様と家族のニーズを明確化し、共有し、ニーズが充足できるような方策を検討します。そして、その方策を患者様やご家族に提示してインフォームド・コンセントを得てから医療やケアを提供しています。

具体的な事例として、独居で寝たきりの患者さんへの退院支援を紹介します。Aさんは膀胱がんの50歳台の男性で寝たきりの患者さんでした。Aさんは在宅での療養を強く望まれました。しかし、がん性疼痛が強くあり塩酸モルヒネの持続皮下注射などさまざまな医療処置が必要で、さらに全面的に日常生活援助が必要でしたが、サポートしてくれる家族はおらずアパートにひとり暮らしでした。Aさんの「家に帰りたい」という希望を支えるために、主治医、在宅医師、病棟看護師、訪問看護師、MSW、ケアマネージャー、ヘルパーで退院調整カンファレンスを行いました。

Aさんの「家に帰りたい」を実現させるためにそれぞれの専門職がそれぞれの立場で意見を出し話し合って、在宅療養が実現しました。このように、患者さんを中心に考えて患者さんの「どのように生きたいか」というニーズに応えるために看護師は多職種との連携を図り、調整する役割があると考えています。

人生の主役は患者様自身、ご家族は脇役で私たちチームメンバーは「黒衣」の役割だと考えます。 『ONE for ALL, ALL for ONE』、~一人がみんなのために、みんなが一人のために~これがチーム医療の基本ではないかと考えています。

【参考】
  • 緩和ケアの定義:「生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者と家族に対し、疼痛や身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期から正確にアセスメントし解決することにより、苦痛の予防と軽減を図り、生活の質(QOL)を向上するためのアプローチである」(世界保健機関(WHO)2002)
  • ホスピス緩和ケアの定義:「ホスピス緩和ケアは、生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族のQOL(人生と生活の質)の改善を目的とし、様々な専門職とボランティアがチームとして提供するケアである」(日本ホスピス緩和ケア協会)

(2011年6月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。