コラム/エッセイ

チーム医療が全国の医療施設で実施され
メディカルスタッフが
「顔の見える職種」になるために

Effective communication makes for a good team and good results for patients.

Vol.11

作業療法士: 患者さんのご要望に沿って、できる限り最高のQOLを支える

臂 美穂(作業療法士)
臂 美穂(作業療法士)
地域包括医療・ケアの実践を理念とする地域中核病院に勤務し、主に緩和期の患者さんに対する作業療法を提供している。

私は、さまざまな形で、一般病棟で緩和を必要とする患者さんのリハビリテーション(作業療法)と緩和ケア病棟の患者さんの作業療法を担当しています。

緩和期における作業療法士の役割 -施設での支え-

(1)患者さんへの関わり

作業療法士は、作業療法の一環としての作品作り(ご家族にプレゼントされることが多い)、起き上がり、立ち上がり、トイレ動作などの日常生活における動作のコツを習得するための練習、福祉用具や自助具の提案、安楽な姿勢のためのポジショニングなどを行います。このような作業や動作を楽に行うために、リンパドレナージ、リラクセーションマッサージなども大切な手技です。

緩和期における作業療法は、患者さんの要望が第一です。先日、終末期のがん患者さん(Aさん)の身体のリラクセーションマッサージの途中「ずいぶん弱ってきた。年を越せるように、神社に拝みに行きたい」と言われました。主治医より「ある程度寝た状態の車いすと酸素ボンベがあれば短時間の外出可能」と許可され、リクライニング式車いすを使い、酸素ボンベを使用して病院の隣の神社に出かけました。Aさんは「久しぶりに外に出た。もうどこにも行けないと思っていた。風が最高に気持ちいい」と笑顔で言われました。

また、作業療法ではいろいろなかたちで患者さんの身体に触れますが、しばしば心の内を話されることがあります。その場合は、必ず看護師や臨床心理士などの多職種に情報提供し、患者さんの思いをメディカルスタッフ間で共有するようにします。

作業療法士は、さまざまな作業を通じて、ある程度、連続した時間を患者さんのそばにいることができる医療専門職種です。このため、患者さんやご家族と馴染みの深い関係になります。「また、明日この時間に来てくれる・・」と、作業療法士の関わりが患者さんにとって楽しみな時間になれば、少しでもQOLの維持向上に役立つのではないでしょうか。

(2)ご家族への関わり

患者さんのそばには、今までの疲れを溜めこみ、これからの不安を抱えたご家族がおられます。患者さんの意識がなくなって、会話ができなくなります。そんな時でも、必ずそばに行き、ご家族に声をかけます。そして、これまでのことを振り返るお手伝いをしたり、作られた作品を話題にしたり、ご家族の今の思いを伺ったりします。

(3)多職種との連携

患者さんの体調は時々刻々と変化します。その時の体調に合わせた作業療法を提供するためには、やはり医師や看護師などとの連携は欠かせませんし、様々な痛みを多面的に支援するには私たち作業療法士だけではなく、多くのメディカルスタッフの存在は大きいと感じています。

在宅生活における作業療法士の役割

患者さんやご家族が自宅での療養を希望された場合は、在宅で支援するスタッフとの連携も欠かせません。患者さんやご家族が安心して家でも生活できるように、住環境を確認し、適切な福祉用具を提供するため退院前に自宅訪問を行います。退院前カンファレンスでの在宅スタッフとの情報交換では、現在の身体状況や介護方法などを伝えます。細かな情報も伝えておかなければ、施設から在宅へのソフトランディングは実現できません。

チーム医療で力を発揮する作業療法士

当院は、地域中核病院として、住民のみなさまへの『地域包括医療・ケアの実践』を理念としています。家でも施設でも望むところで安心して緩和ケアを受けるには、患者さんとご家族を中心とし、保健・医療・福祉のメディカルスタッフがチームとなって、きめ細やかな連携を取り合う必要性を臨床の場でひしひしと感じています。作業療法士はチーム医療の一員として、患者さんとご家族、そして多職種にも必要とされる存在でありたいという思いで、これからも日々精進していきたいと思います。

(2011年11月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。