コラム/エッセイ

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Vol.12

歯科衛生士: 歯・口腔の健康づくりのプロとして

上原 弘美(歯科衛生士)
上原 弘美(歯科衛生士)
社団法人日本歯科衛生士会病院・診療所委員
神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科 准教授
歯科衛生士として27年間総合病院に勤務。今は歯科衛生士養成校で学生教育に携わる。

1.チーム医療の一員として

今から25年ほど前、私が勤務していた総合病院の免疫血液内科病棟の看護師長から「化学療法による粘膜炎の症状をなんとか軽減してあげたい。歯科の力を借りたい」という申し入れがありました。私が歯科医療職種以外の専門職と連携を取ることになった最初だったと思います。私たち歯科衛生士にできること、それは患者さんの口腔内細菌を可能な限り減少させ粘膜炎の悪化を防ぐことでした。

すなわち患者さんによるブラッシングや含嗽(うがい)だけでは落としきれない歯面や歯周ポケット内に付着する歯垢(バイオフィルム等)や歯石を専門的な機械・器具を使用して徹底的に除去すること、また個々の患者さんの口腔内状態を評価して適切な口腔清掃器具を選択し、口腔清掃の方法を指導することでした。歯科が関わることで口腔内のトラブルは減少し、口腔衛生の専門家として歯科衛生士が認めてもらえるきっかけとなりました。

その後、関わりを持つ病棟は徐々に増加し、脳外科(術後の口腔機能維持・誤嚥性肺炎予防)・糖尿内科(教育入院中の患者の歯周病管理や歯科保健指導)・呼吸器内科(誤嚥性肺炎の予防)・移植医療(免疫抑制による口腔トラブル発生の予防)など、多くの病棟・専門職と連携をとりながら、チーム医療の一員として業務をおこなってきました。

また看護師(各病棟から1~2名)・薬剤師・歯科医師・歯科衛生士による口腔ケアチームを立ち上げ、月に1回の勉強会・情報交換会、口腔ケアラウンド、口腔アセスメント票の作成・運用などを積極的に行いました。医療スタッフの口腔ケアに対する意識は非常に高くなりました。チーム医療の一員として歯科衛生士が必要とされていると実感することができました。

2.歯科衛生士の仕事とは

人が人らしく生きていく上で欠かかすことができない「食べる、話す、呼吸する」など、体の入口として多くの役割を担っている歯・口腔の健康を守ります。近年、数多くの調査研究の結果から、歯・口腔の疾患がさまざまな全身の疾患に関与していることがわかってきました。歯・口腔の健康を守ることは全身の健康を守ることに、そして、生涯を通じて歯・口腔の健康を維持し、おいしく楽しく食事をすることは生活の質の維持向上に最も大切な要素です。

歯科衛生士の業務は、以下のように大きく分けて3つあります。

(1)歯・口腔疾患の予防処置
歯科の二大疾患である「う蝕」や「歯周疾患」の予防処置として、歯科医師の直接の指導のもとに、歯面の汚れを機械的に除去すること及び薬物を塗布すること。
(2)歯科診療の補助
主治の歯科医師の指示により、歯科診療の補助(歯科のメディカルケア=相対的歯科医行為)を行うこと。
(3)歯科保健指導
歯科衛生士の名称を用いて歯科保健指導を行うこと。歯科保健指導を行うにあたり、主治の歯科医師または医師があるときは、その指示を受けて行う。

これらは歯科衛生士の三大業務として、歯科衛生士法に定義されています。この中で、歯・口腔疾患の予防処置は業務独占、歯科診療の補助は保健師助産師看護師法の一部解除、歯科保健指導は名称独占の規定となっています。

3.多職種との連携に向けて

歯科衛生士法は、昭和23年(1948)7月に、医師法、歯科医師法、保健婦助産婦看護婦法(現 保健師助産師看護師法)、医療法とともに制定されました。歯科衛生士が誕生してからの歴史は長いのですが、なぜか知名度が低く業務内容も正しく理解されていないようです。

日本は、医療と歯科医療が2元的に提供されており、また、歯科医療の多くは歯科診療所が担っています。そのため、歯科衛生士の90%は歯科診療所に勤務し、歯科以外の多職種との関わりが薄かったからかもしれません。また、歯科衛生士の業務は多岐にわたっており、勤務する場所により業務内容が異なっていますが、それだけ多様な役割があると考えられます。

現在、就業歯科衛生士は103,180人(平成22年末)となり、年々増加しています。診療所、病院、市町村、保健所、歯科衛生士学校または養成所、介護老人保健施設など、歯科医療施設だけでなく地域保健や介護施設など、様々な施設で勤務しています。しかし、圧倒的に歯科診療所勤務の歯科衛生士が多いため、今後は病診連携(病院と歯科診療所)や地域連携(地域と歯科診療所)を視野に入れた幅広い活動を行っていきたいと考えています。

4.歯科衛生士のこれから

私のように医科との連携をとりながら仕事をしている歯科衛生士は少数派です。とくに病院への配置が少ないため、チーム医療の現場で、歯科衛生士が見当たらないというのが現状かもしれません。しかし栄養サポートチーム、摂食・嚥下チーム、呼吸サポートチーム、緩和ケアチーム、糖尿病チームなどに、チームの重要なメンバーとして活躍する歯科衛生士もしっかり存在しています。

とくに近年では、患者さんの健康回復やQOLの確保には、口から食べる機能を取り戻し、経口感染を防ぐために、歯科医師・歯科衛生士による口腔ケアがますます必要になっています。また、在宅医療においても、途切れのない口腔機能の維持向上や口腔ケアが提供されるよう、訪問歯科衛生指導の機会を広げ、充実を図っていかなければなりません。そして、これからもチーム医療の一員として広く国民の期待に応えるため、歯・口腔の健康づくりのプロとして様々な場面で活躍していきたいと思っています。

(2011年12月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。