コラム/エッセイ
チーム医療が全国の医療施設で実施され
メディカルスタッフが
「顔の見える職種」になるために
Effective communication makes for a good team and good results for patients.
Vol.13
診療情報管理士: チームの中で診療記録を生かす
1.診療記録の守り人
診療情報管理士は診療記録とその情報を管理する専門職です。診療情報管理というと、図書館の司書のような印象を持たれるかもしれません。診療記録を本に置き換えてみますと、司書業務には、本に管理番号を付与して、利用者の読みたい本がどこにあるのか検索したり、貸出し中の本は、いつ誰が借りているのか、貸出し期限はいつかなど、ものを管理したりすることにありますので、そこが似ているかもしれません。
しかし、本と診療記録には、大きな違いがあります。本は増刷できますが、診療記録は、世界にひとつしかない記録です。また、この診療記録は医療者が情報を共有し、患者主体の医療を効率的かつ効果的に展開していくための記録であり、チーム医療を円滑に行うためには欠くことができないものであります。すなわちチーム医療の遂行のためには、記録を基盤とした情報共有が必要であり、多職種が安心安全な医療を行うためには不可欠なものであります。
そのような情報共有のために、診療情報管理士は、退院後などに診療記録を点検し、必要な記録が欠落していないか、記載は十分であるか、不適切な記載はないかなど、行なわれた診療行為との整合性をチェックします。記載の誤りや不適切な記載は、医療事故にもつながることから、医師、看護師、薬剤師等、記載者に適切な記録になるよう助言を行ない記録の修正を求め正確なものとします。もちろん、修正記録として修正歴も残りますので、改竄ではありません。記録が整備されますと、そこから疾病や手術などのデータベースを作成し、病院管理などに必要な統計処理や情報提供を行ないます。がん登録もそのひとつです。私たちが診療情報管理士と言われる理由はここにあります。
「診療録(法律上、医師が作成を義務付けられている記録のこと)」は、診療完結の日から5年間管理する法的な義務がありますが、もうひとつ、患者さん個人のためという面があります。そのため、患者さん自らが記された記録を理解できるのか、開示の希望に堪えうるのかということが重要になります。5年以上前のことですが、診療記録を点検していましたら、眼を覆いたくなるような医師の記録がありました。心が痛みました。それから開示の希望に十分に応えうる記録を書いていこうと院内に働きかけました。安心・安全な医療を提供するためには、行った医療の内容がわかる記録というのは重要なことです。
(注) | 「診療記録」とは、診療の過程で患者の身体状況、病状、治療などについて作成、記録または保存された書類・画像などの総称(例えば、診療録・処方箋・手術記録・看護記録・検査所見記録・X線写真・紹介状・退院した患者にかかわる入院期間中の診療経過の要約など)。 「診療録」は診療記録の一つ。医師法第24条で定められているもので、医師が作成したものを、法律上、こう呼ぶ。 |
2.がん登録
平成19(2007)年4月に施行した「がん対策基本法」の理念に基づき、国は、全国どこでも質の高いがん医療の提供と均てん化を目的として、都道府県ごとにがん診療連携拠点病院を指定しており、平成23年4月1日現在、388病院が指定されています。
当院は、平成19年にがん診療連携拠点病院に指定されました。指定要件のひとつに院内がん登録の実施があります。がん登録は、標準登録様式の定義に従い、腫瘍ごとに、いつ、どのような経路で来院されたのか、発見経緯は何か、診断時の病期や治療内容など、診療情報管理士が診療記録、手術記録、病理報告書などから情報を読み取り登録をおこないます。登録された情報は、施設において、がん受療状況の把握や治療成績の評価、がん診療活動の支援、研修などに利用されています。
また、毎年、国立がん研究センターに登録データを提出しており、全国集計された情報は、わが国のがん診療実態の把握やがん対策、他国との比較に用いられています。さらに、地域がん登録へも情報を提供し、地域のがん罹患率や生存率の計測、検診、予防対策などの企画・運営にも幅広く利用されています。
いずれの場合も、がん登録情報の精度が求められますので、自己学習だけでなく、キャンサーボードという医師をはじめ多職種が参加するがん診療に関する症例検討会に診療情報管理士も参加し、意見交換だけでなく、実際に病理標本を鏡検するなど幅広く情報を得るようにしています。
最近は、患者さん自身が必要としている情報は何かという視点から、患者さんの生の声を聞くべく院外の患者さんを中心とした講演会などにも参加しています。
私たち診療情報管理士は、直接、診療行為を行なうことはありませんが、尊敬する診療情報管理士の先輩は「命を守るのは医師や看護師の仕事です。しかし、命に関わる診療録を守るのは診療情報管理士の仕事です」と言っています。私は、この言葉を常に心の中で確認しながら、チーム医療の一員として診療情報管理専門職の自覚と誇りをもち日々診療記録と向き合っています。
(2012年1月執筆)
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。