コラム/エッセイ
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Vol.18
臨床工学技士: 医療ニーズと臨床工学技士
1.はじめに
臨床工学技士という職種があります。その業務担当内容について医療関係職種のなかでは周知のことで、この約4半世紀で培われました。しかし、まだまだ社会的な認知度は低いと思っています。このコラムをお読みになっておられる医療関係者以外の方々にも、臨床工学技士について知って頂ければ幸いです。
2.臨床工学技士の歩み
医療機器の高度化・多様化する現代医療の新たな医療国家資格として、医療補助行為のできる臨床工学技士法が1987(昭和62)年5月に制定され、同年6月2日に公布(*1)、1988(昭和63)年4月1日より施行されました。そして今年(2012年)25年目をむかえることになり、この間有資格者は30,789名となりました。
今から2年前2010(平成22)年10月の厚生労働省の実態調査(*2)によれば、職種別にみた病院の従事者数で臨床工学技士は13,767名で、前年と比べ約930名の増加と報じられております。医療機器業界へ就職される方もおられることも事実です。現在医療施設での就労者数は、増加推移から推測すると有資格者の50%程度と考えられ、まだまだ技士の数は少ないと感じております。
3.担当の仕事内容
具体的な業務内容として、複数の医療機器・装置と共に移動し操作・管理を行っています。
たとえば、血液浄化を担当する技士は主に透析センター(室)で、慢性維持透析患者さんの血液透析を実施しています。しかし、時には集中治療室で持続的血液濾過透析(CHDF:continuous hemodiafiltration)を実施し、同時に人工呼吸器の管理も含まれることがあります。
手術室では特に電気メス、麻酔器、単孔式腹腔鏡手術装置等、多種多様の医療機器・装置が常備されています。そして複数の治療機器・装置が一人の方に使用されます。人のからだは電気を通しやすく、特に通常の周波数50~60Hzに敏感に反応しますので、これら装置の保守管理、手術中の患者さんへの感電を防ぐ目的で各手術室を巡回し、過度な「たこ足配線使用」を防ぎ、適切な電源供給をチェックしています。総合的に手術室を把握し感電防止と個々のコンセント電流容量もチェックしています。
また、心臓手術時の人工心肺装置の操作を含めた一連の直接業務も挙げられます。この業務は、特に熟練した臨床工学技士が主となり2名程で担当し、心臓血管外科医師ならびに看護師さんとチームを作り患者さんの安全な手術を担っております。
次に、心臓カテーテル室においては冠動脈狭窄病変の診断から急性心筋梗塞等の治療と、脈の不整に関わる診断とペースメーカや植込み型除細動器等(植込み型ディバイス)の手術時の業務、そして植込み後の患者さんの安全を確保するための生活指導も行っています。たとえば、初めて植込み型ディバイスを植込まれた場合には、IHジャー等の日常生活で気を付けなければならない機器について、植込み型ディバイスが誤作動を起こさないための注意事項を説明しています。
そしてさらには、高周波カテーテル・アブレーションに使用される関連機器の準備と、プログラム早期刺激ならびに除細動器などの電気的刺激の負荷等の医療補助行為も担っています。この場合、清潔野で術者の医師はカテーテル先端等画像を主に見ながら操作していますので、周辺使用機器の詳細な表示値(高周波通電時の出力電圧・カテーテル先端の温度等)まで把握できません。心房細動の高周波カテーテル・アブレーションでは、カテーテル先端が左心房の後ろの壁を突き抜け、食道にも穴をあけてしまう可能性がおきます。それでこれらの装置を操作しながら状況を監視することで未然に防げます。また植込みディバイスの定期なフォローアップや遠隔監視システムの管理(バッテリ残量・警報・稼働状態等)も担当します。
次に人工呼吸器管理をされている患者さんはICUに限らず一般病床でもおられ、医師・看護師・理学療法士等と臨床工学技士も加わり呼吸ケアチームを作り、人工呼吸器の操作保守に留まらず、早期に患者さんが人工呼吸器から外れるよう協力しています。
在宅で非侵襲的陽圧換気療法 (NPPV:non-invasive positive pressure ventilation)や人工呼吸器を導入されている患者さんには医師等医療関係職種と緊密な連携の下、ご本人および家族の方に装置の操作、日常の点検、緊急時の対応等の指導も行っています。
このように診断治療に用いられる医療機器・装置が稼働するところが、臨床工学技士の仕事場となります。冒頭で就労者数を提示しましたが、まだまだ臨床工学技士の医療施設における配置人数は少なく、今なお医療機器・装置が誘因で、“もし臨床工学技士がおれば回避できたのでは・・・”と思われる医療機器に関わる医療トラブルも散見します。そしてスタッフの少ない夜や深夜の時間帯で見受けられます。
患者さんの安全と医療安全を進めるためには、臨床工学技士の雇用推進が必要な因子と考えます。
4.臨床工学技士にさらに求められていること
2の項で記述いたしましたが、臨床工学技士の免許は25年前、規制緩和政策を見据えチーム医療の概念を基に法制化された資格です。
第5次医療法の改正により、医療機器安全体制の確保(*3)が厚生労働省より発出されました。その中で「医療安全の確保」がうたわれ、その第6条の10で「医療施設においては医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施、その他医療の安全を確保するための措置を講じなければならない」と示されました。
具体的には安全管理のための体制(*4)で明文化されています。いかに臨床工学技士が医療機器の安全使用を熟知し施策を策定し、そして患者さんの安全をどのように守るべきかが問われております。
また、生命に影響を与える機器や、精密で複雑な操作を伴う機器のメンテナンスを含む医療機器の管理については、「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」(*5)で、臨床工学技士の積極的な活用が示されています。
さらに、「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(*6)では、人工呼吸器の保守点検と機器操作をしながら、その場で患者さんの喀痰等の吸引と、動脈留置カテーテルからの採血が人工呼吸器の操作を安全かつ適切に実施する上で当然に必要な行為として記載されております。
5.これからの臨床工学技士
近年の医療法や薬事法の改正により、医療機器安全管理体制の確保がすべての医療機関の責務となり 、医療機器に支えられた領域の治療の質の向上と安全確保が最重要課題の一つとなりました。
また一方では、医師を含む医療スタッフとの合理的業務分担が求められているなかで、近年さらに医療技術の進展による医療機器の多様化・高度化が進み、その操作や管理等の業務に必要とされる知識・技術の専門性が高まっております。そして医療補助行為ができる医療職資格として、医療機器を支える現代医療のマンパワーとしての役割が臨床工学技士に求められております。
生命に直結する機器の操作と、それに不随する行為、医療機器を用いた治療領域、医療機器の安全確保が臨床工学技士の業務です。新たな「臨床工学技士基本業務指針2010」の下に、従前より培われた実績を今後もチーム医療を成熟させるために、診断治療における医療機のスペシャリストとして研鑽しなければならないと考えています。
(注:参考資料)
*1 | 「臨床工学技士法」(昭和62年法律第60号) |
*2 | 「平成21年度医療施設(動態)調査、病院報告の概況」 厚生労働省大臣官房統計情報部 平成23年10月4日 |
*3 | 「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」 (法律番号 84)公布:平成18.6.21、施行:平成19.4.1 |
*4 | 「官報H19.3.26号外 厚生労働省令27号」 |
*5 | 「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」 (医政発1228001号 平成19年12月28日) |
*6 | 「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」 (各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知 医政発0430第1号 平成22年4月30日) |
*7 | 「第12回 医療機器の専門職 臨床工学技士」 医療安全推進者ネットワーク(日本医師会 医事法・医療安全課) |
(2012年8月執筆)
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。