コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

緩むこと、和やかなること

薬剤師:田嶋美幸

田嶋 美幸 Miyuki Tajima

薬剤師

順天堂大学医学部付属順天堂医院 薬剤部 Juntendo University Hospital

私の勤務する病院には「がん治療センター」という組織があります。ここでは、がん患者さんに関する様々な対応を行っており、外来化学療法、キャンサーボード、緩和ケアなどの治療に関することや患者さんへの相談支援、在宅への橋渡し、地域連携等、幅広い業務を網羅しています(現在、ここの看護師長は、私と一緒にMDアンダーソンがんセンターへ留学した奥出師長です)。そんな中で、私は今、緩和ケアチームの一員として、がん患者さんと関わっています。

JME Programに参加してから

2007年Japanese Medical Exchange (JME) Programに参加させていただいてから、チーム医療の実践へ向けて、手さぐり状態で日々の業務を行ってきました。現場での温度差を感じることも多かったものの、5年前に比べれば「チーム医療」という言葉が随分浸透してきました。以前は他職種の業務について知らないことばかりでしたが、最近では医療従事者間の他職種への理解も少しずつ出来てきたように感じます。また、日本のがん医療に対する取り組みも変化してきました。

緩和ケアチームの一員として

早期からの「緩和ケア」という意識も広がりはじめてきました。まだ、患者さんの中には「緩和」という言葉に抵抗感のある方もいらっしゃいますが、関わりの中で少しずつ理解を得られるようになってきました。緩和ケアチーム自体は、小さなチームですが、院内の多くの部署、各職種スタッフとの連携が必須であり、まさにチームオンコロジーと言えるでしょう。

大学病院ではホスピスとは異なり、治療を続けながらの緩和ケアが多いことも特徴の一つと言えます。広い意味での緩和として、化学療法に伴う効果や副作用、基礎疾患に使用する薬剤の効果なども含め、薬剤師としての関わりを心がけています。また、身体の「痛み」と心の「痛み」はとても複雑に絡み合っていて、少しずつほぐしていくことが、どれ程難しく、大切であるか、一人一人の患者さんに向き合いながら、かみしめる日々です。

患者さんとの心のふれあい

患者さんの心の琴線に触れた時、今まで見たことのなかった患者さんの顔を見ることがあります。時には、堰を切ったように、今までを振り返り話される方、ご家族の話をされる方もいらっしゃいます。その方々を取り囲む様々な状況を受け止めることで、患者さんが中心のチーム医療が実践できるのではないかと考えています。

私の手を握り締めて「先生、今年一年お疲れ様でした」と言う患者さん。
年末年始を病院で過ごす患者さんのもとを訪れた時、天国へ旅立つ前の最後の言葉でした。
「頑張りましたね。お疲れ様でした。ありがとう」
私の方こそ彼女に伝えたい言葉です。

日常業務の中で、ほんの1割にしか満たない緩和ケアチームでの業務ではありますが、患者さんとの関わりの中で、毎日たくさんのことを学ばせていただいています。お別れすることが辛いことはありますが、それぞれの人生の宝庫は、日々の激務のなかで、「緩むこと、和やかなること」の大切さを教えてくれます。

(2012年 4月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

私が帽子を作り始めてから、はや17年となる。大好きな帽子を自分でデザインし制作したい、という気持ちから、帽子デザイナーの第一人者である平田暁夫先生の教室で学びはじめた。

最初は、かなり奇をてらった、被って歩けないようなデザインを考えることが多かったのだが、最近は、被る方の頭の形、顔立ち、好みのファッションなどを考えながら創作することが楽しく、シンプルでも美しいフォルムを追及している。そして、被っていただく方の笑顔が何よりも嬉しい。また、材料選びも一つの楽しみとなっている。

写真は、ギャラリーにて友人と二人で帽子の展覧会を行ったときの展示の様子。

(2012年 4月執筆)

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