コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

医師・薬剤師と同じ土俵に立つために、看護師に必要なこととは

看護師:井沢知子

井沢 知子 Tomoko Izawa

看護師

京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻 Kyoto University

1. M.D.アンダーソンへの驚き

私は、2005年5月にM.D.アンダーソンがんセンター(以下MDACCと呼びます)に留学する貴重な機会を得ました。現地では、多職種で患者を診ることが至極当たり前のこととして行われていることにまず驚かされました。さまざまな職種で構成された医療チーム、自立して活躍する上級看護師や臨床薬剤師、徹底的なセルフケア支援を受けて前向きにがん治療を受けるタフな患者さん、贅沢なほど充実したアメニティーなど、すべての光景に圧倒される毎日でした。ちょうど留学直前に、がん看護専門看護師としての認定書類を申請したところであり、この留学を終えた数か月後、私はがん看護専門看護師の認定資格を取得しました。このようなことがあったため、自分が目指すべき手本のようなMDACCの上級看護師の姿を見て、「さあ、あなたもこれから日本で頑張りなさい」とどこからか激励されたかのように感じました。

2. 最初の一歩

留学後、私もチーム医療の実践に取り組むことになりました。早速、当院の乳腺科チームでの多職種カンファレンス立ち上げに取り組みました。当時、看護師や薬剤師たちは、多忙を極める乳腺科医師と充分なコミュニケーションをとることが難しい状況でした。そのため、様々な患者さんの問題をよく把握している現場の看護師は、このカンファレンスを行うことで、医師の方針や患者さんの気がかりな点について、情報共有ができると考え、会への参加には意欲的でした。

しかし、開催当初は、患者さんの社会背景や性格については詳しいのに、乳がんの組織型や標準治療、化学療法のレジメンなど、共通に理解していなければいけない知識が看護師側に不足していました。そのため、検討内容も表層的な浅いものになりがちでした。これは、標準治療やエビデンスに疎く、経験知に頼って日々のケアを行う看護師によく見られる傾向です。この点を改善するために、事例検討を行う際には、看護師側から意図的に医師へ病態に関する質問を投げかけ、詳しい病態説明を受けて、知識の底上げをはかりました。また、定期的な学習会を設定し、乳がん治療の知識を深める時間を持ちました。同時に、会に参加する薬剤師とも積極的にディスカッションを重ね、患者さんへの薬剤指導を行う際には、どのようにすれば効果的かを話し合いました。そして、オーダリング画面上で患者さんの薬剤指導時の記録を残して、情報共有をはかるようにしました。さらに、学会前には、医師や看護師が発表する内容のリハーサルと称して、カンファレンスメンバーの情報共有の場にあてました。そこでは、誰がどのようなことに関心があり、取り組んでいるのかを理解する機会としました。

3. 進歩、そして看護師の課題

当初は、本当の意味でメンバー同士が治療のコンセンサスを得るレベルにまでは至らず、とりあえず定期的に顔を合わせ、お互いの考えを知るというものに留まっていました。しかし、2年あまり経過した現在では、困難事例に関して、各職種から積極的に意見が出される、かなり濃密なカンファレンスを行えるようになっています。看護師が医師の前でも臆することなく堂々と意見を述べる姿勢へと変化しつつある点は、大きな進歩だと思います。看護師と医師、薬剤師が同じ土俵に立ち、対等に意見を述べ合うというMDACCでは当たり前の光景にはまだまだギャップがあります。しかし、話し合う場と時間を共有することで、確実に関係性が強まり、お互いの専門性を理解しあうことが可能になるのだと思います。今後は、看護師集団に対しての知識のさらなる底上げや、私自身がさらに専門性を高める実践を継続していくことが課題だと考えています。

4. チーム医療をさらに浸透させるために

MDACCで学んだチーム医療のエッセンスが浸透し始めているのは、院内でもやはり乳腺科チームが中心であり、全体への浸透には至っていません。そこで2008年2月に、改めて院内でMDACCの国内セミナー(EDUCATIONAL SEMINARなど)の報告会を開催しました。これは、2003年以降、国内セミナーには毎年当院のスタッフが参加しており、チーム医療のエッセンスを理解している者が増えつつあるため(乳腺科医師3名、看護師4名、薬剤師2名)、もう一度組織全体へ発信する機会が必要であると考えたからです。報告会では、院長はじめ多数の医療スタッフが聴講し、セミナーの内容や乳腺科チームの活動に何らかの刺激を感じている様子でした。今後、院内全体へとチーム医療を浸透させる上での起爆剤になったのではないかと期待しています。

5. 今後の課題

留学以後、継続的に開催される日本版実践セミナー「みんなで学ぼうチームオンコロジー」などに参加し、参加者と共に、日本の現状について討論を重ねたり、仲間の取り組みを知ったりすることで、私自身も勉強を続けています。これらのセミナーに参加することで、同じ志をもつ医療者と交流できることは非常に貴重な経験であり、生涯に渡って交流したい仲間と出会えたと思っています。

今後は、MDACCのチーム医療を、さらに日本の実状に合わせたものへと作りあげる活動が求められていると考えています。1人では何も進まないチーム医療ですが、少しずつ仲間を増やしていくことで意識改革と行動変革が進んでいくと信じて、日々努力していきたいと思っています。

(2008年 3月執筆)

※なお、井沢知子さんは2008年4月より京都大学医学部附属病院に転勤されました。

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

韓国ドラマ『チャングムの誓い』にはまって以来、私は遅ればせながら、韓国文化や食がマイブームになっています。特に異国情緒あふれる神戸には、たくさんの美味しい韓国料理のお店があり、冬場の週末には、よく同僚と韓国料理を食べに行きます。

個人的にはチャプチェ(韓国風春雨:写真)がお勧めです。冬場は、サムゲタンやチゲ鍋で体を芯まで温めて、日頃のストレスの発散をしています!

(2008年 3月執筆)

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