コラム/エッセイ
ヤングオンコロジースペシャリストの声
Essay: Voice of Young Specialists
リサーチナースの役割を求めて
藤原 紀子 Noriko Fujiwara
看護師
東京大学医科学研究所附属病院 The University of Tokyo, The instutution of Medical Science
はじめまして。東京大学医科学研究所附属病院(東大医科研病院)の藤原紀子です。チームオンコロジー.Comは何年も前からいつも拝見しているWebサイトでしたので、このような機会を与えていただき本当にうれしいです。心から感謝申し上げます。
現在の仕事 - リサーチナースとがん看護専門看護師
私は医療以外の仕事をしたのち、看護師を目指しました。看護師1年生のときから、がん患者さんの看護にかかわり、4年目からは看護師として、また、臨床研究コーディネーターとして臨床試験のサポートを行ってきました。
東大医科研病院は、基礎研究と臨床研究の橋渡しであるTranslational Researchをミッションとする研究所病院ですから、看護部もそのミッションに臨床研究看護(Clinical Research Nursing)を掲げています。
現在、私は、基礎研究の成果を臨床へと橋渡しする探索型臨床研究をサポートしつつ、緩和医療科の看護師として症状緩和や地域医療連携を行い、またより困難な状況下にある患者さんが参加される緩和医療領域の臨床試験の方法論や看護を考える毎日です。
チーム医療や多職種連携を学ぶ
Japan TeamOncology Program (J-TOP)を知ったのは2007年でした。がんの臨床試験を担当していた私は多職種連携の重要性を痛感していたので、MD Anderson Cancer Centerに研修のお願いをし、チーム医療を学び、リサーチナースの研修をさせていただきました。その研修をアレンジして下さったエージェントの方が、J-TOPの存在を教えて下さったのです。
それから毎年、J-TOPのワークショップに参加したいと思いつつ、スケジュールが合わなかったり、休みが取れなかったりで、参加できずにいました。そんな中、様々な苦痛を抱えて、がんの臨床試験に参加される方の看護を考えたくて大学院に進学し、がん看護専門看護師になりました。そしてその後、ようやく念願かなって2011年のJ-TOPのThe 5th TeamOncology Workshopに参加することができたのです。
そのワークショップでは、チームでミッション&ビジョンを語り合ったり、ひとつのテーマに向けてプログラムを考えたり、臨床試験を組んだり、多職種がそれぞれの立場で意見を言うことができる気持ちよさを実感してしまい、これが本来のIPW(Inter-Professional Work:多職種連携)、Team Approachだよなぁと思えました。
しかし、ディスカッションの場で意見を言うためには、自分自身に根拠のある知識・技術が必要ですし、それを伝えるスキルも重要です。さらに自分の領域であればリーダーシップをとる「勇気」が必要でした。これがJ-TOPのワークショップで学んだ三種の神器「Evidence、Leadership、Communication」でした。
“Show me your scar” - チームが育つために必要なこととは?
上の英文は、つい先日、米国で勤務している医師が教えて下さった言葉です。この医師がチーム医療について先輩の医師に話した時に言われた言葉だとか。チームが育つためにはチームメンバーが互いに理解し合うことは大切ですが、そのプロセスとして、ときにぶつかることや傷つくこともあります。仲がいいだけではチームは育っていかないので、ぶつかって知りえた経験はさらにチームを強くするのだということでした。
日常的なコミュニケーションがあってこそ、カンファレンスのディスカッションが活発になるのですが、ときにぶつかることも多くあります。それでいいのだと思ってはいたのですが、この言葉を聞いて、コンフリクトは必要な経験で、どうマネージメントするかが重要だったのだと思えました。
私は、臨床試験のチームと緩和医療科のチームにいます。緩和医療科のチームメンバーでもあり、IPWの教育・研究を行っている医師からは、「チームや組織を運営するときにはPerformance(目標達成能力)、Maintenance (集団維持能力)のバランスを見ながら進めていくことが必要で、それらの時期をみきわめることもチームを成熟させるために必要だ」という三隅二不二氏のリーダーシップ論(PM理論)を学びました。
私は、自分のチームメンバーとともに、個々が互いにどう影響し合っているか、個々がチーム全体に、周囲に、どう影響し合っているかということも考えつつ、チームを育てる視点を持ち続けたいと思います。
Clinical Trials bring HOPE -看護師が臨床試験を学ぶ機会を増やしたい
臨床研究看護の唯一の国際学会であるInternational Association of Clinical Research Nurses(IACRN)で、「看護の場面で、EBMやEBNという言葉はすでに目新しい言葉ではないにも関わらず、Evidenceを作る臨床試験の方法論を学ぶ場はなぜ少ないのか」というリサーチナースの言葉を聞き、本当にそうだなぁと思いました。
臨床試験は現在と未来の患者さんをつなぐ架け橋です。そして、そこには希望や期待があります。だからこそ科学と倫理を両輪として、適切にEvidenceを創出する方法を知らなければならないし、実施しなければなりません。
さらに、そのためには多職種連携なしではありえません。現在、日本でも臨床試験の方法論を学ぶ機会は増加しています。しかし、臨床研究看護を考える機会、看護師が臨床試験を学ぶ機会はまだまだ少ない現状にあります。これらの機会が増えるよう、先輩方とともに努力する日々です。
日本のClinical Research Professionals - わくわくする未来を目指して
今、日本臨床試験研究会では、がんの臨床研究にかかわるプロフェッショナル(多職種)のための認定の準備を進めています。日本がん看護学会には臨床研究看護を考えるグループ(CTN-SIG: Clinical Trial Nurse-Special Interest Group)があり、その活動はIACRNで発表されました。また、東大医科研病院もそうですが(リサーチナースの院内認定が始まりました)、日本のいくつかの病院ではリサーチナースの養成が行われています。このように、がん臨床研究看護も、これからますます活発になり、質の向上が期待されています。
臨床研究看護が当たり前になり、リサーチナースが増え、適切な臨床試験が実施される将来を考えると、本当にわくわくします。しかし、そう考えれば考えるほど、自分の立ち位置を確認したとき、まだまだ努力が必要だなぁという現実と向き合い、へこみます。でも、そんなときには仲間と呑み、話します。なんだか、ちょっと楽しいなぁ、と思う、そんな時間を大切にしながら、これからも頑張っていきたいと思います。
(2013年11月執筆)
出身は兵庫県で、仕事と大学は大阪でした。福祉の仕事・NPO職員・保育士・葬儀屋派遣・路上で歌ったり・・・。いろんなことをやったのち看護師に。ヒトゲノム計画が終了した頃でした。
ゲノムって、かっこいぃ~とミーハーな気持ちで、東大医科研を見学。東大医科研病院の看護師さんたちがきちんと挨拶をされる姿にひと目惚れして就職。それから9年が過ぎようとしています。
現在の趣味は小説を書くこと。いつか直木賞!
(その前にデビュー!!!)
右の写真は、東大医科研病院 緩和医療科のチームが、がんに打ち勝つべくRock魂を奮い立たせた瞬間の写真です。
(2013年11月執筆)