コラム/エッセイ

ヤングオンコロジースペシャリストの声

Essay: Voice of Young Specialists

乳腺、婦人科領域の臨床研究者を目指して

医師:原野 謙一

原野 謙一 Kenichi Harano

医師

国立がん研究センター東病院 National Cancer Center Hospital East

平成16年京都府立医科大学卒業。沖縄県立中部病院、国立がん研究センター中央病院内科を経て、平成23年より日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科。専門は乳がん、婦人科がん。

初めまして、私は原野謙一と申します。今回、「ヤングオンコロジースペシャリストの声」に寄稿させていただく機会をいただき、大変ありがたく思っています。

今回、私が腫瘍内科を志すに至った経緯、また現在ポスドクとして留学し臨床研究を行うに至った経緯、また今後の希望について述べたいと思います。私の経験が、少しでも腫瘍内科を志望する若い先生方の一助になれば幸いです。

大学時代

私は平成10年に京都府立医科大学に入学しました。3年生より、公衆衛生学教室に出入りするようになりました。MEK阻害剤の開発者として有名な酒井敏行教授率いる同教室では、発がんに関わる分子生物学を研究しており、教授の発がん機構解明にかける熱意に大きな影響を受けました。また、酒井教授の紹介で、4年生時にピッツバーグ大学(岡田秀穂教授)に1ヶ月間リサーチインターンとして留学しました。岡田教授は脳腫瘍に対する免疫療法を研究しておりました。初めての海外という経験のみならず、アメリカにおける研究環境のスケールの大きさに圧倒された1ヶ月間でした。

これらの経験から、「がん」を対象とする臨床、研究に興味を抱きました。調べるうちに、腫瘍内科という科が世界には存在するということを知りましたが、また同時に、腫瘍内科は日本にはほとんど存在せず、日本で系統的に腫瘍内科学を学ぶことのできる施設は限られているという現実も知りました。そこで、卒業後は、出身大学にこだわることなく、まずは内科一般を数年かけてしっかりと研修して内科医としての実力をつけ、その後アメリカもしくは日本の専門施設で腫瘍内科を学び、将来は腫瘍内科医として臨床に携わりたいという目標を立てました。

腫瘍内科のトレーニング

卒業後、沖縄県立中部病院で研修医生活をスタートしました。4年間の研修で内科一般、救急医療、血液内科を学びました。非常に教育的な病院であり、充実した研修でした。

初期研修ならびに内科研修後、腫瘍内科を学ぶにはどうしたらよいか、非常に悩みました。当初アメリカでの臨床留学を考えていたのですが、ハワイ大学での短期内科研修プログラムに参加したところ、沖縄県立中部病院の方がよい教育を提供していることを実感しました。アメリカで再びレジデント、フェローとしてトレーニングを受ける時間が勿体無いと感じ、また将来的にはアメリカでなく日本でがん医療を行いたいと考えていたため、アメリカへの臨床留学ではなく日本の専門施設で腫瘍内科トレーニングを受けようと考えました。

卒後5年目より国立がん研究センター中央病院内科固形腫瘍コースのレジデントとなりました。同院では約40年前より研修プログラムを提供しており、教育の土壌が整っていました。また、血液内科、固形腫瘍各科をローテーションすることができ、さらに希望があれば病理科、放射線治療科、放射線診断科、緩和医療科などもローテーションすることができるため、腫瘍内科となるために必要な基礎的なトレーニングを十分に受けることができました。また、日本の第一人者と言われる先生方の元で研修をすることができたため、日本におけるがん医療の実際を知ることができました。3年間レジデントとして研修し、その後乳腺腫瘍内科のチーフレジデントとなり、レジデントの指導や臨床研究を行いました。

腫瘍内科医としての自立、そして研究者へ

平成23年11月より、日本医科大学武蔵小杉病院において腫瘍内科設立に携わりました(勝俣範之教授)。同院で、看護師や薬剤師など多職種で構成されるがん医療チームを設立し、乳腺外科や婦人科など外科系と連携して腫瘍内科診療体制を構築し、また患者会の設立運営にも関わりました。国立がんセンター中央病院時代とは異なり、自立した腫瘍内科医として勤務することとなったため、がん診療能力、他科医師ならびに多職種とのコミュニケーション能力、臨床決断能力を鍛えることができました。

数年勤務するうちに、果たして自分は将来何を目標に医療を行っていくのかを悩むようになりました。患者にとって最善の医療を提供するために、自分が何をしたいのかを考えるようになりました。自分の将来像が見えずにもがいていた中、平成25年11月にJ-TOP Leadership Academyに参加しました。ミッション・ビジョンを持つことの重要性、自分を知るということ、リーダーシップを学び、まさに目から鱗が落ちる思いでした。具体的に自分のミッション・ビジョンを考えることができ、臨床試験ならびに新規薬剤開発に従事することによりがん医療の進歩に貢献したいというミッションを持つに至りました。

臨床研究をしっかりと学びたいという思いから、アメリカへの研究留学を行うこととしました。

MDアンダーソンがんセンターへの研究留学

日本対がん協会の主催するマイオンコロジードリーム奨励賞をいただき、平成26年7月からMDアンダーソンがんセンターに留学し、乳腺腫瘍内科上野直人教授の元postdoctoral fellowとして研究活動を開始いたしました。現在、トリプルネガティブ乳がんや炎症性乳がんに関する遺伝子発現プロファイリングを絡めた後方視研究、第1相臨床試験の立案などを行っております。これらの活動を通して、第1相臨床試験をどのように立案するのか、薬剤開発においてpreclinical laboratoryとどのように共同するのか、mRNAやタンパク発現レベルに応じた治療戦略をいかに立てるか、さらに、よりインパクトのあるepoch makingな後方視解析をいかに作成するかを学んでいます。これらの経験は、今後日本で新規薬剤開発ならびに臨床研究を発展させていく上で非常に有益なものであると考えます。

今後

現在は、アメリカでの生活を楽しみつつも、帰国後具体的にどのように活動していくのかを考えているところです。乳がん、婦人科領域における臨床試験ならびに新規薬剤開発に従事することによりがん医療の進歩に貢献したいというミッションを実現すべく、今後も努力してきたいと思います。

(2015年 4月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメント

10月に、Susan G. Komen Race for the Cureに参加しました。乳がんの患者団体の主催するチャリティーイベントで、参加者1万人以上、5kmのジョギングまたはウォーキングを行いました。たくさんのチームが、色とりどりのコスチュームで参加します。breast cancer awarenessの文化が一般に広く浸透していることに驚きました。

(2015年 4月執筆)

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