コラム/エッセイ

納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~

Understanding your therapy for good treatmen.

Vol.13

適切な緩和ケア実現のためには、意識改革が必要!

1.日本の緩和ケア病棟とその現状

イギリスなどでは、終の棲家であるホスピスは、介護中心のケアが行われていると知られています。そのため、抗がん剤や抗生物質、輸血などを行わないことが条件になっていると思います。

そのためか、日本の緩和ケア病棟でも、この条件を採用しているところが多いと思います。日本では、病院内病棟型(病院内で他の病棟と同じように緩和ケア病棟を設立)、病院内独立型(病院内の別棟に緩和ケア病棟を設立)、完全独立型(ホスピスのみを行う施設で、緩和医療以外の具体的な治療を行わないところ)などの緩和ケア病棟がありますが、これらはすべて健康保険でまかなわれています。

終の棲家であるホスピスであれば、抗がん剤治療の時期を過ぎているということも考えられますので、抗がん剤や抗生物質、輸血などを行わないということも理解できることもあります。しかし、健康保険でまかなわれている緩和ケア病棟で、患者さんの症状やQOL改善に必要と思われる場合でも、抗がん剤や抗生物質、輸血を用いないというのは、納得できないところもあります。

「抗がん剤治療の管理をするスタッフが足りない」、「抗がん剤治療を行うには、現状の定額制では、費用的に苦しい」などのいろいろな事情があると思います。しかし、抗がん剤投与が必要であれば、抗がん剤が投与できる病棟に移っていただき、抗がん剤治療をしながら、緩和ケアを実施することも可能と思います。患者さんやご家族のQOLを向上・維持するために必要な医療を提供するという意識改革とシステムの改善が必要になるのではないでしょうか。

2.緩和ケアチームの必要性

これらの問題を解決するための1つとして、緩和ケアチーム制度が多くの病院で導入されています。緩和ケア病棟とは別に、緩和ケア医、精神科医、看護師、薬剤師がチームを組み、患者さんや主治医などからの依頼に基づいて、一般の病棟で緩和ケアを提供することを目的としています。

緩和ケアチームがかかわることで、患者さんの多くの症状が緩和されると報告されています。米国のがん専門誌であるJournal of Clinical Oncology誌に、患者さんの状況を緩和ケアチームで評価し、緩和ケア外来にて、適切な緩和ケアを行うことにより、多くの症状が緩和でき、患者さんやご家族の満足度も高まったという研究報告が発表されています。

その報告では、緩和ケアチームや緩和ケア外来は、患者さんの状況にあわせて、専門的ながん治療を紹介したり、心理的ケアを行う精神科医や臨床心理士、身体機能がそれ以上低下しないようなリハビリを行う理学療法士や作業療法士を紹介したり、またソシャルワーカー、鍼灸師、栄養士、緩和ケア病棟、訪問看護ステーションなどへの紹介を行ったりします。すなわち、緩和ケアチームで、患者さんに必要と思われる治療や介護などを評価して、適切なケアが受けられる専門職に患者さんを紹介することで、症状緩和や患者さんやご家族の満足度が高まると示唆しています。

このように緩和ケアの考え方や患者さんに提供する緩和ケア体制は変わりつつあります。患者さんががん治療を受けている際には、患者さんの状況を適切に評価し、自らが症状緩和を行うだけでなく、適切な専門職を患者さんに紹介する緩和ケアチームが必要であり、また、外来でがん治療を受けている際には、緩和ケアチームと連携した緩和ケア外来が必要となります。さらに、強い症状の緩和のための緩和ケア病棟、そして良質な終の棲家を提供するホスピスが必要となるのではないでしょうか。

3.医療専門職の意識改革とシステム変革が必要!

「患者中心のがん医療」の実現のためには、がんと診断されてから、患者さんを支える医療や介護のシステムが必要になると思います。そのためには、緩和ケア=終末期ケア(ホスピス・ケア)という考えではなく、患者さんの状況にあわせた適切な緩和ケアを提供する緩和ケアチームや緩和ケア外来が必要になってくると思われます。

さらに、がん治療を提供する腫瘍医が緩和ケアをよく知ること、緩和ケア医はがん治療やがんの病態を知ること、看護師や薬剤師も、がん医療全体を理解しながら患者さんの状況にあわせた、切れ目のない適切なケアや薬物療法を提供することが必要になってくると思われます。そして、それらを実現するためには、医療専門職の意識改革とシステムの変革が必要であることは間違いありません。

4.患者さんの意識改革もまた必要!

そして、患者さんも、抗がん剤などの副作用や辛い症状を我慢するのではなく、適切なケアを受けられるように医療に積極的にかかわるという意識の改革も必要になるかもしれません。副作用や症状が軽ければ、より有意義な療養生活を送ろうと思う意欲も出てくるかもしれませんし、がん治療の効果も高まる可能性があります。

また、抗がん剤の副作用とがんの進行に伴う症状が区別できれば、より適切な対処方法が可能となりますので、どのような薬を使うときには、その薬にどのような副作用があり、いつ頃からその副作用が出はじめるのか、どのようにすれば予防できるか、また副作用が起きたときにどうすれば良いかを予め、医師、看護師、薬剤師に相談することも重要と思います。 

薬の副作用以外の症状でも、(1)いつから症状が出現したか、(2)どのような症状か、(3)どの程度強い症状か、(4)どのような時に症状が強くなるか、また(5)どのような時に症状が和らぐかなどをメモして、医師、看護師に伝えられるようにしておくことも重要と思います。

抗がん剤の副作用も、がんの症状も、我慢することは決して美徳ではありません。また、緩和ケアは必ずしも、終末期ケア(ホスピス・ケア)ではありません。有意義な療養生活を送っていただくためには、抗がん剤の副作用や辛い症状が出る前に、医療専門職やご家族、友人と相談・協力しあいながら、適切と思われる抗がん剤治療や症状緩和を選択することが重要と思います。

※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。

(2009年2月執筆)

瀬戸山 修
瀬戸山 修
1949年生まれ、爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表。がんの初期から終末期までの一貫したがん医療の質の向上を願い、薬学、特にがん薬物療法に関する臨床薬理学、臨床疫学(EBM)の立場から、最新のがん医療情報の発信、薬剤師や看護師の教育研修を行っている。