コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

英語を学ぶということ

看護師:千葉育子

千葉 育子 Ikuko Chiba

看護師

国立がん研究センター東病院 National Cancer Center Hospital East

留学後の戸惑い

Japanese Medical Exchange (JME) Programに選抜されMDアンダーソンがんセンター(以下MDAと呼ぶ)への留学以降、周囲から「英語がペラペラでうらやまし~」とか「本当にペラペラなんですか~(疑)?」などのお言葉をいただく機会がたびたびある。

「えっと…英語は嫌いじゃないですし…間違いを気にせずに話すので、なんとかコミュニケーションはとれますが…」

話せるといっても、少ないボキャブラリーを駆使して発音や文法の間違いを気にせずに話すだけで…どのように話せれば「ペラペラ」といえるのだろう?

留学する機会を与えてくれたJapan TeamOncology Program(J-TOP)には大変感謝しているが、留学以降、このような居心地の悪さに戸惑っている。そこで、せっかくエッセイを書くという機会をいただいたのだから、この戸惑いを少しでも解消するため、ここでは、私が英語を学ぶ目的とその変化について綴ることができたらと思う。

Elementaryレベルからのやり直し

私は旅行が以前から趣味であり、海外旅行をもっと自由に楽しみたいという思いから、社会人になって2~3年目を過ぎたころに英語の学習をやり直した。また、社会人になり、英語が話せる先輩や先生方に出会ったことや、高校時代の友人が外資系の会社に入社し、かっこうよく英語を話す姿に刺激を受けたことも、その動機付けの一つとなった。

それまでの英語学習歴といえば、小学校1年生から3年生まで通った近所の子供英会話教室(まったく話せるようにならなかった)以外は特別なことはしておらず、通常の学校の授業と受験勉強の際に少し頑張ったくらいで、社会人になり英会話を始めたときには、コミュニケーションはおろか基本的な文法さえも忘れかけていたので、Elementaryレベルからのやり直しであった。

英語って楽しい

始めてみると、学校の授業や受験勉強とは異なり、英語学習はいい気分転換になった。また、続けていくうちに、英語にしかない独特の表現や言い回し(逆に日本語にしかないものもある)や言葉の持つ文化的な背景を知るのが面白くなって、英語を学ぶことが趣味のようになっていた。さらに、海外旅行などに行くたびに、自分の英語がどんどん使えるものに上達していったことも、もっと学びたいと思う気持ちを高めた。

J-TOPワークショップに参加、そしてMDAに留学

そして、英語を学習していることが縁で、英語を公用語にして行われるJ-TOPワークショップを知人より紹介された。参加してみると、多職種でオンコロジープログラムを創りあげる作業が楽しくて、専門用語も乏しい間違いだらけの英語で夢中で取り組んだ。そして、それがよかったのか(?)、2012年のJME Programのメンバー(MDAへの留学者)に選抜された。

MDAでの留学では、とても充実した時間を過ごすことができたが、やはり英語では苦しんだ。これまでの英会話は、私が英語学習者であることを知っている人と話すことがほとんどだったが、ここでは容赦なく生きた英語を浴びせられるので聞き取れない。また、研修での学びを深めようと思えば思うほど、複雑な会話が必要であり、言いたいことが言えないし伝わらないという思いにさいなまれた。

そのような中、外来で化学療法を行う一人の患者さんが「研修後、しばらくここで働けばもっと勉強になるよ」と言った。私はすかさず、「言葉の問題も大きいし、簡単なことじゃない」と答えたが、彼は「君の英語はOKだ(acceptableという意味)。ただ勇気がないだけ。この化学療法室の多くのナースはフィリピン人だけど、彼らがみんな完璧な英語を話していると思う? 決してそんなことはないよ」と答えたのだ。

私はその言葉にはっとした。MDAでは世界中から医療従事者が集まって医療を提供しており、ネイティブ英語ばかりではなく、スペイン人英語・インド人英語・ベトナム人英語などの様々な国の様々な英語が飛び交っていた。私からみると、彼らは流暢に英語を話し、簡単にコミュニケーションをとっているように見えたが、決してそんなことはないのだということに気づかされたのである。

英語を学び続ける意義・目的が変わった!

MDAのような国際的な施設で多民族が協働していくことは容易ではないだろう。ここでは、英語は公用語となり、重要なコミュニケーションツールではあるものの、ただ話せればいいというわけではない。むしろ、多様な文化を理解しながら、考え方や発想の異なる相手にも理解できるように自己を主張していく勇気や柔軟さ、コミュニケーションスキルを磨く方が重要なのではないかと感じる。ここで言うコミュニケーションスキルとは、J-TOPのワークショップで実習する「MBTIを用いた自己および他者理解」やActive Listening、 Assertive Skillなどとも共通していると考える。

私は今でも楽しみながら趣味のように英語を学んでいるが、このまま学び続けても、発音や文法が完璧なネイティブレベルの英語力(いわゆるペラペラ?)を身に付けるのは難しいだろうと考えている。一方、英語をツールにして、多様な文化や考え方を学ぶことや、発想の違う相手に自分を表現するスキルを高めて国際感覚を身に付けていくことは十分に可能であると考える。

留学中に出会った一人の患者さんの言葉がきっかけで、様々な国の医療従事者がその多様性を認め、主張しあいながら協働しているMDAの在りように気づいたことで、完璧な英語をマスターするよりも、このようなスキルを磨きたいと考えるようになり、留学後はなるべく様々な国の人たちと英語で話すように心がけるようになった。

がん患者が年々増加していることは、日本だけの問題ではない。また、様々な治療法が開発され、治療の選択の複雑さが増しているほか、患者の生き方や価値観も多様化している。そのような中で英語を学ぶということは、同じ問題を抱えている諸外国に目を向け共同していく国際感覚を養うほか、患者の個別性を理解し、多様で多角的な医療を創出・提供していくことにも役立つのではないだろうか。英語を学ぶことは、多様な患者に対応するスキルや日本のがん医療をよりよくするためのスキルを習得することにも繋がると考える。

(2013年 6月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

上のエッセイにも記したが、旅行が好きである。日頃のストレスから逃れ、旅先で非日常や異文化を味わうと、心身共に心からリフレッシュする。先日は、J-TOPフレンズの入江佳子さんと一緒に箱根に一泊の温泉旅行に行った(写真)。

歴史を感じながらも和風モダンに改築された素敵な温泉宿に泊まり、美味しいお料理に舌鼓を打ちながら、楽しい会話に花を咲かせることで、元気に頑張るパワーを充電することができた。こんな時間を共有できる仲間に出合わせてくれたJ-TOPに感謝である。

(2013年 6月執筆)

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