コラム/エッセイ

納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~

Understanding your therapy for good treatmen.

Vol.03

副作用を知ることが、安全に抗がん剤治療を受けるための基本です!

抗がん剤投与により、いろいろな副作用がみられることがあります。どのような副作用が、どのような時期に出現するのかを予測し、適切な予防をしたり、副作用がみられた時には適切な対策をしたりすることで、副作用の影響を少なくすることは可能であると思います。副作用の影響をできるだけ少なくすることは、がん治療を受ける患者さんの療養生活をよりよくするために、非常に大切なことと思います。

1.投与前に確認すること

抗がん剤治療を行う病院では、命にかかわるような強い副作用が出ないように、次のようなことを確認してから、抗がん剤投与を行っています。

(1)口腔衛生状態などをチェックして、感染症の危険性があるかどうかを調べます

感染症は命にかかわる副作用になりますので、抗がん剤投与前に虫歯や口腔内の感染症やその危険性があるかどうかを調べます。風邪予防にはうがいと手洗いが良いとよくいわれますが、口の中は病原菌に冒されやすく、口内炎があれば、感染されやすくなりますので、口の中を清潔に保つ必要があります。抗がん剤投与の前に虫歯を治すことも必要かもしれません。

(2)抗がん剤治療を受けて、深刻な副作用を経験したことがあるかどうかを調べます

以前に抗がん剤治療を受け、吐き気・嘔吐などの経験があれば、そのことが心理的なストレスとなり、同じ抗がん剤を投与すると言われたとたん(抗がん剤を投与しなくても)、吐き気をもよおすことがあります。そのような方は、経験した副作用を軽減する方法について、医師や看護師によくお聞きするとよいでしょう。軽減の仕方が納得できれば、そのような副作用は少なくなる可能性があります。

なお、女性の方や、抗がん剤の副作用の経験がある方、妊娠中の悪阻(つわり)がひどかった女性、病気に対する思いこみが強い方などが、吐き気・嘔吐を起こしやすいことが知られています。

(3)抗がん剤投与直前の骨髄機能、肝臓機能、腎臓機能を確認します

多くの抗がん剤は、白血球減少、血小板減少、赤血球減少などの骨髄抑制の副作用があります。そのため、抗がん剤治療前に白血球数が少ない状態であれば、投与は勧められません。

また、抗がん剤は必要以上に身体の中に存在すると、副作用が強く出現することが考えられます。そのため、薬剤を無毒化する代謝や体内から排泄する機能をつかさどる肝臓や腎臓の機能が正常であることを確認してから投与を行います。

(4)抗がん剤投与に問題となるような心臓機能障害がないかを確認します

アントラサイクリンなどの抗がん剤や、トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)などは、心臓の筋肉である心筋に悪影響をおよぼすことが知られています。そのため、投与前に心臓機能を調べ、異常が認められなければ、投与を行うことが多いと思います。

2.副作用対策の例

上のような確認をしても、抗がん剤の副作用が出現することがあります。副作用の種類や出現する時期は、抗がん剤の種類や投与量、患者さんの感受性などによって異なります。しかし、抗がん剤によって副作用の出現時期はおおよそ予想がつきますので、受ける抗がん剤によって、どの時期に、どのような副作用が出現するのかを医師や看護師に聞いておきましょう。そして、その副作用が起きたときの対応の仕方も、詳細に聞いておくことをお勧めします。

たとえば、吐き気や嘔吐は、投与直後から3日くらいがピークになりますし、白血球減少や口内炎は投与1~2週に出現します。そのため、投与3日目くらいまでは吐き気や嘔吐の対策(制吐剤の投与)をし、その後は、感染症にかからないように、手洗いやうがい、外出時のマスクの着用で、予防をすることが大切になります。

抗がん剤は、必ずと言っていいほど副作用が出現しますが、どのような副作用があり、どんな時期に出現するのかを理解しておけば、予防も可能ですし、もし副作用がみられたとしても軽いもので済み、命にかかわることはほとんどないと思います。

また、効果があることが知られている抗がん剤の中には、手足のしびれや感覚異常を示す末梢神経障害の副作用があったり、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)などの分子標的治療薬には皮膚障害などが現れたりします。このように、直接命にかかわることはありませんが、日常生活に支障をきたす副作用もあります。

多くの病院では、抗がん剤投与後の副作用についての説明書を用意していると思います。その説明書を読んで、よくわからないことがありましたら、遠慮なく医師や看護師に質問して、副作用とその予防、そして出現したときの対応策をよく理解しておいていただきたいと思います。そうすることによって、がんの療養生活をよりよくすることができると思います。

3.よりよいがん医療を受けるために

最近、外来で抗がん剤投与を行うことが多くなりました。そのため、自宅では、ご自身や家族が副作用の対処をしなければなりません。もし副作用が出現したら、どのような対処を行ったらよいのかを医師や看護師、薬剤師にくわしく聞き、その対処方法が記載された説明書をもらっておくと良いでしょう。そして、その説明書に、緊急の場合の連絡先を書いてもらうことも大事なことかもしれません。

抗がん剤による辛い副作用が出ますと、「もう~がんの治療はイヤ!」というように、適切な治療さえも受けたくなくなるのは当然のことと思います。しかし、適切な治療が受けられないということになれば、よりよいがん医療を望むことができませんし、がんの療養生活に悪影響を及ぼしかねません。

副作用をよく理解して、がんの療養生活に大きな影響がないように予防や対処をすれば、適切といわれる標準的治療も安全に受けることが可能になりますし、がんの療養生活をよりよくすることも可能になると思います。

薬の効果も非常に重要ですが、患者さんご自身で、副作用に関しても積極的に理解して、十分な対策を行うことが、安全に抗がん剤治療を受ける基本であることをご理解いただきたいと思います。

※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。

(2008年4月執筆)

瀬戸山 修
瀬戸山 修
1949年生まれ、爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表。がんの初期から終末期までの一貫したがん医療の質の向上を願い、薬学、特にがん薬物療法に関する臨床薬理学、臨床疫学(EBM)の立場から、最新のがん医療情報の発信、薬剤師や看護師の教育研修を行っている。